1トンでも多くのリサイクルへ。エンジニアたちの共創
2024年01月31日
近年、サステナビリティの観点から、ケミカルリサイクル技術が大きな注目を集めている。ケミカルリサイクルとは、使用済みのプラスチックを分子レベルまで分解し、水素やアンモニアなどの製品に生まれ変わらせる技術だ。
レゾナック川崎事業所では、ガス化ケミカルプラントによる低炭素水素を利用したアンモニアを世界で唯一、長期にわたり生産しており、2022年1月には使用済みプラスチックのリサイクル量が累計100万トンに達した。このプラントの安定運転は、現場エンジニアたちの不断の努力によって支えられている。
今回のUNSUNG LEADER(知られざるリーダー)は、ケミカルリサイクルの最初の工程「破砕成形」を支える第一製造部 化学品課主任の久高將之、工務部 扇町工務2グループチーフの末國啓輔、第一製造部 化学品課 破砕成形運転チーフの南部芳忠。
1トンでも多くのリサイクル実現に向け、部署を越え連携する3名に話を聞いた。
廃プラスチックがリサイクルのもとになる
久高:自治体で集められた廃プラスチックは、圧縮梱包されて事業所に搬入されます。
それを、まず破砕機で細かく砕きます。砕かれたプラスチックには、金属などの異物が含まれている場合があるため、磁力を用いて選別します。その後、成形機で熱圧縮をかけ、RPF*に加工します。
- ※ RPF(Refuse derived paper and plastics densified Fuel):廃プラスチック類を主原料とした固形燃料
久高:私は製造部主任として、プラントの運転管理を行っており、生産効率の向上に取り組んでいます。
末國:設備を安定的に動かすために、メンテナンスをするのが私たち工務の役割です。定期的なメンテナンス以外にも、現場改善をしていくことが仕事です。
南部:私のチームは、集積された廃プラスチックの工程間の搬送を担っており、その作業効率は生産量に直結します。
現場の声を聞く
末國:破砕成形工程は、以前からトラブルが多く、金属などの異物の混入による破損が原因で設備が停止する事態が頻発していました。それをゼロにするために、日々改善に取り組んでいます。
トラブルが起きたら、故障個所を調べ、現場のメンバーに聞き取りを行い、根本的原因を突き止め、対策をとっていきます。また、トラブルが起きていない通常運転時でも、作業者へのヒアリングを心がけています。そういった現場の声にトラブルを未然に防ぐ手がかりがあるからです。
南部:運転部門では、やはりRPFの生産量を上げることが第一目標です。
今現在、掲げている数値目標は1日200トンの廃プラスチックを投入すること。これまで、150~160トンのペースでしたが、さまざまな改善を重ねて、190トンぐらいまで上がってきました。
久高:製造部門のミッションは、常に効率よく設備を稼働させることです。その障壁となるものは取り除いていく。理論上うまくいくはずだと思っても、現場で成立するとはかぎりません。現場のプロである工務や運転のチームに協力してもらうことが多くなります。その時、いかにわかりやすく情報を伝えるかに気をつけています。
「100%プラスチックのRPF」によるケミカルリサイクルを実現
久高:当社のケミカルリサイクルでは、100%プラスチックのRPFを使用しています。
実は、100%プラスチックのRPFを使用するプラントは、他に例がありません。木材や紙を混ぜ込むことで、反応をコントロールしやすくしているところが多いからです。でも、混ぜ物が多いということは、原料からの製品収率を落としてしまうので、プラスチックリサイクルのめざすところからは遠ざかってしまいます。
混ぜ物なしのRPFで安定稼働を続けている。これは、現場の努力の結晶だと思っています。
末國:私たちは、廃プラスチックのことを「ゴミ」とは呼ばず、必ず「原料」と呼ぶようにしています。これは、チームだけでなく、事業所全体としてそう呼んでいます。
私が入ったばかりのころ、「ゴミ」と言って上司から叱られたことがあります。
久高:この呼び方は、2003年にケミカルリサイクル事業が始まったころから続いています。
先輩から後輩に20年間伝え続けてきた、もはや伝統ですね。
末國:一方で、自治体で収集された原料に、異物の混入があると、それが製造工程でトラブルを引き起こします。特にリチウムイオン電池が破砕機を通った時に発火することがあり、これには本当に困っています。
また、昨年は、握りこぶし大の石が混入して、設備が壊れてしまう事態が発生しました。異物による機械の破損は、本当に悩ましい問題です。
データに基づく議論で生産量アップ
末國:3部門が密に連携することで設備停止の回数を減らしたことが、生産量アップにつながっています。
南部:連携できるようになったことが、大きいですよね。
末國:私は2021年に工務部に来ましたが、当時はあまり3部門の連携がとれていなくて、情報の共有にムラがありました。だから、「しっかり情報を伝え合おう」となって。
久高:データを中心に、部門の枠を越えて考えるようになりましたね。
南部:データがない状態では、職人技というか、勘というか。人によって運転の仕方が変わることもあって、統一性がなかった。それが、データで管理できるようになったことで、工務や製造部門ともデータを見ながら具体的な議論や連携ができるようになりました。改善策を運転員に伝えるときも、具体的な数字があるので説明しやすくなりました。
末國:運転データの連携は故障を未然に防ぐことにもつながります。それによって、目の前のトラブルに対処するだけでなく、「もっと生産能力を上げるにはどうしたらいいか」という、建設的な議論が3部門の垣根を越えてできるようになりました。
南部:たしかに、職場でそういう前向きな会話が増えてきましたね。我々3人だけでなく、チームのみんなが、前のめりな感じで取り組んでいるのが、はっきりわかります。
相手の立場になることでチームワーク強化
末國:チームワークを構築することは重要ですが、それを維持することはより重要です。一人ひとり、性格も得意なことも違います。それぞれの個性を考慮して、「この人にはこう伝えよう」と意識しながら話しています。それがいつも正しいとは限りませんが。そこは探り探りですね。
南部:私は工務や製造と運転チームとの調整役でもあります。両方のバランスをとるのは難しいですが、忖度なく意見を言い合い、業務改善に邁進しています。
久高:川崎事業所では「変わる川崎」という活動に取り組んでいます。そこで、CX(カスタマーエクスペリエンス)や、お客様目線について学びました。我々製造部門が直接お客様とやり取りすることはまれですが、「仕事場の仲間も、立場の違うお客様じゃないか」と考えるようになりました。
相手の立場になって考え、相手の求めている情報をわかりやすく伝えることで、スムーズなコミュニケーションがとれるようになったと思います。課題解決スピードも上がり、チームワークも高まっています。
年間6万4000トンのリサイクルが導く脱炭素社会
末國:現在、年間で6万4000トンの廃プラスチックの投入をめざしています。これまでの生産量は、例年約5万8000トンぐらいでした。10%増という高めの目標を掲げ、チャレンジしています。
まずは、工程の中でのムリ・ムダ・ムラを徹底的に排除するところから始めました。設備全体を解析し、稼働率の低い設備にも十分な量の廃プラが送られるように、設備改造や設定を調整することで、実際の稼働率も向上し、6万4000トンという目標が現実的な数字になってきました。
久高:ケミカルリサイクルは、脱炭素社会の実現に向け非常に意義のある事業です。
これがもっと世の中に浸透すれば、生活者一人ひとりの意識も改善されてくんじゃないかと思います。
末國:例えば、ゴミの分別がきちんと行われるようになるだけでも、我々も助かるしリサイクルの効率も高まる。それは巡り巡って、次の世代にきれいな環境を残すことにもつながるのです。そのためにも、まずは目の前の目標に向かって。三位一体、一丸となって、これからも進んでいきましょう。
部門の垣根を越えた連携を進めてきた3人のリーダーたち。その思いと熱量はチームに伝播し、大きな目標の実現まであと一歩というところまで歩みを進めている。
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