CEOメッセージ

真の企業価値最大化を図ることが経営者の使命
コアコンピタンスは研究開発。投資を緩めず、技術で勝ち続けていく

事業ポートフォリオの変革は完成形に近づいてきた

レゾナックは、"日本発の世界トップクラスの機能性化学メーカー"へと変革することを目指し、これまでさまざまな施策を打ってきました。それらの取り組みを大きくまとめ上げると、①事業ポートフォリオの改革、②人的資本経営の徹底、③企業文化の醸成、という三つに集約されます。レゾナックの現在地として、この三つの取り組みがどれくらい進捗しているかをお話しします。

まず「事業ポートフォリオの改革」ですが、これは、当面の落ち着きどころが見えてきたのではないかと思っています。旧昭和電工と旧日立化成の統合前から、戦略適合性、採算性と資本効率、ベストオーナーの三つのクライテリアで判断し、基準に合わない事業は譲渡しました。2025年7月までに譲渡した事業は15件にのぼります。2024年2月、石油化学事業のパーシャル・スピンオフの検討開始を発表し、今年1月、石油化学事業のパーシャル・スピンオフに向けたグループ組織再編を実施しましたが、このパーシャル・スピンオフが完了することで、レゾナックのポートフォリオは戦略的に非常に明解なものとなります。ただ、いつもお話ししている通り、ポートフォリオ改革には終わりはありません。守備的な意味での改革はめどが立ちつつあるので、今後は、攻撃も含めて、レゾナックのポートフォリオを時代にあった最適なものに変化させ続けます。

私たちは機能性化学メーカーであって、半導体材料メーカーではありません。基盤にあるのは機能性材料の技術を磨いていくことです。現在、その技術の出口が半導体分野中心であるため、半導体材料で勝ち続けていくことが今の私たちの戦略となっています。

そこに、次なる出口が見え始めています。それがモビリティ分野、つまり自動車です。自動車産業は内燃機関からEV化という、100年に一度の変革期を迎えています。変革が起こっている産業に新しい材料は不可欠で、必ず機能性材料が必要になるはずです。その大きなビジネスオポチュニティに向けて、いかに材料技術を磨き、応えていくかが、これからは重要になります。

半導体できちんと勝ち続けること、自動車を儲かる出口にしていくこと、そして、それらの基となる技術を磨いていくこと。この3本の柱を軸にしていく。そのための事業ポートフォリオも、いよいよ完成形に近づきつつあると捉えています。

パーパス・バリュー実践度は60%へ上昇
企業文化の変革が確実に起きつつある

次に「人的資本経営の徹底」「企業文化の醸成」の進捗状況です。
この重要な経営課題について、私自身、実質統合を果たした2022年以来、体を張ってやってきたと自負しています。年間70の拠点を訪問し、100回以上の「ラウンドテーブル」「タウンホールミーティング」を行い、従業員との対話の中でさまざまなことを伝えてきました。

1年目は、「この会社はこういう会社に変わります」「私たちのパーパス・バリューはこれです」という発信を徹底的にやりました。2年目は、社内に声を上げにくい文化があることを感じ「モヤモヤ会議」というプログラムを開始し、「モヤモヤしていることを言っていいんだよ」と伝えてきました。3年目は、自分たちのパーパスを考えるセッション「パーパス探求カフェ」を始めました。そこで私は「会社は、みんなが自分のパーパスを実現するための乗り物。みんなにはレゾナックを利用することを考えてほしい」と伝え、社員一人ひとりの自律を促しました。

レゾナックでは年に一度エンゲージメント調査を行っています。私は「パーパス・バリューの実践度」という項目を、企業文化の浸透度を測る重要な指標として特に重視しています。このスコアは1年目が34%、2年目が49%、3年目となる昨年は60%まで上昇しました。私はこの変化を非常に大きな進歩だと捉えています。

例えば昨年、ある事業所で課長クラスの従業員を10名ほど集めてラウンドテーブルを開いたとき、抜き打ちの形でこう問いかけました。「皆さんの課のエンゲージメント調査の結果やスコアはどうでしたか? 昨年より良くなっているのだったら何をしたのか、下がっていたら何をするのか話をしてみてください」と。すると、全員が完璧に答えてくれました。4年前だったら考えられないことです。「さん」付けで呼び合う文化も、カジュアルな服装も、旧昭和電工で使われていた「ご安全に ! 」という挨拶も、そうではなかった頃が思い出せないくらい今ではすっかり定着し、新しい企業文化が浸透していることを実感しました。そうした、以前では想像もつかなかったことが当たり前のことになることを、事前の非連続性と事後の常識性と呼び、私はこれこそが「変革」の本質だと考えています。その変革が確実にレゾナックの社内で起きつつあることを実感しています。相当な手応えを感じていますし、この手を止める気もありません。パーパス・バリューの浸透度や実践度が7 割、8割になるように頑張っていきたいと思っています。

2024年はAI半導体向け材料などがけん引
市場予想を上回る黒字を出すことができた

事業ポートフォリオの改革も進み、新しい企業文化も確実に浸透している。では、業績はどうなっているのか、この点を次にお話ししたいと思います。
2023年は売上高約1兆2,889億円、営業利益で見れば約38億円の赤字となりましたが、私自身、この結果は真摯に受け止めつつも、あまり心配はしていませんでした。半導体・電子材料分野への設備投資、事業ポートフォリオの改革など、打つべき手を打ち、やるべきことをやっていたからです。そのため、遠くない将来に結果は付いてくると信じていました。ただ、2024年の予算を組んだ時点では、「今年、大きな黒字を出すことは難しいだろう」とも思っていました。ところが、日本基準ベースでの売上高約1兆3,893億円、営業利益は約787億円の大きな黒字を出すことができました。この数字は、投資家の方々やアナリストの皆さまの予想を多少上回ることができたのではないでしょうか。

黒字化の要因は、AI半導体向け材料とハードディスク事業が売上を伸ばしたことにあります。レゾナックはAIの半導体のキラーマテリアルを二つ持っており、それらが大きく売上を伸ばしました。もう一つ、ハードディスクのメディア事業では、2023年に台湾の工場を閉鎖して固定費を大きく削減したことに加え、データセンターへの投資が回復したことが、売上に大きく貢献しました。大変良い業績だと思っていますし、各事業の皆さんの頑張りに心から感謝しています。
レゾナックでは2024年12月期から国際会計基準(IFRS) の適用を開始しました。これは海外投資家への訴求力強化やグループ経営管理の強化を目指したものです。従来の会計基準との違いについては、ステークホルダーの皆さまに今年1年をかけて丁寧に説明していく予定です。

レゾナックの強みー技術だけは絶対に負けてはいけない
今年はそこにフォーカスしていく

2025年に入り、資本市場は不安定な状態が続いています。経営のベースラインに立ち返ってお話しすると、私は、経営者の仕事は「企業価値の最大化」だと考えています。多くの場合、株価は企業価値の近似値を映す鏡だと思っています。ただしそれには、資本主義がきちんと機能していること、資本市場が完全に近い状態にあること、という二つの条件が満たされていなければなりません。ところが現状は、関税という自由競争を阻害する政策によって資本主義は正しく機能しておらず、圧倒的な情報の非対称性によって資本市場も不完全な状態にあります。

株価は重要な指標です。しかし、市場がこれほど歪んでいる状況下では、株価が企業価値の近似値を表しているとは言えません。また、短期の株価の変動にとらわれて拙速に動くことが、経営者として正しい判断ではないと考えています。このようなときこそ、私たちのパーパスは何か、コアコンピタンスは何かを考え、目先の株価動向に惑わされることなく、真の企業価値最大化を目指していく。それが、正しい経営のあり方だと思っています。私たちのパーパスは「化学の力で社会を変える」ことであり、パーパスの実現に向けてさまざまな施策を打ってきた結果、企業価値を高めてきました。この軸を決して踏み外してはならないと、私は強く思っています。

レゾナックのコアコンピタンスは明らかに研究開発であって、この分野への投資は緩めることなく、技術でちゃんと勝ち続けていかなければなりません。そのとき、材料開発におけるパイプラインをどれくらい持っているかということが、非常に大事になってきます。材料開発というのは狙ってできるものではなくて、「こういう機能をつくるためには、だいたいこのあたりを試してみればいいのではないか」といった仮説から始まります。しかし、それが必ずしも100%狙った通りにいくとは限らず、思わぬところで花開くこともあるのです。だからこそ、このような株価が不安定なタイミングでもどういう技術のポートフォリオを、どのように構築していくかをしっかりと考えながら取り組んでいきます。

関税をかけられようが、サプライチェーンに影響が出ていようが、技術は必ず進化していきます。進化した技術にちゃんと付いていく、あるいは先んじるために、研究開発で技術をしっかりと磨き続けることが重要です。サプライチェーンをどうするかは後から考えればよい。だからこそ、技術だけは絶対に負けてはならない。今年は、そこにフォーカスして取り組んでいきたいと考えています。

半導体とモビリティそれぞれで共創のプラットフォームを備え、研究開発をドライブしていく

では、どうやって技術で勝っていくのか。ここからは、レゾナックが持つ強みと、その強みを活かし「勝っていく」ための戦術についてお話ししていきます。
レゾナックの半導体材料事業の最大の強みは、共創できる土台があることです。私たちは主要な半導体後工程材料の、約6~7割をラインナップしています。これによって、「JOINT2」や「US-JOINT」といったコンソーシアムが組みやすくなります。ほとんどの材料を自社で持っているので、あとは装置メーカーと当社が持っていない材料を持つメーカーに加わっていただければ、少なくとも半導体の後工程については、「ここに来れば何でもできる」とお客さまに思っていただける環境が整うのです。

「US-JOINT」ではさらにもう一歩進めて、これまで接点の少なかったGoogleやAmazonといったハイパースケーラーや、これから半導体の設計をされるであろう方々とのインターフェースを構築していきます。そして常に進化し続けるAI半導体の世界で、コンソーシアムの仲間と共創しながら"次に来る材料"を見据えた準備ができる体制を整えていきます。当社のパッケージングソリューションセンター(PSセ)には、半導体製造の後工程の装置が全部揃っており、共創する仲間の方々と実際の装置で製造しながら検証することができます。アイデアジェネレーションの段階から実際のエグゼキューションの段階まで一気通貫でできるというのが、レゾナックの強みです。

半導体材料事業のもう一つのポイントは、「半導体後工程材料のプレゼンス向上」です。
半導体全体のプロフィットプールの中で、最も不利な立場にあると言われているのが後工程です。しかし、今、半導体の前工程の微細化を進めることは技術的にもコスト的にも難易度がかなり高くなったため、後工程の技術革新に注目が集まり、私たちにとって千載一遇のチャンスが訪れています。この機会に、AI半導体向けにレゾナックだけが持つ材料を作り続けることで、後工程材料全体のプレゼンスを上げることができるのではないかと考えています。ただ一方で、勝ち続けていくためには、前工程材料の方々と一緒になってやっていくことを検討するのも選択肢の一つではないかと考えているところです。

冒頭でも申し上げたように、半導体に続く私たちの技術のもう一つの出口が、自動車のモビリティ事業です。モビリティ事業を儲かる出口にしていくために、半導体材料での成功体験を礎にして着々と手を打っているところです。
電気自動車の心臓部であるパワーモジュールというコンポーネントに提供できる材料を、われわれは8個から10個持っています。パワーモジュール向けの材料をこれだけたくさん揃えている企業は、世界でもレゾナックだけです。この絶好のポジションを活かし、半導体における共創拠点であり、レゾナックの技術開発をけん引する存在となったPSセと同じ発想で、パワーモジュールインテグレーションセンター(PMiC)を設立しました。PMiCには、実際に自分たちの材料を組み合わせてパワーモジュールを作り、性能をテストする機能を備えています。

私たちが持っている材料を使って、例えば、「こういう組み合わせにすると、このようなパフォーマンスが得られる」「別の組み合わせではこうなる」といった実証結果を、お客さまに直接お見せすることが可能です。さらに、お客さまのパワーモジュールのデザインに対して、「この材料構成が最も高いパフォーマンスを発揮するのではないか」といった提案もできるようになります。パワーモジュールのメーカーにとっては、PMiCと連携することで、開発のリードタイムを大幅に短縮できますので、とても実践的かつ有益・有用な施設になるはずです。2025年からは、熱マネジメントや燃費・航続距離の向上について、お客さまとの共同評価が始まる予定で、PMiC における「顧客共創サイクル」がさらに加速していきます。

これが、モビリティ事業を儲かる出口へと育てていく私たちの戦術です。PMiCは2023年から本格始動をしていて、多くのお客さまに来ていただけるようさまざまなプロモーション活動を行っています。また、PMiCのセンター長はPSセのセンター長に兼任してもらうようお願いしました。彼には、PS セを現在の「共創の場」としてつくり上げた経験があります。そのノウハウをモビリティ分野のメンバーにも共有しながら、より短い期間で高いプレゼンスを発揮できるよう、スピード感を持って取り組んでもらっています。

源流の違う2社の融合 共通言語でのコミュニケーションの始まりと、事業戦略と人材育成戦略を完全に 一致させることで、共創型人材が活躍を広げる

レゾナックの人的資本経営の特長は事業戦略と人材育成の戦略が完全に一致している点です。ここまでの話で、私たちにとっていかに「共創」が大事なことかをお分かりいただけたと思います。共創がなければ新しい価値は生まれませんし、私たちの技術の出口をつくり出すことこともできません。だから私たちは共創型人材を育てています。

レゾナックが目指しているのは世界トップクラスの機能性化学メーカーになることで、その機能性化学メーカーの特徴は「すり合わせ」にあります。機能性材料というのは、有機のレジン(樹脂)に無機のフィラー(粉)を混ぜて作りますが、混ぜてお客さまに出す、お客さまからのフィードバックを基に、また新しい素材の組み合わせを素材メーカーと考える。それからまた混ぜてみる、またお客さまに出す。この繰り返しなので、徹底してすり合わせの連続なんですね。

そのすり合わせの連続が、社内だけでなく、社外とも絶えず起こります。社外と一口に言っても、お客さま、サプライヤー、コンソーシアムの仲間と、多種多様なタッチポイントがあります。それらのすり合わせをきちんとハンドルできる人たちである、共創型人材を育てていこうとしているのです。

根底にパーパスがあり事業戦略を展開していく中で、事業戦略に基づいた人材育成をし、彼らがバリューを体現するアクションを実行する。すべてが明確につながっているから、レゾナックの人的資本経営は強いのだと思っています。
振り返ると、素材を作る旧昭和電工と、素材を上手に使って一つの製品に仕上げることが得意な旧日立化成が近い距離にいて、「こういう素材を作れないか」とすぐに相談できるようになれば、きっと強い会社になるだろうと考えていました。素材を作る分子設計の技術を持つ昭和電工の開発者がその力を発揮するだろうと。それが、元々の両社統合の狙いでした。

ただし、源流の異なる2社の間で共通言語が生まれるまでには、やはり時間が必要でした。旧昭和電工と旧日立化成のそれぞれが別の場所にいると、コミュニケーションを取る機会が限定的であることが原因の一つでした。そこで、センター・オブ・エクセレンスとなる拠点をいくつか決めて、素材と技術の両方の拠点から人を集めました。それだけではなく、レゾナックは横浜に「共創の舞台」という研究開発拠点を持っているので、ここに半導体の研究者と計算情報科学の研究者を同居させました。こうすることで、直接コミュニケーションを取る機会が増え、共通言語が出来上がるまでになってきました。これは大きな変革であり、これから先どういった技術が生まれていくのか、私はすごく楽しみにしています。

サステナビリティは、今や企業経営を行う上で必須のチケット

事業戦略の進むべき道筋は見えています。その上で企業経営者として向き合うべきテーマが「サステナビリティ」です。
サステナビリティは、今や企業経営における必須のチケットになったと私は考えています。一時的な揺り戻しの動きがあっても、大きなトレンドとしてのサステナビリティは変わらないと考えます。例えばカーボンニュートラルには、ある程度のタイムラインを持ちながら、時間軸的に厳しくなっても目標は変えず、多少遅れても取り組み続けなければなりません。

一方で、私は"企業にとっての"サステナビリティとは企業価値の最大化を図ることだと捉えています。ただし、儲かってさえいれば企業として評価される時代はすでに終わっています。環境・社会・ガバナンス(ESG)に対する取り組みも含めて、世の中や人々のためになっているいい企業かどうかを、投資家・資本市場が評価し、その評価が株価に反映され企業価値が決まっていく時代です。こうした認識を持って手を打っていくことが、大事なのではないかと思うのです。

さらに、ビジネスチャンスとしてのサステナビリティという視点もあると、私は注目しています。私たちは機能性材料メーカーですから、半導体に代わる何か新しい産業が出てきたときに、その分野に必要な材料を提供していけば良いのです。その意味で、サステナビリティという一つの大きなテーマでどんな材料が求められるのかを見極め、ビジネスオポチュニティを探っていきたいと考えています。

リスペクトの輪を広げることで 2万4,000人のオーケストラが素晴らしいハーモニーを奏でつつある

第二の創業以来、私はレゾナックの社長として、半導体材料に注力してきました。AI半導体向け材料の開発や、日米でのコンソーシアム設立など懸命に打ってきた施策が、今まさに順を追って巻き取れてきていると感じています。US-JOINTが立ち上がるのはこれからですが、始動して成果が出てくるのも遠くないでしょう。業績も付いてきましたし、社会的にもかなり認めてもらえるようになって、「レゾナック、すごいですね」と言われる機会が増えてきました。

しかし、だからといって、今のままのレゾナックで満足しているわけではありません。「レゾナックって世界で一番の機能性化学メーカーだよね」と言われるようになりたいですし、「レゾナックで働くと楽しそうだよね」と思ってもらえる会社にしていきたいと考えています。そのためにやるべきこと、やりたいことがたくさんあります。

私が特に力を入れているのは、人との関わり方の土台づくりです。例えば、上司が部下にどうフィードバックするか、1on1をどう実施するのか、共創型リーダーとしてどうあるべきかといった内容を学ぶリーダー層向けの研修を全社で実施しています。人材育成というと、ファイナンスやマーケティングなどの知識面に目が行きがちですが、それらは"アプリ"のようなものであり、しっかりとした"OS"さえ備わっていれば、アプリは後からいくらでもダウンロードできると考えています。OSをしっかり作っていくことが人的資本の本質だと考えています。

経営戦略も今や生成AIがすぐに作ってくれる時代です。だからこそ本当に必要なのは、それを実行できる「エグゼキューション力」を持った人材です。その「エグゼキューション」とは、結局のところ、「すり合わせ」です。すり合わせができる人、EQ (感情知能)が高い人、人に影響を与えられる人、エモーショナルに人を巻き込める人、そういう人材を育てていきたい、そう思っています。

それから今年、私は「リスペクト」という言葉を強調しています。チームがちゃんと良いパフォーマンスを発揮するためには、お互いに尊敬し合うことが必要だと思います。上司が部下をリスペクトすれば心理的安全性が保たれ、モヤモヤしていることも言いやすくなる。上司は部下をリスペクトする、部下も上司をリスペクトする、そして同僚同士もリスペクトし合う。そんなリスペクトの輪が広がれば、絶対楽しい会社になるだろうなと信じています。

レゾナックには約2万4,000人の従業員がいますが、その約2万4,000人が「この会社、楽しいよね」と思って働いてくれて、今までよりも2%ずつ頑張ってくれたら、生産性が飛躍的に上がるはず。その生産性向上の源泉が、給料が上がることでもなく、上司から怒られることでもなく、みんなが「楽しい」と感じることだとすれば、それは本当に素晴らしいことじゃないですか! そうした観点でいえば、人権を尊重することは当然のこととして、従業員の安全がしっかりと守られていて、健康でいきいきと働ける環境をつくることは重要だと考えています。体調や気分が良好な状態で働ける会社と、楽しく幸せに働ける会社はイコールなところもあると思うので、安全と健康はすべてのベースだと考えて取り組んでいきます。

総括すると、私はレゾナックを、誰もが安心して楽しく働ける会社、チームワークのいい会社にしたいのです。私がオーケストラの指揮者だとすれば、楽器はメンバーに任せて、それぞれが素晴らしい音を奏でている。しかも、それぞれの楽器が互いにリスペクトし合っているから、ものすごいハーモニーが生まれる。そんな本当に素晴らしい約2万4,000人編成のオーケストラが、出来上がりつつあるのだろうと思っています。

2022年に社長に就任してから経営を真剣に考えていない日本の経営者に向けて、「伝統企業をリヴァイブし、ベンチャーマインドを浸透させていく姿を示す」と多少強弁しながら、この3年間を取り組んできました。ここまでお話ししてきたように、やってきたことは間違っていなかったと実感できていますし、今は本当に手応えを感じています。だからこそ今は、自然体で「レゾナックをいい会社にしていく」と言える心境です。
「これまでやってきたこと、今考えていることを着実に続けていけば、その先にレゾナックの企業価値の向上、そして従業員の幸せを描くことができる」——肩肘張らずに、でも本気で、そう思っています。

代表取締役社長 CEO

髙橋 秀仁