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対象業種アクリル系樹脂組成物を設計するメーカー
用途想定粘接着剤、レジスト、塗料等、架橋形成を必要とするアクリル系樹脂組成物
粘接着剤やレジスト、塗料等の材料設計では、所望の機械強度や信頼性を達成する手段の一つとして、架橋構造の活用が挙げられます。
これら用途の材料設計では、アクリル系樹脂組成が広く採用されており、架橋の形成は、多官能モノマにより緻密な網目構造を形成する場合と、共重合体に反応性側鎖を導入し架橋する場合があります。
例えば、多官能イソシアネートモノマの場合、組成中のヒドロキシル基やアミノ基等の活性水素基とウレタンやウレア結合による架橋を形成します。常温で反応するのは利点ですが、反応進行にはスズなどの金属触媒が必要で、ポットライフが短いという課題が避けられません。
他方で、ラジカル重合性の(メタ)アクリロイル基と異なる硬化系の反応性基を同一分子内にもつ(メタ)アクリレートモノマは、アクリル共重合体化し、側鎖の反応性基で架橋を形成することもできます。その一例にオキセタンがあります。オキセタンによる架橋は、開環重合反応によるため酸素阻害の影響は受けませんが、触媒または開始剤を添加した上で100℃以上での加熱が必要という制約があります。
当社が提案する反応性エステルを有する(メタ)アクリレート
こうした課題に対し、当社は反応性エステルを有する(メタ)アクリレートであるカレンズ<MOI-DEM><AOI-DEM>を提案します。提案材は、(メタ)アクリロイル基と、反応性エステルを同一分子内にもつ架橋剤で、ラジカル重合とエステル交換のデュアル硬化により架橋を形成します。エステル交換は触媒を必要とせず100℃以下で進行するので、低温硬化性を求める用途に適用できます。
架橋形成における提案材と競合材の比較
(メタ)アクリロイル基と反応性エステルを同一分子内にもつ(メタ)アクリレートは、当社独自のデュアル硬化が可能な架橋剤です。 (メタ)アクリロイル基は、他の多官能アクリルモノマとの架橋点として、あるいは共重合体の構成成分として活用できます。
他方でエトキシ基は、樹脂組成に含まれるヒドロキシル基とエステル交換により架橋を形成できます。エステル交換は平衡反応であるため、副生成物のエタノールを除去することで、触媒を添加する必要はなく架橋が進行します。このエステル交換の平衡を利用すると、溶媒中のエタノール濃度を増やすことでポットライフを伸ばすこともできます。
図1. 提案材の架橋形成メカニズム
以下では、提案材<MOI-DEM>を含む共重合体2)について、乾燥フィルムや組成物ワニスの試作例から架橋進行度とポットライフを評価しました。なお、アルコール成分には、平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)を用いました。
提案材<MOI-DEM>を含む共重合体とPEG600を混合して塗工し、80~140℃の各温度条件下で加熱したフィルムについてゲル分率を測定し、架橋進行度を評価しました。なお、比較対象には<MOI-DEM>に代わり、イソシアナトエチルアクリレートのイソシアネートをピラゾールブロックした当社従来材<AOI-BP>を含む共重合体を用いました。<AOI-BP>では、ブロック基が脱離するとイソシアネートが発生し、スズ系触媒の作用でアルコールとウレタン結合を形成することで、架橋が進行します。
図2の通り、<MOI-DEM>では80~100℃の加熱でゲル分率70%超を示しました。100℃以上に加熱してもゲル分率の向上は見られないことから、100℃以下の加熱で飽和状態まで架橋進行できたと考えられます。
他方で、比較対象の<AOI-BP>で飽和状態まで架橋進行させるには触媒を使用して、120℃以上の加熱が必要とわかりました。
図2. 架橋進行度の比較
提案材<MOI-DEM>を含む共重合体とPEG600の混合ワニスに、エタノール(EtOH) を添加した場合と未添加の場合で、70℃保管における分子量変化を評価しました。 未添加の場合は70℃で12時間保管すると分子量増加が起こったのに対し、エタノール添加した場合では分子量増加は見られず、架橋進行を制御できることがわかりました。
図3. 70℃保管下での分子量変化
共重合時の溶媒にアルコールを用いることで、ヒドロキシ(メタ)アクリレート存在下でも共重合が可能であることを確認しました。
更新日:2024年10月11日
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