あの炭酸飲料の「シュワシュワ」が廃プラ問題の解決に寄与する!?
2023年01月17日
「シュワシュワ」の原料をご存じですか?意外と知らない炭酸ガスをめぐるストーリーをお届けします。
原料は「使用済みプラスチック」
約20年前のこと。2002年末、KPRプロジェクトの栗山常吉・製造課長(当時)は、大手飲料メーカーの会議室で担当者を待っていました。
レゾナックはさまざまな産業用ガスを生産し、企業向けに販売していましたが、炭酸ガスの原料を都市ガスから別のものに変更するにあたり、多くの社員が手分けして、販売先に説明に回りました。しかし、快諾が得られない日が続いていました。
原因は……ガスの原料を「使用済みプラスチック」に変えるという話をしていたからです。プラスチックごみからできたガスが食品や飲料に使われるのは、抵抗感があってもおかしくありません。
大手飲料メーカーの判断で芽生えた自信
会議室に現れた大手飲料メーカーの品質担当者に、栗山さんは製造プロセスを説明しました。ガスを製造する際の炉内は1500℃に達するので有機物が残らないこと、異物混入を検知したら設備が止まること……。説明を終えると、大手飲料メーカーの品質担当者はこう即断したといいます。
「わかりました。原料の変更を認めます」
「自分たちが作り込んできた製造プロセスを認めてもらえて安心しましたし、自信がつきました」(栗山さん) こうして「使用済みプラスチックをガス化する」という前例のない事業は軌道に乗っていくことになりました。
国内唯一、新たな製品を生み出すリサイクル法
レゾナックは、容器包装リサイクル法の施行(1997年)や近隣の石油会社とのガス交換契約が終わることになったのを受け、使用済みプラスチックを熱分解して、炭酸ガスや水素、アンモニアなどを製造するKPR(Kawasaki Plastic Recycle)の検討を始め、2003年から事業を始めました。
プラスチックが持つ熱量を生かして使用済みプラスチックを熱分解してガス化。できたガスからまずCO2を取り出し、残った水素を空気中の窒素と合成してアンモニアをつくる、というのがKPRの大まかな全体像です。ガス化の際に燃料がいらないので、とても環境にやさしい製法です。
プラスチックごみのリサイクルは、プラスチックを再利用する「マテリアル・リサイクル」と、化学的に他の目的に転用する「ケミカルリサイクル」に分類されます。ケミカルリサイクルでは燃焼補助剤として使うケースが多いのですが、レゾナックは国内で唯一、使用済みプラスチックからアンモニアなどの「製品」を生産し販売しています。
当初はプラント内で火事が相次ぐなどトラブル続きでした。その後も炉の耐久性も課題になりました。「トラブルが起きるたびに社内からは『もうやめるべきだ』という声が上がりました。しかし会社上層部はトラブルを解決するための優秀な技術者を送り込んでくれました」(栗山さん)。
集まった技術者が一丸となって技術革新を進め、KPRがリサイクルした廃棄プラスチックの量は2022年1月に100万tを超えました。
川崎市は「都市プラ山」
一般的にこうした施設は大都市圏を避けて設置されがちです。しかし、KPRのプラントは、川崎市内にあります。なぜでしょうか。
「処理するプラスチックが大量でないと、リサイクル事業として採算が合いません。だから使用済みプラスチックが大量に出る川崎市のような大都市が向いているんです」(栗山さん)
大都市に眠る携帯電話を回収することでレアメタル不足を克服していることから大都市を「都市鉱山」と言います。KPRに置き換えていうなら、大都市は「都市プラ山」というわけです。
プラスチック循環社会を各地に広めるために
KPRで生み出される代表的なガスである水素とアンモニアは、脱炭素に向けて次世代のエネルギー源として注目されています。こうしたKPRの取り組みは日本国内だけでなく世界から関心が高く、川崎市のプラントには今、施設や運用技術を知ろうと、多くの見学者が訪れています。
「最近は多くの企業の方々がKPRを自社でも実施したいと考えているようです。KPRのプラントをパッケージにして販売し、他の企業にもKPRが広がっていくようにしたいです」(栗山さん)
包装容器などの使用済みプラスチックを、見事に生き返らせる仕組み。私たちの暮らしと、川崎のガス工場がつながり、資源が循環しているなんて、ちょっとうれしくなりませんか?
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