レゾナックナウ

法政大 長谷川直哉教授に聞く「事業によるサステナビリティ貢献を可視化する重要性」

2023年08月22日

長谷川 直哉 :法政大学 人間環境学部 教授

レゾナックでは「サステナビリティを経営の根幹に据える」をテーマにさまざまな活動を展開しています。2023年は、統合前に進めていたSDGs貢献製品を見直し、新たなレゾナックとしてのパーパス・バリューを組み込んだ「Resonac Pride製品・サービス」を定義し、サステナビリティへの貢献を重視した事業活動への取り組みを進めています。
法政大学人間環境学部の長谷川教授に、本取り組みについてご意見を伺うとともに、サステナビリティと事業戦略に関するご知見から、レゾナックのこれからのサステナビリティ活動に対して大いにヒントを頂きました。
(2023年6月23日 当社会議室にて実施、社名・部署名・役職名はインタビュー当時のものです。)

関連リンク

──現在私たちが取り組んでいるResonac Pride製品・サービスに対する率直なご意見をお願いします

事業戦略とサステナビリティが一体化していることが大切
「Resonac Pride製品・サービス」は、レゾナックの事業活動を通じたサステナビリティへの取り組みを形にして見せてくれるものであり、我々ステークホルダーにとってとても分かりやすいです。B to B企業の中でも、化学・素材業界に属する御社の事業内容はどうしても外から見るとわかりにくい。よって、難しいとは思いますが、このような可視化の試みには是非チャレンジしていただきたいです。
そこで気を付けなければならないのは、この製品なりサービスが、会社の事業戦略の中でどのような役割を果たすのかについて説明できているか、という点です。事業戦略は素晴らしい、サステナビリティ戦略も素晴らしい、という企業は最近増えていますが、一方で、両者が統合され、経営としてひとつになっているケースはなかなかない。しかし御社については、事業戦略とサステナビリティが「化学の力で社会を変える」というパーパスのもと、しっかりと結びついていることが統合報告書の説明を読むとよくわかります。私も、日本の企業がその技術力で社会を変えていくことはとても大事なことだと思っており、御社のパーパスに非常に共感を持っていますので、御社にその役割をしっかり担って頂きたいと期待しています。

継続的な社外との対話は社員のモチベーション向上に役立つはず
また、このような製品・サービスは、作って終わり、ではいけません。世の中でどのような役割を果たしているか、御社の意図する形で社会に貢献しているのかについて、是非、検証する場を設け、その内容を広く開示していただきたい。また、お客さまを含めたステークホルダーからのフィードバックを得て、自社製品がどのように受け止められ、実際に活用され、役に立っているかを確認したら、その内容は社内でも共有すべきと思います。
特にB to B企業は、製品が最終消費者に届くまでにさまざまなステークホルダーが関わっているため、その製品が実際にどのような形で社会とつながっているかが見えづらいです。それは社外のみならず社内でも同じです。社員の皆さんがお客さまだけでなくその先のステークホルダーの声を聞くことで、何を期待されているかを知ることは、開発や営業現場でのベンチマークの一つになるのではないでしょうか。また、自分たちの製品が社会の役に立っていると具体的に聞くことは、社員の皆さんにとってモチベーション向上につながるはずです。何か負の影響が生じそうだという兆候がわかることも、改善につなげられます。
私も大学で教える前には企業勤務の経験もありますが、企業の中から見て考えて作ることと、一度外に出て見える景色はかなり違います。「アウトサイドイン」という言葉で表されることもありますが、要するに、鳥の目で外から俯瞰して眺め意見を聞くことで、製品の使われ方やその後の姿が見えてきて、次にすべきことが見えてくる、ということです。

オープンな選定プロセス、オープンな継続対話を
そうすると、Resonac Pride製品の認定プロセスも大切になります。策定した基準に基づいてどのように選定し、認定したかといった審査のプロセスはもちろん、その製品に込めた価値観や、B to C企業なども含めて他社と一緒にパーパス「化学の力で社会を変える」を実現するという企業姿勢がどのように製品の完成やマーケティングに反映されたのか、といったあたりも含めて見せていただくと、非常によいと思います。審査会に有識者など第三者を招くことを考えているとのことですが、いっそ、認定も継続的に行うステークホルダーとの対話もオープンにしてもいいかもしれません。
B to B企業は、社会のインフラであり、屋台骨を支えています。このような業態の企業が積極的に社会に関わっていこうとしていることや、技術の社会への貢献を発信することを、Resonac Pride製品などを通じて御社の進む方向性として示して頂けるとステークホルダーにとってもとてもありがたいことだと思います。

──今後の私たちの事業を通じたサステナビリティ推進活動に対するアドバイスがあればお願いします

積んだ「徳」を社会に発信することが必要な時代~稼ぐ力とサステナビリティの交差する未来へ
23年1月に社名変更をされましたが、まだまだ、レゾナックという名前にはなじみがなく、社会でも、社名を聞いて何をしている会社かイメージできる人は少ないのが現状ではないでしょうか。一方でこれはチャンスですから、レゾナックが目指す、サステナビリティ活動を通じた社会での立ち位置をアピールしていかれると良いと思います。
BtoB企業は一般的に、わかりづらいという特性もあり、なかなか表にでる機会がなかったと思いますし、日本企業らしく「陰徳を積む」感覚もあって今まではそれでよかったかもしれません。しかしこれからは、社会において役割を発揮するためにも、積んだ「徳」を社会に発信していくことが必要な時代です。
日本では、また世界でも、まだまだ稼ぐ力とサステナビリティを別々に捉える企業や人が多いです。しかし、縦軸に稼ぐ力、横軸にサステナビリティがあるとすれば、それが融合した45度の線上の先に描けるのがパーパスを踏まえた目指すべき企業像であり、サステナビリティと事業戦略が統合した形の今後のロードマップになるのではないでしょうか。 審査員等の役割で、私も毎年非常に多くの統合報告書を読みますが、この点について読むだけでイメージできることはほとんどないです。組織としても、経営戦略を担当する部署とサステナビリティ部が別々に運営され融合していないケースが多いと思います。レゾナックがこの点について新たに挑戦しているならば、それも訴求できるはずです。

レゾナックの人的資本経営に向けて~“岩盤”ミドルマネージメントに対するリスキリングが必要
レゾナックにもとても優秀な若手社員がいると思いますが、これからは、そういう人たちがどんどんやりたいことをやれる場づくりが大切です。そのための最優先事項は、彼らの活躍への障害になっている、いわゆる“岩盤”となっている課長、部長層の価値観を変えていくことではないでしょうか。企業の経営陣への研修をするとよく、若手をどう育成していくかについて質問されますが、20世紀の成功体験を持っており、例えば稼ぐことにサステナビリティは関係ない、あるいはむしろ不要と考えている中高年層にこそ、そのような価値観を変えて若い人のやる気を後押しできるようになるためのリスキリングが必要とお話ししています。

企業が多様性を活かしていくためには
また、レゾナックは共創型会社になると言っています。そのためには、企業同士のパートナーシップも大切ですが、それには人と人とのパートナーシップが必要であり、人材の多様性は前提条件です。多様な人材が活躍できる環境をつくるのが経営の役割と考えますが、それには何をしたらいいか。
例えば、まずは取締役会です。日本政府が30年までに女性比率を30%にするとの方針を出していますが、それがすべてでもないと思います。男性でも女性でも、多様性を持った人が社外取締役になることが重要なのです。
レゾナックの取締役会構成を拝見すると、まだ改善の余地があると感じます。レゾナックだけではなく、多くの日本大企業に当てはまりますが、企業経営の経験がある方々が社外取締役として就任する形での多様性が高まる一方で、多くが1社のみを経験して社長になった方々であり、出身母体の価値観や成功体験にしばられがちとも言えます。複数以上の企業・業界での経営経験や、NPOや公的機関など、異なるフィールドでの経験を有する人を迎えるといったことも今後は必要になってくると思います。 そして、現役員向けには、前述の通りのリスキリングも必要でしょう。 そのようなトップダウンでの取り組みを進めつつ、若手が活躍できる環境をつくっていくことも大切です。

モラルやモチベーションはお金では買えない
人的資本経営という言葉がよく言われるようになっていますが、実際に行うのはとても難しいことです。企業経営者とお話をするときに、よく納得いただくのは、スキルはお金で買えるが、モラルやモチベーションはお金では買えない、ということであり、後者を高めるのが企業経営者・役員らに課せられた使命であるということです。 例えばトヨタでは、幸せを量産することがトヨタフィロソフィーと定義しました。そしてそのために「他社の目線でものを考えることができる社員をつくる」ことが社長の役割と宣言しました。
レゾナックも、すでに取り組んでいる通り、共創型化学会社になるための共創型人材の育成を意識した人的資本の形成に引き続きご努力いただくと良いと思っています。
期待していますので頑張ってください!

動画版:RESONAC Here We Go ! 大学教授との対話「Resonac Pride製品・サービス」(約4分8秒)

関連記事