レゾナックナウ

対話と共創で楽しみな未来を創る「レゾナック、発進!」【CTO 福島正人】

Leader's Letters

2024年02月19日

未来を手繰り寄せることがCTOの仕事

新生レゾナック誕生と同時にCTOに就任しました。CTOとは、当社のCXO体制においては技術のスペシャリストであり、一般的なメーカーにとっては技術者の一番上のポジションですが、今のレゾナックにとってその役割は変化しています。例えば私は旧昭和電工のハードディスク事業出身であり、最前線の従業員と比べてテクノロジーの全てを分かっているわけではありません。旧日立化成についてはもっとそうです。では何をするのがCTOなのか。私はそれを、レゾナックの行くべき道を技術的に指し示す、あるいは「手繰り寄せる」ことだと考えています。

産業革命以降の資本主義、消費型経済の中で自前主義をとってきたメーカーは、技術開発に資本を投下してモノを作り、社会から対価を得てきました。その時代のCTOの最も重要な役割は、武器としての技術を磨き、技術者を束ねることでした。一方、前提となる考え方が崩れた今となっては、「地球にとって正しい」「従業員が誇りに思える」といった技術の方向性を指し示すことも重要です。そのためには自分だけで考えていては限界があるし、技術を俯瞰しなければならない。それがCTOが発揮すべき「未来を手繰り寄せる」力だと思います。

ずっと持っていた危機感~変わらなければ衰退する

私は常々「変わらなければ衰退する」と考えてきました。むしろ、変わることでようやく現状維持ができるのかもしれない。そのため私は今回の統合を、新しい考え方を取り入れる機会として非常にポジティブに捉えています。もちろん変化には非常に大きなストレスがかかりますが、私たちは社名を変えてでも変わらなくてはいけない、変わろうとしています。ここを乗り越えられなかったら、次の100年にわたって地球上の人々から受け入れてもらえる企業であり続けられない。だからこそ、変わることを楽しめる人間でなければならないとも思っています。

私が長年所属していたハードディスク事業は、約40年前に産声を上げ、事業拡大の一途を辿ってきました。しかしその間、装置メーカーや材料メーカー、お客さまの数は減っていきました。生き残ることができているのは競争に勝ってきた証ですし、新たなテクノロジーによりさらに成長する可能性はあります。しかし技術も市場も飽和状態となり、規模が拡大したために失敗が許されなくなり、結果として次のテクノロジーやお客さまの新たなニーズへの挑戦がしづらくなっているのも事実です。成長や失敗を経験できた世代と、規模が大きくなってからの世代ではおのずと見える景色が異なっているのを、どう共有したり、失敗できる場をつくれるか、例えば戦略的な人事ローテーションをその代替にできるか、と考えています。

統合をきっかけとした「対話」がシナジーを生む

今回の統合は、それぞれ100年の歴史のある会社が一緒になるわけですから、非常に大変です。しかし研究開発の分野では、両社のエンジニアがお客さまへ対するときの「素直さ」といったものが実はよく似ていると実感しています。しかし、戦い方は違います。旧昭和電工は、化学が産業の種であるとの想いがとても強い。電気化学工業をベースに電気を求めて事業を作ってきた歴史があり、技術文化としてバリューチェーンの「川上」にあるとの意識が強いため、自分たちが作りたいものを自分たちが設計した装置で作って改良していくのが得意で、製造設備とプロセスの関係性もユニークです。一方で、旧日立化成は、最終消費者に比較的近い「川下」寄りに位置しており、ニーズを把握しいろいろな材料を混ぜて新しい機能を発現させることに非常に長けています。

統合決定から2年かけて試行錯誤し互いを知り、今まさに、異なる強みを持ち寄り「こういう技術があるならこういうものが作れるのではないか、こういう使い方があるのではないか」といった対話がスタートしています。例えば、旧昭和電工出身の石油化学事業の技術者がキーテクノロジーである触媒を開発すると、旧日立化成出身の技術者が別事業での応用を考え、試して見る。あるいは「こういう樹脂はありませんか」と聞く「川中、川下」の樹脂の開発者が「川上」の生産技術を理解すれば、「こんなふうに製造装置を改良すれば作れそう」「原料自体をデザインし直せば、こんな新しい機能を発現できる」と発想できる。私たちにはこのようなシナジーの生み出し方がありますし、それを最大限発現させる仕組みを作りたいと思います。

共創の舞台で「対話」を進めオープンイノベーションを加速する

社内のみならず社外とのオープンイノベーションについては、2017年に『多様な人々が集まり、新規パイプラインの創発が促進される舞台の提供』というコンセプトを構想し、2022年に横浜に設立した「共創の舞台」を中心に推進しています。従来の方法にとらわれず、新たな取り組みを模索する場と位置づけており、レゾナックが取り組むべき“社会を変える”研究開発テーマを長期R&DとしてCTO直下で進め、その実現に向けたプラットフォームとして技術データベースの充実やコーチング・メンタリングの仕組み作りにも取り組んでいます。

CEO

「共創の舞台」はコンセプトができてからの6年間で状況は大きく変わりました。私はこの「共創の舞台」では壮大な実験をしなければならないと思っています。長期R&Dとして取り組んでいるものに、6G(Beyond 5G)を見据えた次世代高速通信材料の開発があります。6Gの世界では使う周波数帯は100ギガを超えますが、その周波数帯で使える材料は今存在しません。6G領域における世界トップクラスの複合材料提供に向けて川上・川中の技術を融合し、来るべき社会に向けた必須技術を提供したい。また、カーボンニュートラルの実現を目指した革新的な技術開発にも取り組んでいます。基礎化学製品の「炭素資源循環」を目的に、廃プラスチックを回収して再び原料に戻すプラスチックケミカルリサイクルでは、廃プラ-to-オレフィン技術の開発に挑戦しており、現在はパートナー企業とのオープンイノベーションに進んでいます。また化石燃料を代替するテクノロジーを開発する手法であるCO₂分離回収利用にも石油化学事業と共に取り組んでいます。これらは自分たちの子どもや孫を愛するからこそ生まれる発想であり技術者にとってのモチベーションになります。

このような開発は、お客さまを始めとするさまざまな人たちが今何を考え、次に何をしたいかを理解し、一緒に考えてより新しい考え方や材料、プロセスを生み出すことで可能になります。目の前の研究開発を突き詰めすぎると、お客さまの意図や市場の向かう方向性とは違う明後日の方向に行ってしまいがちです。そこで一旦立ち止まり、選んだ研究の方向性が正しいことをお客さまやパートナー企業などと確認しながら進め、いかに行くべき未来にたどり着けられるか。さらには、化学品を大量消費することを前提とした社会で必要とされてきた素材・化学産業をいかに変換させられるか。これからの共創の舞台は、次の100年を見据えて技術的な試行錯誤を繰り返すとともに、このようなことも幅広く考える場にしなければならないと考えています。

マテリアルインフォマティクスの活用によるさらなる加速

統合によって変わったのは組織文化や事業ポートフォリオ、人材だけではありません。オープンイノベーションの形も、計算科学や情報科学のレベルもあり方も進化しています。

材料をどのように組み合わせたらどういうものができ上がるかを統計的に処理し、求める機能を満たす材料の組み合わせや、製造条件の予測を通じて開発を飛躍的に効率化、加速する手法としてマテリアルインフォマティクスがあります。当社のように化学品や石油などを原料として製品を製造するプロセス系製造業での応用が拡大していますが、私は、これからは計算科学や情報科学を技術者やお客さまが空気のように使う時代がすぐそこまで来ていると考えています。そのためには、ニーズにあわせてカスタマイズすることが重要になります。これはとても難しいのですが、当社の計算情報科学研究センターのメンバーは自らお客さま(社内ユーザー)の目指すものを掴みにいくことで実現しようとしています。まだ予算もついていない10年くらい前から未来を見据えて社内で仲間づくりをしていたメンバーたちが今リーダーとなり、社内や市場との対話を深め、若手技術者らと共に事業を生み出しています。

また、私たちが多岐にわたる事業をもっていることは研究開発の加速に大きくプラスに働いています。市場では石油化学、基礎化学品から半導体材料製品群にいたるまで、また材料では、樹脂や金属、セラミックスなど、私たちが扱う材料は多岐にわたり、その組み合わせは無限です。実験を100年繰り返しても出せない答えをこの手法は場合によっては数分から数時間で出すことができる。また、ものづくりを支える素材や材料の進化は、性能を飛躍的に向上させるだけでなく、新たな活用方法を生み出すことを可能にします。

「化学の力で社会を変える」ことに誇りを持つ技術者になるために

重要なことは、その起点にいるのが技術者だということです。例えばカーボンニュートラル。今までは、自らの技術の進捗度合いはオープンにしない傾向がありました。しかし、私たちが取り組んでいることが100%正しいかは誰もわからない中では、情報を交換し合い、技術を共に使うことはむしろよりよい選択肢です。地球のため、と皆が同じ目的を持っていればなおさらです。もちろん、持続的に研究を続けていくためにも利益は追求する必要があり、そのバランスは簡単ではありませんが、知的財産戦略や新しい形のアライアンスを考えることで解決できるかもしれません。

だからこそ、技術者は自律的に考え、自らの枠を超えなければならない。そこで悩んだら戻る場所が、私たちのパーパスとバリューです。研究所内での対話の機会もさらに増やし、技術開発の観点でどう具体的に咀嚼していくかについて皆で考えています。

技術者というのは、自らの発想や気づきを基に仮説を検証していくことが楽しくて仕方ない人たちです。そしてやるからには勝ちたい、成功させたい。しかし、研究開発は迷いの連続です。そんな人たちが、パーパス「化学の力で社会を変える」を実現するためには、まずは自分たちが生み出したものがお客さまや市場の喜びにつながっていること、それが利益につながれば、いずれ研究開発費が増えて、やりたい研究ができるかもしれないということ。そしてもう一つは、自分たちが貢献したテクノロジーが地球環境を守り、より良い方向に向かわせているという誇りが持てることが必要です。

そのためには、研究者、技術者のキャリアパスも多様でありたい。私もキャリアのほとんどを事業部の開発で過ごしましたが、技術統括部長になる前に営業部長も経験しました。今後は研究開発のテーマリーダーがマーケティング出身でも良いかもしれません。

不確実性が高いけれど楽しみな未来に向かって

最後に、なぜ今のレゾナックに私のようなCTOが必要と思うのか。まず一つ目は、これからやることの青写真がすでに見えていることです。私はいつか世界と戦いたいと願いながら、今で言う「共創型」研究開発をこれまでも続けてきたので、やり方はわかっています。また私は事業部時代の大きなリストラという悔しい経験を経て、技術のゲームチェンジがどう起こるか、お客さまがそれらをどう使って新しいものづくりをするか、その変化のスピード感を知っています。二つ目はそこで培った変化の渦中での決断力を持っていることです。

あとは、得体のしれない自信と、おおらかさ、があることでしょうか。思想家フラーが提唱しスティーブ・ジョブスが憧れた「宇宙船地球号」に乗って、明るく前向きに、不確実性が高いけれど楽しみな未来に向かって一緒に進んでいきましょう!

 

最高技術責任者(CTO) 福島 正人

本記事は2023年7月発行の統合報告書「Resonac Report 2023」に掲載された「Leader's Letters」の転載です。
私たちが社会を変えていくためにどこを目指す姿としているのか、どんな課題があるのか、その先にどんな変革を起こそうとしているのか。レゾナックの経営陣の熱い想いをメッセージでお伝えしています。

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