レゾナックナウ

地元企業との共創でCO2削減を目指す。若きリーダーの挑戦

2023年12月21日

レールが敷かれていない道を歩いていく。
困難はつきまとう。
だが、信頼し合える仲間と一緒になって、また歩き始める。

今回のUNSUNG LEADER(知られざるリーダー)は、レゾナック・グラファイト・ジャパン大町事業所の村上颯(むらかみ はやて)。入社5年目の彼は、地元企業など、社内外の人を巻き込み、地域の未使用木材の燃料化という一大プロジェクトに取り組んでいる。

しかし、そこにたどり着くまでは、ひと山も、ふた山もこえなければならない試練があった。

「地域の木材を、地域で消費したい」
レゾナックの若きリーダーと、地元企業の想いが重なったことから始まった、共創のストーリー。

さまざまな用途に使われる大町の木

1本の大きなアカマツが切り倒された。長野県大町市の山中。全長30メートルに及ぶアカマツは、チェーンソーで切り込みを入れられると、自身の重さに耐えきれず、山肌に向かってあっけなく倒れていった。

地面に突っ伏した木を見つめながら、大町事業所でエンジ課とSDGs推進課を兼務する村上は語る。

「大町の木は、建築用材だけでなく、紙の原料となるパルプや、ボイラーの燃料となる木質チップとしても利用されています」

課題は事業所全体のCO2排出量削減

長野県北西部に位置し、標高3000メートル級の山々が連なる北アルプスの恵みを受ける大町市。自然豊かな場所に、レゾナック・グラファイト・ジャパン大町事業所はある。
広さは約70万㎡で、東京ディズニーランドの1.5倍ほど。1934年(昭和9年)に、日本で初めてアルミニウムの工業的生産に成功した事業所は今、市場シェアで世界トップクラスを誇る「黒鉛電極※」を主力製品にしている。

  • 鉄スクラップを溶解し鋼を生産する電気製鋼炉の電極として使用されている部材。
黒鉛電極 製品詳細新規ウィンドウで開く

そんな大町事業所には、課題があった。黒鉛電極を製造する際に発生する、CO2の排出量だ。
事業所全体の課題を解決するため、村上は、生産ラインの熱源として利用されるボイラーに目をつけた。

「昔のボイラーはCO2の排出量を削減する観点では導入されていません。ここを改善すれば、CO2の排出量を減らせると思ったんです」

レゾナック・グラファイト・ジャパン 製造・工務部 エンジ課 SDGs推進課 村上颯

長野県に生まれ育った村上は、小学生のころ国土の4分の1が国立公園や自然保護区であるコスタリカ共和国を訪れた。観光業を盛んにしながらも、自然と共生しようと取り組む現地の人たちに、心を奪われた。その思いを抱き続けたまま、大学では環境工学を専攻した。環境問題に強い関心を持ち続けている村上だからこそ、「CO2削減」という課題を前に、こう考えた。

大町の自然を活かすことはできないか——。

考えた末、化石燃料を使用する旧式のボイラーを廃止し、木質チップを使ったボイラーの導入を提案した。入社から3年が経とうとしていた2022年の冬のことだった。

「大町を核としたこの北アルプス地域には、見渡す限り、たくさんの木々があります。だから、木材を燃料にしたボイラーを導入できないかと思い立ったんです」

当時の上長のバックアップもあり、同年春には、地元の林業企業へのヒアリングを開始し、実際に山へ足を運ぶフィールドワークを始めた。

地元企業との「共創」のはじまり

今回、プロジェクトに参加した北アルプス森林組合の荻窪善明(おぎくぼ よしあき)さんと、企業組合山仕事創造舎理事の原田岳洋(はらだ たけひろ)さんに話を聞いた。

荻窪さんは「大町の地でずっと操業してきた企業が、このような取り組みをしてくれることが、何よりもうれしい」と話す。

北アルプス森林組合では、地域の森林から伐採される木材で木質チップを製造している。

レゾナックから声がかかった時の心境について、こう続けた。

「私の同世代のお父さん方は、多くの方がレゾナック(当時、昭和電工)に勤めていました。後輩や知人にも現在現役で働いている方が結構います。地域に根ざした会社が『やるぞ』と言ってくれているんですから、私たちも、頑張らないわけにはいきません」

原田さんも言う。
「多くの企業から木質チップを売ってほしいという依頼はありますが、実際に山へ来て実情を知ろうとする人は多くありません。村上さんは何度も何度も山へ来て熱心に話を聞いていました。信頼感がまるで違います」

山仕事創造舎は、「森林整備」によって生まれた木材を選別・販売することで、森林所有者に利益を還元している。

村上をはじめ、荻窪さん、原田さんも長野県の出身。郷土への思いと互いの信頼感が、地元企業との共創の推進力になった。

左から、山仕事創造舎理事の原田岳洋さん、北アルプス森林組合の荻窪善明さん

しかし、レールが敷かれていない道程には、やはり困難が待ち受けていた。

「木が足りない」という現実

「山に目を向けてくれるのは、本当にありがたい。でも、現実は厳しい」と、原田さんは表情をくもらせる。

「間伐することで、大きく育てたい木にしっかり光を届けるのが森林整備です。低いランクの間伐材は『木質チップ』にして、燃料やパルプ(紙の原料)に使用されます。しかし、実は県内で『木質バイオマス発電』を行っている発電所もあるので、木材が余っている状況ではないんです」(原田さん)

間伐はあくまで整備が目的のため、伐採される木には限りがある。

また、山にはヒノキやスギ、アカマツなど多様な品種が入り混じって育ち、中には病気になるものや、枯れて空洞ができるものもある。こうした事情から「毎年どれくらいの木質チップを提供できるか」を予想することは困難だという。

こうしてできた木材の多くは、大町市外で活用されていた。
つまり、木材はすでに“引く手あまた”で、簡単に調達できない状況だったのだ。

森の中で見つけた突破口

さらに、木材が地域で活用できないことには、大きな弊害があった。荻窪さんは語る。

「丸太や木質チップは、トラックに乗せられて大町市や北アルプス地域よりも外に運ばれます。この際、車の排気ガスという形で結局CO2を排出してしまう。地産地消できないものかと、ずっと思っていました」

「山、そして、現場で本当に困っていることは何なのかを理解したい」——。村上は何度も山に足を運び、課題を解決しようとした。
「若者が、何を茶化しにきているんだ」と、相手にしてくれない企業もあったという。大町近郊だけでなく、白馬や安曇野など、離れた地域の現場も訪ねた。

あるとき、村上は伐採現場の隅に避けられた大量の枝葉を目にした。

木をよく見ると、頂点に向かうにつれ、細く、針のような葉が生い茂っているのがよくわかる。集めると質量は幹と同じぐらいあるという。

「我々のプロジェクトでは、通常は使われていない『枝葉』の部分も活用しようと思ったんです」

新たな資源を活用するという村上のアイデアで、地元企業との共創プロジェクトは、具体化へ向けた歩みを始めた。

使われない枝葉部分は、森林のあちこちに放置されていた

地元に役立つ理想形を追求

現在、大町事業所は二つのスキームに取り組んでいる。
一つは、黒鉛電極の製造工程で発生する排熱を利用して、水分量の多い木材を乾かし、木質チップとして利用できるようにすること。もう一つは、チップ化した枝葉を投入できるボイラーの導入だ。
枝葉を燃料にすることができるボイラーは、外国から調達する計画を進めている。

「複数のボイラーメーカーにかけ合ったのですが『枝葉と幹の部分で、大きさも水分量も異なるため、稼働を安定させるのが難しい』と断られてしまいまして……。外国では、木質チップとともに、枝葉も使用することが当たり前になっていることを知ったので、当社の事業部全体で連携しながら、設計を進めています」

しかし、ボイラーを外国から調達することに関して、事業所内での意見は割れたという。

「でも、枝葉を使えなければ、大町でこの事業を推進する意味がない。木質チップの取り合いを激化させるのは、大町にとって何の役にも立たない。根気よく、社内を説得しました」

設計を進めているボイラーは、年間2000トン分の枝葉や木質チップを処理できる計算だ。
社内からは「もっと大きいボイラーをつくったほうがよいのでは」という意見もあったが、ここでも村上は「安定調達を続けていける最適な数値だ」と、説いて回った。現場を丹念に歩いたフィールドワークが、彼の言葉に説得力を加えた。

CO2排出量を40%削減

左から、北アルプス森林組合の荻窪善明さん、村上、山仕事創造舎理事の原田岳洋さん

旧式のボイラーは、これまで年間約9000トンのCO2を排出してきた。この量は約3500世帯の年間排出量に相当する。

木質チップボイラーは、2024年の12月から稼働する予定だ。並行して進めている、省エネルギー性に優れた「LNGボイラー※」を併せて活用すると、年間の排出量の約40%(約1400世帯分)を削減できるという。

  • 燃焼効率が高く、従来の重油ボイラーに比べて、省エネルギー性に優れているボイラー

「現在、大町市では街路樹の剪定で出た枝葉も、ゴミとして焼却しています。そういったものも、うまく活用できれば、さらによい循環が生まれると思っています」(荻窪さん)

「山には、木材生産のほか、渇水や洪水を緩和する水源かんよう機能、土砂災害防止機能など、さまざまな側面があります。そして、これらの機能は、人が手を施すことによって、さらに高められます。今回のプロジェクトをきっかけに、たくさんの人が、山に興味を持ってもらえたらうれしいです」(原田さん)

「20年、30年も先を見たとき、いまあるエネルギーが、必ず手に入るとは限りません。本当に余っているものを使って、そんなエネルギー課題を解決していきたいです」

レールのない道を歩く

共創の土台は整った。あとは、ここに何を植えていくのかを考えるだけだ。

「誰もレールを敷いていない道を歩いていくのが楽しい。右が違ったのなら、左に進めばいい。そうして、今後もいろんなことに挑戦していきたいですね」

今回のプロジェクトでは、ボイラーのエネルギー源として、枝葉や木質チップを活用する予定だが、バイオマス資源※にはさまざまな可能性があるという。

  • 動植物由来の再生可能な有機性の資源

例えば、地域の食品廃棄物を発酵させるバイオガス発電。廃棄物を有効活用できるだけでなく、その際に生まれる熱は、ボイラーのエネルギー源にもなる。こうした循環を回していけば、地域の資源を無駄なく使うことができ、持続可能な社会の実現がめざせるかもしれない。

彼の口からは、たくさんの夢が次々と溢れ出てきた。

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