【徹底解説】パワー半導体・パワーデバイスとは?その種類や主な用途、発熱・温度上昇と放熱対策

パワー半導体・パワーデバイスとは?

半導体とは、電気を通す導体と、電気をほとんど通さない絶縁体の両方の性質を持つ物質のことです。半導体を用いたデバイスの中で、電源などの電力の制御や変換を行うデバイスをパワー半導体と呼びます。小電力で演算や記憶などを行って「頭脳」にたとえられるマイクロプロセッサやメモリーといった半導体や、「目」にたとえられるカメラのイメージセンサーに対して、小電力から大電力まで電力の制御や供給を行う「心臓」にあたるのがパワー半導体です。パワー半導体は、パワーデバイス或いはパワー半導体デバイスと呼ばれることもあります。
パワー半導体は、高電圧や大電流(すなわち大電力・高出力)を扱える特徴があることから、一般的には定格電流1A以上の半導体デバイスがパワー半導体とされています。また従来、日本の電子技術産業協会(JEITA)がシリコントランジスタを1W未満と1W以上で区分けし、1W以上をパワートランジスタと定めてきたことから、パワー半導体を1W以上と定義する考え方もあります。昨今は比較的小電力のパワートランジスタはICに集積されるようになってきたことから、数10V以上、数A以上を取り扱うディスクリートなデバイスを、狭義のパワー半導体と呼ぶケースも増えてきているようです。なお電圧(V)と電流(A)の積が電力(W)に相当します。

パワー半導体・パワーデバイスの放熱性・耐熱性・ジャンクション温度に関する解決策

パワー半導体の代表的なデバイス

パワー半導体の代表的なデバイスには、整流を行う「パワーダイオード」とスイッチングや増幅を行う「パワートランジスタ」があります。さらにパワートランジスタを大別すると、サイリスタ、パワーMOS FET(金属酸化膜半導体電界効果型トランジスタ)、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)などがあります。パワートランジスタの中では、歴史的に最も早く実用化されたサイリスタには高耐圧の特長が、パワーMOS FETには高速・高周波の特長が、IGBTには高耐圧かつ高速・高周波という先の両者を兼ね備えた特長があります。そのため近年では、200V程度までの低耐圧領域ではパワーMOS FETが一般的であり、ノートPCなどIT機器の電源や車載電装機器など幅広い用途で使われています。一方、200V以上の中・高耐圧領域ではIGBTがよく使われるようになっており、EVやハイブリッド車のパワートレイン、サーバー用電源、再エネ機器、産業機器、鉄道車両などで活躍しています。

主な半導体デバイスとその主要な動作

ダイオード

 

【ダイオード】
整流
:一方向にのみ電流を流す

バイポーラトランジスタ

 

【バイポーラトランジスタ】
増幅
:電気信号の振幅を増大させる

電界効果トランジスタ(FET)

 

【電界効果トランジスタ(FET)】
スイッチング
:電気信号のON/OFF

 

主なパワー半導体(パワートランジスタ)とその動作

サイリスタ

 

【サイリスタ】
バイポーラトランジスタの組合せ
高耐圧でのスイッチング

パワーMOS FET

 

【パワーMOS FET】
FETと同じ構造
高速でのスイッチング

IGBT

 

【IGBT】
FETとバイポーラトランジスタの組合せ
高速・高耐圧でのスイッチング

 

これらのパワー半導体デバイスで構成された、パワー半導体回路には、直流の電気を交流に変換する(インバータ)、交流を直流に変換する(コンバータ)、交流の周波数を変換する(AC/ACコンバータ)、直流の電圧を変換する(DC/DCコンバータ・レギュレーター)といった4つの働きがあります。
 

パワー半導体で構成されたパワー半導体回路の4つの働き

直流の電気を交流に変換

 

直流の電気を交流に変換

交流の電気を直流に変換

 

交流の電気を直流に変換

 

交流の周波数を変換

 

交流の周波数を変換

直流の電圧を変換

 

直流の電圧を変換

 

このような働きを組み合わせて、モーターをスイッチングによって低速から高速まで効率良く駆動したり、太陽電池で発電した直流の電気を低ロスで交流に変換して送電網に送ったり、様々な電気製品に安定した電力を供給する場面でパワー半導体はなくてはならない主役として活躍しています。 近年、省エネ化・省電力化への意識が高まったことから、電力のロスを極力少なくできるパワー半導体の需要がより高まっています。

パワー半導体・パワーデバイスの主な用途

パワー半導体は、電源回路を持つ全ての電子機器に搭載されています。身近なところでは、スマートフォンやパソコン、テレビやエアコン、冷蔵庫といった一般家庭向けの機器の電源回路に用いられています。また、大電力の分野では電気自動車や電車、5G基地局、産業機器、太陽光発電などの電力制御に幅広く用いられています。

パワー半導体の主な用途

電気自動車(EV)で使う

電気自動車(EV)は、従来の自動車がエンジンを動力源としているのに対し、外部電源からバッテリーに充電した電気を動力源としてモーターで走行する自動車です。このEVのモーターの駆動やバッテリーからの電源供給の制御などにパワー半導体が使用されています。EVのバッテリーには直流の電気が蓄えられているため、インバータを使って交流に変換した上で電流の周波数を調整し、モーターの回転速度をコントロールします。このインバータを構成しているデバイスがIGBTというパワー半導体であり、高速スイッチングが可能で高耐圧という特長があります。

電車で使う

鉄道は元来、効率の良い長距離の慣性走行が可能なことからエネルギー効率の良い輸送手段として知られていましたが、その中でも電車は、世界的に環境負荷の低い輸送手段として再認識されており、電車用パワー半導体もその要求に応じて進歩しています。電車車両には、モーターの駆動や、空調装置、ドア開閉装置などにパワー半導体が使用されています。架線から供給される電気が直流の場合は、インバータを使ってモーターを駆動・制御します。交流の場合は、一旦トランスを介してコンバータで直流に変換した後に、インバータでモーターを駆動・制御します。インバータやコンバータは、IGBTやダイオードなどのパワー半導体によって構成されています。

パワー半導体が登場するまでは、電車では可変抵抗器を使ったりモーターを直並列接続変更したりしてモーターに流れる電流を制御してきました。この抵抗制御では常に抵抗器に電流が流れるため、抵抗器での電力消費すなわち発熱分が大きなロスとなっていました。スイッチング可能なサイリスタの登場により、電流をON/OFFすることによって電流を制御するチョッパ制御が可能となりました。後述のON抵抗による導通損失やスイッチング損失は残っていますが、OFF時には電流が流れないため抵抗での発熱すなわち損失がなくなるので、以前の抵抗制御に比べてロスは大幅に少なくなりました。最近では初期のサイリスタ搭載からIGBT搭載に変更したインバータによって、より滑らかな制御、音の静かさ、装置の小型化が可能となっています。

交流電車のモーター駆動パワー半導体回路

交流電車のモーター駆動パワー半導体回路

 

5Gの基地局で使う

5G対応スマートフォンの電波を送受信する5G基地局でも、電源回路にはパワー半導体が使われています。さらに5G基地局の電波送信側のユニットでは、その基地局がカバーするエリア全域に電波を飛ばすために、送信信号を増幅して送りだす必要があります。この送信信号の増幅に使用されているデバイスをパワーアンプといいます。基地局のパワーアンプは、数W以上の出力が一般的であることからからパワー半導体に分類する考え方と、必ずしも電力の制御を行っているわけではないことからパワー半導体に含めない考え方があり、後者の場合にはRFデバイスと分類されています。

産業機器で使う

工場や作業現場で導入されている工作機械や製造装置などの産業機器は、人手不足解消やファクトリーオートメーションの進展などさまざまな要因から、さらなる普及が見込まれています。これらの産業機器のモーター制御や電力変換を行うコンバータやインバータにパワー半導体が使用されています。

太陽光発電で使う

太陽光発電システムから発電された直流の電力を、家庭での消費や、電力会社の電源系統に戻すために交流の電力に変換する必要があります。この太陽光発電の電力の変換を行うインバータにパワー半導体が使用されています。

パワー半導体・パワーデバイスの課題「温度上昇と放熱」

パワー半導体・パワーデバイスの放熱性・耐熱性・ジャンクション温度に関する解決策

パワー半導体の発熱の起因「電力損失(導通損失・スイッチング損失)」とジャンクション温度

電気回路の抵抗に電流が流れると抵抗の電圧と電流の積である電力消費すなわち熱(ジュール熱)が発生します。電子回路のパワー半導体も抵抗成分を有しているため、電流が流れると電気抵抗に対応した熱が発生します。このように電流が流れている状態(オン状態)のときに熱によって生じる損失を導通損失といい、このときの電気抵抗をオン抵抗と呼びます。オン抵抗をなるべく低くすることが、パワー半導体には求められています。

パワー半導体の損失としては、デバイスがオン状態からオフ状態(あるいはその逆)に切り換わるときに生じる損失もあります。この損失をスイッチング損失と呼び、その損失の殆どが熱となってロスされます。理想的なスイッチング回路では、オン状態(大電流・ゼロ電圧)とオフ状態(高電圧・ゼロ電流)が瞬時に切り替わるため電力消費(発熱)はありませんが、実際の回路では前述のオン抵抗による導通損失の他に、容量成分によるスイッチング時の電流・電圧の切替え遅れ(ずれ)のため、電流と電圧がともに値を持つ時間が存在して電力消費(発熱)が発生します。スイッチング損失はデバイスの入力容量とスイッチング周波数に比例します。デバイスの入力容量を小さくするとともにスイッチングに必要な時間を短くすることが、パワー半導体には求められています。

以上、導通損失とスイッチング損失を合わせたものをパワー半導体の電力損失といい、そのほとんどが熱となって失われます。パワー半導体とって最も重要な性能は効率、言い換えると電力損失の低さといえます。
効率=出力/入力(消費電力)=(入力-電力損失)/入力(消費電力)と表せます。

パワー半導体が大電流や高電圧を扱う際には、その効率(オン抵抗や入力容量などの設計)が同じであれば、大電流・高電圧であればあるほど電力損失すなわち発生する熱量が大きくなります。昨今の省エネへのニーズとパワー半導体の進歩によって、これまで以上に大電流や高電圧を扱う場面が増えてきたため、従来の半導体デバイス以上にパワー半導体では熱の問題が重視されるようになってきました。

パワー半導体の中で最も熱が発生する場所は、オン抵抗の高い場所またはスイッチング時に電流と電圧がともに高い値を持つ場所です。これはダイオードまたはバイポーラトランジスタにおいてはpnジャンクション、MOS FETなどユニポーラトランジスタにおいてはゲート電極直下に相当します。そのためパワー半導体の設計温度は、熱が最も発生する場所の温度としてジャンクション温度Tjという名前で表されるのが一般的です。

発熱によって温度上昇と放熱が発生する理由と放熱を妨げる「熱抵抗」

パワー半導体で熱が発生すれば、物質はその熱容量に対応して温度が上がります。温度が上がって外界との温度差が生じると、デバイスと外界の間の熱抵抗に対応して外界への放熱が始まります。なお放熱(熱移動)には、熱伝導、対流、熱放射、物質移動などがありますが、ここでは半導体デバイス内部で支配的な熱伝導について解説することとします。

放熱する熱量の方が発生する熱量より小さいうちは、温度は上昇を続けます。さらに温度が上がると放熱する熱量が大きくなり、発生する熱量とバランスが取れたところで熱的に均衡状態となって、温度は一定となります。従って扱う電流が大きいほど、扱う電圧が高いほど、発生する熱量が大きくなり、熱均衡状態になったときのパワー半導体の温度が高くなります。

温度差に対して熱量の移動(放熱)を妨げるファクターを熱抵抗と言います。熱抵抗は物質の熱伝導率と形状で決まります。同じ温度差の場合、熱抵抗が大きいほど移動(放熱)する熱量は少なくなります。同じ熱量であれば、熱抵抗が大きいほど温度差が大きくなります。熱抵抗が大きいほど放熱する熱量が少なくなるのでパワー半導体の温度は高くなります。後述の「熱伝導の計算式」の項もご参照ください。

高電圧・大電流・小型化によるパワー半導体の高温化の問題点と解決法

近年の機器やシステムの小型化・高性能化にともない、使用されるパワー半導体にも小型化が求められています。3次元ともに相似形のままサイズを1/xに縮小すると、熱抵抗は断面積に反比例してx2倍に大きくなり距離に比例して1/xに小さくなるため、その積の結果として熱抵抗はx倍に大きくなります。熱抵抗が大きくなるので、パワー半導体の温度は高くなります。後述の「熱伝導の計算式」の項もご参照ください。現象論的には、限られたスペースに高密度に実装されるため、放熱経路の放熱断面積が縮小されるので、十分に熱を逃がすことができず、パワー半導体が高温となると解釈できます。

一般にパワー半導体を含む半導体デバイスは、一定温度以上の高温になるとキャリアが増え過ぎて、抵抗値が下がり、より多くの電流が流れることによってさらに温度が上がるという負の連鎖(熱暴走)によって、最終的にデバイスそのものや周辺の部品が溶断してデバイスが壊れます。またパワー半導体に対してだけではなく、パワー半導体を組み込んだ電子機器にも安全性・性能・信頼性の面で悪影響を及ぼすことがあります。高温により、パワー半導体パッケージには熱膨張差による応力を起因とした剥離、絶縁膜の破壊による絶縁性の低下、あるいは疲労破壊による低寿命化といった影響が出ることがあるためです。
従って半導体デバイスでは、設計時の計算を元に設定した温度下で信頼性試験を行い、信頼性試験をクリアできた温度を確認します。この温度を超えないように、先に述べたジャンクション温度Tjを設定し、その温度以下になるようパワー半導体の出力や効率、さらに熱マネジメントとして放熱の熱抵抗を設計しています。

事前に設定していたジャンクション温度を超えるような高温になることを回避するには、

  1. パワー半導体の高効率化→発熱量の抑制
  2. 放熱対策・低熱抵抗化→外界への放熱量の増加・効率化→熱伝導率の高い材料・部材の選定
  3. 高耐熱化・高ジャンクション温度化→高温に耐えられる半導体材料や周辺パッケージ材料・部材の選定

といった高温対策すなわち熱マネジメントが必要となります。

発熱・放熱と熱抵抗と温度の関係を熱伝導の計算式で説明

先に述べた発熱・放熱と熱抵抗と温度の関係を、熱伝導の計算式として説明します。

熱伝導の計算式

熱伝導の計算式

(縦方向の熱伝導のみを考慮した場合)

縦方向の熱伝導のみを考慮した場合

 

熱のバランスが取れて定常状態となった時の放熱量=
発熱体の発熱量(単位時間当たりのエネルギー)W(W)

上記は、分かりやすく説明するため熱伝導として縦方向の熱の移動のみを考慮した場合について解説しています。
熱伝導の計算式から、電流が大きいほど、また電圧が高いほど、発生する熱量Wが大きくなり、パワー半導体の温度と外界の温度との差⊿Tは大きくなること、さらに熱抵抗Rtが大きいほどパワー半導体の温度と外界の温度との差⊿Tは大きくなることが示されます。
熱抵抗の式から、3次元とも相似形のままサイズを1/xに縮小すると、熱抵抗は断面積に反比例してx2倍に大きくなり距離に比例して1/xに小さくなり、その積の結果として熱抵抗はx倍に大きくなることが示されます。熱抵抗が大きくなると、パワー半導体の温度と外界の温度との差⊿Tは大きくなります。
通常は、設定したジャンクション温度を超えないように①Wを下げるような設計(半導体デバイス設計)、また②Rtを下げるような設計(熱マネジメント・放熱設計)を行います。②については熱伝導率Κの高い材料・部材の選定が有効です。
①②の設計を最適化しても、大電流・高電圧化や小型化を進めた結果どうしても動作温度が高温化する場合には、③ジャンクション温度を高く設定できるようなワイドギャップ半導体チップや高耐熱材料を採用する必要が出てきます。

SiCなどワイドギャップ半導体の高温動作におけるメリット

SiC系半導体やGaN系半導体といったワイドギャップ半導体は、①発熱量の抑制、②低熱抵抗化、③高耐熱化・高ジャンクション温度化といった、パワー半導体・パワーデバイスの高温対策のいずれの面においても、従来のSi半導体やGaAs系半導体に比較して高温動作においてメリットがあります。

ワイドギャップ半導体とはバンドギャップの値がSiより大きい半導体のことで、格子状数が小さく、原子間の化学結合力が大きくて価電子帯の電子が励起されにくいという特徴をもっています。その特徴のために絶縁破壊電界強度や熱伝導率が高くなっています。下記の物性比較表をご参照ください。

各種半導体の物性値

項目 単位 Si SiC(4H) GaAs GaN(H)
バンドギャップ eV 1.12 3.26 1.42 3.39
格子状数 5.43 3.07(a) 5.65 3.19(a)
絶縁破壊電界強度 V/cm 3.0×105 2.8×106 4.0×105 3.3×106
熱伝導率 W/(m・K) 150 490 46 210
電子移動度 cm2/Vs 1500 980 8500 1800
飽和電子速度 cm/s 1.0×107 2.2×107 2.0×107 2.7×107
比誘電率   11.7 9.7 12.9 12

①ワイドギャップ半導体は、絶縁破壊電界強度が高く耐圧性に余裕があることから、pnジャンクションやゲート電極直下の空乏層を薄くでき、低濃度n型領域の不純物濃度を高くできるので、ON抵抗を低くできるという特長があります。オフ時の絶縁耐圧を確保した上で、導通損失とスイッチング損失を低減することが期待できますので、高効率化すなわち発熱量の抑制に有利です。

②また熱伝導率が高いのでチップ自体の低熱抵抗化にも有利です。

③さらに熱暴走の始まりは、価電子帯からの伝導帯への電子の熱励起の増大ですので、バンドギャップが大きい分、同じ温度では熱励起が起きにくい、すなわち熱暴走が起きにくいと言えます。従ってデバイスの高温動作特性に優れており、耐熱性もジャンク温度も高く設計できます。
同じ電流・電圧・サイズならば、W↓、Rt↓すなわちΔT↓、かつTj↑なので、パワー半導体・パワーデバイスの大電流化・高電圧化・小型化に対して余裕があると言えます。
今後さらなる大電流化・高電圧化・小型化が求められる場合には、EVや電車など低周波のアプリケーションにおいてはSi系半導体からSiC系半導体へ、5Gや6Gの基地局など高周波のアプリケーションにおいてはGaAs系半導体からGaN半導体への代替の動きが進むことが予想されています。

パワー半導体・パワーデバイスの熱問題の影響と現状の対策

パワー半導体・パワーデバイスの放熱性・耐熱性・ジャンクション温度に関する解決策

影響1 放熱性不足による高温化の影響「パワー半導体・パワーデバイスの熱応力による疲労破壊と低寿命化」

最初に一例を示します。特に電気自動車用途のパワー半導体は、小型化の要求が厳しい市場であるため、電流密度を高めた条件で使用することがあり、一方で、水冷による高効率な冷却を行っています。その結果、半導体チップとワイヤや基板との熱膨張差による熱的サイクル負荷が増大し、熱応力による疲労破壊が低寿命の要因となっています。

半導体チップのダイボンディング用途で広く使用されているはんだは、熱伝導率が30W/(m・K)と低いため、熱抵抗が高くて熱伝導量が充分ではなく、その代替材として、熱伝導率が高い焼結銀ペーストが活用されています。しかし、焼結銀ペーストはダイボンディング加工時の圧力が高く、加工時に半導体チップが欠ける懸念があるなどの課題があります。そのため、ダイボンド工程に適用でき、より熱を逃がすことのできる熱伝導率に優れたボンディング材料が必要とされています。

上記はダイボンディング材料について述べましたが、実際にパワー半導体(ジャンクション部)から外界まで移動する熱量を計算するには、熱が通過する全ての層、たとえば半導体材料層、基板材料層、コート金属層、ダイボンディング材、金属コート層、金属台座、TIM材、配線基板、TIM材、筐体、接着剤、放熱フィンなど、全ての層で熱の計算式を満たす必要があります。複数の層の熱抵抗も、電気抵抗と同様に合成抵抗として議論することができ、直列の場合は熱抵抗の和、並列の場合は熱抵抗の逆数和の逆数として計算できます。

また実際のデバイスでは横方向の熱の拡散も考慮する必要があり、熱伝導の計算式の考え方は同じですが、計算が煩雑になるため計算ソフトを自作するとよいかと思います。

合成熱抵抗について

 

直列の場合

並列の場合

<参考:合成電気抵抗と類似している>

 

熱抵抗の合成の例

熱抵抗の合成の例

 

上記のような計算を元にして、動作条件による発熱量と外界温度が決まっている場合に、設定したジャンクション温度Tj(熱暴走やデバイス中の他の部材の劣化がなく信頼性試験に耐えられた温度)以下であることを保つためには、計算によって求めた熱抵抗以下にすることが求められています。特に温度差⊿Tの大きい層において、熱伝導率のいい材料を使って熱抵抗を下げることが効果的です。

影響2 耐熱性不足による影響「半導体デバイスや封止材自体の高温劣化・破壊」

パワー半導体・パワーデバイスにおいてもデバイス自体が、一定温度以上の高温になるとキャリアが増え過ぎて、抵抗値が下がり、より多くの電流が流れることによってさらに温度が上がるという負の連鎖(熱暴走)によって、最終的にデバイスそのものや周辺の部品が溶断してデバイスが壊れます。この温度は半導体チップの素材の種類によって異なり、従来のSi系やGaAs系の半導体に比較してSiC系やGaN系のワイドギャップ半導体の方が、熱暴走が起きる温度が高くなるので、耐熱性とジャンクション温度を高く設計できます。

また封止材自体もTg以上の温度では機能しなくなるため、高Tgで高耐熱の封止材が求められています。樹脂を高Tg化するため硬くしたり、耐熱性を上げるため剛直骨格を入れるなど樹脂自体に工夫をしたり、フィラー分散方法を工夫したりして、封止材の高耐熱化が図られています。

影響3 耐熱性不足による影響「応力による封止材の剥離」

パワー半導体の動作温度が高温になると、封止材と各部材(チップ、ワイヤ、絶縁基板、リードフレーム等)の間の熱膨張差も大きくなり、それによる応力が繰り返し加わることで、接合界面に亀裂が生じ、剥離が生じることが課題となっています。一方前述の通り封止材自体にも耐熱性も求められていますが、一般的に封止材の耐熱性と密着性や応力緩和性との間にはトレードオフの関係があるため、ますます耐熱性と剥離抑制の両立が困難となっていました。

封止材の設計を変えることなく剥離を抑制する方法として、リードフレーム表面の粗化処理の他に、高密着で応力緩和可能な耐熱性コーティング材が提案されています。封止材の耐熱性と剥離抑制を両立させることにより、パワー半導体の信頼性を高められます。

レゾナックの解決策

パワー半導体・パワーデバイスの放熱性を強化するレゾナックの解決策

パワー半導体パッケージ

パワー半導体パッケージ

 

①ダイボンディングペースト
/② 接合ペースト
焼結銅接合ペースト
熱伝導率:300W/(m・K)

高鉛はんだの熱伝導率30W/(m・K)に対して10倍以上の高い熱伝導率300W/(m・K)を有します。パワー半導体パッケージ内で熱負荷が高い、チップのダイボンド用と、ヒートシンクの接合の2用途を提案します。

③導電性放熱シート

黒鉛垂直配向熱伝導シート
熱伝導率:45W/(m・K)

従来使用されているグリース系熱界面材料(TIM)よりも、約18倍の熱伝導率、バルクで90W/(m・K)、実装時45W/(m・K)を実現します。また、ポンプアウトも発生しないため、耐久信頼性の向上も見込めます。

④ヒートシンク
・放熱フィン
「スカイブヒートシンク」
包絡体積24%減、重量35%減

機械加工でフィンを形成することによって、フィン厚を最小0.2mmまで薄く、またピッチ間隔を最小1.5mmまで狭めることができるので、押出ヒートシンクと同じ放熱性能で小型・軽量化を実現します。※同じ熱抵抗の押出ヒートシンクと比較

パワー半導体・パワーデバイスの耐熱性を強化し高ジャンクション温度化するレゾナックの解決策

パワー半導体パッケージ

パワー半導体パッケージ

⑤高耐熱封止材
エポキシ系封止材<CEL-400>シリーズ 

シリコーン樹脂より硬く、部材を拘束し膨張収縮を抑えるので、パワーサイクル試験の結果を改善します。また密着性や応力緩和ともバランスをとり、温度サイクル試験時の剥離も改善します。

⑥耐熱性コーティング材
「HIMAL」

Tg=220℃以上、貯蔵弾性率3GPa程度、絶縁破壊電圧250V/μm以上の耐熱性の絶縁コーティング材です。封止材のプライマーとして塗布すると、密着性向上と応力緩和で、剥離が抑制されます。

⑦ワイドギャップ半導体チップ
SiCエピタキシャルウェハ

当社はSiCパワー半導体向けの主要な原材料であるSiCエピタキシャルウェハの研究開発、製造、販売を行っています。低欠陥、低転位の特長があります。
 

著者プロフィール

友澤 秀喜
株式会社レゾナック コーポレートマーケティング部 プロフェッショナル
1985年3月東京大学大学院理学系専門課程修士課程修了。同年4月昭和電工株式会社(株式会社レゾナックの前身)入社。
以後、導電性高分子(1985年~1995年)、GaN系半導体(1996年~2009年)、リチウムイオン電池用炭素材料(1995年~1996年、2009年~2017年)の各分野のいずれも新規事業において、研究、開発、量産ライン立上、開発営業、製造・検査・分析、生産管理、海外営業、品質保証、SCM、海外事業企画、海外ライン立上、研究開発企画の各業務に従事。2019年より現所属のマーケティングを担当。
この間、1986~88年米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校ポリマー研究所客員研究員。1996~97年名城大学理工学部客員研究員。2003年~04年財団法人新機能素子研究開発協会・技術企画委員。

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更新日:2024年2月26日

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