人工知能(AI)を用いてポリマー設計・検証サイクルの試行回数を大幅低減

2018年11月27日
昭和電工株式会社
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
先端素材高速開発技術研究組合

画像:昭和電工株式会社・国立研究開発法人 産業技術総合研究所・先端素材高速開発技術研究組合

 

昭和電工株式会社(社長:森川 宏平 以下、昭和電工)と国立研究開発法人 産業技術総合研究所(理事長:中鉢 良治 以下、産総研)と先端素材高速開発技術研究組合(理事長:腰塚 國博 以下、ADMAT)は、人工知能(AI)の活用により、要求特性を満たすポリマーを設計する際の試行回数を約1/40に低減できることを見いだしました。

本開発は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(プロジェクトコード:P16010、プロジェクトリーダー:村山 宣光 以下、超超PJ)」の委託事業として実施しています。超超PJでは、従来の経験と勘を頼りにした材料開発からの脱却を目指し、マルチスケールシミュレーションやAIを積極的に活用することで、従来の材料開発と比較して開発期間を1/20に短縮することを目指しています。

具体的内容

昭和電工と産総研、ADMATは、ポリマー設計におけるAI技術の有用性を実証するため、AIを活用して要求特性を満たすポリマーの探索を行いました。モデルケースとして耐熱性の指標であるガラス転移点に着目し、構造とガラス転移点が判明しているポリマーの構造データ417種の中から最もガラス転移点が高いポリマーをAIで探索し、発見までに要する試行サイクルを短縮できるか検証しました。

まず、無作為に抽出した10件のデータをAIに学習させます。学習データにはExtended Connectivity Circular Fingerprints (ECFP)という手法を応用し、ポリマーの構造的特徴を数値化したものを用いました。次に、残りの407件の中から最もガラス転移点の高いポリマーをベイズ最適化を用いて予測・検証を繰り返し、実際に所望のポリマーを発見するまでの試行回数を調べました(図1)。データの選び方で結果が変わることを防ぐため、初期データを変えた試験を500回実施し、試行回数の平均値を評価しました。

図1 ポリマー設計・検証の試行回数の評価試験イメージ

図1 ポリマー設計・検証の試行回数の評価試験イメージ

試験の結果、平均4.6回という極めて少ない試行で最もガラス転移点の高いポリマーを発見することに成功しました(図2)。この値は、無作為にポリマーを選出した場合と比べて約1/40と非常に少ない値であり、AIによるポリマー設計の有用性を裏付ける結果と考えられます。

図2 AIにより高効率にポリマーを探索できることを実証

図2 AIにより高効率にポリマーを探索できることを実証

AIの構築には、ポリマーの特徴を数値に変換する必要があります。本開発では、モノマーの構造を表す手法であるECFPを応用することで、官能基などの分子の部分構造を自動的に抽出し、構造的特徴を数値ベクトルで適切に表せることを見いだしました(図3)。当データから構築したAIの活用により、ポリマー1つ当たり0.25秒という非常に短時間で高精度の物性予測を実現し、限られた時間内で膨大な数の候補ポリマーに対して網羅的な物性予測が可能になりました。さらに、予測方法にはベイズ最適化を用いることで、13.6件の学習データで約400種類の候補ポリマーの中から最もガラス転移点の高いポリマーを発見しました。従来、学習データが少ない場合、AIの予測精度が低くなりやすい課題があり、AIの活用には大量の学習データが必要と考えられてきました。本開発の結果は学習に使用できるデータが少ないと想定される最先端の材料開発においても、AIにより課題解決できる可能性を示唆しています。

図3 AIの構築

図3 AIの構築

今後は、本技術をさらに高度化させ、実際の機能性材料開発に活用できるよう開発を進めてまいります。なお、本件の詳細は、11月27日 (米国東部時間)の2018 MRS Fall Meetingにて発表されます。

  • ベイズ最適化…予測値だけでなく推定される誤差も考慮して、次の候補を選出する方法。

昭和電工 会社概要

会社名:昭和電工株式会社
所在地:東京都港区芝大門一丁目13番9号
設 立:1939年6月
代表者:代表取締役社長 森川 宏平
事業内容:有機・無機化学品、セラミックス、電子材料、アルミニウムなどの製造・販売

産総研 組織概要

組織名:国立研究開発法人 産業技術総合研究所
所在地:東京都千代田区霞が関 1-3-1
設 立:2001年4月
代表者:理事長 中鉢 良治
事業内容:産業技術に関わる研究開発
URL:https://www.aist.go.jp/新規ウィンドウで開く

ADMAT 組織概要

組織名:先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)
所在地:茨城県つくば市東一丁目1-1中央5-1(産総研つくばセンター内)
設 立:2016年7月
代表者:理事長 腰塚 國博
事業内容:機能性材料の試作回数・開発期間を大幅に短縮する研究開発
URL:http://www.admat.or.jp/新規ウィンドウで開く

お問合わせ先

株式会社レゾナック
TEL:029-856-3580
担当:ブランド・コミュニケーション部 広報グループ

産総研
TEL:029-861-3050
FAX: 029-861-3171
E-mail:m.kawata@aist.go.jp
担当:機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター
川田 正晃
〒305-8568 茨城県つくば市梅園1−1−1 中央第2

TEL:029-862-6216
FAX: 029-862-6212
E-mail:press-ml@aist.go.jp
担当:企画本部報道室

ADMAT
TEL:029-856-3580
FAX:029-856-3582
E-mail:s-hatakeyama@admat.or.jp
担当:畠山 修一