気候変動への対応:TCFD提言に基づく開示

取り組み方針

当社は、各種製品の製造工程で化石原燃料を使用しており、温室効果ガス(以下、GHG)を排出する一方、省エネルギー・炭素循環に貢献する製品も数多く有していることから、気候変動への対応はリスク・機会の両面より重要な経営課題と捉え、2019年5月に「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)に賛同しました。気候変動が当社に及ぼすリスクと機会を評価し、シナリオ分析の内容を踏まえた取り組みを通じてレジリエンスを強化するとともに、TCFDのフレームワークに基づいた情報開示を進めステークホルダーとの対話を推進していきます。 世界的な気候変動が頻発し、科学的に温室効果ガス(GHG)がその原因であると認識されています。「パリ協定」において、地球の平均気温の上昇を産業革命以前と比較して2℃未満に抑える「2℃目標」が設定され、さらに今後その対応が加速されていくと予測されます。 レゾナックは長期ビジョンでの目指す姿「持続可能なグローバル社会に貢献する会社」として2050年に向け、カーボンニュートラルに挑戦します。

ガバナンス

取締役会の役割・監視体制

当社は、気候変動をはじめとする環境に関するリスクや事業機会、目標や具体的な取り組み施策については、CEOが統括、CSuOが推進責任を担い、サステナビリティ推進会議や経営会議で協議・決定するとともに、進捗管理・モニタリングを定期的に実施し、必要に応じて対応策・是正策を検討します。取締役会は、サステナビリティ推進会議や経営会議で協議・決定された内容の報告を定期的に受け、企業価値の最大化の観点から議論・監督を行っています。また、長期視点での経営を強く促し、当社の持続的な成長を促すため、2022年から長期ビジョンにおける取り組み・気候変動を含むサステナビリティ課題への対応などについて、社内取締役と執行役員の業績評価指標に含めています。また、2024年3月に取締役会の気候変動対応や生物多様性保全に関する役割を明確にするため、コーポレートガバナンス基本方針を改定しています。 カーボンニュートラルプロジェクトは、サステナビリティ部を中心とし、全てのCXOと事業部門が参画しています。

カーボンニュートラルプロジェクトの位置づけ

戦略

短期・中期・長期の気候関連リスク・機会および対応

当社は、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、気候変動を「事業機会」と「リスク」の両面で捉え、企業としての社会的責任の実践とさらなる競争優位性の構築を図り、「脱炭素に向けた製品・サービスの提供」「パートナーとの共創」「エネルギー効率の改善」「再生可能エネルギーの使用拡大」などによりバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量削減に取り組んでいきます。そのような中で、気候変動が当社の事業に及ぼす影響(事業機会・リスク)について、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)などが発表する「世界の平均気温が4℃以上上昇する」「世界の平均気温がパリ協定で合意した2℃未満の上昇に抑 えられる(一部1.5℃以内)」の二つのシナリオでリスクと機会を分析し、当社の対応の必要性を改めて確認しています。事業におけ る影響評価については、2023年は半導体・電子材料セグメントで実施し、2024年はモビリティセグメント、イノベーション材料セグメ ントなどで順次実施しており、2025年には全事業において完了する予定です。影響評価が終わったセグメントから開示を行っています。

全社への影響がある移行リスクとしては、炭素価格などのエネルギー諸税上昇による操業コストの増加が考えられます。当社は基準年である2013年実績463万t-CO2から30%削減し、2030年は排出量約324万t-CO2を目指しています。売上成長に伴う2030年度のScope1・2の排出量を約500万t-CO2と見込んだ場合、IEAの2℃シナリオ(SDS)※1の予想などを参考に炭素価格を10,000円/t-CO2とし、目標未達部分のオフセットとしての排出量取引が発生すると想定すると、30%削減できなかった場合は約180億円/年の操業コスト影響が発生し、削減できた場合は操業コスト抑制につながります。その他にも社会とさまざまな接点を持つ当社は今後もシナリオ分析を活用し、社会の多くの場面でカーボンニュートラル社会の実現に貢献すると共にリスクへの対応を行い、持続可能な成長を行っていきます。

シナリオ分析の前提
  • 想定期間:2030年度まで
  • 採用シナリオ:4℃シナリオ IPCC/RCP8.5、IEA/STEPS 1.5/2℃シナリオ IPCC/RCP2.6、IEA/SDS(一部IEA/NZE)
  • 時間軸の定義:短期 3年未満、中期 3年~10年未満、長期 10年~30年
  • シナリオ分析対象:既存事業

気候関連のリスク・機会と主な対応

機会・リスクの種類 領域 顕在時期 当社への影響 対応策 影響度※1
1.5/Z2℃ 4℃
移行機会・
リスク
リスク 全ての事業 中期 カーボンプライシング(ICP)導入による、税負担(コスト)の増加
  • 2030年GHG排出量削減目標の見直しとロードマップ策定
  • 事業ごとの目標設定/削減取り組みの実施
  • 再生可能エネルギーの導入拡大
  • 原燃料転換
  • GXリーグへの参画
リスク 短期~中期 GHG排出規制強化による再生可能エネルギーへの切り替え・調達コスト増加
  • 太陽光発電の導入や水力発電設備等の活用
なし
機会・
リスク
短期~中期 政府による企業の脱炭素取り組みに対する政策上の支援
  • 次世代グリーンパワー半導体用8インチSiCウェハー開発計画(NEDOグリーンイノベーション基金事業採択)
  • 革新的分離剤による低濃度CO2分離システムの開発計画(NEDOグリーンイノベーション基金事業採択)
  • 半導体材料グローバルサプライチェーンを強化(経済産業省海外市場調査等事業費補助金(インド太平洋地域サプライチェーン強靱化事業)採択)
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機会・
リスク
短期~中期 消費者の行動・意識変化に伴う、売上の増加・減少
  • 低炭素社会のニーズに対する製品拡販、新製品開発、競争力強化
  • 共創の舞台(新研究所)での長期研究開発促進
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リスク 短期 お客さまからの低炭素化に対する取り組みと開示要求の増加
  • LCA(CFP)算定体制を整備し、炭素排出量の見える化、削減計画策定
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機会・
リスク
短期~中期 社会や顧客からの環境課題解決ニーズの獲得状況に伴う投資家からの評価の変化
  • 社会や顧客の課題解決に貢献するための当社製品/サービス(Resonac Pride製品・サービス)の付加価値向上
  • 積極的な気候変動/循環型社会に向けた対応を進めることによる投資の呼び込みなど
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リスク 半導体・電子材料 短期~中期 原材料の高騰化、素材の切り替えによる調達コスト増加
  • 原材料の調達先・リソースの多様化
  • リサイクル原料の活用検討
  • 供給不安原料の内製化、地産地消型生産シフト
  • 上流サプライチェーンとのGHG削減に向けた協働
  • 新規原材料採用時のBCP対策基準設定
  • 主要原材料の価格変動に対するフォーミュラ制(原料価格変動分を製品価格に自動反映)の適用
リスク 短期~中期 顧客の行動・意識変化に伴う、売上減少
  • 製造工程におけるGHG排出量削減および顧客への情報開示
  • 製品・技術の活用を通じて、社会でどの程度の量のGHGが削減されたかを定量的かつ科学的に算定(GHG削減貢献量・CFP算定)
  • 半導体気候コンソーシアム(SCC)各ワーキンググループへの参加
  • 環境配慮型製造工程の検討
  • 顧客満足度調査の実施
  • 顧客の環境関連ニーズ把握のため、営業との連携強化
  • 対象市場における需要の変化を見据えた、販売マーケティング体制・新製品開発体制の強化
  • 顧客要請を製品・サービスに即座に反映させるための、顧客対応マネジメントの強化
中~大 なし
機会 短期~中期 EV/自動運転の需要増に伴う売上増加
  • SiCパワー半導体需要増大への対応
  • 部品の小型化・軽量化に貢献する材料開発
機会 短期~中期 低消費電力半導体、環境配慮型製品の需要増による売上増加
  • 環境適合製品設計アセスメント
  • 低GWP値の半導体用エッチングガス開発
  • GHG削減プロセスに貢献できる封止材の開発
  • メモリ用途接着フィルムの薄膜化への対応
  • 半導体気候コンソーシアム(SCC)各ワーキンググループへの参加
  • 米国シリコンバレーにパッケージングソリューションセンター設置(予定)
  • 先端半導体コンソーシアム「TIE(Texas Institute for Electronics)」参画
なし
機会 短期~中期 テレワーク化・自動化・データ化普及による、サーバー関連設備・データセンターの脱炭素化に伴う売上増加 なし
物理リスク リスク 全ての事業領域 短期 気候変動起因の自然災害による製造拠点の操業停止、設備の修復費用の増加による収益減少
  • 各拠点の洪水リスク分析の実施
  • 定期的なリスクの抽出/低減活動、BCP(事業継続計画)の強化
※2 ※2
  • ※1 気候変動に関する機会とリスクの財務的影響については算定を順次進めているため、段階的に開示していきます。影響度は特定した気候変動の機会・リスクへ対応した場合を記載しています。
    大:気候変動に対する規制・政策などにより今後も当社への影響が見込まれ、その結果、当社の営業利益(単年度)への影響が100億円以上と試算される。
    中:気候変動に対する動きが既にあり、今後も当社への影響が見込まれ、その結果、当社の営業利益(単年度)への影響が30億円以上100億円未満と試算される。
    小:気候変動に対する動きがあり、その結果、当社の営業利益(単年度)への影響が30億円未満と試算される。
  • ※2 物理リスクについては、日本の主要36拠点を対象として、ハザードマップ、AQUEDUCTを活用した分析を実施しました。100年に一度の災害が発生した際には、13拠点がリスクにさらされることが明らかになりましたが、再現期間を加味した年間影響額は1.5/2℃・4℃どちらのシナリオでも小さいことから影響度は「小」としています。今後、海外拠点およびサプライチェーンについての分析を順次進めていきます。

リスク管理

リスクを評価・識別・管理するプロセス

当社は、各事業の気候変動や生物多様性のリスク評価を順次実施し、気候変動影響による「移行リスク」「物理リスク」、自然関連の依存・インパクト・リスク評価を実施し、当社にとって重要なリスクを特定して対応策を立案しています。リスクの特定、対応策の立案にあたっての重要事項は取締役会へ報告しています。今後もリスク評価を継続し、リスク・対応策を更新していくとともに対応策の進捗状況のモニタリングを実施していきます。

全社リスクマネジメントへの統合状況

リスクを全社的に管理する体制を構築することが重要であることを踏まえ、グループ共通のフレームワークで統合リスクマネジメントの取り組みを行っています。気候変動・生物多様性関連のリスクを含め当社の経営に影響を及ぼす可能性があるリスク情報は、全社的に展開するリスク棚卸し活動(リスクアセスメント)を通じて、リスクマネジメントシステムに一元的に登録され、発生頻度と影響力が共に非常に高いリスク(重要リスク)については、専門委員会(リスクマネジメント委員会)で審議します。両会議共に重要事項は経営会議で審議・決定の上、取締役会に報告されます。
 

指標と目標

「2050年カーボンニュートラル」に向けて、統合新会社発足にあたり2021年に2030年のGHG排出量削減目標を見直し、「2013年比30%削減」を目標としました。低炭素社会実現に向けた各事業の中長期計画の見直し、2030年におけるGHG排出量削減目標の達成に向け排出量の削減とさらなる省エネルギーを推進していきます。また、長期ビジョンで目指す姿「持続可能なグローバル社会に貢献する会社」として2050年のカーボンニュートラルに挑戦します。2023年は、Resonac Graphite Austria GmbHにて使用電力量の100%を風力発電由来の電力に変更したほか、レゾナックグループ全体で115千MWhの再生可能エネルギー由来の電力を購入しました。GHG排出量については、太陽光発電など非化石エネルギーへの転換などにより、2013年比で8.8%削減しました。

非財務KPIの目標と実績

レゾナックは、サステナビリティを全社戦略の根幹と位置づけ、3つのサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)を定義しています。環境においては「責任ある事業運営による信頼の醸成」に紐づく非財務KPI・施策を定め、重点的に取り組むことで長期ビジョンの達成を目指します。

重要項目(KPI) 2030年目標 2023年実績
温室効果ガス排出量の削減 温室効果ガス排出量 2013年比30%削減(Scope1+2)(連結) 温室効果ガス排出量 2013年比8.8%削減(Scope1+2)(連結)

* 統合に伴い、排出量実績の見直しを実施しています。また、Scope3については上流側の算定・開示から実施し、目標設定を検討しています。


Scope3の温室効果ガス排出量(2023年)

  カテゴリー 排出量(千t) バウンダリー
1 購入物品・サービス 3,556 レゾナック単体
2 資本財 282 レゾナック連結
3 燃料・エネルギー関連 440 レゾナック連結
4 上流の輸送流通 27.6 レゾナック単体
5 廃棄物 21 レゾナック単体
6 出張 12 レゾナック単体
7 通勤 2 レゾナック単体
  上流計 4,341