レゾナックナウ

脱炭素の切り札、ケミカルリサイクルを世界に発信する

2023年05月19日

使用済みプラスチックをホテルのエネルギーにする。

捨てられた服を新品の服に蘇らせる。

今回のUNSUNG LEADER(知られざるリーダー)は基礎化学品事業部 企画部 事業企画グループの大神田仁。

レゾナックが進めるKPR(KAWASAKI PLASTIC RECYCLE)事業の広報、そしてリブランディングを担う大神田は、プラスチックリサイクルで生みだされた、環境負荷の低い製品をどう普及させるか、の戦略を考えている。

KPR事業にかける思いと、その背景を聞いた。

ゴミ分別が徹底している日本には大きな可能性がある

ジュースを飲み干し、カラになったペットボトルを機械に投入する。とある、スーパーの一角。

まもなく、機械のディスプレイに「0.25」と表示された。機械から出力されたレシートをレジへ持っていく。すると、その場で25セント(約30円)が返金された。

2022年の春。大神田仁がドイツに滞在していたときの出来事だ。

「ドイツでは、政府主導の環境配慮の仕組みづくりがとても進んでいると感じました」

ドイツでは、ペットボトルや缶、瓶などの飲み物を購入する際「PFAND(ピーファンド)」が加算される。これは、容器のデポジット(保証金)のことで、返却すればその分のお金が戻ってくるシステムだ。週末は、カラの瓶やペットボトルを抱えた人々が、回収機の前に列をつくることもある。

店内の商品に、製品が発売されるまでの温室効果ガス排出量に応じて、AからEの5段階でラベル表示をするスーパーもある。

「でも、ドイツより日本のほうがゴミの分別などはしっかり行っていると感じました。この分別されたゴミをきちんと回収し、リサイクルできる仕組みがあれば、瓶やペットボトルはもちろん、使用済みプラスチックや使用済み衣料など、日本には大きな可能性があると思うんです」

インタビューに答える基礎化学品事業部 企画部 事業企画グループの大神田仁

ケミカルリサイクルでホテルのエネルギーをまかなう

いま、「ケミカルリサイクル」が注目を集めている。ケミカルリサイクルとは、使用済みのプラスチックを分子レベルまで分解し、ほぼ全量を新製品として蘇らせる手法だ。

プラスチックのリサイクル法はこれまで、「マテリアルリサイクル」が主流だった。マテリアルリサイクルでは、プラスチックを一度溶かし、再びプラスチックとして再生する。しかし、破棄されたプラスチックを利用するため、小さなゴミなどの異物混入は避けられない。プラスチックとして再生するたびに、品質が劣化してしまうのが課題だった。

一方、ケミカルリサイクルは、化学的分子レベルにまで成分を分解するため、不純物が混ざらず、新品同等の製品ができあがる。さらに、塩化ビニールなどさまざまな種類のプラスチックを選別の手間をかけずに処理できることや、化学原料などプラスチック以外の製品へ転換できるのも、大きなメリットの一つだ。

レゾナックは他社に先んじて、2003年に国内最大級のケミカルリサイクルプラントを立ち上げた。それがKPR(Kawasaki Plastic Recycle)事業だ。使用済みプラスチックを熱分解し、炭酸ガスや水素、アンモニアなどを製造している。できた水素は、燃料電池などのエネルギーとして利用され、アンモニアは、炭素繊維やアクリル繊維、ABS樹脂などに生まれ変わる。

2018年6月には、ホテルで使用する電気や熱エネルギーの約3割を水素でまかなう、世界初の水素ホテル「川崎キングスカイフロント東急REIホテル」が誕生した。2023年3月には、大手総合商社の伊藤忠商事と組み、使用済み衣料や使用済みプラスチックからアンモニアを生産することを発表した。これらのトピックは、メディアでも大きく取り上げられた。

「私が所属する基礎化学品事業部って、会社の中では縁の下の力持ちのような存在なんです。それなのに、新聞にも大きく掲載されたので、びっくりしました。でも、仕事の励みになります」(大神田)

ホテル前に設置された燃料電池。(ホテル内の3割の電力を水素でまかなうことでCO2を削減する実証事業を2022年3月迄実施。2023年内に燃料電池を改めて導入し再度水素を供給予定)

生産現場を知り、専門性を高め、スペシャリストになりたい

大神田は2014年4月、レゾナックに入社した。

「神社の鳥居ってプラスチックから作られていたりするんです。うちの製品が入っているみたいで。面接のとき、そのような話をいろいろ聞いて、おもしろいなって。『裾野が広い会社だなぁ』と感じたんです」

金融関係を中心に就活をしていたが、面接後にレゾナックへの入社を決意した。入社にあたって生産管理の部署を希望した。生産管理は、原材料の調達や管理、工場の生産計画などの業務を行う部署だ。

「面接の際、化学業界には、樹脂のある分野のことならなんでも知っているといった有名な『その分野のスペシャリスト』がいるという話を聞きました。将来はそんな特定分野でのスペシャリストになりたいと思っています。だから、勉強のために、まずは生産現場を知ろうと考えました」

水素ホテルプロジェクトにも、生産管理という立場で参加した。ホテルへ届ける水素の生産計画を立てることに苦労したという。

「水素って、すごく密度の低い気体で、在庫を持ちにくいんです。イメージとして、巨大なタンクを用意したとしても、1日分もストックできません」

レゾナックの川崎事業所とホテルをつなぐパイプラインで水素を送る。たくさんつくってストックしておくのが難しいので、何かの要因で供給量が少なくなると、パイプライン内の圧力が低下し、ホテルへの供給に支障がでる可能性がある。水素を生産するプラントの状態をリアルタイムで確認し、需要と供給のバランスが崩れたら、ただちに稼働量を調整する必要があった。この業務を大神田は担った。

ドイツでの業務で得た実感

2014年から2021年にかけて、大神田は川崎事業所の11課ある製造課のうち、ほとんどの製造課の製品で生産管理の経験を積んだ。その矢先、社内でドイツでの実務者研修を募集している話を聞いた。

「ちょうど事業所の生産管理業務をほぼ一周した後でもありましたし、これからもう一段、自分のキャリアアップをするにはいい機会だと思いました。迷うことなく応募しました」

ドイツ滞在中、印象に残っていることがある。

まずは、先の、ペットボトルや空き瓶などにデポジットを加算するPFANDシステムや、環境配慮レベルのラベル表示。

もう一つは、実際の商談の場で起きた。ある日、手術用の手袋や接着剤などに使用される、クロロプレンゴムの新製品提案に同席したときのこと。提案先の会社が、非常にスピーディーに採用に向けて話を進めてくれた。

「日本では、新しいものを導入するにあたり、社内の稟議を通すなど時間がかかるイメージです。でも、ドイツでは、その製品がどう改良されたのかをきちんと説明すれば、『よいものはすぐに取り入れる』という土壌があると感じました。」

ビジネスのスピード感の違いに驚くとともに、きちんと良さを伝えることがお客さまや社会を動かすということを実感したという。この経験が新天地で生かされることになる。

肌で感じた「KPR需要」の高まり

2022年9月、ドイツから帰国した大神田は、基礎化学品の事業企画グループに配属され、KPR事業の広報の役割を任された。

「KPRがスタートしたのは2003年。私が入社するより前のことです。だから、KPRの広報担当をすると聞いたときは『これまでずっと行ってきたことなのに、なんでこれから力を入れて広報をするのだろう』というのが、率直な感想でした」

ところが、大神田を驚かせる出来事が相次いで起きる。

2023年3月、大神田は東京ビッグサイトにいた。レゾナックは展示会「ゼロエミッション火力発電 EXPO~ZET~」にKPRに関する展示をしていた。大神田はその説明役だった。

「当社のゴミはKPRで処理できますか?」

「ベッドで使っている樹脂をなんとか効率的に処理したいんです」

「CO2を出さずに原料包材を処理できる方法はあるのでしょうか……」

大神田は国内外のさまざまな会社から使用済みプラスチックの再利用について、矢継ぎ早に質問を受けた。

「お客さまの中には『カーボンニュートラルを検討する部署』の方もいらっしゃいました。4、5年前には、そのような専門部署なんて、各社に存在しなかったと思うんです。脱炭素社会の実現に向けて、KPRの需要の高まりを感じました。」

KPRの事業内容も、工場の中身も、20年以上前から大きく変わっていない。だが注目が集まっている。

使用済みプラスチックはまず低温ガス化炉で分解ガスとなり、
高温ガス化炉で合成ガスに性質が変わる

「これまで私たちが地道に行ってきたことが、ようやく日の目を浴びているということだと思います。時代が追いついてきたんだと感じます。レゾナックのKPR 事業がいかに先進的で素晴らしいかということをしっかり広報していきたい。騒ぐなら、いまなんです」

都市に眠る“鉱山”を発掘し、有効活用したい!

展示会が開かれた直後には、レゾナックが伊藤忠商事と共同で、捨てられた服からアンモニアを生産する「ARChemia(アルケミア)プロジェクト」が発表された。レゾナックは、同プロジェクトで回収した衣料から繊維原料をつくり、蘇らせた衣類を再び回収する循環モデルを検討している。

「新しい服をつくるだけでなく、KPRで使用済み衣料を水素やアンモニアにしていけば、本来水素やアンモニアの製造に使われるはずだった化石燃料の使用を削減できるので、日本の資源自給率を向上させられる可能性もあります」

日本では、石油や天然ガスといった化石燃料は、ごくわずかしか採掘できない。そのため、それらの資源の大部分を、中東などからの輸入でまかなっている。一部の国への依存は、政情の影響を受ける地政学リスクと常に隣り合わせだ。実際、いま水素やアンモニアを生産する際に一般的に使われている天然ガスの価格は、昨今のロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて高騰している。

しかし、使用済み衣料やプラスチックゴミは、地政学リスクの影響はほとんどない。しかも、都心部には有効活用されていないこれらの資源が、まだまだ大量に眠っている。衣料を例にすると、日本では、国内生産と輸入を合わせて、年間約82万トンの衣類が新たに市場に投入されている。そして、その量の6割前後に匹敵する衣料が、毎年捨てられている。

「このような資源は『都市鉱山』と言えると思います。この眠った資源を有効活用するのが、私たちの役割だと思っています」

KPRのマスコット「けぴあ」と一緒に

環境配慮が「見える化」される時代を見据えて

大神田はいま、KPRから生み出されるアンモニアのブランディングに頭を悩ませている。レゾナックが現在販売している「環境調和型アンモニアECOANN(エコアン)」をどうリブランディングするか、だ。

アンモニアは燃焼時にCO2を一切出さない燃料であり、火力発電のカーボンニュートラルの切り札として注目されている中、ECOANNをどのように位置づけ・差別化していくかを考えていかなければならない。

「ドイツでは一部の商品でエコスコアとして実際に取り組みが進んでいますが、日本でも将来、『カーボンフットプリント』を表示する会社が増えていくと思います。KPRから生み出されたアンモニアは将来的には『100%プラスチック由来のアンモニア』『使用済み衣料由来のアンモニア』といった形でお客さまのニーズに合うよう売り分けることも考えています。」

  • カーボンフットプリント=商品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルの過程で排出された「温室効果ガスの量」をCO2量に換算して表示すること

カーボンフットプリントを表示することになれば、消費者に製品を提供する各メーカーはよりCO2排出量が少ない原料を求めることになる。例えば、シャツ1枚を生産するにあたって、化石燃料でつくられた繊維原料と、KPRによってCO2の排出量を大幅に減らした繊維原料があれば、レゾナック製が選ばれる可能性が高くなる。

大神田は、使用済みプラスチックや使用済み衣料由来のアンモニアの含有量、つまり、地球にやさしい成分をニーズによって振り分けて販売していきたいと考えている。

「付加価値をしっかりと市場に評価していただきたいです。実は、ECOANNも、他社の化石燃料由来のアンモニアも、環境への配慮性で価格はそれほど変わらないのが現状です。でも、レゾナック製のアンモニアの付加価値が認められれば、市場から優先して選ばれるようになるはずです。そうした差別化が実現すれば、利益が生まれ、さらにケミカルリサイクルを普及させることで地球環境問題へ貢献もできる、という好循環が生まれると思っています」

KPRに吹く追い風を肌で感じている一方、大神田は事業の合理性を冷静に客観視している。

「だから、この波に乗り遅れるわけにはいかない」。

最後は、笑顔で結んだ。

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