ICCA E&CC LGで、化学業界の技術革新による脱炭素化を推進
2022年05月30日
2020年6月から2年間、ICCA室(当時)の柳下と山本がICCAのE&CC LG(エネルギーと気候変動に関するリーダーシップグループ)の議長および事務局長を務めました。ICCAは世界各国の化学業界団体からなる協議会であり、昭和電工は日本化学工業協会(以下、日化協)の代表として参画しています。化学業界が世界で直面する社会課題を検討する5つの分科会のうち、E&CC LGはエネルギーと気候変動を扱っています。2年間で得られた成果や活動を通して学んだこと、当社にとっての海外イニシアチブへの参画の在り方、今後の期待について柳下と山本両名が語ります。
(2022年5月30日 当社会議室にて実施)
──ICCA室について教えてください
ICCA(国際化学工業協会協議会)にはエネルギーと気候変動を扱うE&CC LG(Energy & Climate Change Leadership Group)という分科会があります。当時の当社社長の森川が2020年に日化協会長に就任した際に、当社としてE&CC LGでリーダーシップを発揮すべく、2020年5月にICCA室を設立しました。専任の柳下、山本に加え、生産技術部の亀村が兼務で参加しました。柳下はE&CC LGのChair(議長)、山本はSecretariat(事務局長)を2020年6月から2年間務め、亀村は当社のGHG(温暖化ガス)排出削減担当としてのサポート役です。日化協など外部団体への出向例は今までありましたが、社長直轄の専任組織を設置した上での渉外活動はSDKグループとしては初の取り組みでした。
──ICCAについて教えてください
世界各国の化学業界団体からなる国際的な協議会です。昭和電工は日化協を通じて参画しています。1989年に設立され、レスポンシブル・ケア(RC)世界憲章、RC普及のため化学物質管理分野からRCの広がりとともに業容を拡大していきました。欧州から米国、日本と拡大し、最近では中国、インドのプレゼンスも高まっています。Steering Committeeが実務運営を担っており、その傘下にLG(リーダーシップグループ)が5つあります。昭和電工が参画したのはE&CC LGで約40名から構成され、うちコアメンバーは10名弱です。E&CC LGの中にLCAをはじめとして3つのTF (タスクフォース)があります。
──E&CC LGの活動内容について教えてください
E&CC LGの担当領域はエネルギーと気候変動で、私たちは科学的観点をよりどころにした中立的な立場を表明し、情報発信をしていくという活動を行いました。気候変動問題は政治的・技術的に複雑な問題が絡み合っています。よって、私たちは世界の化学業界としての考え方を科学的根拠とともに発信し、社会の理解を得ることを重要課題と捉え、取り組んだのです。
cLCA(カーボンLCA) TFでは、LCAについての議論が行われています。ICCAが発行した、日本語にも翻訳されているエグゼクティブガイド「ライフサイクルアセスメント(LCA)-なぜやるの いつやるか」は国際的に権威あるガイドとして認知されています。業界としてcLCAという言葉を定義し、その意義や手法についてプロモーションを始めた組織がE&CC LGです。
Innovations TFではエネルギー、気候変動に対応する最新技術の報告を行っています。3年ほど前に、各社の技術開発の取り組みまとめたEnabling the future(ICCA,2020)を発行しました。様々な化学企業の1,000以上の事例をカテゴライズし、17事例まで絞り企業が参考にできるようにしています。化学業界の技術貢献により2050年までに世界のGHG排出量の25%削減に相当するインパクト・可能性を掲げています。
Advocacy TFでは、「ICCAの方針を科学的観点の活動を通して代弁する活動」、より具体的に言えば、「科学的観点に基づいた報告書を効果的に普及させる活動」をしました。過去から現在において化学産業は世界に対し、負の影響を及ぼしてきた一方、大きな貢献もしてきました。地球温暖化をはじめたとした地球規模の課題に対して、バリューチェーン全体を通じた技術革新によって世界に貢献できる可能性があることを広く認識してもらいたいというのが世界の化学産業全体としての願いの一つであり、そのための活動をAdvocacyと位置付けて取り組みました。前述のLCAも気候変動対策には不可欠であり、このAdvocacy活動とも強く連携しています。
なお、Plastics LGはEUの新たな規制やNGOからの提案(プラスチック生産量抑制など)への対応のため2年前に急遽発足しました。最近は化学業界に対する影響が大きい規制の導入提案が増えているのでロビー活動を積極的に行っています。
──E&CC LGリーダーとしての成果と今後について教えてください
大きく分けて3つあります。
一つ目は、気候変動対応に関する世界の化学業界の共通認識を、中国とインドのメンバーにも参画いただきながらICCAステートメントとしてまとめあげ、2021年に発表したことです。このステートメントでは、パリ協定と21世紀半ばまでのカーボンニュートラルを世界の化学業界全体として進めることを宣言しています。これまでAssociate membership(準会員)として参加していた中国、インド企業にも、本格的に議論に参加してもらいました。化学産業の売り上げ世界一の企業は中国中化集団(シノケム)であり、世界の人口の1位、2位は中国、インドです。これだけの大きな影響力のある企業や国との共創は欠かせないと考え、意見を交換し互いの理解を深め、新たな視点を入れてより良い内容にできたと自負しています。
この提案は諸手続きを経てICCAのクライメートポリシーとして現在ICCAウエブサイトに公開されています。
二つ目はカーボンニュートラルプロジェクトです。化学製品について、今までは住宅用等の断熱材・LED照明、軽量化のためのプラスチック材料などを中心にバリューチェーン下流でどう省エネルギーへ貢献するか(Scope3下流)の議論が中心でした。しかし、これからは化学産業においても自らの貢献(Scope1,2)が問われる時代です。この2年間を通して、「化学産業自身の製造時のCO2排出量を如何にして把握し削減するかの議論」を本格的にスタートすることができました。これからは、グローバルでの主要化学製品に着目して、製品、製造工程、加えて原材料の観点から踏み込んで議論し、化学業界としてどう取り組むかという道筋を示していきます。
三つめはAdvocacy活動です。E&CC LGにおいて、Advocacy活動の目的をどこにおくかは曖昧な状態が続いていました。政治、技術、経済的な課題も大きく、利害関係者が多いエネルギーと気候変動分野は、ICCAとしての統一見解を示し、普及することが難しい領域です。今回の任期中に私たちは様々な意見を中立的な観点でまとめ上げ、科学的根拠をもった報告書を発行することで、ICCAの立場をより明確化することができました。
これら三つの舵取りは非常に大変でしたが、同業他社のメンバーと力を合わせて未来につなげるという点で大きな意味があったと思っています。
──今後の活動について教えてください
今回の活動を通じ、国際的な場に影響力がある国や企業の人たちがどう考え、どう動き、どう決めていくかを見ることができました。これは従来の活動だけでは中々見えてこないものでした。ICCAだけでなく、個社として様々なイニシアチブに入って一緒に仕事をしていく中で、欧米トップの化学メーカーの思考回路をはじめ、色々のものが見えてくるのではないでしょうか。国際的なイニシアチブに加入し揉まれていくことが対応力を磨く一番の近道だと思います。この2年間の活動は良い経験でした。
外部と共創して取り組むことも非常に重要です。まずは、当社の強みをまとめて何に貢献できるのか考えることが重要です。国内では、渉外活動として政府から技術開発支援などの補助金を得ることをはじめとして、様々な活動を通じて各ステークホルダーと共創しています。一方、グローバルとなった瞬間、情報を入手するために必要な国外の共創の枠組みにもまだ参加できていないのが現状です。今は方針や規制等が2、3年のタームで塗り替えられ、気が付いたらグローバル企業から大きく後れをとることもありえます。そういった点からもできるだけ早い段階でのイニシアチブへの参画、他社との共創がこれからますます重要になってくると思います。
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