レゾナックナウ

パワーモジュール開発拠点を新設、EV化への共創が始動

2023年04月04日

世界的なEV市場の急拡大に伴い、自動車メーカー各社がEV用の部材開発を急いでいます。なかでも、モーターの駆動などに使われるパワーモジュールに注目が集まっています。燃費を向上させ、走り続けても過熱しないなど、EVの心臓部とも言える重要なパーツだからです。
レゾナックは2023年、小山事業所(栃木県小山市)で、「パワーモジュールインテグレーションセンター(PMiC)」を本格始動させました。
従来は自動車メーカー側で行われてきた評価・シミュレーションを、材料メーカー側が一気通貫で行うことで、EVの開発スピード向上を材料開発の面から支えるのが狙いです。

世界で急速に進むEVシフト

国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、2021年のEV新車販売台数は660万台で前年の2.2倍となり、「予想以上にEVシフトが急速に進んでいる」(レゾナック髙橋秀仁社長)のが現状です。

特に欧州や中国では、ガソリン車からのEVシフトが急拡大しています。

主要国・地域における電気自動車の販売比率の推移
(経済産業省の資料から抜粋)

2021年の車載用パワーモジュール(PM)世界市場は、メーカー出荷金額ベースで前年比43.1%増の2656億9200万円となる見込みです。なかでも、レゾナックが強みを持つSiC(炭化ケイ素)を使ったパワー半導体のモジュールは同61.4%増の506億5600万円と大きく伸びています。

パワーモジュールはEVの心臓部

モーターを電気で回転させるEVには、電気を送り出すバッテリーとモーターとの間にノートPCを4〜5台重ねたぐらいの大きさの金属ケースがあり、このケースが車の動きを制御しています。その中心にある集積回路がパワーモジュール(Power Module、以降は「PM」と省略)です。

PMには、

  1. 直流の電気の流れる方向を交互に切り替えて交流をつくりだし、モーターを回転させる
  2. 減速時にモーターの余剰電力を直流に戻してバッテリーへ返す

という2つの役割があります。

アクセルを踏み込んで、電気の方向を切り替える頻度を増やせば、交流の周波数が増えてモーターの回転数が上がり、EVは加速します。

まさにEVを制御する心臓部と言える存在なのです。

センター長の松島さん

熱対策

PMの開発で重要なポイントのひとつが熱対策です。PMは半導体素子を中心にできています。電流のオン・オフを繰り返したり、大きな電流が流れたりすると、回路内で発生する熱量が急速に増え、想定以上の高温や熱変動が起こることがあります。それが、半導体素子やモジュール内の絶縁基板、配線の接合部などに悪影響を与えてしまうのです。

そのため、熱が発生するエネルギー転換時に、いかにエネルギーロスを抑えるか、それでも発生してしまう熱をどのように大気中に逃していくかがPMの性能を左右します。これらの機能改善は、自動車メーカーや半導体メーカーだけでは実現が難しく、材料の機能改善が欠かせません。

PMiCはこうした問題を解決するために立ち上げられました。

「パワーモジュールインテグレーションセンターは、PM製作に関係するレゾナックの各事業部のハブ機能を果たし、量産に至るまでの過程をワンストップで可能にする組織です」と松島誠二センター長は話します。

多彩な分析機器でデータ解析

センターの心臓部である約150㎡の性能評価室には、PMの性能を評価するためのさまざまな試験機が並んでいます。

  1. パワーサイクル試験機:電流のオン・オフを繰り返してモジュール内の信頼性を確認
  2. 温度サイクル試験機:環境温度変化各の繰り返しによる素材の信頼性を確認
  3. 超音波探傷機:半導体素子の接合状態を確認
  4. サーモグラフィ装置:半導体から放射される赤外線を分析して可視化

パワーサイクル試験装置

超音波探傷機

センターでは、まずレゾナックが持つ多様な部材を使って、評価用モジュールをつくります。その後、これらの分析機器を使って、性能を評価します。評価に加えて、シミュレーションを利用し、各社のパワーモジュールの特徴に合わせ、評価結果を補正します。こうした評価・シミュレーション機能は、これまで自社内での材料開発に生かされるだけでしたが、2023年から自動車メーカーや半導体メーカーなどの取引先にも公開しています。

自動車や半導体メーカーとの共創も始動

PMiCの本格始動によって、顧客である自動車メーカーの条件を受けて、レゾナックがPMを組み立て、評価・検証し提案する、という新しい流れが生み出されます。

 

上の図を見てわかるように、レゾナックが顧客メーカーの条件でパワーモジュールの評価までを実施することで、研究開発を始めて量産に至るまでの期間が短くなります。さらに素材選びやモジュールの性能評価を取引先と共同で進められれば、取引先の負担は大幅に軽くなります。

松島センター長は「こちらが提案する場合でも、共同で開発する場合でも、部材評価やモジュールの性能評価の過程を、取引先が知っていることによって、製品採用へのハードルが低くなると考えています」と話します。

アルミ製品の製造が中心である小山事業所で、EVの心臓部であるPM評価技術を推進して7年、PMiCは最適な部材を使った評価用モジュールの製作や、さまざまな電圧・電流条件で発熱による影響を精密に調べる性能試験ができるようになり、社外のメーカーへも評価技術を公開できるところにまでたどり着きました。

こうした技術開発を支えるのは、過去10年以上にわたりパワーモジュールの評価、検証をしてきた知見と、社外のメーカーでパワーモジュール開発経験のあるエンジニアたちです。全くの異分野からの挑戦が、ようやく形になりつつあります。

PMiCのエンジニアたち

新素材SiCにも素早く対応

まだまだ開発途上であるPMの領域に、さらに新たな技術の波が押し寄せます。

PMは半導体でできていますが、そのチップは現在主流のシリコン製から、より電気抵抗が少ないSiC(炭化ケイ素)製へと置き換わりが始まっています。電気抵抗が少ないSiCチップを使うとエネルギーロスが少ないので、走行距離が長くなることが実証されています。簡単にいえば燃費がよくなるということです。この素材をPMでも使うようになってきています。

PMiCには、あらゆるPMメーカーからの相談が舞い込んできます。各メーカーともPM内のチップの情報はトップシークレット。しかし、松島センター長はこう話します。

「様々なPMを評価してきている知見から、最近はSiCチップを念頭に置いたものだとわかるPMが確実に増えてきていると感じています」

これまでセンターが蓄積してきたノウハウは、シリコン製が対象でした。しかし、センター発足と同時にSiCチップへの対応が急務となっています。一方、EVの走行距離に大きく影響する半導体材料「SiCエピウエハー」で、レゾナックは世界シェアの25%を持っています。

「チップの材質が変われば、部材選びも大きく変わります。SiCチップへの対応はすでに始まっています。」(松島さん)

発足したばかりのセンターで、次世代を見据えた研究開発が始まっています。

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