マルチマテリアル化の課題を解決するWelQuick

作者:友澤 秀喜
更新日:2022年11月18日

マルチマテリアルとは?

マルチマテリアルとは、単一材料ではなく、特性の違う複数の材料を組み合わせて併用することを言います。「マルチマテリアル」という言葉は複数の材料という意味です。例えば自動車の車体、航空機、新幹線などの高強度化や軽量化を実現するために、金属(鉄、アルミニウム、銅、マグネシウム、チタンなど)や樹脂(汎用樹脂、エンプラ、スーパーエンプラ、FRP;繊維強化プラスチック、またFRPの中でも特にCFRP;炭素繊維複合材料など)、セラミックスの組み合わせが活用されます。

マルチマテリアル化とは?

マルチマテリアル化とは、マルチマテリアルにより高強度化や軽量化を実現する「技術」のことを言います。マルチマテリアル化を実現するには、異種材料を接合・接着する必要があり、接合・接着技術が大きな課題となります。

なぜマルチマテリアル化なのか?

マルチマテリアル化が必要とされるのは、「適材適所」の素材を使用するためです。単一材料で実現したい機能を得られるのならば良いのですが、現在の素材へのニーズは高度化・多様化しており、各々のニーズへ対応しなければなりません。強度、剛性、耐熱性、耐久性、重量(比重)、電気特性などの「機能性」と、素材価格、成形容易性、必要設備などの「コスト」の双方を満たすことが求められます。時には、(一部は)重くて(他の部分は)軽い、硬くて柔らかい、など相反する性質を併せ持つことが求められることもあります。それぞれの素材には長所短所があり、単一材料では高度化・多様化したニーズを満たすことは困難なので、特性の異なる複数の材料を組み合わせることが必要となります。さらに、複数の素材によって相乗効果が得られることもあり、多様な組合せが実用化されています。

マルチマテリアル化の課題は?

マルチマテリアル化には、複数の素材を用いるため、必ず異種材料同士をつなぎ合わせる必要があります。異種材料の接合・接着は同種素材の接着・接合よりも難易度が高くなります。
特に、接着は素材の表面との「相性」が重要であり、異種材の両方に強固に接着する必要があります。また、異種材同士では剛性、応力、線膨張係数などの差が接合・接着の信頼性に大きく影響します。そのため、これらの接合・接着技術がマルチマテリアル化の実現の大きな課題となっています。

マルチマテリアルの用途例

自動車・車体

用途例 自動車・車体

自動車の燃費・環境性能や運動・安全性能の向上のために、高強度鋼板とアルミニウム合金による車体のマルチマテリアル化がいち早く始まっています。高級車の一部では、さらなる軽量化のために、マグネシウム合金やCFRPなどの樹脂とのマルチマテリアル化も実用化されつつあります。

航空機

用途例 航空機

航空機の機体材料は、軽量化のためアルミニウム合金からCFRP へと進化し、高強度が要求される骨材やジョイント部では鋼系素材からチタン合金に置き換わってきました。機体接合部はCFRP と物理的性質が近いチタン合金とのマルチマテリアル構造になっています。

新幹線

用途例 新幹線

新幹線の車体には現在アルミニウム合金(A6N01)が使われています。次世代車体材料として難燃性マグネシウム合金が注目されていますが、その剛性を上げるために、CFRPなどとのマルチマテリアル化が検討されています。

電気・電子部品

用途例 電気・電子部品

スマホ、ノートPCや液晶テレビの筐体では、重量、強度、デザイン、電波特性の最適化のためアルミニウム、樹脂、ガラスなどを適切に組み合わせたマルチマテリアルが採用されています。

建築・インフラ用途

用途例 建築・インフラ

土木・建築分野において、FRPとコンクリートなどの他の材料を組み合わせたマルチマテリアルによるハイブリッド構造によって、大型・高強度と製造コスト低減を両立させたビーム材などが検討されています。

マルチマテリアルで接合・接着される異種材料例

鉄鋼/アルミニウム合金

異種材料例 鉄鋼・アルミニウム合金

高強度鋼板とアルミニウム合金による車体のマルチマテリアル化は、自動車の軽量化と高強度化を目指して最も早くから検討されてきた組み合わせです。溶接では著しく脆い金属間化合物が生成され接合できなくなるなど、異種金属が直接触れ合う場合は局部電池が形成されて、卑な金属が選択的に腐食進行する現象(電食;ガルバニック腐食)があるなどの課題が多いため、機械的な締結や接着剤が検討されてきました。

金属/樹脂

異種材料例 金属・樹脂

Al/PPS、Mg/PPS、Cu/PPS、Ti/PPS、SUS/PPS、Al/PA6、SUS/PA6、Al/PA6T、Al/PA66、SUS/PA66、SUS/PA12、Al/PPA、Al/PBT、Al/LCP、Al/PEEK、Al/PC、Al/PPなど多くの金属/樹脂の組合せのマルチマテリアルが自動車の機構部品、エンジン回り部品、電装部品向けなどで実現されています。金属表面を処理した射出成形や接着剤などが使われています。

樹脂/樹脂

異種材料例 樹脂・樹脂

樹脂/樹脂接合においては、性質が似ており相溶性が良い樹脂同士の場合、接着性が良好な組み合わせが知られています。例えばPBTと耐熱性TPCを接着した成形品が異種材接着エアダクトとして使われています。この2つの材料は相溶性が良いため、接着性も良好です。

マルチマテリアルを実現する「接合・接着技術」

マルチマテリアルを実現する接合・接着技術について解説します。接合とは、異なる材料の部品同士をくっつける技術のことで、マルチマテリアルを支える重要な技術です。その中でも軽量化に有利なのが、ボルトやリベットなどの機械的な締結要素が要らない「異種材料接合」で、溶接、ろう接、固相接合、アンカー効果を利用したインサート成形、接着などが知られています。これらはアルミニウム合金と鋼、アルミニウム合金と樹脂など、異なる材料の部品を直接強固にくっつける技術です。

現在主に活用されている接合・接着手法や技術

技術・手法名 手法・技術の概要
機械的締結 形状的拘束や摩擦力を締結力として機械的に接合する方法です。FRPとの接合の場合、FRPに穴を開けてボルトやリベットで固定する方法が採られています。接着強度、耐久性共に高いです。
リベット、ボルト、かしめ などが代表的な方法です。
溶融溶接 主に異種金属同士の接合時に、高温で母材同士を溶融させて金属結合させる方法です。接着強度は金属の種類によって異なります。
アーク溶接、抵抗スポット溶接、レーザー溶接 などが代表的な方法です。
ろう接 母材の融点よりも低い合金・溶加材(ろう材または軟ろう:はんだ)を溶かし毛細管現象で浸透拡散させ、これを冷却・凝固することによって接合する方法です。
固相接合 摩擦熱や超音波振動により金属表面や樹脂を溶融させ他の金属表面と融着させる方法です。
拡散接合、摩擦圧接、摩擦攪拌接合(FSW;Friction Stir Welding)、超音波圧接 などが代表的な方法です。
表面処理と射出成形 金属の表面処理を行った後、樹脂の射出成形(インサート成形など)を行ってその金属を接合する方法です。金属表面を化学処理して微細な凹凸を形成しアンカー効果で接合する方法や、金属表面に結合膜を生成する化学結合形成方法などがあります。また金属表面をレーザー処理またはプラズマ処理し、特殊形状を形成してその後樹脂を成形する方法もあります。
接着(接着剤、接着フィルム) 熱硬化型接着と熱可塑性接着がよく知られています。
前者は、接合したい部材に熱硬化型接着剤を塗布し、もう一方の部材を貼り合わせ、その後加熱処理して硬化させる接合方法です。
後者は、接合したい部材を熱可塑性フィルムまたは接着剤をはさんで貼り合わせ、加熱処理して熱可塑性フィルムを融着させ、その後冷却することによって接合する方法です。

現在主に活用されている接合・接着手法における「コスト・簡便さと接合強度のトレードオフ」の課題

<機械的締結>
多数の部品加工と締結処理が必要で工程削減できない

FRPとの接合の場合、多数の穴あけ加工が必要となり、FRPが破損する危険性があります。自動車で一般的な、かしめ機構のSelf Pierce Rivetingは車一台あたり2,000点以上、貫通ねじ機構のFlow Drill Screwは700点以上使われているケースもあり、工程が大幅に増加します。

<ろう接、溶融、固相>
金属/樹脂の接着方法が限定的で高コスト

金属/樹脂接合は、ろう接では不可能です。また金属/樹脂接合を実現するには、溶融溶接ではレーザー溶接、固相接合ではFSWといったコストの高い特殊な手法が必要となります。

<表面処理と射出成形>
金属の表面処理に手間とコストがかかる

金属表面を化学処理したり、金属表面に結合膜を生成したりするのに手間とコストがかかります。廃液などの処理費用も発生します。レーザー処理やプラズマ処理にも手間や装置コスト・ランニングコストが発生します。

<接着剤>
簡便性と接合強度との両立ができない

熱硬化型接着では、接着剤塗布時の塗布条件管理、液体の扱い、貼り合わせ時の作業時間のタイムリミット、硬化時の長時間工程などの工程管理の煩雑さが負担となっています。一方、熱可塑性接着フィルムを使用すると簡便に接合できますが、接合強度が弱いです。

「コスト・簡便さと接着強度のトレードオフ」の課題を解決するWelQuick

いままでにない、簡易性と接着性を両立したフィルムタイプの接合技術です。

WelQuickでは、固体⇔液体の相変化を利用することによって、フィルムを溶着するだけで瞬間的な接合を可能にしました。接着剤のような長い硬化時間は不要で、埃や汚れなどがない程度に母材表面を洗浄しておけば、酸化処理など特殊な表面処理も不要です。

また、金属や樹脂などの幅広い素材技術を持つ当社の強みを生かし、様々な組み合わせの異種材料接合でも強力な接着力を発現しました。

さらにWelQuickは、多様な溶着方法が適用可能です。お客様のニーズに適した方法を組み合わせ、効果的な接合ソリューションを提案いたします。

WelQuickとは

「コスト・簡便さと接着強度のトレードオフ」の課題を解決できる理由

鉄鋼/フィルムを溶着するだけで瞬間的に接合できるから

短工程短時間ソリューション

WelQuickでは、フィルム材料の相変化(固体⇔液体)を利用することにより、フィルムを挟み溶着するだけで、わずか数秒で接合できます。VOC不使用のため、接着時のVOCの飛散もありません。また、WelQuickは、常温で長期保管が可能です。

様々な組み合わせの異種材料接合でも強力な接着力を発現できるから

機材の組合せによる接着力

樹脂や金属など、40通り以上の基材の組み合せで10MPa以上の高いせん断接着力を発現します。
当社のもつ金属から樹脂にわたる幅広い素材技術を生かして、強力な接着力を持つ異種材料接合を実現しました。

熱硬化型接着の接合強度と熱可塑性接着フィルムの簡便性を併せ持っているから

簡便性と接着性の両立

従来の接着方法において大きな負担となっていた、接着剤塗布時の塗布条件管理、液体の扱い、貼り合わせ時の作業時間のタイムリミット、硬化時の長時間工程などの諸課題を、WelQuickは解決します。
これらの簡便性に加えて、熱硬化のネックとなる化学反応(重合反応)を予め完了し、相変化(液体⇔固体)の利用による速硬化をしていることから、熱硬化型接着と同等の接合強度を示します。

WelQuickによるマルチマテリアル化の2つの用途例

WelQuickによるマルチマテリアル化の2つの用途例をご紹介します。
1つ目の用途例は端子台のリークシールです。WelQuickを活用することで、簡便なハンドリングや硬化工程が不要というメリットが生まれます。

 

2つ目の用途例は、自動車構造部材のマルチマテリアル化です。WelQuickを活用することで、接着のプロセスを簡略化しかつ高い接着力が得られるというメリットが生まれます。

マルチマテリアルの実現を支援するWelQuickの活用法

WelQuickをどのように活用すればマルチマテリアル化が実現できるのか、その活用アイディアや材料ごとの具体的な溶着方法、詳細なデータなどをPDF資料にまとめました。

主な内容

  • WelQuickとは?
  • 40通りを超える接着基材の組合せでのせん断接着力
  • 高温熱老化、高温高湿の1000hr耐久性
  • 各種溶着工法で高接着力が得られるコツ
 
 
  • 掲載の数値は測定値であり、保証値ではありません。
  • 「WelQuick」は、欧州連合、アメリカ合衆国、韓国、日本における株式会社レゾナックの登録商標です。

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