世界No.1※1スーパーコンピュータ「富岳」のプリント配線板での低伝送損失プリント配線板材料「MCL-LW-900G/910G」の採用について

2020年10月12日
昭和電工マテリアルズ株式会社

昭和電工マテリアルズ株式会社(取締役社長:丸山 寿、以下、昭和電工マテリアルズ)は、同社が開発した低伝送損失プリント配線板材料「MCL-LW-900G/910G」が、理化学研究所と富士通株式会社が共同で開発中のスーパーコンピュータ「富岳」のCPU(中央処理装置)搭載プリント配線板に採用されたことをお知らせいたします。

「富岳」は世界No.1のスーパーコンピュータであり、2012年に運用を開始したスーパーコンピュータ「京」と比較して、アプリケーション実行性能最大100倍をめざしており、同時に消費電力の上昇は3倍程度(消費電力30~40MW、「京」は12.7MW)に抑えています。「富岳」は新型コロナウイルスの研究をはじめ、AI(人工知能)やビッグデータ解析等さまざまな分野での活用が期待されています。

「富岳」のシステムボード(提供元:富士通株式会社)

「富岳」のシステムボード
(提供元:富士通株式会社)

「富岳」を構成するコンピュータラック(提供元:理化学研究所)

「富岳」を構成するコンピュータラック(提供元:理化学研究所)

この「富岳」の計算速度と省電力性能を両立するため、プリント配線板には通信速度の高速化やデータの大容量化、電気信号の高周波化に対応することが求められますが、これには、プリント配線板内での伝送信号の減衰(伝送損失)や信号遅延を低く抑える必要がありました。また、環境への影響低減のため、ハロゲンフリーの材料であることも求められていました。

このたび「富岳」に採用された「MCL-LW-900G/910G」は、昭和電工マテリアルズが、樹脂成分構成比率の最適化および低誘電※2ガラスクロスを適用することにより開発した、伝送損失および信号遅延を低減できるハロゲンフリーのプリント配線板材料です。「MCL-LW-900G/910G」は、穴あけ加工性に優れ、微細な穴をあけるレーザー・ドリル加工にも対応可能です。また、ガラス転移温度(Tg)※3の異なるハロゲンフリーFR4(汎用ガラスクロス基材)とのハイブリッド構成で一括積層できるため、高多層プリント配線板の価格低減にも有効です。

「富岳」においては、伝送損失および信号遅延に関わる比誘電率※4(Dk)、誘電正接※5(Df)が低いことに加え、絶縁信頼性※6(耐CAF性)やデスミア処理※7(耐デスミア性)等、プリント配線板の製造工程内での歩留りを向上させ、安定的に生産できる点等が高く評価されています。

昭和電工マテリアルズは、今後、高速・大容量、低遅延、多数接続を可能にする第5世代移動通信システム(5G)、第6世代移動通信システム(6G)用途への展開を見据え、樹脂成分の構成比率をさらに最適化するとともに、超低誘電ガラスクロスを用い、低伝送損失に特化したプリント配線板材料の量産開始をめざします。

<MCL-LW-900G/910Gについて>

概要

ガラスクロスを基材とし、低誘電率かつ熱硬化性に優れる多層形成用のプリント配線板材料

特長

  • MCL-LW-910Gは低誘電率ガラスクロス、HVLP銅箔(低粗度銅箔)との組み合わせにより比誘電率3.3、誘電正接0.0028(10GHz)を実現しています。
  • 優れた低伝送損失により25Gbps(ギガビット/秒)の高速伝送/通信を可能にします。
  • 優れた耐熱性、接続信頼性※8を有しています。

特性

伝送損失

<測定条件>
方法:ストリップライン
測定環境:25℃/60%RH
特性インピーダンス:50Ω
内層処理:酸化還元処理
構成方法:TRL (Thru-Reflect-Line)
配線長:100mm
ライン幅:MCL-LW-900G:114μm
     MCL-LW-910G:124μm
     MCL-HE-679G(S):114μm

ライン幅 (w):114μm~124μm
絶縁層厚み (b):0.25μm
銅箔厚み (t):18μm
※ HE-679G(S)は昭和電工マテリアルズの標準品です。

伝送損失

絶縁信頼性

<評価基板>
LW-900G/910G, HE-679G(S)
ドリル径:φ0.90mm
壁間距離:0.4mm
<評価条件>
前処理:260℃リフロー×6回
試験条件:85℃/85%RH, DC 100V
槽内連続測定

図. CAF評価基板

図. CAF評価基板

絶縁信頼性

一般特性

項目 処理条件 単位 MCL-LW-900G MCL-LW-910G MCL-HE-679G(S)
難燃性システム - - ハロゲンフリー
ガラスクロスタイプ - - Eガラス 低誘電ガラス Eガラス
誘電率Dk 10GHz※ - 3.5-3.6 3.3-3.4 3.6-3.8
誘電正接Df 10GHz※ - 0.0040-0.0050 0.0025-0.0035 0.0070-0.0090
熱膨張係数 X α1 TMA ppm/℃ 12-15 12-15 12-15
Z α1 35-45 35-45 35-45
ガラス転移温度Tg TMA 190-210 190-210 190-210
はんだ耐熱性 288℃ sec >300 >300 >300
  • JPCA-TM001

用途例

高速コンピュータ、サーバー、高速ルーター、通信機器、高周波部品、高周波レーダ/アンテナ

  • ※1 世界No.1:「富岳」は、2020年6月に発表されたスーパーコンピュータの世界ランキングにおいて、LINPACK(コンピュータの性能計測プログラム)の実行性能を指標とした「TOP500」および、CG法(Conjugate Gradient:共役勾配法)による連立一次方程式の求解性能を評価する「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」、AI(人工知能)処理能力評価を行なう「HPL-AI」、ビッグデータ分析などでの性能を評価する「Graph500」の4部門において世界1位を獲得。
  • ※2 低誘電:誘電率を低くすることで、電気信号の伝播が速くなること
  • ※3 ガラス転移温度(Tg):高分子物質がガラス状の固い状態からゴム状に変わる境目の温度
  • ※4 比誘電率:電気を帯びた物体に電気力を与える空間(電場)中における、物質内の電子の正負への偏り度合いを表すのが誘電率であり、比誘電率は、真空の誘電率に対する比で表す。
  • ※5 誘電正接:物質内でのエネルギー損失の度合いのこと、伝送損失や信号遅延を評価できる。
  • ※6 絶縁信頼性:配線間や層間の電気絶縁に対する信頼性
  • ※7 デスミア処理:層間の導通不良や層間剥離などの不良を防ぐため、レーザー・ドリル加工によるブラインドビア・スルーホールの穴あけ工程時に発生する穴の内壁の樹脂残渣(スミア)を除去する処理のこと
  • ※8 接続信頼性:層間や半導体チップとの電気接続に対する信頼性

以上

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ブランド・コミュニケーション部 広報グループ