レゾナックナウ

戦略的インテリジェンスを活用して、 企業価値の最大化を図りたい【CSO 真岡朋光】

Leader's Letters

2024年02月05日

世界で戦うために、迫られた材料メーカーの変革

私は、2021年10月に旧昭和電工に入社し、2022年1月の新体制発足と同時にCSOに就任しました。CSOの役割は、「世界トップクラスの機能性化学メーカー」になるためには何をすべきなのか定義し、「化学の力で社会を変える」という統合新会社の存在意義を広く訴求することにあります。

旧昭和電工と旧日立化成が完全統合したことで、企業としての規模は大きくなりました。しかし統合したからと言って、会社の根源的なところがすぐに変わるわけではありません。世界市場でグローバルカンパニーとして戦うためには、中身、質も変わらなければならないのです。

レゾナックが「世界トップクラスの機能性化学メーカー」となるためには、事業ポートフォリオの 見直し、競争力のあるビジネスモデルの構築、社内外を含めたパートナーシップの強化、組織 運営の改革など、さまざまな側面において世界とのギャップが何かを特定し、そのギャップを埋めるための道筋をつけなければならないのです。

このギャップは、統合して初めて顕在化されたことではありません。当社がコア事業として位置づけている半導体・電子材料の業界の歴史を見れば、レゾナックが変わらなくてはならな いことは自明のことです。

私は、外資系のコンサルティング会社と半導体やPCメーカー、そして国内の半導体メーカーでキャリアを積んできました。この間、日本のハイテク産業の凋落をつぶさに見てきました。特に半導体デバイスの業界では、米国を中心にメーカーの合従連衡が進み、顧客とサプライヤー間の交渉力、技術的な集積など、その産業再編の影響が周辺エコシステムに必ず波及するはずだと考えていました。しかし、近接する半導体材料業界ではその気配が見えず、世界で戦うためには、半導体材料メーカーも産業として変革を迫られているはずなのになぜだろうという感覚を持っていました。

そうしたところ、2019年末に昭和電工と日立化成が合併するというニュースが舞い込んだのです。「とうとう来たか、始まったな」と思いました。その後、現在のCEOの髙橋に会い、志が同じ方向に向いていることを確信し、「世界で戦う会社をつくりたい」という思いで、入社することにしました。日立化成との統合があったからこそ、この環境で自分の力を発揮できると心が決まりました。

求められる戦略的インテリジェンスの概念

当社の技術力とポテンシャルを、製品が使われる実際の用途の価値に転嫁することが、戦略を描く上での要諦だと思います。

旧昭和電工は物性そのものをつくり変えることに知見がある点で、材料のサプライチェーンでは川上に強みを持っていました。一方、旧日立化成は、材料を組み合わせて機能を創出し、お客さまにそれを提供するという意味で、川下に強みがありました。材料開発とその組み合わせを社内で一気通貫できることで、製品の機能最適化を実現する選択肢が広がります。加えて、川下の用途をより深く理解することで付加価値が高まる方向へ開発資源を動かすことが可能になりました。サプライチェーン全体を理解することは、買い手の価値基準と提供者の論理のギャップを埋めることにつながるため、ビジネスモデル構築においては重要な意味を持っています。

企業としての全体最適について言えば、これまでは個別事業部の事業戦略はありましたが、 全社的な戦略が描き切れていませんでした。以前「全社戦略」と呼んでいたものは個別事業 の戦略を数値面の単純加算で束ねたものでした。全社として成長と利益を最大化するためには、意図的に伸ばす事業とそうではない事業に意思をもって切り分けなければなりません。そこで、事業部ごとにメリハリを付ける、つまり事業部間で会社の資源投下の強弱の違いを生み出すことも明確にしていきました。

ポートフォリオの構築では、「半導体・電子材料」部門をコア成長事業として位置づけて資源を集中させていきます。同時に定常的に一定程度の利益の見込めない製品については、値上げまたは撤退を視野に、事業の取捨選択を図っていきます。

こうした戦略を遂行するために、私は、戦略的インテリジェンスの概念を採り入れることが大切だと考えています。社内外から得たインテリジェンスを分析し、加工して、戦略に生かしていく。同時に、当社から積極的に情報を発信していくことも求められているのです。

その一環として、経営企画部直下に対政府渉外の窓口をつくり、活動を始めています。半導体は、地政学影響に対して非常にセンシティブな事業です。民間企業の施策だけでは乗り越えられない事態が発生することは、昨年からのサプライチェーンの混乱からも明らかです。しかし当社は、これだけ半導体材料市場でのプレゼンスがあるにもかかわらず、多岐にわたる政府との接点を集約し、安定的な関係構築を行う機能がありませんでした。まずは、政府機関との接点を強化し、そこで発生する知見・経験を組織として定常的に蓄積するための機能を設けたというわけです。

インテリジェンス強化のためのシナリオプランニングとRHQの設置

さらに地政学的リスクなどの将来の影響度を探るために、シナリオプランニングの手法にも 取り組んでいます。シナリオプランニングでは長期的、短期的な視野に立って、さまざまなシナリオをチーム内で構築しています。可能性が低いと想定される事象もバイアスをかけず、ビジネスインパクトやリスクなどにおいて、幅広く影響を算定していきます。むしろ、発生可能性が低いことも、あえて検討を申し入れています。

想定したインパクトに対する対応のコストや方法など、日常業務の延長線上では思慮が及ばない事柄に対する思考実験により、不測の事態に対するマネジメント力の準備運動を行うことが シナリオプランニングの本質です。喫緊の問題では、昨年のロシアによるウクライナ侵攻のビジネスへの影響がありました。 半導体の分野では、米中のデカップリングによる影響はすでに 顕在化していますし、これからも続くだろうと想定しています。

シナリオプランニングの思考方法は広く知られるようになっていますが、定常的活動としてこれを組み込んでいる企業はまだ少ないと思います。これらの取り組みは「世界で戦える会社」という長期戦略のために必須ですが、さらにそれを加速させるための体制の一つとして、リージョナルヘッドクォーター(RHQ)の強化を行っています。

RHQ設置の背景には、それぞれの国、地域の事業環境が、法制、商慣習などで分散化し、多様化してきていることがあります。会社として各地域に対して日本からの直接的な統制を行うだけでなく、各地域独自の事業環境とすり合わせをして最適解を導くことが必要です。そこで、北米の拠点として米国のサンノゼ、ヨーロッパではドイツのヴィースバーデン、中国の上海、東南アジアではシンガポールの4カ所にRHQを設置しています。

このように日本と各地域との間の指揮命令系統を構築し、各地域での運営方針のカスタマ イズとコーポレート機能面でのサポート力の強化を図っています。また、RHQの情報を元に本社がどのように決断するか、またはRHQがスピード感を持ってどう判断するのか、すみ分けを明確にしていきます。

サステナビリティを経営の根幹に据える

昨年、当社が社会と共に持続的に成長していくための経営重要課題として3つのマテリアリティを設定しました。それと同時に「サステナビリティが経営の根幹である」という方針を社内外に打ち出しました。つまり、全社戦略にしても、経営戦略にしても、いずれもマテリアリティ 実現を支援するための存在であるということです。マテリアリティを実現することが経営戦略、長期ビジョンの達成につながります。

マテリアリティ実現の仕組みとして、昨年、月例のサステナビリティ推進会議を立ち上げました。会議には最高職務責任者(CXO)全員が参加し、3ヵ月に1回は事業部門長も出席します。 サステナビリティは、トップマネジメントが決断すべき経営上の中心課題であると定義し、カーボンニュートラルや人権をはじめとした幅広い課題をサステナビリティ推進会議内で議論し、意思決定する体制を構築しました。マテリアリティに基づく全社レベルの非財務KPIを設定し、推 進すべき取り組みについても議論しています。

サステナビリティの実現は全社を巻き込まなければ進みません。今年からはCXOや事業部 門長全員の業績評価にもサステナビリティ項目を加えています。

機能性化学のレゾナックブランドを世界へ

2023年1月、レゾナックという会社が生まれました。第二の創業です。昭和電工からレゾナックへ社名変更し、総合化学から機能性化学へ、革新的なマネジメントチームが会社の改革を行っていることを、世界の皆さまにしっかり伝えたい。その思いでブランド戦略を構築しています。

正直な話、昭和電工という社名の知名度はそれなりにありましたが、何をしている会社かは 知らない人が多かった。レゾナックではそうならないよう、世界で戦う機能性化学メーカーで あること、そして半導体・電子材料に強いメーカーであるということを、しっかり伝えていかなければなりません。「レゾナック」のブランド力を強化することで、従業員の誇りと世の中での広い認知を実現し、世界で戦うことのできる人材を集めていきたいのです。それが企業価値 の向上につながります。

我々が戦っていくフィールドは世界であり、スピード感を持った対応が必要です。今後は一社だけで解決できることは、ますます少なくなっていくでしょう。半導体業界内外での連携を深めるためにも、ブランド戦略においてもデジタル化とグローバル化に一層力を入れていきます。

素材が揃った今、世界で勝たないといけない

実質統合による新体制が立ち上がり、私もCSOとして参画し一年半が経ちました。統合に 関わるさまざまなことがある中で、羅針盤の役割を果たしてきました。時に耳障りだったとしても、中長期を見据え、チームで対応してきた日々です。

これだけの規模の会社で、これだけのスピード感で物事が決まり、実際に動く会社は希有ではないかと、自分の経験からも強く実感しています。私がリーダーシップを発揮できるのは、「よそ者」であるからだと思っています。レゾナックの外で培ったキャリアに裏打ちされた経験に基 づき、客観的に会社を見ることで、イノベーションを起こすための点火剤となりたいのです。

今のレゾナックには、人材、技術力、体制、そして戦略と、戦うための素材が揃いました。凋落にあらがい勝ちにいくことが最大のモチベーションであり、カッコイイことだと私は感じます。 負ける日本企業をもう見たくないし、これだけの素材が揃ったレゾナックが負ける気がしません。世界で戦うレゾナックに、どうぞご期待ください。

 

最高戦略責任者(CSO) 真岡 朋光

本記事は2023年7月発行の統合報告書「Resonac Report 2023」に掲載された「Leader's Letters」の転載です。
私たちが社会を変えていくためにどこを目指す姿としているのか、どんな課題があるのか、その先にどんな変革を起こそうとしているのか。レゾナックの経営陣の熱い想いをメッセージでお伝えしています。

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