対話型の統合報告書へ。サステナビリティ部長の挑戦。
2023年07月11日
サステナビリティについて世界的な関心が高まるなかで、企業の情報開示も一層強く求められている。そこで注目を集めているのが、環境問題や社会課題、コーポレート・ガバナンスへの取り組みなどに関する非財務情報を、財務情報とあわせて盛り込んだ、「統合報告書」だ。
2023年1月、昭和電工と昭和電工マテリアルズが統合し、誕生した新会社レゾナック。そんな実質統合の状況下でつくられた2022年の統合報告書が「第2回日経統合報告書アワード」でグランプリを受賞した。とくに評価されたポイントは、「トップマネジメントのメッセージ」だ。その制作過程では、全社のサステナビリティの方針策定や文化醸成のきっかけづくりを意識して、経営層・従業員との「対話」による双方向的なコミュニケーションを築いていったという。今回、その制作を率いたサステナビリティ部長松古樹美に取り組みの裏側やその想いを聞いた。
「統合報告書」は、ステークホルダーと対話をするためのツール
「第2回日経統合報告書アワード」では387社もの参加社・団体の中でグランプリを受賞されました。はじめに、「統合報告書」とはどのようなものなのか教えてください。
松古:統合報告書とは、企業の売上や資産などの財務情報と、環境問題や社会課題、コーポレート・ガバナンスへの取り組みなどに関する数字で表現することが難しい部分を可視化した非財務情報をまとめたものです。
長期目線の投資家を中心としたマルチステークホルダーの方々は、過去から現在までにどのような価値をどのように生み出してきたのか、将来にわたって価値を創造するビジネスモデルや能力はあるのか、などをシビアに見ています。そんな投資家の皆様の潜在的なニーズが背景にあったうえで、企業側も自分たちの価値を知ってもらうために非財務情報を積極的に開示するようになりました。現在、日本においても統合報告書を発行する企業がかなり増えてきた印象です。
2022年のレゾナックの統合報告書は、どういった部分がアワードで評価されたのでしょうか。
松古:アワードでとくに評価されたのは「トップマネジメントのメッセージ」の項目です。経営陣を含めた制作チームとしても、「経営陣を信頼していただくこと」と「トップメッセージを強く打ち出すこと」を意識していたので評価をいただけて良かったですね。経営統合によって、CEOを含む経営陣が代わり新たに立ち上がった「チーム髙橋」が長期的な視点で何を考えているのかを、しっかりと発信できたと感じています。
また、今回は会社統合というイレギュラーなタイミングでの発行となりました。まだ新体制として実績がない状態だったので、一般的な統合報告書よりも未来志向の内容にフォーカスできたとも感じています。そういったユニークさがアワードでも新鮮に映ったのかもしれませんね。「自分たちが何を課題だと思っていて、それをどう解決していきたいと思っているのか」を発信することで、社内外のさまざまなステークホルダーと対話するきっかけをつくることを大切にしていました。
ステークホルダーの信頼を醸成するための「価値創造ストーリー」を紡ぐ
制作プロセスで意識していたことはありますか?
松古:統合新会社として最初のレポートですので、会社としての方向性や価値観を醸成するきっかけにしたいと考えていました。社長や経営陣が積極的に前に出ているのも、将来に向けてレゾナックがどう価値創造していくのか、どこに価値創造する能力があるかを示すためです。制作を進めるなかでも、独りよがりにならないようにするため、社内の人たちの声を積極的に取り入れ、ともに作ることを常に意識していました。
社内の声を取り入れ、ともに作るために、どんな工夫をしたのでしょうか。
松古:制作当初は、統合報告書とは何かを知らない人も多かったんです。そんな方々に「これから自分たちがどうしていきたいか、どうしてそれができるのかを示すために作りましょう」と伝え、まずは意見を出してもらうようにしました。そうやってコミュニケーションを増やし、社員の声を聞くことで、自分ごと化する、自分もやりたくなる、自分にとってのステークホルダーを考えて担当ページをもっといいページにしよう、となってくる。つまり、対話を通して、「やりたい人を増やす」ことが大事だと思います。
自分たちの価値観や方向性、「らしさ」のようなものは、誰かが定義するものではなく作っていくものだと思います。そのきっかけとして、統合報告書は良い媒体になるのではないかと思っています。もちろん最初はなかなか意見も出てこないんですが、結局誰しも言いたいことはあるはずです。誰かが口火を切れば、「そこまでは話していいんだ」という空気になって、「じゃあこういうことを言いたいかも」とどんどん発言が出てくるようになります。その雰囲気をいかに醸成できるかが鍵ですね。
松古さんが考える、統合報告書の意義とはなんでしょうか。
松古:統合報告書は、企業の「価値創造ストーリー」に形を与えて盛り付ける器だと思っています。過去から現在までの実績と、将来に向けてどうやって社会的な価値を創造していくのかを、大切なステークホルダーに説得力をもって伝え、経営への信頼を醸成するためのコミュニケーションツールだと考えています。
今までサステナビリティ推進と発信の両輪に関わってきましたが、企業が社会的責任を果たせることを示すうえで必要な情報は数字で表現しづらいこともしばしばです。例えば、稼ぐ力だけでなく、稼ぐことを可能にするポテンシャルや、環境保護や人権尊重推進の取り組みなどです。それらを合わせたものが企業の力であり、価値であることを伝えたいと考えてきました。
そこで、今回のような統合報告書を作ることで、企業の財務面だけでなく非財務面も伝え、私たちを信頼してもらう。そのために、まずは自分たちのスタンスをオープンに発信し、価値創造のストーリーに共感し、共創したいと思ってもらう。今回の制作の背景にはそういった思いがあります。
さらに対話を加速させ、企業価値の向上をめざす
ここまで、社内を巻き込んだ統合報告書制作の取り組みや思いについて話を聞きました。「対話」を生かした今後の展望を教えてください。
松古:まずは、「長くお付き合いしたい」と考える長期目線の投資家を中心としたマルチステークホルダーの皆様としっかり対話することがスタートラインです。そして化学業界や関連業界との交流も少しずつ広げていきたいと考えています。また、もっと社会に開かれた会社になること、そして化学が影響を及ぼすタイムスパンの長さを考えると、次世代との対話は増やしていきたいところです。先日発表になった「日経STOCKリーグ」という、学生による株式投資コンテストで敢闘賞を取った論文が大変面白かったので、学生に会いに行きました。これは、学生たちが企業の統合報告書などを読み込み、テーマに則して「どんな投資ポートフォリオを組むか」の論文を書くという内容のコンテストです。
そのなかで、マテリアルイノベーションをテーマにした論文がありました。「日本のこれからを支えるのは素材産業である」という主張で、内容が非常に面白かったんですが、そのポートフォリオにレゾナックが入っていなかったんです。そこで学生たちに「どこが足りないと思う?」と問いかけて、いろいろと率直なフィードバックをいただきました。企業とは異なる目線で物事を考えている方々の話を聞くこと、意見をぶつけてみることは、本当に刺激になりますね。2023年の統合報告書にも動画メッセージの形で学生に登場してもらう予定です。
社員だけでなく、業界や社会との「対話」も増やしていくんですね。さいごに2023年の統合報告書に向けての意気込みを聞かせてください。
松古:2023年の統合報告書では、「社員を見せる」ことを大事にしていきたいと考えています。今回も経営陣についてはその「チーム力」を打ち出していきますが、経営陣が示した「人」に関するビジョンがどう実を結びつつあるのかを示したいという思いもあります。様々な非財務の活動についても、目指す姿に向かう進捗やプロセスを少しずつ見せていけると思うので、ステークホルダーとの対話を促すという点でも、さらに充実したものになると思います。
そして、これからも全社に横串を通したサステナビリティ推進活動や、社員のサステナビリティに対するマインドを醸成する取り組みをますます進めていきます。私がまだ知らないだけで、「対話」による新たなイノベーションは、社内の至るところで起きているはずです。そんな宝物をうまく発見し発信することができれば、私たちに力がついてきていることをお示しできますし、結果として企業価値の向上にもつながります。統合報告書はそのためのコアになるツールだと考えているので、次回もぜひ期待していただきたいですね。
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