成長事業に舵を切れ。稼ぐ力を強化する「選択と集中」
2024年07月31日
※本記事は2024年7月発行の統合報告書「Resonac Report 2024」の転載です。
当社はポートフォリオ改革を進め、半導体材料事業に大きく舵を切ることを決断しました。その必然性とレゾナックが稼ぐための戦略、さらに認識しているリスクとそれらに立ち向かう覚悟について、エレクトロニクス事業本部長、CFO、CSO/CROが、それぞれの立場と役割に基づき、語り合いました。
半導体材料への集中と、ポートフォリオ改革
染宮:まず、当社全体としての“稼ぐ力”の創出にあたり、ポートフォリオ改革についてお話しします。我々は、コア成長事業の半導体材料に大きく舵を切っていくという強い意志を持っており、実質統合した2022年からの2年半で、その意志をポートフォリオ改革の進捗によって示すことができつつあると考えています。まず、旧昭和電工の事業が従来、それぞれまとまりなく運営されていたところから、事業の位置づけによって、コア成長事業、安定収益事業、基盤事業、次世代事業の4つの属性を設け、役割や求めるものを明確にしました。現在に至るまで、さまざまな環境変化がある中、各事業が役割を全うするための構造改革や施策を、スピーディーに講じてきたところです。
真岡:当社のポートフォリオ運営方針に基づき、事業売却もやれることをしっかりと行ってきました。この2年半で計9つの事業を売却しましたが、必要案件に対して全て思い切ったスピードでできたかというと、市場環境や内部的な要因でそうとは言い切れません。石油化学事業の再編やライフサイエンスの戦略的オプション検討は道半ばであるなど、まだ積み残しはある状態です。
染宮:レゾナックのポートフォリオ改革やポートフォリオそのものの価値が、資本市場からどう評価されているかという側面を捉えることも重要と考えています。2022年度から開示セグメントにおける半導体・電子材料セグメントをしっかりと定義して、エクイティストーリーがしっかりと伝わるよう開示セグメントを再整理しました。山下さんが主導する事業本部の製品や技術的革新、真岡さんのメディア戦略、そして私とIRチームによる投資家への訴求も相まって、最近ようやく、総合化学や黒鉛電極銘柄ではなく、「やっぱりレゾナックって後工程を中心とする半導体材料銘柄だよね」という認識が広がりつつあります。我々のポートフォリオ改革に、外部からも理解が進みつつあるということを感じています。
真岡さんの言うように"積み残し"の中で、石油化学事業については今年パーシャルスピンオフの検討を開始しました。事業の特性が異なる半導体材料事業と石油化学事業が、それぞれ適正な市場評価を獲得することを目指します。これら事業ポートフォリオの改革にリソースを一定量割く必要があると課題認識しており、必ず早期にめどをつけて、より半導体材料事業の戦略展開にリソースをかけていきます。
真岡:過去からの比較という意味では、半導体材料メーカーとしてのレゾナックのイメージは、築けてきたと思っています。ただ、例えば半導体装置メーカーのメジャープレーヤーと同じ位の認知度にはまだ到達していないと考えているので、「名前を聞いたらどこのどういう会社か、一発で分かる状態」をまだまだ目指していきたいです。それが本当に我々のいるべきところであって、コングロマリットディスカウントの低減にも通じていくと考えています。
山下:半導体材料がこれだけ注目を浴びて技術的な進化も早い中で、1社だけで社会や顧客の要求に応え続けることは難しい。我々が主体的に共創コンソーシアムを作り業界をリードしていくという観点においても、染宮さんや真岡さんの言う、ステークホルダーの皆さまに対して分かりやすく発信するということが重要であると、改めて今感じています。
真岡:改めてなぜ当社が半導体か、ということに対しては、やはりパーパスが「化学の力で社会を変える」であり、化学の力である当社の技術をコアとして、半導体という用途にそれを適用して利益を出せるからだと考えています。そのためには、半導体材料以外の出口や基盤技術、計算情報科学研究センターのような共通インフラも必要です。
現在、半導体前工程における技術革新が限界を迎えつつある中、半導体の性能アップのカギを握るのは後工程です。後工程材料のラインアップをそろえる当社にとっては半導体材料に舵を切ることが必然的。AI革命がこのタイミングで生じている偶発的な状況も、我々にとっては追い風となっています。
山下:半導体は産業のコメといわれているように、今非常に需要が旺盛なAIだけでなく、今後IoT、医療、自動運転など、あらゆる産業に出口があり、当面当社が半導体材料にかけていくことは間違っていないと思います。半導体市場は、一般的に6〜7%のCAGRだといわれている中で、当社はそれを上回る成長性を実現する製品ラインアップと立ち位置を既に陣取りできたと考えています。
真岡:半導体材料業界は、ビッグプレーヤーが多くいる装置やデバイス業界とは違い、あまりにも多くの小規模プレーヤーが分散して存在しています。その中で、レゾナックはスケールを取りに行くという動きを最初にできていて、業界再編を主導していける立場にいると考えています。
勝ち続けるための、半導体材料事業の戦略・共創
山下:ここからは半導体材料事業の"稼ぐ力"について掘り下げていきたいと思いますが、我々の考える戦略においては、まず先端半導体材料で勝ち続けていくことが、絶対に必要だと思っています。2025年のEBITDAマージン30%以上の実現には、付加価値の高いものを作ることが必須で、どんな製品でもいつかはコモディティ化していく中で、持続的に新製品を生み出していく開発体制をどう構築していくかが本当に大事であると考えています。具体的にいうと、社会やお客さまが求めているニーズを素早くキャッチして開発につなげ、誰よりも早く、いいものをマーケットに出していくということだと考えています。
真岡:顧客ニーズという面では、AIという世界を変えるテクノロジーへの欲求はとても強いと感じています。ソフトウエアの能力の成長スピードに、ハードウエアの能力の成長が全然追いつけていない。AIのサービスを展開したい人たちのニーズを、ハードウエアが数も質も満たせていない状況で、その最中、いわゆるハイパースケーラーであるGAFAMと呼ばれる人たちが、自らGPUやCPUといったハードウエアを作る動きにつながっているのも、潮目の変化です。
山下:そういう意味では、米国を起点に技術の流れがつくられていくと見ていて、シリコンバレーに川崎市に次ぐパッケージングソリューションセンター(以下、PSC)を作り、そこでUS-JOINTと呼んでいるコンソーシアムを立ち上げるという戦略は、お客さまのニーズをいち早くキャッチする上で理にかなっていると考えています。コンソーシアムとしては、既に当社が主導するPSC(川崎市)でのJOINT2、参画を決めているTIEやSATASを通して、単独では難しいことを他社と共創してやっています。情報戦の側面でも、これらの取り組みによりお客さまや共創するパートナー企業などからの情報量が圧倒的に多い当社は有利であると考えています。
真岡:PSCやJOINT2による共創は、先手を打ってデファクトを取るための活動でもあります。スイッチングコストの面からも、やはり最初に採用されることが重要ですし、みんな個別の仕様をつくってしまうところを、こういったコンソーシアム活動を通して、この材料を使っておけば懸念なく市場要求を満たせる、という形にもつなげたい。
山下:お客さまのニーズとして、材料の要求数量が増えていくことも見通しています。チップレット化による基板の大型化に伴い、銅張積層板の使用面積は増加する上に、基板の反りの問題を考えれば基板の厚みも増してきます。また、3D-NANDの積層化が進むとCMPスラリーの使用量も増加していく。そして、HBMのチップ積層が進めばNCFの使用量も増えていく。こんな構造で、チップの数よりもそこに使用される当社の材料の量が確実に増えていきます。
そこで開発だけでなく、お客さまの需要拡大に応える供給体制の整備も重要です。特にAI関連製品の急激な需要の伸びに対し、お客さまから供給不安の声もあり、先手を打って能力を増強していかなければならないと考えています。具体的には、直近、急激に伸長しているAI関連デバイスに使用されるNCFやTIM材(熱伝導シート)などを検討しています。
同時に、開発や製造を担う人材の獲得と育成も重要と考えています。半導体のビッグメーカーが日本で研究開発拠点を立ち上げる中、当社としても人材流出を防止するとともに、新たな人材を獲得するための施策を打っていかねばなりません。研究開発拠点である共創の舞台(横浜市)やPSC(川崎市)の立地を活かし、その活動成果を広くアピールすることで多様な人材を採用し、その育成にも力を入れていきます。
真岡:それはとても重要なポイントですね。我々みたいな材料メーカーや、装置メーカーから、デバイスメーカーに人が引き抜かれるようなことが日本だけでなく世界で起こっています。どこと人材の取り合いをしてるのか、再定義と対応も課題の一つです。
染宮:ようやくレゾナックも、半導体関連銘柄と見なされるようになってきた中で、当社でも導入したエクイティインセンティブ報酬の仕組みを、山下さんの戦略に沿ってセットしていくことも、喫緊の課題と思っています。
山下:半導体業界には、デバイスメーカーがあってその下に装置メーカーがあり、材料メーカーが1番下というような序列らしきものがありました。それは、今までの後工程で使用される材料は半導体の性能向上への影響も少ないことがあったからかもしれません。しかし現在は、後工程における技術革新も半導体の性能向上に大きく貢献するようになってきました。
真岡:半導体後工程でイノベーションを起こそうという意識が出てきた中で、これまでの前工程におけるイノベーションのように装置中心でできるかというと、なかなか解けない問題が多い。特にパッケージ自体が相当小さくなってきている上、熱や振動、電気特性など、複数の問題を同時に解かないといけなくなっています。それを同時に解くことができる材料に対する期待値は高く、材料メーカーや当社のプレゼンスを向上していくチャンスと考えています。
染宮:後工程材料のラインアップ数を多くそろえる我々が、JOINT2含めて後工程の中でリーダーのポジションにあるという認識の広がりも実感しています。山下さんが紹介したUS-JOINTにも、TOK*1やナミックス*2など、多くの企業が賛同して入ってくれています。レゾナックが、PSCやJOINTの取り組みを通じて、パッケージの構造の将来ロードマップを示していくことで、材料メーカーは使われるボリュームや品数の多さだけでなく、技術に見合ったもっと高い値付けができるようになる。これから10年かけて、もっと材料メーカーが付加価値を得られる時代を築いていけると私は信じています。
当社の取るべき道は、現在後工程中心で技術革新が起こっていく中で、その主導権を握っていくこと。そのためには、現場が考えていく部分だけでなく、業界全体を俯瞰した大きな動きにも目配りをしていかなければなりません。我々にとってのミッシングピースとなる材料はいくつか認識していて、ある程度の市場規模を狙うには、そういったピースをいかに埋めていくかという点も考えていく必要があるように思います。さらに、当社の脅威になるような、新しい技術の導入も想定し、現状の延長線ではない次の仕込みを考えていきます。
リスクの認識と対応
真岡:まず地政学リスクについては、昨今半導体工場を自国内に作ろうという動きがありますが、それがサプライチェーン全体を捉えた上で経済安全保障の解決策になるのかを、冷静に見極めていきたい。その上で、当社としての打ち手を検討していきます。中でも、特に米中のサプライチェーンの分断が進む可能性が高いことに対しても、米国に工場を作れば良いという問題では恐らくなく、事業運営上コストについても見極めながらの対応が必要です。
山下:どこまでリスクが顕在化するかは見定める必要があるとして、現実論、いろいろなお客さまからのBCP対策などサプライチェーンに関する要求は強まってきています。米中デカップリングによる影響も顕在化していますし、不測の事態が起きた場合に備えてシナリオプランニングを行っていますが、実際はその都度考えて実行する現場力が試されると考えています。
染宮:地政学リスクについては、投資家の皆さまとの対話の中でも話が出ます。半導体サイクルに伴うボラティリティについてもよく質問を受けます。市況の悪化局面ではダメージを最小化し、良化局面ではそれに追随できるような、レジリエントな体制を強化していく必要があります。
山下:そのために、お客さま側で起こっていることを営業がタイムリーにつかみ、発注に関する情報の微妙な変化から複数のシナリオを想定し、それを生産現場までいかに早くフィードバックするかは、まさに取り組んでいるところです。ボラティリティの抑制は自助努力だけでは厳しいです。生産リードタイムをどれだけ縮められるか、在庫の持ち方の考え方も含めて製造SCMの改善活動を行っています。
お客さまとの契約も一度見直しの必要性は感じていて、今まで起こりがちだった半導体サイクルの調整局面でのダメージを材料メーカーが全部負うという構図は、変えていきたいと思っています。
真岡:一方で、サイクルというものは、成長産業であるからこそ生じる側面があり、市場参加者が成長機会を取り込むべく一斉に在庫を持つことで一気に不況につながることがあります。直近では、半導体サイクルは2022~2023年がデータセンターバブルなどの影響を受け特に大きな谷底となりました。昔は用途がPCや家電に限られていたところに、今はスマホやサーバー、IoTが加わり出口も広がっているので、かつてのシリコンサイクルのような極端な変動はなく、徐々に安定していくと考えています。
山下:最後に、サステナビリティに関しては、重要なお客さまからカーボンニュートラル(以下、CN)に向けた要求が急速に増加し強まっており、避けては通れない課題です。例えば、お客さまがSBTi 認定申請をする上で、当社含むサプライヤーの温室効果ガス排出減についてSBTi 認定申請の要求を受けています。お客さまの本気を受け止めて、CN投資を成長投資として捉えることがビジネスの継続、拡大につながる未来が案外近くに見えてきたと感じています。
業界の中でプレゼンスを上げることにもつながっていることを意識しながら、SEMIの半導体気候関連コンソーシアムでの設立メンバーとして取り組んでいます。また、製品の製造過程で生じる廃棄物を自社のケミカルリサイクル技術を活用して水素や炭酸ガスに換え、資源として循環させる検討を開始するなど、当社ならではの取り組みを進め、適宜社会にも発信していきます。
染宮:CN投資については資本市場からの期待も大きく、躊躇せず取り組んでいきます。補助金やサステナブルファイナンスを活用するためにも、本気の取り組みが求められています。本業とのバランスも考慮しながら、あらゆる手段を検討していきます。
真岡:半導体業界では、サステナビリティ分野の課題としてCNの事業機会とリスクに加えて、グローバルでは来るPFAS規制のリスクへの議論が盛んに行われています。半導体製造に不可欠な部品・材料に含まれる現行の原料に対してPFASフリーの代替品が十分に開発されていない中でどう対応すべきか、海外での議論は日本の温度感とだいぶ違ってきており、これからどうギャップを埋めていくかも課題です。
山下:投資全般という意味では半導体材料の分野に重点的に投資しているのは事実です。2023年はキャッシュを生むことにつなげられませんでしたが、これだけの期待を背負っていることを自覚し、説明責任を果たすとともに成果につなげていきたい。我々がやるべきこと、我々が自ら襟を正すべきことは何なのか、私自身が、エレクトロニクス事業本部のメンバーにも投げかけていかなければならないと、強く今感じています。
※1 東京応化工業株式会社
※2 ナミックス株式会社
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