レゾナックナウ

世界を目指すレゾナックの取締役会改革:企業価値向上への挑戦

2023年07月31日

(写真左から)森川 宏平 :代表取締役会長(取締役会議長)
常石 哲男:社外取締役
上口 啓一:取締役 常務執行役員 最高リスク管理責任者(CRO)
今井 のり:執行役員 最高人事責任者(CHRO)

なぜ、取締役会を改革しなければばらないのか。どうして改革のタイミングは今なのか。
さらなる企業価値の向上の目指し、レゾナックの取締役会の役割と働き、そして、今後の姿について展望します。
(2023年6月19日 当社会議室にて実施、社名・部署名・役職名はインタビュー当時のものです)

世界を目指すレゾナックにあって取締役会と執行側の関係、そして、社外取締役の役割とは

森川

レゾナックになって、最も変わったのは、世界を目指すという目標が、より具体的になったことでしょう。執行側が世界を目指せるレベルになろうとしているのであれば、それをモニタリングする取締役会も、世界水準の取締役会でなければなりません。そのためには、取締役会を、今までとは違った姿に改革する必要があります。世界を目指そうというのは、いわば有事ですから、モニタリングの重要性はより大きくなります。というのも平時には、計画との間にズレはあまり起きませんが、有事にはとんでもないズレが生じる可能性があるからです。 

常石

レゾナックの社外取締役をお引き受けして感じたのは、日本では珍しく大胆に大きな成長を目指しての大改革を実行している会社だということです。それに100年以上の歴史と伝統がある企業なのに、どこかスタートアップ企業のような匂いがします。そして、改革の目的が企業価値を上げることに絞られていて、戦略が一貫性のあるものになっていることや、多くの従業員が同じゴールを目指しているところもエキサイティングで、魅力的に感じました。実際に目的を達成するのは現場ですから、社員の合意は非常に大切だと思います。社外取締役の役割は、その戦略の「確からしさ」を検証することと、隠れたリスクがないかをチェックすることです。社外取締役は、その業界や事業については詳しくなく、ある意味では素人です。しかし、その業界での専門家でないが故、隠れたリスクに気づくこともあると思います。一方で企業経営という側面ではプロを自負する人もいて、髙橋社長が明らかにしているEBITDA20%やROIC10%といった目標数字が何を意味するかは十分分かります。その数字を達成するための応援や有効な助言などができればと思っています。
 

森川

常石さんには、企業価値向上を目指すレゾナックのナビゲーターになっていただきたいと考えています。半導体分野に精通されている上に、世界で戦う企業の取締役会で中心的な役割を担われ、企業価値の向上に素晴らしい成果を上げられてきたからです。その経験を、私たちに注入してほしいと思っています。取締役会のモニタリングは、執行という駅伝ランナーを応援する監督車のようなものです。常石さんには、その監督車の監督になっていただきたいと願っています。

 

フリーディスカッションから始まった取締役会の改革 活性化した議論と変化したアジェンダ

上口

昭和電工の取締役会では、いわゆるコーポレートガバナンス・コードが施行された際に、ガバナンスに関する議論が行われ、私も担当役員として参加していました。その中で取締役会の実効性評価が重要なアイテムとして浮上したのですが、具体案は詰め切れませんでした。ところが、今回の統合を機に、執行側の権限や責任を変えようという機運が生まれ、それにあわせて取締役会の改革も再び動き始めたわけです。その中で昨年、森川議長と社外取締役の間でフリーディスカッションを行い、改革の方向性をある程度見つけることができました。

 


森川

フリーディスカッションにしたのは、取締役会は堅苦しいものになりがちなので、それを避けたいという思いがありました。
 

上口

そのフリーディスカッションで得られた共通の認識は、取締役会がどうしても個別案件の検討に時間をとられ、中長期の企業価値に関するような大きなテーマについて、深く議論するような形にできないということでした。また、レゾナックの企業価値を最大化することを目標において、本質的な議論を進めようという話にもなりました。
 

森川
モニタリングや中長期のテーマが取り上げられるなど、取締役会のアジェンダが明らかに変わりましたね。
 
上口
取締役会の改革はできることから始めるということで、昨年から着手したのが、事前説明の充実でした。説明の時間をきちんと確保すると共に、取締役会事務局ではなく、提案する側の適切な人間が説明する形にしました。さらに、付議基準も見直しました。決議事項の重要性や金額の基準を引き上げ、個別案件の審議を限定して、中長期戦略の議論に一層シフトすることにしたわけです。
 
常石
審議内容の事前説明はあったほうが良いですね。しかも、コロナ禍の副産物となりましたが、オンライン会議も使え、社外役員のみなさんの時間の調整にも融通が利きやすいです。対面だとそうはいきませんから大変です。
 
上口
実効性評価に関しては、執行側と社外取締役の間で、もっとコミュニケーションが取れるようにしたいという意見もありました。たとえば、社外取締役に事業所を訪ねていただくなどして、執行側や従業員とのコミュニケーションの場を設けたいと考えています。その点で「共創の舞台」を見ていただいたのは、非常に良い機会だったと思います。
 
今井
ほかにも活動がありますから、ぜひ来ていただきたいですね。
 
森川
常石さんに当社の取締役になっていただいてから、取締役会の議論がずいぶん活発になったという印象があります。以前は、あまり意見の出ない案件もありましたから。
 
今井
その案件が、企業価値向上のためにどう働くのかということが明確になって、議論がしやすくなりましたし、事前説明のおかげで、確認のための質問も減りました。
 
森川
以前は細かい数字に関する質問などもありましたからね。その意味で、議論のレベルが上がったと見ています。
 
上口
個別案件の議論が中心だと、提案側は、どうしても案件を守ろうとしますし、取締役は、確認のために細かいところを質問しがちです。しかし、企業価値を上げることがテーマになると、質問や議論が変わってきます。そこに、企業を変える大きなヒントがあるのではないかと感じています。
 

企業価値を最大化するためにもっともふさわしく、適切な経営体制やガバナンスを

常石

サステナブルに企業価値を上げていくためには、多くの従業員が企業価値を高めることに同調し、そのパッションを全社で高めることが必要です。また、とにかく従業員がハッピーにならなければ、良い企業にはなりません。

 
今井

企業価値は、ポートフォリオを含めた戦略、従業員の個の能力、そして企業文化という三つの要素の掛け算であり、中でも個々の従業員が力を発揮できる企業文化を育てることが重要です。世の中が複雑になり過ぎて、何が起きるのかを予測することが難しくなっています。そこで企業に求められるのが、組織のアジリティー、つまり従業員の適応力です。その適応力こそが企業文化なのです。企業文化として実装されて始めて信頼される企業になれると思います。そうした企業文化を育て、企業価値を最大化したいことについて、常石さんとも議論したいと期待しています。
 

常石

そうですね。世界のどの企業も、企業価値を最大化したいという目的は同じなのです。
 

今井
報酬などに関しても改革を行ってきましたが、非財務指標の重要性の高まりを受け、さらに議論をしていく必要があります。そして、最大の検討課題は、指名諮問委員会におけるCEOサクセッションに関する論議でしょう。当社らしさを考えながら、しっかり時間をかけて議論させていただきたいと思います。
 
常石
指名諮問委員の主な仕事は、CEOの選解任の提案と、次期のボードメンバーの指名案の作成、そして、サクセッションプランの実効性のチェックです。特にCEOの選解任の提案権を有するということは、取締役会の中では最大級の重要な権限を持つことになります。その権限を誰に委ねるのかという議論は重要だと思います。CEOの選解任の提案権を持つ委員会ですので、世界のスタンダードでは、指名諮問委員会にCEOは入りません。しかし、現在髙橋社長は指名諮問委員の一人です。レゾナックは大統合、第2の創業を迎えたところなので、CEOサクセッションプランも含め、指名諮問委員会の陣容は、「今」は適切だと私は考えています。経営体制やガバナンスは、それぞれの企業にもっともふさわしく、適切なものを選ぶことが大切だからです。ただし、企業成長への態勢は、時間と共にふさわしいものは変化するので、その時には状況に応じて適切に変更していくべきものだと考えます。
 
今井
今年からSAP Success Factorsを導入し、人材の見える化を進めています。まずは国内のマネージャーポジション全ての後継者候補を入れてもらい、各部門で確認した後、最終的には経営会議メンバー全員で重要ポジションの計画をレビューします。海外人材も、来年からグローバルグレードを導入すると共に、同様に行っていきます。仕組みの構築を加速し、組織的に人材育成を行い、事業の持続的な成長につなげていきたいと考えています。CEOに関しては先ほど常石さんがお話しされたとおりですが、指名諮問委員会では、CEO以外の役員のサクセッションについては、後継者計画のプロセスをしっかりと確認いただきたいと思います。
 
常石
指名・報酬など諮問委員会やガバナンス体制などのあり方において、絶対の教科書はおそらく存在しないと思います。レゾナックに限らず、成長の基軸となる企業価値を上げることには、短期、中期、長期を見据えての現在としては何が最も適切かという観点が必要でしょう。したがって、現在のレゾナックのガバナンスや諮問委員会のあり方や、社外取締役が指名・報酬諮問委員会の委員長を務めるというスタイルについても、適宜、評価・再検討することも大切です。そして常に個社の情勢をみて何が最も適切かを意識することが重要でしょう。
 
森川
ゴールを目指し、トップを目指しているのは執行側も取締役会も従業員も同じで、全員が一緒になって走っているわけです。そういう目でレゾナックを見てほしいですが、さまざまな観点は必要なので、これまでの経験に照らした社外の人の見方と、内部の人間の見方とを合わせることが重要だと思います。

レゾナックのこれからに求められる取締役会と執行側、そして従業員との関係とは

森川

レゾナックが発足したのは今年、2023年ですが、昨年には実質的な統合を行い、同時に取締役会の変革についても、社外取締役の皆さんと議論を始めたわけです。そこで企業価値向上に対して、社外取締役が中心の取締役会が担うべき役割について、方向がかなり定まりました。常石さんの言葉を借りると、執行側の施策が企業価値向上につながるかどうかの「確からしさ」の検証が取締役会の役割であることが、共通の認識として芽生えたと思っています。ここから重要なのは、確からしさを検証する力をどのように上げていくかです。隠れたリスクも含めて検証力を上げるのは、なかなか大変だと思います。
 

常石

そうですね。どのような統合プラン、あるいは買収プランでも素晴らしい成長プランは必ずありますが、実際にアクションしスタートすると、元のプランどおりにならないことも少なくありません。その場合は、何がまずかったかという検証をし、早く正しく軌道修正することが大切です。


森川

なぜ、プランからズレたのかということと、執行側が行った検証が確かなのかどうなのかということを、やはり見ていく必要がありますね。
 

常石
執行側の検証後でもさらにズレていったら、やはり執行側に何かおかしいところはないかという話になるわけで、執行側にもプレッシャーがかかりますし、以前の説明や検証は何だったんだということになり、厳しい言葉が社外取締役から出るかもしれません。
 
森川
でも、そうやっていろいろな意見を引き出して、執行側も取締役会も、お互いのレベルを上げていくということですね。
 
上口
アジェンダの改革や、コミュニケーションのあり方など、これから取り組む必要のある課題については、まず執行側でしっかりと考えた上で、常石さんを始め、社外取締役の皆さんの意見をうかがいながら、おそらく試行錯誤して進めていくことになると思います。まずは執行側の姿勢や体制をしっかり整えることが必要ですね。
 
今井
これからというより、常に考える必要があるのは、経営環境も経営課題も変わる中で、取締役会や役員の構成など、経営チームとして今求められているものは何か、そしてそれにあったメンバーになっているかです。もう一つは、さまざまなステークホルダーの皆さんとの対話を通し、私たちの改革のプロセスをアジャイルに試していく場にしたいと思っています。これからさらに幅広いステークホルダーとの共創や、私たちのパーパスでもある、地球環境、社会への貢献を通じた企業価値向上を目指していきますので、取締役会でも忌憚ないご議論をお願いしたいと思います。
 
 
常石
企業文化の醸成については、統合前の昭和電工と日立化成、それぞれの企業文化から良いとこ取りをして、一つにしていけば良いと思います。また、全従業員のエンゲージメントレベルをモニターしているとか、点数で把握しているとかいったことをよく聞きます。しかし、精神論のようになりますが、エンゲージメント調査の数字も大事ですが、「従業員のやる気は?その本気度は?」として把握する方が、結局は業績向上に結びつくと思います。良い企業文化と従業員のやる気を醸成することが、この第二の創業の成功には大切です。そして、業績が上がったらどうなるか、どのようなインセンティブがあるかということを、全従業員に示すことも大切で、それによって全従業員が同じベクトルに向く可能性が非常に高くなるはずです。
 
森川
取締役会がセレモニーのようになってもいけないし、逆にあまりにも存在感が強すぎても問題です。取締役会は、あくまでも執行側と一緒に走っていく存在でありたいと思いますし、そのためにはどうすればいいかをこれからもしっかりと考えていきたいですね。

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