レゾナックナウ

“世界一軽い“自動車外装部品をめざして

2023年01月01日

自動車の燃費や環境性能は、軽量化によって大きく向上する。そのため、現在の車両では金属よりも軽量な樹脂製パーツが多く使われているが、それをさらに軽量化できる技術が樹脂内部にガスを細かく分散させる「発泡成形」だ。

2016年に株式会社レゾナック・オートモーティブプロダクツ(開発時、社名は日立化成オートモーティブプロダクツ株式会社)は、自社独自で自動車外装部品に適用できる樹脂射出発泡成形技術を開発。現在でも、発泡成形品の外装品を作ることができるのは、レゾナックだけである※。「技術的ハードルが高く、困難を極めた」という外装軽量化発泡技術の開発の裏側について、プロジェクトメンバーである設計部 主任技師の中野真吾、設計部 技師の三石直子に紆余曲折の道のりを聞いた。

開発のきっかけは、失ってしまった信頼を取り戻すため

そもそもレゾナックの有する「外装軽量化発泡技術」とは、どのような技術なのでしょうか?

三石:樹脂部品をスポンジ状に発泡させることで、剛性や強度を保ちながら軽量化を実現できる独自の技術です。発泡させるのは内部だけで、表面はなめらかで美しいまま。自動車のなかでもとくに外観品質が求められる外装部品に採用しています。

自動車業界において「軽量化」は永遠のテーマで、近年では、金属部品から樹脂部品への置き換えが進められてきました。加えて、欧米を中心に年々、環境規制による燃費向上の要求が高まっていることから、樹脂部品のさらなる軽量化が求められています。そこで生み出されたのが、樹脂素材を薄くし(薄肉化)、スポンジ状に発泡させて剛性を保つ「樹脂射出発泡成形技術」です。

樹脂射出発泡成形技術による部品の断面

しかし、この技術でつくった部品は表面に凹みができたり、十分な光沢が出なかったりすることも多く、自動車メーカーさまが外装部品に求める外観品質をクリアするのは難しいとされてきました。そのため、他のメーカーさまでは主に内装部品に採用されています。

この「樹脂射出発泡成形技術」に、レゾナックが長年培ってきた独自の「材料設計技術」「金型設計技術」「成形技術」を掛け合わせ、進化させたものが「外装軽量化発泡技術」です。外装軽量化発泡技術によるサイドシルプロテクター(ドア下部の装飾部分)は、従来品と同等の剛性を有しながら、約30%の軽量化を実現しました。

外装軽量化発泡技術による自動車外装部品

いつ開発に着手したのでしょうか? きっかけを教えてください。

中野:開発がスタートしたのは、2011年ですね。実はお客さまから頂戴したとても厳しいお言葉が、着手のきっかけです。

当社は長年、自動車メーカーや自動車部品メーカーのお客さまに外装パーツを供給してきました。例年、あるメーカーさまからは決まった時期に見積もりの依頼をいただくのですが、その年はいくら待っても依頼をいただけない。不思議に思って、その理由を確認したところ、そのお返事に外装部門の全員が色を失いました。「新しい提案を期待していますが、残念ながらそれを長年いただけてない」というサプライヤーとして当社の姿勢を問うお言葉を、注文停止とともにいただいたのです。たしかに、外装部品というのは、前述のように外観品質が厳しく求められる反面、機能性は開発の余地も少なく、あまり重視されてきませんでした。それに甘んじて、積極的な提案をしてこなかったのは事実です。

しかし、それまで築いてきた良好な関係が、ある日一瞬で崩れ去るとは微塵も想像していませんでした。実は良好だと思っていたのはこちらだけで、先方にしてみれば、新規提案のない当社のことをずっと歯がゆく感じていたのかもしれません。

失った信頼は取り戻すしかないですし、何より、悔しい。メンバーで議論を重ね、「それなら、世界で一番軽い外装部品をつくって先方の信頼を取り戻そうじゃないか」と奮起して、まさに“背水の陣”で外装部品の軽量化に挑むことになり、それで目を付けたのが「発泡」だったというわけです。

技術力こそが、提案力であり、企業の魅力でもあり、信頼でもある

軽量化にもさまざまな方法があると思いますが、なぜ「発泡」を採用したのでしょうか。

中野:たしかに、カーボン樹脂などの高価な材料を使えば、軽量化は比較的簡単に実現できます。でもそれでは、価格面で取引先に納得いただけないのは明らかでした。ですから、まず製造コストを抑えるために、原料は従来どおり「ポリプロピレン」を使用することに決めました。そのうえで、軽量性、剛性、外観性に優れた外装部品をつくる方法を模索して、たどり着いた答えが「発泡」だったのです。

しかし、樹脂の発泡は会社として初の試みで、勝算はまったくありませんでした。ひとつひとつの工程が試行錯誤の連続です。通常の射出成形に比べて、「樹脂射出発泡成形」は、材料の分量、温度、圧力、機械・設備の選定……などなど、考慮しなければならないパラメータが格段に多く、製造パターンは30数億にも及びます。そのなかから、最適なパラメータの組み合わせを明らかにするためには、とにかく試作を繰り返すしかありませんでした。まさに一歩一歩、階段を上っていきました。

設計部 主任技師 中野真吾

三石:ほかの部品の量産工程に迷惑をかけないように、試作は土日をメインに行っていました。私はそのときはまだ開発チームに加わっていなかったのですが、たまたま休日出社したときに、「こんなデコボコだらけのができちゃったよ」と、すれ違ったメンバーに試作品を見せてもらったことを覚えています。すごく大変だったと思うんですが、世界初の新しい技術に挑戦しているということで、皆さん生き生きして楽しそうでした。

中野:実際、楽しかったですよ。「こんなの作って、お前ら何やってんだ」と、上の人たちからは、たびたび愛のあるお叱りを受けましたが(笑)。

やはり大きな課題は、表面に小さな凹凸ができてしまうことでした。発泡にはつきものとはいえ、この外観の不良がある限り、外装部品として採用されることはまずありえません。

何度トライしても解決の糸口が見えず、床一面に並べられた失敗作を眺めるたびに途方にくれていました。しかし、あるときメンバーのひとりが、どの失敗作にも共通して、凹凸ができていない部分があることに気づきます。それからは、「どうすればできなくなるのか」ではなく、「なぜできないのか」という視点で研究と試作を繰り返しました。その結果、徐々に凹凸の数は減り、ついには安定してほぼ外観不良のない試作品をつくることに成功しました。開発着手から2年ほど経っていたと思います。

その成果を携えて、再びクライアントに売り込んだわけですね?

中野:はい。先方も忙しいなか、何度もプレゼンのお願いをしてようやく、営業担当がプレゼンの機会をいただいてきました。当初、30分の予定でしたが、サンプルを用いて技術の要点を説明したところ、大変興味を持っていただき、2時間に渡って議論が盛り上がり、最終的に製品採用していただきました。最後に「進化の余地が少ない外装部品で、すごいことをやったね。ありがとう」と褒めていただいた言葉が印象深く、いまでも心に残っています。

価格も大事ですが、やっぱりお客様の心をつかむためには、「新技術」が大切なんですよね。技術力こそが、提案力であり、企業の魅力でもあり、信頼でもある。そのことを痛感しました。お客様の信頼を勝ち取りつづけるためにも、技術開発の歩みを止めてはならないということを、あらためて学びました。

「新技術」の裏にあったチームワーク

あらためて崖っぷちの状態から、見事、新技術開発に漕ぎつけることができた成功要因を教えてください。

中野:いちばんは、チームワークだと思います。材料設計、金型設計、プロセス設計の各部門がひとつの目標に向かって連携できたからこそ、他社がまだ内装部品にしか発泡成形技術を利用できていないなかで、当社は外装部品への応用を実現できた。どれかひとつでも欠けていたら、達成は難しかったと思います。

そして、個人的には発泡成形の基礎技術を生み出したスペシャリストから学んだ「諦めずに考え抜く」ことの大切さをあらためて痛感しました。プロジェクトを進めていくなかで、課題が次から次へと出てきましたが、最初は不可能に思えても、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら、ひとつひとつうまくいかない理由を考えて潰していく。煮詰まったら、お風呂にでも入って一晩休んでまた考えてみる。

日々、忙しさに追われて、つい深く考えずに、右から左へと次々に仕事をこなすだけで精一杯になってしまうこともありますが、そういうときこそ、腰を落ち着けて、じっくり考える。課題と真正面から向き合って、逃げないことが唯一、成功へとたどり着ける道だと実感しました。そういう姿勢を、今後も技術者として大切にしていきたいと思います。

三石:私も本当に同僚や上司に恵まれたと思っています。「こんな方法に挑戦したい」と言ったときに、「それじゃダメだ」と頭ごなしに否定されるということがないんですよね。まずはメンバーの考えを受け入れて、みんなで知恵を出し合って可能性を探る。ひとりより、みんなで課題と向き合ったほうが、断然、突破しやすいですよね。

新しい技術に挑戦することには、必ず困難がつきまとうものですが、それを乗り越えるためには仲間の支えが必要です。ここにはすばらしい仲間がいるので、失敗を恐れずに、これからもどんどん新技術の開発にチャレンジして、前へ、前へ進んでいきたいと思います。

樹脂射出発泡成形技術によって従来の樹脂製外装成型品と比べてその重量を30%軽量化することに成功したレゾナック。その背景には、技術への純粋なまでの熱意とチームワークがあった。後編では、海外からもあったという自動車メーカーさまからの反響、外装軽量化発泡技術に続く新技術開発のビジョンまで話を聞いた。

  • 当社調べ

中野真吾

株式会社レゾナック・オートモーティブプロダクツ 九州事業所 設計部

自動車メーカーで設計業務を経たのち、日立化成オートモーティブプロダクツ入社(当時)。
自動車内外装部品の技術開発・設計の経験を経て、現在に至る。

三石直子

株式会社レゾナック・オートモーティブプロダクツ 九州事業所 設計部

日立化成オートモーティブプロダクツ入社(当時)。
自動車内外装部品・一般成形品の設計・生産準備の経験を経て、現在に至る。

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