CEOメッセージ

人材と企業文化の変革こそ企業価値最大化の核心
レゾナックが社会を変え、日本の企業経営を変える

半導体後工程での圧倒的強さと文化のトランスフォーム、
二つのレゾナックらしさを経営の推進力に

2023年1月、昭和電工と日立化成が統合し、レゾナックが誕生しました。昭和電工は分子設計までさかのぼることができる「素材」の会社、日立化成は素材を使って機能を生み出す「材料」の会社です。それぞれの強みを活用し磨いていこうというのが、統合の大きなコンセプトです。
昭和電工は素材の技術に強みを持っていた一方、日立化成は半導体材料に強く、特に後工程に重要とされる15個の材料のうち10個を持っていました。この両者の技術を組み合わせて、レゾナックは「素材」を「機能性を持たせた材料」にしています。多種類の半導体材料を持ち、それぞれの材料が世界で1位か2位、素材から加工が可能で、かつ、高機能に特化しているという点で、レゾナックは群を抜いています。世界一流の半導体メーカーと直接仕様を決め、開発を行い、材料を売ることができる。当社は半導体における重要な存在ではありますが、半導体メーカーではなく、機能性化学メーカーです。川中から川下までの長いバリューチェーンを持ち、後工程で圧倒的なシェアを誇る半導体材料の会社。しかもそれぞれの材料の技術力が極めて高い会社。これが、事業ポートフォリオから見た「レゾナックらしさ」です。利益的な面でも、半導体材料の素材となる樹脂を、そのまま「素材」として売るのと、フィラー(粉)を混ぜて加工し半導体メーカーが求める「機能性を持たせた材料」にして売るのでは、利益率がまったく違います。機能性材料にすれば、EBITDAマージンで25〜30%確保できます。

そして、もう一つ、強調しておきたい「レゾナックらしさ」があります。それは、パーパス・バリューを徹底して浸透させ企業文化の醸成に取り組んでいることです。
旧昭和電工や旧日立化成のような古い体質の大手日本企業(最近はやゆしてJTCと呼ばれているようですが)、は非常に優秀な理系人材を囲い込んでいる割には、その従業員の潜在能力が解き放たれていないという弱点を抱えていました。その高いポテンシャルを解き放つためには、会社ごと、カルチャーから変革しなければならない。JTCからの脱却を早急に必ず成し遂げる、そんな強い思いがあって、新しい企業文化の醸成に力を入れています。
CEO就任以来一貫して、特色ある事業ポートフォリオ、企業文化の改革に磨きをかけてきました。企業価値の最大化というCEOの役割を担い、ブレることなく、懸命に走り続けています。では、どこに向かって走り続けているのか、次にそのことをお話ししましょう。

「レゾナックがいなかったら、できなかった」「日本の会社の経営が変わった」
変化の起点となる会社を目指して

レゾナックのパーパスは"化学の力で社会を変える"です。本気で、社会を変えようと思っています。私が描くゴールイメージは二つあります。まず一つ目は、例えば何十年後の世の中ではやっているものがあったとして、「これってレゾナックがいなかったらできなかったんだよね」と言われる会社になることです。
例えば、AIはこの先、社会を大きく変えていくでしょう。そのAI用半導体のパッケージは、より多くの情報を速く処理できるものにするため、一つの基板の上にロジックとメモリーの両方を載せなければならなかったり、2.xD、3Dと呼ばれるようにチップを積み上げたりしなければなりません。そのためには材料も革新が必要です。半導体メーカー各社は競ってパッケージの進化を進めていますが、当社は進化に貢献する新材料を既に3つ提供して世界トップシェアとなっています。さらに一つ、有力な材料の開発が進んでいます。パッケージ材料はレゾナックが非常に強い領域で、各メーカーのAIの進化に材料面から貢献できます。いわば、メジャーリーグで各球団から取り合いになった大谷翔平選手のようなインパクトがある。この貢献を続けていけば、何十年後かに「あのAIの大革新、レゾナックがいなきゃできなかったよね」と言われることは、私は夢物語だとは思っていません。それに、当社は半導体メーカーではなく機能性化学メーカーなので、半導体ではないまったく別のものが世の中を席巻するようになったとしても、そこに向けて機能性の材料を供給すればいい。化学の力はあらゆる産業の起点となるもので、「レゾナックがいなければ」と言わせる可能性を持つ領域は、限りなく広がっています。しかも当社には、昭和電工と日立化成を合わせた研究開発力・技術力があり、オープンイノベーション拠点である"共創の舞台"では計算科学を駆使した手法で、先端技術の開発に取り組んでいます。私は、「レゾナックが化学の力で社会を変えていく未来」の実現に自信を持っているんです。

もう一つのゴールは、「レゾナックの登場を機に、日本の会社の経営って変わったよね」と言われることです。人々に「ビフォーレゾナック、アフターレゾナック」を想起させるような、まさに“一線を画す” ものを世の中に送り出したい、示していきたいと思っています。そのためのアプローチについて、私が考えているのは「JTC変革への挑戦」です。先ほども触れたように、会社は従業員のポテンシャルを解き放つべきだし、一方で従業員は自律していかないといけません。どんどん素晴らしい開発をして、製品やサービスだけでなく、従業員のポテンシャルを世界へ発信し続けていくこと。この環境が実現すれば日本の会社の経営は絶対に変わっていくと思っています。遠大なる実験かもしれませんが、私はJTCのカルチャーを革新できるという実例をレゾナックでお見せしたいと思っています。

 ——これが、レゾナックが社会を変えていく、私のゴールイメージです。そして、このゴールイメージに向かっていくことが、レゾナックの企業価値最大化につながると信じています。
 

「企業価値=戦略 × 個の力 × 企業文化」3つの要素のレベルアップを図る

私は、企業価値とは戦略と個の力と企業文化を掛け合わせたものであり、企業価値を最大化しようとするならば、それぞれのレベルアップを図っていくしかないと考えています。残念ながら、3つの要素とも求めているレベルに達しているとは言えず、順番に手を打っているところです。各要素のレベルアップに向けどのように取り組んでいくのか、すなわち企業価値最大化に向けた具体的施策について、ご説明します。

1.半導体材料事業でより大きなシェアを取りに行くための戦略を構築する

初めに「戦略」についてお話しします。企業価値最大化に向けた戦略はとてもシンプルで、「世界トップクラスの機能性化学メーカーになる」ことです。そのために、①レゾナックの戦略に適合しているか、②レゾナックのハードルレートをクリアする収益性を持っているか、③レゾナックがベストオーナーかどうか、という3つの視点に立って、事業ポートフォリオの入れ替えを行っています。
無論、目指すべき事業ポートフォリオの姿は世の中の要請によって変わっていくものです。大きな投資では見えないリスクを過大評価し、二の足を踏んでしまいそうになりますが、前述の3つの視点から考えた、今この時点で目指すべき姿を信じて、より早く、一歩踏み出す。つまり半導体材料において相応のマスを持つために、必要な事業・周辺技術への積極的な投資を行っていくことが大事だと考えています。
これまで半導体の性能向上は、前工程の微細化に依存してきました。しかし微細化の限界が見え始め、今、後工程における基板の大型化や多層化、基板を横につなげることに注力した方がコストパフォーマンスは良いのではないかというトレンドになっていて、後工程がこれまでになく注目を集めています。その領域で圧倒的シェアを持つ当社にとって、プレゼンスを上げていく素地が出来上がっています。これを追い風にし、成長につなげていかなければならないと考えています。

CEO

その中で、半導体材料事業のコアコンピタンスは“開発力“であり、開発人員の適切・継続的な確保と育成は特に注力しているところです。また、地政学的リスクへの対応として、サプライチェーンに関する基礎的なデータベースの構築にも取り組んでいます。
川崎にある開発拠点パッケージングソリューションセンターは、最新の半導体製造装置をそろえています。そこで設立したコンソーシアム「JOINT2」では半導体製造装置・材料・基板メーカーと組み、技術革新に挑んでいます。さらに、その第2弾を米国シリコンバレーにも新設します。米国でのレゾナックの存在感、活動を増やしていこうと思っていますし、拠点を置くシリコンバレーの地の利を活かしGAFAMなどとも関係を強化していくことが大事だと考えています。近年では、シリコンバレーに集積する大手半導体メーカーやGAFAMなどのファブレス、大手IT企業が自社で半導体を設計しています。彼らとコンセプトをきちんと語り合いながらプルーフ・オブ・コンセプト(概念実証)できる拠点が必要なのです。AIの世界の発展に、乗り遅れるわけにはいきません。

ところで、当社のようにさまざまな事業を持つ企業にとって、いかにコングロマリットディスカウントを最小限に抑えられるかは、重要な経営課題です。「世界トップクラスの機能性化学メーカーになる」というレゾナックの長期ビジョンは、総合化学メーカーの看板を下ろし機能性化学に特化した事業ポートフォリオを構築することで、その経営課題に対処しようとするものでもあります。
そうした戦略に基づく事業ポートフォリオ入れ替えを検討する中で、去る2月、私たちは石油化学事業のパーシャルスピンオフについて検討を開始することを発表しました。当社における石油化学事業は誘導品が少なく、当社のモノマーまでうまくつながっていません。その意味でレゾナックはベストオーナーではないと考えていますが、一方で従業員たちの幸せも考えなければいけません。せっかくレゾナックがJTCから脱却し、変革に取り組む仲間として一緒に歩み始めたのに、単純に譲渡や他社との提携を選ぶのは大義に反するのではないか。そんな葛藤を抱えるなかで出した答えが、パーシャルスピンオフという手法でした。共同体としてつながりつつも、コングロマリットディスカウントがなくなる。親子上場ともいわれず、それぞれが事業の強みを活かしていける点で、素晴らしい「解」の一つではないかと考えています。これは、株主の皆さまの利益にもなりますし、石油化学事業の独立という大きな目標にも到達できますが、細部についてはまだ工夫の余地があり、詳細はさらに詰めて考えていこうと思っています。

2.エンゲージメントの向上で「個の力」を解放、社員を自律させる

次に「個の力」についてお話しします。「個の力」という点で私が大事だと考えているのは、レゾナックを従業員が楽しくニコニコ働ける会社にすることです。

常々お話ししている通り、CEOの仕事は企業価値の最大化に尽きます。決算の数字を良くすることももちろん必要ですが、それは事業部の従業員一人一人が頑張る以外に実現できません。そのために私がとにかく力を入れ、時間を使っているのは、従業員のエンゲージメントを上げていくことです。社長室の椅子に座って眉間にしわを寄せながら電話で発破をかけようが決算の数字は良くならないですよね。どういう経営施策を打てば良いのか、その施策を実現するためには何が必要か、……と川上へさかのぼっていくと、従業員のエンゲージメント向上に行き当たります。それこそが企業価値最大化の根源にある課題で、小手先の収益改善策を重ねるよりは、根っこのところに働きかける方が結果的に近道です。そこはCEOがやるべきだし、CEOだからできる手段で取り組みました。

経営を統合して1年目、まずは徹底的に社内に向けて私の考え方を発信しました。「タウンホールミーティング」や「ラウンドテーブル」で年間1,000名以上の従業員と会い、当社のパーパスとバリューを語りかけました。そのフィードバックを集めると、「経営層と双方向のコミュニケーションを取りたい」という意見が多く出たので、2年目は「モヤモヤ会議」を開きました。若手従業員を集めてモヤモヤしていることを言い合い、バリューを使って解決策を経営層と議論するというプログラムです。モヤモヤを起点に気づきや共感があり、解決策を模索するプロセスは、小さな「共創」です。
パーパス・バリューをある程度理解してもらって、共創文化が定着し始めた3年目。次は従業員に自分自身を見つめてもらおうと考え、「パーパス探究カフェ」を始めました。過去を振り返り、現在を見つめ、将来どういう状態になっていたいかを語ってもらい、最後に「自分のパーパスは何ですか?」と問い掛けます。それらの質問が回答者に自省を促し、パーパスに自分の幸せがあることに気づいてもらうという仕掛けです。

 

自分のパーパスとレゾナックのパーパスの位置関係を客観視してみる。そこで私が話しているのは、「自分のパーパスを実現するための乗り物がレゾナックだから、みんなにはレゾナックを利用することを考えてほしい」ということ。会社に依存しない、自律した従業員になってほしいからです。この取り組みで自律した社員の働き方・考え方は、それぞれの職場で多くの同僚に影響を与えてくれます。
こうして段階を踏んで、パーパス・バリューを体現する自律型・共創型人材を育成してきました。パーパス・バリューの従業員への浸透度はエンゲージメントサーベイで毎年調査していて、「パーパス・バリューを実践している」と回答した割合が、大幅に向上しています。私たちが目指す「国内の製造業を代表する共創型人材創出企業」に着実に近づいているのではないでしょうか。 

3.企業カルチャーの革新で共創型イノベーションを加速させていく

三つ目の「企業文化」についてですが、企業文化のトランスフォーメーションは、人材の育成と並行して特に力を入れているテーマです。
パーパス・バリュー浸透活動を推進するにしても、役員がイニシアチブを取っていては根付きません。上が変わった途端に動きが止まってしまうからです。これをインスティテューショナライズ(制度化)するには共創型人材が自発的に動き出す企業文化が醸成されていないといけない。共創型人材とカルチャー革新が組み合わさることで、「共創型イノベーションの創出」が加速していくでしょう。
レゾナックにとって昭和電工と日立化成のシナジーは重要なテーマです。例えば、これまでは、半導体材料を作る拠点の要望に沿って、別の拠点が粉を開発して届けるという、「点と点」のシナジーにとどまっていました。それを今、「面と面」の関係にレベルアップさせていこうとしています。粉を作る拠点の開発の人を、材料を作る拠点に配置しました。化学品ならぬ、人を混ぜて化学反応を起こさせようというわけです。
こうなると次の段階は、センター・オブ・エクセレンス機能をどこに置くかです。粉と樹脂、モノマーなど素材・技術ごとの研究・開発拠点をそれぞれつくっていこうと思っています。こうなると、もうシナジーのレベルではありません。まさに「共創型イノベーションの創出」です。

さらに、マーケティングから開発につなげていこうという動きが自発的に起こりつつあります。例えば「6Gに必要な材料は何か」から出発し、そこで必要な材料特性をどう出していけばよいのかを考え、どこのセンター・オブ・エクセレンスが担当するのが最適かを決めていく。そうした流れが生まれ始めているのです。
あと、もう一つ、「計算情報科学研究センター」からも、非常に面白い動きが起こっています。この計算情報科学研究センターには極めて優秀な人材が集まっていて、本来は100回実験をしなければならないものを、計算情報科学によって並列で100回シミュレーションを行って、有望なものを選び出します。これまで100回行っていた実験を、有望と思われる1回だけにできるのですから、開発期間のものすごい短縮につながるわけです。まさにゲームチェンジャーです。そして、このセンターにいる非常に優秀な人材が自主的に動いていて、いろいろな現場に出向いては「シミュレーションにかけたいものはないか」と聞いて回っています。元々は昭和電工が持っていたセンターですが、半導体材料分野にリソースを振り向けて、今はそのサポートを中心に行っています。ここからどういう成果が出てくるか、私自身、とても楽しみにしているところです。
このようなパーパス・バリューを体現する活動は、いろいろな事業所で自主的にたくさん立ち上がっています。具体的な動きが出ることでカルチャーの革新が加速する側面もあるでしょう。しかしながら、企業文化の変革は10年をかけるテーマだと思っています。ですから、私がCEOを退くことになっても、この文化の変革が揺らぐことは絶対にあってはいけません。パーパス・バリュー経営を引き継げる人物を後任にするか、あるいは、私自身が任期にとらわれず少し長めに務めるか、指名諮問委員会ともしっかりと意思疎通を図っています。長い戦いになりますが、人材と企業文化こそ企業価値最大化の核心であり、粘り強く取り組んでいきます。

揺るぎなき”覚悟と信念” 絶対に捨てない”大義と品格”
経営者としてそのバランスを大事に考えている

何度も申し上げますが、CEOの仕事は企業価値の最大化です。その一環として私は、長期的に株を保有してくださる株主の比率を上げることにも取り組んでいます。毎年2回、欧米の「ロングオンリー」と言われる長期保有投資家を訪ね、レゾナック株への投資を要請しています。当社の株価が比較的堅調に推移するようになった背景の一つに、こうした長期保有投資家の比率が上昇したことがあるのではないかと思っています。
ロングオンリーが投資の是非を判断する際に注目するのは、①経営陣の能力を信頼できるか、②宣言したことを実現しているか、③トラックレコード、の3点です。投資家の皆さんは、私が企業価値の最大化のためにコミットしていることを理解してくれていて、①と②の点についてはクリアできたようです。「お前、辞めないよな」と、よく聞かれます。つまり、私の企業価値最大化に対する「覚悟と信念」を信じて、そこに賭けてくれたのだと思っています。
「覚悟と信念」は揺るぎないものですが、「企業価値最大化のために『大義と品格』を汚す気はない」ということも私はよく言っています。「覚悟と信念」と「大義と品格」のバランスはとても難しく、大事な問題です。企業価値最大化だけを追求するのであれば、例えば石油化学事業はフルスピンオフが正解です。でもそれは「資本家」のやることで、私は経営者として大義と品格だけは絶対に捨てたくない、そう思っています。
ところで、ロングオンリーが注目する三つ目の項目、トラックレコードですが、今年は自信を持って示せる数字となる見通しです。世界の事業所を巡り従業員と語り合うのも3周目に入り、たくさんの事業所の空気が、たくさんの従業員の顔つきが、変わってきていることを感じます。この変化があれば、これからトラックレコードでもっと良い結果を出せるだろうと信じています。大丈夫。期待していてください。

 

最後に、なぜ私が「大丈夫」だと思っているか、お話ししましょう。企業価値最大化のために必要な文化の変革を、私は経験し、ゴールイメージを持っているからです。明確なゴールイメージを持っている経営者は、決して多くないのではないでしょうか。
みんなが価値観を共有して、バリューを共有した人が適切な競争環境の中で、チームで何かを達成し、むちゃくちゃ気持ちがいい世界。半端ない達成感が押し寄せてくる世界。——あの世界を従業員みんなに体感してほしい、心からそう思っています。GE※にいた時代、あの達成感を味わったことが、私の経営者としての強さにつながっているのかもしれません。
ゴールのためにチームをつくって、チーム全員が共通のバリューの下にゴールを決めようとする、あの思い。それが会社で体験できたら素晴らしいと思いませんか。それを体験できる会社って、素晴らしくないですか? レゾナックを、そんな会社にしたいと真面目に思っています。

  • GE:日本ゼネラルエレクトリック(株)

 

代表取締役社長

髙橋 秀仁