レゾナックナウ

【トヨタ自動車×レゾナック】
アルミ材料の共創が導くカーボンニュートラル

2024年04月15日

アルミニウムは、軽くて加工しやすい金属であることからさまざまなシーンで活用されている。
たとえば、自動車や航空機をはじめ、スマートフォンなどの電子機器、飲料の缶、スナックの袋、さらにはロケットにまで、用途を広げている。

私たちの生活を便利にするアルミ製品だが、精錬を含む製造時にCO2を多く排出するという課題もある。

今回のUNSUNG LEADER(知られざるリーダー)は、先端融合研究所 金属材料研究部 アルミ製品評価グループの木村佳文。
木村は、トヨタ自動車の浅井千尋氏(モビリティ材料技術部 車両材料開発室 グループ長)と共創し、「アルミ材料がカーボンニュートラルに貢献する未来」をめざして開発を行っている。

2人の対談から、未来を創るヒントを探る。

アルミ材料に見出したカーボンニュートラル実現への可能性

トヨタ自動車・浅井千尋氏(以下、浅井氏):トヨタ自動車は、持続可能な社会の実現に向けて「トヨタ環境チャレンジ2050」を掲げています。2050年に向けて、車が走行時に排出するCO2だけでなく、材料・部品・ものづくりを含む車のライフサイクル全体でCO2排出量をゼロに近づけていく挑戦です。その中で、アルミは精錬工程で多くのCO2を排出するのが課題ですが、アルミのリサイクルでは必要なエネルギーが小さくて済むため、素材としてのポテンシャルの高さを感じていました。

トヨタ自動車株式会社 モビリティ材料技術部 車両材料開発室 グループ長 浅井千尋氏

レゾナック・木村佳文(以下、木村):アルミは地下資源から新たに地金※を製造する際、精錬の工程で大量の電力を消費し、1トン当たり約10トンのCO2を排出します。これは自動車が約10万キロメートル走行した際のCO2排出量に匹敵します。一方でスクラップを再利用した再生地金ならCO2排出量を3%(1トン当たり300キログラム)に抑えられるので、カーボンニュートラルの面で注目されています。

  • 地金(じがね):アルミ製品の原材料となるアルミニウム塊のこと

先端融合研究所 金属材料研究部 アルミ製品評価グループ 木村佳文

浅井氏:自動車メーカーは、走行時のエネルギー使用量を抑えるために、車両の軽量化に取り組んでいます。軽量かつ高強度なアルミ材が活躍する場面も多く、アルミ材におけるレゾナックさんとの付き合いも長いです。2021年ごろから、材料の製造においてもカーボンニュートラルのニーズが高まってきたので、相談させてもらいました。

木村:レゾナックも、「持続可能なグローバル社会に貢献する会社」として、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、グループ全体で取り組んでいますので、ありがたいお話でした。

浅井氏:製造時のCO2排出量を抑えることができれば、業界としても画期的です。そうした経緯もあって開発をスタートさせることになりましたね。

CO2削減に向けリサイクル材適用増加を検討

浅井氏:いまは木村さんと連携して、リサイクル材の適用増加を検討しています。

木村:似たような取り組みをしている会社はほかにもありますが、一般的に、リサイクル材は、新しい地金よりも強度は落ちてしまいます。一方で、製造時のエネルギー使用量は30分の1くらいにまで抑えられます。

精錬時に必要なエネルギーの比較図

浅井氏:リサイクル材のスクラップ使用比率と強度がトレードオフになる課題はありますね。

木村:だからこそ、仕様のすり合わせが不可欠です。お客様とだけでなく、製造・調達・設計・営業など、社内の各部門とすり合わせを重ねています。さらに、当社の計算情報科学研究センターとも協力し、トレードオフを解決するためのシミュレーションを行っています。

ニーズに応えるために必要な「解析・分析」

浅井氏:私たちは、部品を製造することができても、もととなる材料をつくることはできません。一方でレゾナックさんは、材料はもちろん、部品の製造についても知見がある。共創パートナーとして、とても心強いです。

木村:開発を進める中で、トヨタさんの技術力の高さとモノづくりに対する情熱を改めて感じています。それにお応えするうちに、私たちの技術もより一層磨かれてきていると思います。

浅井氏:研究所を見学させていただきましたが、解析・分析装置の充実ぶりには圧倒されました。

木村:当社は解析・分析が非常に大切だと考えています。ものをつくる過程で、物性値・組成・メカニズムなど、ありとあらゆることがわかっていないと、ニーズに合った製品を生み出すことはできません。解析・分析は、お客様と正しく会話をするための重要なツールだと思っています。

浅井氏:開発の過程はいつも一進一退です。

木村:やはり一筋縄ではいかないですが、日々のフィードバックを真摯に受け止め、どんなメカニズムでその特性が発生しているか、材料のプロフェッショナルとして、原因究明と改善を繰り返しています。

浅井氏:今はとてもチャレンジングなことに取り組んでいると感じていますが、あきらめずに検証を繰り返してもらい、感謝しています。当社の基準が厳しいのは承知しているのですが、車は人の命を預かる以上、慎重に慎重を重ねて進めていければと思います。

木村:もちろんです。私たちもお互いが満足するものができるまで、挑戦を続けます。

リサイクル材調達のキーワードは「全体最適」

木村:カーボンニュートラルに向けて、ほかに取り組んでいることはありますか。

浅井氏:最近の事例で言いますと、部品製造時の新しい熱処理プロセスを開発しました。熱処理の回数を減らすことで、発生するCO₂を削減し、カーボンニュートラルに貢献できると考えています。また、部品を製造した際に出るアルミ端材を、積極的に再利用しています。端材を溶かして金属の塊にし、再び部品に加工します。

木村:今の課題はむしろ、安定してリサイクル材を集めることかもしれません。昨今の情勢から、リサイクル資材としてのスクラップに注目が集まっており、様々な面で調達コストが上がっています。だからこそ、調達スキームの構築を含めて、企業の枠を越えた連携が必要だと考えています。

浅井氏:当社は「誰ひとり取り残さないカーボンニュートラル」を目標に掲げ、常に「全体最適」を心がけています。カーボンニュートラルは、全員が幸せになる形を追求しないと、持続できないと考えています。

木村:おっしゃる通りだと思います。

日本がサステナビリティを牽引する未来

浅井氏:今後、カーボンニュートラルをさらに進めていくためには、リサイクルだけでなく、グリーン地金※の調達など、さまざまな戦略が必要になってくると思います。そういったシナリオづくりも一緒に取り組みたいと考えています。

  • グリーン地金:風力・水力・太陽光など、CO2の排出量が少ない再生可能エネルギーで精錬されたアルミ地金

木村:ぜひ取り組みたいです。サステナビリティに対応した、持続可能なものづくりは、製造業の責務だと考えています。

浅井氏:そうですね。自動車産業とカーボンニュートラルは切っても切り離せない関係です。アルミ材料を起点としたカーボンニュートラル実現へのアプローチは決して簡単ではないですが、今後も共創しながら、日本のものづくりに貢献していきましょう。

木村:リサイクル性能はさることながら、アルミ材料のポテンシャルは高いと感じています。カーボンニュートラルを考えることは、既存のものづくりの在り方を変えることです。製造業としては難局とも言えますが、新しい発想やアプローチが生まれる好機でもあると思います。これからも企業の枠を越えて共創し、「世界のサステナビリティを牽引するのは、日本だ」というところまでめざしていきたいです。

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