CEOメッセージ

従業員26,000人のスタートアップ!
社会を変えるレゾナックへ─今、私たちは変わります

レゾナックで私が実現したいこと

2023年1月、昭和電工と日立化成が統合した機能性化学メーカーレゾナックが誕生しました。よく第二の創業と言われますが、むしろ私は自分を創業者だと思っています。従業員26,000人を抱えたスタートアップ企業の創業者として私が実現したいこととは、パーパスとして掲げたとおり、化学の力で社会を変えることです。化学産業には光と影があるというのは事実です。

化学はこれまで、日常生活にはなくてはならないプラスチックや、半導体、電子部品を構成する素材などを創り出し、産業の発展や豊かな生活に貢献してきました。私が化学業界に身を置いているのも、こうした化学の可能性に魅了されたからです。しかし一方では、CO₂の排出や海洋プラスチックなど、地球環境に対してダメージを与え続けてきました。

私には好きな本が2冊あります。1冊はミルトン・フリードマンの「選択の自由」。もう1冊はレイチェル・カーソンの「沈黙の春」です。フリードマンは弱肉強食の資本市場で企業が一心に成長を目指すことを肯定し、一方、レイチェル・カーソンは化学メーカーによる環境汚染に警鐘を鳴らしています。かつては二項対立の構図にあった経済と環境は、今の時代ではサステナビリティというキーワードのもとで両立の道を探そうとしています。こうした時代である今だからこそ、化学の力で社会を変えることができると思います。

私が率先して化学の力で社会を変えたいと思う背景には、一つの強い思いがあります。それは日本の現状に対する怒りと反省です。私は日本も日本人も大好きなのですが、日本はなぜ、さまざまな場面で世界の後塵を拝しているのか、優秀な日本人も数多くいるのに、なぜ世界で勝てなくなってしまったのか、なぜ日本の1人あたりGDPはシンガポールの半分に過ぎないのか、こうしたことに対する怒りと、自分自身も経済人として、こうした現状をこれまで変えることが出来なかったことへの反省です。日本発の世界トップクラスの機能性化学メーカーをつくりたい。そのために業界の常識を変えたい。これが私の願望であり、責任です。

ただ、こうした私の願望は、自分だけの力では到底叶えることができません。だからこそ、競合他社を含めた様々な企業、そして多くのステークホルダーと共創し、イノベーションを創出し成長しなければならないのです。そのためには、まずレゾナックが変わる必要がある。新社名の「RESONAC」は、「RESONATE:共鳴する・響き渡る」と、CHEMISTRYの「C」を組み合わせることから生まれました。この社名のとおり、共創型化学会社として社会を変えていきたい、本気でそう考えています。

そのために、今進めていること

世界トップクラスの機能性化学メーカーになるためには、ある程度の事業規模と高い収益力が必要です。しっかり稼げる会社でなければ、社会への貢献も、イノベーションに対する投資もままなりません。「良い会社」になるには、まずは儲かる会社にしなければいけないのです。だからレゾナックは2025年に、売上高1兆円を維持しながら、20%のEBITDAマージンをあげることを目指しています。

稼ぐ力をつけたうえでレゾナックが成し遂げたいことは、社会にイノベーションを起こすことです。化学は全ての産業の基点です。社会にイノベーションを起こすためには、どうしても化学の力が必要なのです。そのために私たちは化学の力を追求していきますが、共創を通じて優位性の高い技術やノウハウを持ち得たとしても、それを独り占めすることは全く考えていません。それが化学会社としての私たちの責務であり、「共創型化学会社」のあるべき姿だと思います。

CEO

例えば、レゾナックが起こすべき重要なイノベーションの一つに環境負荷の低減があります。現在、カーボンニュートラルに向けてさまざまな打ち手を講じていますが、もちろん当社だけでなく、さまざまな化学会社が独自の工夫を凝らして、それぞれの道を進んでいます。そして、こうした取り組みは近い将来には「勝ち筋」が見えてくると思います。仮に当社がその「勝ち筋」を握ることが出来たとしても、その際には、その技術やノウハウを公開し、業界全体で取り組んでいけるようにしたい、私はそう思うのです。

レゾナックが化学の力で社会を変えていくために進めていくべきことは3つあります。1つ目は共創型人材の育成と組織文化の醸成です。これが最重要課題です。2つ目は素材づくりに磨きをかけること、すなわち半導体や電子部品の進化を支える素材を、化学の力で出来る限りの付加価値を高めた素材につくり上げることです。3つ目が、株主・投資家にとってわかりやすい事業ポートフォリオの運営を続け、企業価値を最大化することです。

共創型人材の育成と組織文化の醸成

企業が成長するための差別化要因は、経営陣が戦略をやり抜く胆力があるか、それをサポートする人材が育っているかに尽きます。レゾナックのCEOとして私が最も優先して時間を割いているのが、個の能力を高めるための人材育成と組織文化の醸成です。それを実現することが、企業価値の最大化に繋がると考えています。

個の能力を上げるために、共創型コラボレーション力強化研修や共創型リーダーシップトレーニングなど、いくつかの研修制度を設けています。組織文化醸成のために、従業員が働く現場で、ラウンドテーブル、タウンホールミーティング、そして「モヤモヤ会議」を頻繁に開催しています。

「モヤモヤ会議」は、レゾナックの企業価値を最大化するための象徴的な取り組みで、今年1月からスタートしました。若手従業員20人程度が集まり、普段モヤモヤしていることを3つほど挙げてもらい、私とCHRO*の今井がファシリテーションしながら自由闊達に対話を進めます。大切なのはテーマをあらかじめ設けないこと。若手は、必ずモヤモヤしていることがあります。この会議は、モヤモヤの解決が目的なのではなく、そのモヤモヤを使ってバリューとは何かを考えてもらう機会であり、若手の声を経営に届ける機会でもあるのです。

まず第一ラウンドとして、参加者のモヤモヤを四つのバリュー、すなわち「プロフェッショナルとしての成果へのこだわり」「機敏さと柔軟性」「枠を超えるオープンマインド」「未来への先見性と高い倫理観」を使って解決できるものなのかを考えます。一人で解決できる、みんなと一緒にバリューで解決できる、バリューで解決できないというようにグルーピングするわけです。このプロセスを経ることで、参加者がバリューをどう使えばいいのかを理解できるようになります。

第二ラウンドでは、バリューで解決できるモヤモヤに実効性と重要性で優先順位を付し、同席している事業所長にモヤモヤの解決案を提案します。従業員のモヤモヤは、直属の上司で止まってしまうなど、トップの事業所長には伝わりにくい傾向にあります。逆に事業所長も、若手従業員の声を直接聞く機会を得られます。他にも事業所長が解決案の採用可否を決めかねるようなハードルがあれば、その場にいる私がハードルを取り去ることもできます。

モヤモヤ会議の目的は、バリューの理解度を深めることにありますが、私が最も伝えたいことは、「楽しく仕事をしよう、もっとオープンマインドで事に当たろう」ということなのです。バリューをよりどころとして共創していく環境を作るためには、CEOである私がこうした会議に参画し発言していく必要があると考えています。

「共創型人材」のキーワードは二つあります。一つ目が共創、もう一つは自律です。日本人は、縦の指揮命令系統の中では、上意下達できちんと動きますが、横とのコラボレーションが足りないことがある。これをできる人が共創型人材です。

レゾナックの人的資本経営として、ポートフォリオ戦略と人材戦略は合致することが必要です。ポートフォリオ戦略は、スペシャリティケミカルへの脱皮です。石油化学を中心とした伝統的総合化学メーカーから、機能を発揮するスペシャリティケミカルに移らなければならない。スペシャリティケミカルでは、営業がお客さまから要望を聞いて、開発部門が素材を購入し、試作をして、検証し、それをお客さまに提案する。これには交渉力、コミュニケーション力が求められます。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、従来のバルクケミカルではこうした、細かなすり合わせは必要なかった。むしろ、「上意下達」が、石油化学コンビナートでは一番大事です。そうしないと事故が起こるからです。当社がスペシャリティケミカルに向かうことと、共創型で自律的な人材となることは、企業価値最大化のための両輪で、レゾナックの人的資本経営そのものなのです。

レゾナックの人的資本経営の強みは、CEOとCHROが完全にシンクロして、これに全てをかけていることだと思います。もう1つの強みは、私が10年後の姿を明確にイメージできていることだと自負しています。それは、私が以前在籍していたゼネラル・エレクトリック社(GE)での経験です。価値観を共有し、競争させる。緊張感がありますが、価値観が共有されているので、成功したときに全員で達成感を持つことができるのです。あの世界をつくりたいと強く感じています。

私は従業員に向けて「皆さんには公平にチャンスを与えます。キャリアを選択するのは自分です。ワークライフバランスではなくワークライフチョイスです」と言っています。自分が幸せに思う生き方、働き方を選択する機会を会社は提供しますが、それが他の人と異なるから不幸せだと思わないでくださいと。もちろん、在籍する事業部によって収益性が異なれば、隣の事業部がうらやましく思うこともあるかもしれません。そこで、ジョブローテーションや社内公募も用意しています。事業によって学ぶステージが異なるので、順番にいろいろなことを経験して自分を成長させていくこともできます。

今年の新入社員の内定式では、「これから皆さんが生きていく30年後に、産業構造がどうなっているかわかりません。軽々しく30年後の未来を約束しません。その代わり、皆さんがどこに行っても通用する人間に育てます」と言いました。それを実現できるのが、真に従業員に優しい会社だと思いますし、私はレゾナックを社会が欲する人を育てられる「道場」にしたいのです。

また、レゾナックは最高職務責任者(CXO)の体制を採り入れています。
当社には23の事業部と、約100の事業所がありますが、それぞれの事業部、事業所は、完全独立し、事業運営の手法も異なります。そこに横串の機能を持たせたのがCXO体制です。例えば、事業部にいる財務担当者の上司は、事業部長ではなくCFO*です。同様にCHROが、各事業部の人事担当の上司になります。各事業部にいる財務と人事担当者は、それぞれCFOやCHROの下で本社の方針を理解し、事業部長に寄り添うパートナーとして位置づけられます。こうした横の繋がりを重視した組織体制もレゾナックの成長エンジンのひとつと言えるでしょう。

  • * CHRO:Chief Human Resource Officer=最高人事責任者
  • * CFO:Chief Financial Officer=最高財務責任者

素材づくりに磨きをかける

化学のなかでも、レゾナックが力を発揮していく分野が半導体・電子材料の分野です。半導体材料の分野では、当社を含め、日本企業が世界のなかで圧倒的なプレゼンスを持っています。半導体材料に使われる機能性材料の品質を高めるには、さまざまな実験を繰り返し、試行錯誤を重ねることが不可欠で、その部分を愚直に行ってきた日本企業が勝ち組となり、高い産業障壁を築いています。一方で、石油化学産業は総じて競争力が発揮しにくく、原油価格など市況の影響を受けて収益も不安定になりがちです。その意味では、半導体・電子材料の分野では勝つための再編、石油化学産業では負けないための再編が必要です。

レゾナックでは、旧昭和電工と旧日立化成が持っていた強みのシナジーが徐々に表れ始めています。原材料に強い旧昭和電工の「作る化学」と、半導体メーカーへの最終製品で高いシェアを持つ旧日立化成の「混ぜる化学」の融合です。

半導体メーカーが要求する性能を樹脂材料まで遡って一気通貫で取り組めるようになったことは、当社の強みです。例えば、プリント配線板材料で「銅張積層板」という世界シェア一位の製品があります。これは、銅箔とガラスクロスと樹脂を貼り合わせて製造しますが、樹脂は旧昭和電工で分子設計からつくることができます。また、半導体のウェハーを磨く混合物で、同様に世界シェアトップの「CMPスラリー」は、旧昭和電工がセラミックス事業を持っているので、粒子の分子設計から製造できます。まさに両社が、お互いのノウハウや技術をすりあわせして、“化学反応”を起こすことで、よりスペックの高い製品を実現しています。一朝一夕で結果を出せる話ではありませんが、今後の大きなアップサイド・ポテンシャルになると考えています。

株主・投資家視点を重視した事業ポートフォリオの構築

ポートフォリオ戦略として、石油化学を中心とした伝統的総合化学メーカーから、機能を発揮するスペシャリティケミカルをめざしています。そのために、収益にこだわった変革を進めて、コア成長事業として半導体・電子材料を位置づけ、同事業の売上高構成比を30%強から2030年には45%にまで高める目標を設定しました。この事業で実現すべきは、成長です。お客様のスピードに負けずに良い素材を次々と開発することで成長を続けることが最重要課題です。

一方で、いくつかの事業の売却を進めるなどして、今まさにポートフォリオの入れ替えを行っています。石油化学事業については、利益率を上げて設備を安全に運転すること。セラミックスや樹脂の事業は、研究開発を進め、質の高い素材を半導体材料として供給することを目指します。私にとって企業価値とは何か、と問われれば、それは株価です。しかし、私が最も時間を使うステークホルダーは従業員です。次にお客さまだと公言しています。これは株主・投資家の皆さまを軽んじているわけではありません。従業員に時間を使って従業員のエンゲージメントを高め、お客さまと良い関係を築く。これらにより企業価値の最大化につながり、株主・投資家の皆さまへ最大の還元ができると考えています。

株主・投資家からの共感を得るために、取り組んでいくこと

株主・投資家の皆様へ、事業ポートフォリオを変えていくことをしっかり説明しますが、中期経営計画としては発表しません。中期で目標数値を掲げることに意味があると思っていないからです。ただし、レゾナックが将来進むべき方向性、マテリアリティに基づく非財務のKPIとその進捗についての説明、そこに向けてのプロセスは必ず示していきます。

株主・投資家にご理解をいただくためのエクイティ・ストーリーは明確です。それは、半導体・電子材料事業を成長させていくストーリーと、そのために人を育て、組織を変えていくトランスフォーメーションストーリーにほかなりません。この2つのストーリーを実現していくことを、株主・投資家に対してしっかり伝えたいと思います。

現状の株価やPBRの水準は、私が思い描く10年後のレゾナックのイメージとはかけ離れていますが、レゾナックが稼ぐ力を身に付け、事業ポートフォリオを強化して長期的な成長が出来ること、そのための人材育成と組織風土の醸成を行っていることを株主・投資家にご理解をいただくことで、株価やPBRはそのことを織り込んでいくものと思います。

足元で、レゾナックのストーリーに共感してくれる長期の株主・投資家は確実に増えはじめています。今後も引き続き積極的なIRおよびSR活動を通じて、レゾナックのストーリーを熱く語り続けていきます。

化学の力で社会を変えようとしているレゾナックに、是非一緒にワクワクしていただきたいと思います。どうぞご期待ください。

代表取締役社長

髙橋 秀仁