世界的半導体メーカーや各国政府も注目する材料開発拠点に迫る
レゾナックは、なぜ半導体製造ラインをすべて揃えたのか
2023年11月22日
半導体産業が凋落して数十年と言われる日本ですが、世界トップクラスの半導体メーカー関係者や各国政府関係者もが訪問する施設が神奈川・新川崎にあります。レゾナックの「パッケージング・ソリューション・センター」。半導体製造プロセスのうち、「後工程」と呼ばれる半導体ウェハーをパッケージに組み立てる工程の製造装置をすべてそろえ、材料開発を進めている拠点です。材料メーカーは、半導体パッケージそのものをつくる必要はないのに、なぜわざわざ1台数億円もする装置をすべてそろえたのか? 2023年1月にセンター長に就任した畠山恵一さんにその狙いや現状を聞きました。
「後工程全体を俯瞰して性能評価できる施設は他にない」
半導体産業を大まかに説明すると、設計、製造、装置製造、材料メーカーなどがあり、材料メーカーは半導体パッケージを製造するメーカーに製品(材料)を納めることが役割です。
本来なら、材料メーカーに半導体パッケージを製造する装置は必要ありません。しかしレゾナックは、後工程の半導体パッケージを製造する装置を揃えています。なぜでしょうか。
「半導体メーカーが求める基準をクリアする良質な材料をつくるためには、後工程の製造環境を再現することが必要だった」と畠山さんは説明します。
半導体チップを基板の上に並べ、「パッケージ」に組み立てる後工程ですが、その過程では思わぬ反りや割れが起きることがあります。しかし、後工程はいくつもの工程を重ねていくため、原因が正確にわからないこともあります。ある工程で特定の材料を使ったことに問題がなくても、次の工程で他の材料との組み合わせや工程の条件が原因でトラブルが発生することもあります。
「だから私たちは、後工程に必要な装置一式をセンター内に設置して、実際に組み立ててみて、どの工程でどのようなトラブルが起きるのか、工程の間でどんな変化が起きるのか、が把握できるようにしました。後工程に必要なほぼ全ての設備を備えているので、工程全体を俯瞰できます。このように一気通貫で材料の性能評価をできる施設は、ほかにはないと思います」(畠山さん)
15tの装置も配置できる特別仕様空間
実際にパッケージング・ソリューション・センターをのぞくと、そこには後工程の製造装置が数十台あります。どれも巨大なものばかり、とても材料メーカーには似つかわしくありません。中でも半導体の基板を封止する際に使う機械の重さはなんと15t。これほど重たい機械は普通、ビルの3階には置けません。
「ビルの設計段階からかかわっていたので、施工する会社にお願いして、1㎡当たりの耐荷重を非常に高くしてもらいました」(畠山さん)
一般的なオフィスビルは1㎡当たりの耐荷重が300kg〜500kgですから、センターはかなり特別仕様です。特別なのは、耐荷重だけではありません。
施設内には「クリーンルーム」もあります。半導体の製造過程ではわずかな微粒子があるだけで作業の支障になります。そこでセンター内には、微粒子が入り込まないよう設計した「クリーンルーム」が合計4区画、計1500㎡あります。多くの部屋は米国連邦規格の「クラス1000」※ですが、半導体チップやパッケージを基板に接続する「再配線」の工程はより精緻な作業になるため、より気密性が高い「クラス100」の部屋を装備しています。
- ※ クリーンルームのクラスの数字は、空気1立方フィート当たりに存在する0.5μm以上の粒子の数。数字が小さいほど微粒子の数が少ないことを意味する。
耐荷重に考慮した床、高い水準のクリーンルーム……。そして大型の装置は1台数億円もする高額なものが多くあります。半導体メーカーが必要とする「信頼性の高い」材料を生み出すためには、真のトラブルの原因を自分たちで探るしかない。そんな思いから、この常識外の拠点は2018年に生まれました。その前身のプロジェクトが1994年に茨城・つくばで始まってからこれまで、世界トップクラスの材料開発を支えてきました。
この数十年、日本の半導体メーカーが次々と事業を撤退するなか、レゾナックは後工程の材料分野で世界トップシェアを持っています。売り上げ規模は1850億円超。2位以下を圧倒的に引き離しています。その力の源のひとつがここにあると同時に、それだけの売上が世界中であるからこそ、この最先端の研究施設への投資を続けてこられたのです。
半導体メーカーとの共創の場
センター内で材料の性能評価ができるので、材料の開発スピードも上がります。大手の半導体メーカーの中には、レゾナックの技術者と一緒にセンター内で半導体の技術革新に取り組む会社もあります。
「半導体メーカーには他社の材料を持ち込んでもらっても結構です、と伝えています。まさにセンターは、オープンイノベーション・共創を進める場になっています」(畠山さん)
2つのメインターゲット
センターでは、他社と共創するオープンイノベーションに加え、製造ラインを生かしたレゾナック独自の材料開発も進められています。レゾナックには縦方向に半導体素子を接続する積層技術や、横方向に接続する微細配線技術などがあります。
多くの材料を開発していますが、中でも注力しているものが2つあります。
ひとつは、メモリやプロセッサーなどが接続されている基板「インターポーザ」です。半導体の性能を左右する次世代パッケージを構成する重要な部材(パーツ)です。
もうひとつは、異なる機能を持ったチップを基板に積んでいく「チップレット」技術です。おもちゃのブロックのようにチップを基板に載せていくイメージです。次の技術革新はチップレットで起きるとも言われていて、各社が力を入れている重要材料です。
次世代の半導体技術を実現するため、あらゆる方向からの模索が続いています。
畠山さんは「1月の就任あいさつで、みなさんの強いところを集めたい、という話をしました。広く浅い知識ではなく、より深い知識・技術を集めて”壁”を突破したい。センターの研究員たちが連携しやすい空気をつくるのが私の大事な役割の一つだと思っています」と話しています。
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