コンビーフファンを驚かせた新しい缶
環境にやさしい特長とは
2023年01月17日
2020年3月にバズった、とある出来事。
皆さん、覚えていらっしゃいますか。
数え切れないほど試作品を作り直し
「くるくるがなくなっちゃった!」
そんなツイートが飛び交ったのは、「ノザキのコンビーフ」の独特な缶が店頭から姿を消し、新しい形にパックされたコンビーフが出始めた2020年3月ごろのことでした。
巻き取り鍵を使って開封する従来の「枕缶」の製造ラインが老朽化して限界を迎えたため、代わって新たな缶が登場しました(=上の写真)。形状は元の缶にそっくりですが、アルミニウム箔と樹脂シートを貼り合わせてつくられている「アルミック缶」に変わったのです。
開発したのは、レゾナック・パッケージング(旧昭和電工パッケージング)です。
「コンビーフメーカーの方からお話があったのが2016年9月で、完成までに4年かかりました」。当時、開発グループリーダーを務めていた竹内雅規さんはそう振り返ります。
ノザキのコンビーフの缶には70年もの歴史がありました。それだけに、缶の深さ、側面の角度から底の形状に至るまで、メーカー側は缶のシルエットに強くこだわりました。アルミック缶はアルミ缶に比べて成形は自在にできるとはいえ、開発は困難を極めました。
「なかなかゴーサインが出ず、容器の形状を決めるだけでも試作品を5回はトライしたと思います」(竹内さん)。
保存性が高いので「食品ロス」を減らせる
実は、アルミック缶は発売から30年以上のロングセラー製品で、コンビーフだけでなく、プリンや和菓子などさまざまな食品やペットフードの容器としても活躍しています。
アルミック缶の強みの一つは、長期にわたって風味を損なわず、変色も防げることです。このことによって、いま社会課題となっている「食品ロス」を減らすことができます。
コンビーフ缶の変更にあたって、メーカーが製品テストをした結果、従来は3年だった賞味期限が3年6か月になることがわかりました。アルミック缶は、食品を容器に詰めた後に加熱・加圧殺菌処理ができるので、食品内の細菌を完全に死滅させ、さらに充填の際に混合ガスを吹き付けて缶の中にある酸素を取り除くことで、食品の酸化防止と常温下での長期保存を可能にしています。
保存力が強いことを生かして、災害用の食品の容器にも採用されています。
ラクラク開封なので介護食品にも
レゾナック・パッケージングのプロダクトマネジメント部の岡本充信さんは「保存性に加えてお年寄りや子どもでも簡単に開けられる開封性に優れていることがアルミック缶の特徴です」と二つ目の強みを話します。
この強みを生かして、アルミック缶は介護現場で高齢者向けの食品容器にも使われています。
環境に優しい (1) プラ使用量「68%削減」の例も
それだけではありません。アルミック缶は環境に優しいパッケージでもあります。
現在、多くの食品ではプラスチック容器が使われています。しかし、マイクロプラスチックが広範な海洋汚染を引き起こすことが問題化しています。
ある和菓子の製造販売会社は、顧客から「商品を入れるビニール袋は省資源化のために有料化しているのに、お菓子の包装材はプラスチックだらけですよね」と言われ、包装材のプラスチック減量化に本腰を入れなければと痛感したといいます。
その和菓子会社がたどり着いた先がアルミック缶でした。
あるお菓子の容器をアルミック缶にしたところ、容器ひとつ当たりのプラスチック使用量が38.3gから12.13gになり、実に68%の削減に成功したといいます。
環境に優しい (2) アルミとしてリサイクルできる
さらに世界的に脱炭素の動きが加速するなか、大量の化石燃料を使って製造されるプラスチックの量をいかに減らすかは、企業が取り組むべき大きな課題の一つとなっています。
地金からアルミを製造した際のCO2排出量を100とすると、リサイクルして新たなアルミをつくるときのCO2排出量はわずか3。アルミをリサイクルすることは脱炭素に貢献します。
アルミック缶は容器包装リサイクル法上の表記は「アルミ」です。しかし、現在はアルミック缶を使った食品に「アルミリサイクルマーク」が表示されているケースはごく少数のため、多くの消費者は「燃えないゴミ」などとして捨ててしまいがちです。
「消費者の皆さんに『アルミック缶はリサイクルできる』と理解してもらえるようPRしていきたい。食品メーカーにもアルミリサイクルマークを容器に表示してもらえるよう要望していきます」(竹内さん)
食品以外にも応用できるか
「保存性の高さをしっかり伝えたうえで、アルミック缶を使うことでフードロスを減らせることや、リサイクルが可能でCO2排出量の削減に貢献できるという利点を多くのメーカーや消費者に理解してもらうことが大事だと考えています」(岡本さん)
さらに医薬品など食品以外の分野にアルミック缶を応用できないか。開発チームの挑戦は、まだ始まったばかりです。
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