レゾナックナウ

いくつもの 課題を乗り越え、 レゾナックを飛躍させる【CFO 染宮秀樹】

Leader's Letters

2024年02月05日

日本経済のパフォーマンス向上に貢献したい

私が社会に出た時代はバブルの末期、ちょうど日経平均がピークを打ったころでした。それから30年以上の間、日本経済の競争力は次第に落ちていき、デフレ経済が進行した結果、日本は一人当たりGDPではOECD諸国でも底辺まで落ちるほど非効率を極める国になってしまいました。ごく最近になり、バブル後最高値と言われている日経平均でさえも、まだ1989年末のピーク水準を超えることもできていません。過去20年で、主要国就業者の平均年収は約2倍になっていますが、日本人の平均年収は下がってしまっています。

私は、正に我々の世代の日本人に、このような日本の凋落をもたらした責任があると強く感じています。私たち世代が産業界に関わっている間は、この状況を打開するために全力を注がねばならない、との強い責任感ともどかしさが私の働くモチベーションです。日本の化学業界の就業人口は約90万人、我々従業員26,000人のレゾナックが日本の産業の悪循環を打破するようなアクションを取っていった結果、企業価値を大幅に高めることができたとしましょう。そうすれば、化学業界やお客さま、サプライヤーなどに従事する皆さんやその家族を通じて、日本の世帯数の10%程度である500万世帯くらいが元気になり、ひいては日本経済全体を活性化させることにつながるのではないか、という妄想を私は持っています。構想は強い妄想から芽生える。妄想が構想になればビジョンに言語化でき、実行計画に落とせる。計画に落とせればあとは実践するのみです。レゾナックが中核と掲げている半導体・電子材料の事業は世界の宝だと私は考えており、この事業を飛躍させる構想が我々の長期ビジョンなのです。

このレゾナック長期ビジョンの下で、私はCFOとして、レゾナックの収益性と企業価値の向上を実現していく役割を担っていると考えています。私は過去に投資銀行でテクノロジー業界を長く担当してきた経験、電機メーカーの半導体事業CFO、新規事業立ち上げの経験などを通じて、事業ポートフォリオの入れ替え、キャッシュフロー経営、収益性改善の要諦である自社で価格決定力を持つことの大切さなど、多くのことを学んできました。当社は、足元では財務面、事業の効率面でも課題が山積みと認識していますが、私自身のこれまでの経験、知見、人的ネットワークをフルに活かすことで、こうした課題を必ず一つずつ解決していけると考えています。

私は、やる気の源泉を「アドレナリン」と表現しています。当社がさまざまな課題に直面している今、私の感覚的には、アドレナリン分泌量が自分史上最大化しています。レゾナックの変革を何としてもやりきるという思いで日々取り組み、レゾナックの企業価値最大化に導いてみせる覚悟です

レゾナックが誇る半導体先端パッケージ技術への資源集中

当社の半導体材料事業が世界の宝であると考える背景は、半導体市場が今大きな転換点に差し掛かっており、今後10年以上にわたって、材料メーカーがさらなる半導体性能進化の鍵を握る時代が訪れるからです。これまで半導体チップの性能向上は、半導体回路形成(前工程)の微細化技術を主たる技術ドライバーとする「More Moore」の世界が前提となっていました。More Mooreの世界では、半導体装置メーカーやウェハーメーカーがその恩恵を享受してきました。しかしここにきて、前工程における微細化の物理的限界、コスト的限界が明らかになったことで、「More than Moore」の時代に入ったと言われています。More than Mooreの中では、当社が誇る製品ラインアップが貢献する後工程における先端パッケージ技術が半導体付加価値向上の要となると見ています。レゾナックは、材料メーカーとしてお客さまである半導体メーカーが求める材料を提供するだけでなく、我々自身が先端パッケージ技術のロードマップを描き提案できるようになっていきます。そうすれば、当社の業界内プレゼンスのさらなる向上、収益力の強化、および企業価値の向上を同時に実現できます。これは世界で当社にしか描けない明確な成長ストーリーです。その実現に向け、当社は、半導体・電子材料事業に経営資源を集中させる決断をしました。

レゾナックの成長ストーリーを確実に実行していくために、私はCFO就任以来、自ら強い意志を持ち迅速に行動することで、各施策を進めてきました。長期ビジョンにおいてはROICの中長期目標10%を掲げることとしましたが、資本効率改善は大きなテーマで、大胆な打ち手が必要です。当社の中でも、高い利益率実現が望める半導体・電子材料事業に経営資源を集中させるため、各事業のポートフォリオ属性に基づく投資方針について規律となるルールを導入しました。安定収益事業は減価償却の範囲内での維持投資に留め、その分成長事業への拡大投資を積極的に行います。

社内会議体である投資議の改革も行っており、各投資案件のオーナーに対しては、数字面での投資の妥当性分析に留まらず、確実にリターンを実現する覚悟があるかということを問い、徹底的な議論を求めるようにしています。私が投資会議のチェアマンですが、戦略視点からのCSO、エンジニアリング観点でCMEO、リスク管理観点からCRO組織、技術戦略視点からCTO組織のメンバーらも入り、毎回深い議論を行います。投資会議では、複数回の論戦が繰り広げられるケースも出てきて、実のある真剣勝負の議論ができる体制構築に手応えを感じています。

また、資本コストを大幅に下回るリターンしか生まず、資本効率性の観点からは休眠資産とも言える政策保有株については、私が当社に入社した直後の2021年末に強い違和感を覚えました。各事業部に政策保有株の保有理由の妥当性・必要性を確認する過程で、例えばその顧客との取引が政策保有株によって成り立っているという事業側組織の話に対しては「本当に株式を持っていないと取引関係が成り立たないのですか?何なら私が取引先と話を付けに行きますのでアポを入れてください」と伝えました。その結果、当事者のマインドはリセットされ、持合い解消に向けた全社活動が加速しました。そして事業部のメンバーが鋭意折衝をした結果、政策保有株全売却にほぼ目途を付けることができました。

25年目標達成に向けた目の前の課題解決をやりきる

これからのレゾナックの飛躍を確かなものにするためには、足元の課題を早期に解決しなければなりません。CFOとして、23年度については厳しい決算となることを真摯に受け止め、現在の厳しい事業環境の中で見えてきた「膿」を出し切り、この機会に過去の負の遺産を一掃する方針です。収益構造の改革を迅速に推進し、ポートフォリオ改革も加速させる必要があります。

主力の半導体・電子材料事業では、半導体需要やデータセンター需要の低迷もあり、23年度については大幅な減益を見込まざるを得ない状況です。これは、当社が半導体・電子材料事業に大きく経営資源を集中させていく決断をしたことの裏返しでもあり、その意味では、半導体サイクルの影響を大きく受ける事業構成になることをある程度覚悟した上で招いた事態です。現在、同事業は、データセンター市場の影響を大きく受ける事業構造となっていますが、本来的に我々のお客さまである半導体業界は、民生、車載、産業用、データセンターなど幅広い出口を持っている業界のため、顧客構成、アプリケーションの分散を図っていくことにより、より安定高成長を狙える事業構造に変革していけると考えています。また、モビリティセグメントにおいては、内燃機関車向け部品事業が、想定以上のペースで市場縮小していることの影響を受け、収益が低迷する事態となっています。

上記の事態に対し、レゾナックの施策としては、適正な需要見通しと事業環境の変化を捉えた、抜本的かつこれまでの常識にとらわれない非連続なアクションと構造改革を断行し、何としても24年度以降の業績の回復を確かなものにしていきたいと考えています。

何よりも優先すべきは、全ての事業領域において、当社がお客さまに適切な付加価値を提供できるもの、すなわち基準とする限界利益率を確保できる製品に事業を絞り込み、しっかりと利益が上げられる体質改善を実現することです。言い換えれば、赤字事業の撲滅を加速することが極めて重要です。長期ビジョンにおいて重視している、25年度における対売上EBITDAマージン20%の達成に関しても、赤字事業の撲滅が大きな鍵を握っています。モビリティセグメントに関しては売上ベースで全体の3割が赤字事業であり、他のセグメントにおいても赤字事業が相応に存在しています。赤字の各事業に関しては具体的に赤字解消の打ち手を考え、大幅値上げなどの必要なアクションのマイルストーンを事業部ごとに設定し、その期間に採算性が改善できない事業は縮小・撤退する方針とアクションプランを定めて、四半期ごとにモニターしています。

また、事業部の従業員のマインドセットを、売上を減らしても、何としてでも利益率を上げるというものに大きく変えていく必要がありました。そのため、当社が3年前に長期ビジョンで掲げた25年売上高目標の1.6兆円については、赤字事業の撲滅と収益力の強化を優先させる意思表明として、優先度を下げ、1兆円以上の売上維持に目線を修正しました。お客さまの同意・ご承諾が必要な推進施策もあり、時間がかかるものがあるのは事実ですが、既に施策を推進しており、徐々にその効果が現れ始めています。また、事業部だけではお客さまとの合意を得ることが難しい場合は、私自身がお客さまとの交渉の場に出ていっています。

一方で、当社の株主様とお話をしていると、現在我々が課題事業の解決にマネジメントリソースをかけすぎで、成長投資や半導体材料分野におけるアライアンス・買収などの検討にリソースを使えていないのは大きなリスクでは?というご指摘を受けることがあります。確かに現在は、課題事業のアクションに多くのリソースを使っていることは事実ですが、先ほど述べた投資会議での成長分野の設備投資や、半導体材料業界での業界再編機会を含むアライアンスターゲットについては、ロングリスト・ショートリストといった相手企業のリストアップをして、常に情報収集をしながらモニターしています。課題事業に取り組みつつも、非連続の成長機会や買収機会があれば、CSOの真岡と協力し合いながら、タイムリーに検討を進めていることも付け加えさせていただきます。

レゾナックのこれからを担う世代の育成、持続的なCFO組織のために

お伝えしている収益性と企業価値の向上に向けた取り組みの一つ一つは、決して私でなければ考えられないものではなく、当社や化学業界では常識でなくとも、他業界では当たり前の施策や考え方でもあります。今は極めて振り切った変革期であり、外部から来た私が先陣をきっていますが、今後レゾナックが継続的に成長していくためには、より強固なCFO組織の体制作りや、これからを担う世代の育成、バリューを発揮する文化の醸成が不可欠です。

組織面の話に目を向けると、私は就任以来、CFO組織の在り方を変えてきました。まず、これまでレゾナックの戦略部門に置かれていた予算策定・管理や中期経営計画を取りまとめるチームやM&Aを検討・実行するチームを私の管掌するCFO組織に移しました。CFO組織ミッションの変革を強く訴え、それまで戦略の後方支援に注力してきた当社のCFO組織を、戦略アクションの意思決定自体も先導できる組織へと変えてきました。他にも、150名を超える事業所所属の経理メンバーを、事業所所属ではなくCFO組織の傘下に入る体制に変えたことで、縦割り意識が強かった経理メンバーの業務のやり方に横串を刺して、グループ横断視点での業務標準化や人材育成を進めています。

人材育成においては、私の直下に人材育成専任者を置き、事業所経理メンバーも含め、CFO組織独自の部門横断的なジョブローテーションやキャリアプランを用意するといった仕組みを導入しました。当社には非常に有望な若手従業員がたくさんいますが、「キャリアオーナーは自分」と言ってもなかなかイメージできずにいたり、長く同じ部署で働くことが慣習化してしまっていたりしました。そのようなCFO組織メンバー一人一人の意識を変革すべく、「自分のキャリアは自分でつくる」仕組みを整備することを私は推進しています。昨年の末に、何パターンかキャリアツリーのサンプルを用いて私自らが説明し、CFO組織メンバー全員の今後のキャリアプランの可能性について一緒に考えました。その上で今年の初めに、部署単位で全員キャリア面談を実施しましたが、若手を中心に一人一人のモチベーションがかなり上がってきているという結果が得られています。

CFO領域キャリアツリー

また、昨年から「染ラボ」と名付けた社内MBAのプログラムを開始しました。これは、私自身が講師となり自らの経験を交えた実践的なケーススタディと大学の先生による講義が半々程度のプログラムで、最終的にはレゾナックへの戦略提案をグループ単位で策定しプレゼンしてもらうというものです。CFO組織から選抜した昨年度の第一期に続く今年度の第二期は、他のCXO組織や事業部からの参加もあり、染ラボを通しても私は従業員のモチベーションの高まりを強く感じています。そのモチベーションの火を絶やさないよう、私は自分の時間を惜しみなく使うつもりですし、若手メンバーの育成が楽しみで仕方がありません。

ステークホルダーの皆さまへ

繰り返しになりますが、当社には今後の成長に向けた明確なストーリーが存在します。昨年来、レゾナックをどういう会社として見て欲しいかというメッセージングに注力したIR活動を行っています。その成果として、長期を見据えた当社の成長ストーリー、トランスフォーメーションストーリーに共感をいただいた、長期保有(ロングオンリー)のグローバル機関投資家が上位株主に増えてきました。

しかし同時に、足元のレゾナックの株価やPBRを見る限りでは、まだ少なからぬコングロマリット・ディスカウントが生じています。当社が依然として、投資家の皆さまから必ずしも十分な信頼を得られていないことは承知しています。今後、投資家の皆さまからのさらなる信頼を獲得するためには、我々の描いたシナリオが確実に実行に移され、また投資家の皆さまとの間で交わしてきた約束をしっかり守り、業績面で確実に成果をあげていくことが不可欠です。この部分については、強く認識をして毎日の変革に臨んでいます。

最後に、レゾナックが必ず飛躍できる理由を三つ挙げたいと思います。一つ目は、当社には世界の宝ともいえる半導体・電子材料の展開力があり、何よりも私自身が、成長を実現させたいという熱い思いを持っていることです。私はCFOとして自ら動き、当社が半導体産業の先端パッケージの進化を中心で支え続ける会社となるよう、全力で尽力したいと思っています。二つ目は、経営者としての髙橋CEOの資質です。髙橋は日本の製造業を代表する経営者になると私は信じています。そして、私自身「チーム髙橋」の主力メンバーとして各種経営施策の完遂にコミットしながら、レゾナックのみならず活気を失った日本経済全体のパフォーマンス向上につながるような日本企業発の変革を、チーム髙橋で何としても実現させたいと強く思っています。そして三つ目は人材の力です。人材の育成には全社でも取り組んでいますが、CFO組織でも人材育成に情熱を傾け、個々の意識、潜在能力を開花させることで共創型化学会社への変革を促進し、企業価値向上を実現していきます。

化学の力で社会を変えることに本気で取り組むレゾナックの成長に、是非ご期待ください。

最高財務責任者(CFO) 染宮秀樹

本記事は2023年7月発行の統合報告書「RESONAC REPORT 2023」に掲載された「Leader's Letters」の転載です。
私たちが社会を変えていくためにどこを目指す姿としているのか、どんな課題があるのか、その先にどんな変革を起こそうとしているのか。レゾナックの経営陣の熱い想いをメッセージでお伝えしています。

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