EVシフトに挑む若きリーダー 強みはフラットな組織とスピード感
2023年06月07日
EV(電気自動車)の性能を向上させるには、 車の心臓部であるパワーモジュールの開発が欠かせない。
レゾナックで、その開発評価に取り組む 「パワーモジュールインテグレーションセンター」の松島は、 社内では異例の若さでセンター長に抜擢された。
若きリーダーの信念は、「年齢や立場にとらわれず、フラットな組織を作ること」。 社内外での共創のために求められるコミュニケーションとは。
今回のUNSUNG LEADER(知られざるリーダー)、松島誠二に話を聞いた。
車の動きを制御する「EVの心臓部」
パワーモジュールは、EV内のバッテリーとモーターの間にある電力変換装置(インバータ)で、電気の直流を交流に切り替えてモーターを回転させ、減速時にはモーターの余剰電力を直流に戻してバッテリーへ戻す役割を果たす。車の動きを制御し、燃費の向上に密接に関係することから、「EVの心臓部」と言われている。しかし、パワーモジュールは開発途上で、最適解がわかっていない。各パワーモジュールメーカーは試行錯誤を繰り返している。
EV市場の急拡大に伴い、各自動車メーカーがパワーモジュールの性能アップを急ぐなか、レゾナックは2023年、小山事業所(栃木県)で「パワーモジュールインテグレーションセンター」を本格始動させた。
松島はセンター員10人とともに、①実験データから最適な素材や部材を選び出す②評価用モジュール(試作品)をつくる③性能、信頼性評価をする、という流れを繰り返すことで、パワーモジュールメーカーの開発期間を短縮することや、最適な部材の提案をすることをめざしている。
社内で異例の若きリーダー
松島は、2023年1月からセンター長に就いた。43歳でのセンター長就任はレゾナック社内では異例の若さでの抜擢だった。松島はセンター長を内示されたときの思いをこう振り返る。
「私でいいのか、とびっくりしました。でも、パワーモジュールインテグレーションセンターは歴史の長い組織ではないし、大所帯でもないので、自分なりに役割を果たしていこうと思いました」
自由に意見を言い合い「共創」を促す職場へ
センターのメンバーの年齢層は20歳代から50歳代まで幅広い。技術者同士の議論はときにヒートアップすることもある。松島はメンバーに「けんか腰になるのだけは禁止」と伝えているが、議論自体は歓迎している。
「だれのアイデアが的を射るかわかりません。同時に、だれかの発想だけでパワーモジュールが出来上がることはありません。他の人にアイデアや思いを伝え理解してもらうことで初めて、メンバー内の共創が生まれ、より良いパワーモジュールが出来上がります。だから、チームの運営にあたっては、メンバー同士が互いをリスペクトしたうえで自由に意見を言える雰囲気づくりを心がけています。それがリーダーの役目だと思います」
フラットな職場環境が「共創」を促すと松島は考えている。
未知の領域へ「ゼロからの挑戦」
もともと松島は、小山事業所で自動車用エアコンの熱交換器、インバータ用冷却器の技術開発をしていた。熱を制御するためにいかにアルミ部材を加工するか、を模索する毎日だった。
その技術者の日常に、前触れもなく激変が起きた。
2016年1月、今後はパワーモジュールの評価技術開発を行うという会社の方針変更だった。
松島は当時をこう振り返る。
「冷却器だけに頼るのではなく、将来的には開発の領域を広げる必要があると思っていました。パワーモジュールの評価技術開発はまったく『未知の領域』でしたが、よし、やるぞ!とポジティブに受け止めました」
だが、未知の領域への挑戦は簡単ではない。
パワーモジュールの試作、評価開発するには、電気の知識が必須だった。それにもかかわらず、当時、冷却器開発の部署には、電気の専門家がいなかったのだ。
松島は学会のセミナーに参加したり、論文を読んだりしながら電気回路をイチから勉強し始めた。電気系専攻の新卒社員にも教えを乞うなど、なりふり構わず知識を習得した。
「センター長というポジション自体にプライドは感じていません。むしろ、いいものをつくるというところにプライドを持ちたいと思っています。それは当時も、今も変わりません」
試行錯誤を続け、2019年にはパワーモジュールの試作品ができた。
「達成感はありませんでした。パワーモジュールは研究開発が発展途上の領域で、まだまだ完成形が確立されていません。ひとつ山を越えれば次の山が出てきます。この先に終わりはあるのかと思うと、大変な毎日ですが、技術者としては困難な課題があるほうが面白さもあります」
松島は技術者として開発をイチから立ち上げ、チームリーダーとして技術レベルを引き上げてきた。いまやレゾナックのパワーモジュール開発の中心人物だ。
パワーモジュール研究開発で始まった「社内の共創」
「センターの知名度も社内で上がってきて、各事業部との連携はとてもスムースです。性能評価のデータやパワーモジュールメーカーから吸収したニーズのフィードバックを受けることで、各事業部は部材の改良に役立てることができます。社外だけでなく、社内の開発を加速させる役割も担っています」
社内で始まったセンターの共創は、社外でも芽吹き始めようとしている。
即断即決のスピード感
2023年春、松島はパワーモジュールメーカーの開発担当者と向かい合っていた。相手の表情や口ぶりを慎重に見極める。五感を研ぎ澄まして、「相手が困っている点」を推測し、感じ取ろうとする。
コロナ禍の最中、打ち合わせはもっぱらオンラインだったが、2023年になって、松島は意識的に栃木県小山市から県外のユーザーのところへ訪れることにしている。いま1ヶ月に2〜3回はパワーモジュールメーカーを訪ねている。
「オンラインの打ち合わせは相手がビデオをオフにすることもありますよね。あれでは表情が読めません。会って話すことで伝わる部分も多いと感じます。打ち合わせに積極的に私も出るようにして、スピーディーな課題解決に繋がるアプローチを心がけています。開発のスピード感は我々の強みの一つです」
「Tier2、3」から「Tier1.5、2.5」へ
自動車メーカーに直接供給する「Tier1」(ティア・ワン)とTier1に部材を供給する「Tier2」(ティア・ツー)、さらにTier2に部材を提供するTier3……というように自動車業界は何層にも分類されている。
松島が直接訪問しているのはTier1やTier2、つまりパワーモジュールメーカーだ。松島は当面の重要ミッションとして「より多くの人にセンターの存在を知ってもらうこと」を挙げる。
「センターの実力をTier1、2の人たちに知ってもらうことで、従来よりも一歩進んだパートナー、いうなれば“Tier1.5、2.5”になろうと考えています。共同開発の中で信頼関係を構築していくことで、それが実現できると思います」
レゾナックはパワーモジュールに必要な様々な部材を社内でつくっているので、その知見を生かして最適な部材の提案もできる。さらに、多様な検査・評価機器を備えているため、様々な性能評価を一気通貫で実施することができる。
「開発期間を半分程度に短縮できた事例もあり、お客さまに喜んでいただいていると感じます」と、松島は開発の手ごたえを語っている。
「センターは本格始動したばかりですが、既にいくつかの共同開発が進んでいます。うまく進めば、レゾナックが部材を供給するパワーモジュールが量産されるのは、そうですね……2027年ごろを目標にしています」
若きリーダーのもと、パワーモジュールインテグレーションセンターの「未知の領域」への挑戦はまだ始まったばかりだ。
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