レゾナックナウ

長野・大町発の黒鉛電極が、最近注目されている理由とは?

2023年01月17日

黒鉛電極と聞いて、何に使うものかわからない方が多いと思います。
答えは、「地球にやさしい鉄をつくるために欠かせないもの」。鉄スクラップを溶かして鉄鋼を作る「電炉」のなかで使われ、鉄のリサイクルと脱炭素に貢献しているのです。レゾナックはこの黒鉛電極事業を、日本のほか、米国とスペインに統括責任者を置いてグローバルに展開し、世界シェアはトップレベルです。

ケタ違いに巨大

3000m級の山がそびえる北アルプスのふもと長野県大町市に、レゾナック・グラファイト・ジャパンの大町事業所はあります。広さは東京ディズニーランドの1.5倍近い約70万㎡。倉庫には黒くて太い電柱のようなものが積まれています。最大で直径80cm、長さ2.8m、重さ約2.5t。ケタ違いに大きな物体、これが黒鉛電極です。

大町事業所に積まれる黒鉛電極

この黒鉛電極は、廃車や廃材などの鉄スクラップを入れた電炉に取り付けられ、雷ぐらいの大電流を流すと「アーク放電」という現象を起こします。その結果、炉内が超高温になってスクラップが溶けることで、「廃鉄を新たな鉄に」生まれ変わらせます。

電炉内でスクラップが溶ける温度は約1600℃。電極先端では3000℃にも達します。この厳しい条件に耐えられる部材は黒鉛だけ。電炉メーカーが長寿命で損傷しにくい製品を求めるなか、レゾナックの黒鉛電極は、生産能力で世界1位、市場シェアで常にアメリカの競合会社と世界一を争うトップブランドを維持しています。

加速する「電炉シフト」

鉄鋼の生産は、電炉方式と鉄鉱石を原料とする高炉(溶鉱炉)方式があり、現状では高炉が主流で、世界の75%を占めています。しかし、「生産する過程でのCO2排出量を高炉の約4分の1に抑えられる」という電炉の特性に世界が注目するようになりました。脱炭素が至上命題となっている今、鉄のつくり方が変わろうとしています。

国別の電炉比率(2021年の推定)をみると、米国が70%、欧州も35%が電炉です。さらに英国やチェコの大手鉄鋼会社が電炉への転換を表明するなど、米国や欧州で電炉の新設計画が目白押しとなっています。

一方、日本や中国はそれぞれ25%、12%にとどまっています。しかし、日本政府が2020年に温暖化ガス排出量を「2050年までに実質ゼロ」を打ち出したことで、風向きが変わりました。日本全体のCO2排出量の約14%は鉄鋼業が占めるとあって、日本製鉄やJFEなどの高炉メーカーも大規模電炉の新規計画を発表するなど、国内での電炉シフトも一段と加速しています。

レゾナックの黒鉛電極をつくる「マザー工場」である大町事業所は北アルプス山麓に位置する

レゾナック製品は「ウルトラハイパワー」

高炉から電炉へのシフトで黒鉛電極の需要が増えるなか、中国やインドなど世界的な競争も激しさを増していますが、なぜ、レゾナックは高シェアを保っているのでしょうか。

理由があります。

ひとつは、戦略的な事業買収です。
レゾナックの黒鉛電極は、1988年にアメリカの工場を、2013年に中国の工場をそれぞれ現地の会社から買収しました。その後2017年には、当時業界シェア3位のポジションながら、業界2位のドイツSGL社の黒鉛電極事業を買収し、世界一の能力となりました。現在、マザー工場である日本の大町のほか、世界最大級の生産量のアメリカとスペイン工場、世界最新鋭のマレーシア工場、その他、オーストリアと中国に工場をもちました。

もうひとつは品質です。大町事業所に存在する「門外不出のマニュアル」があり、ここには原料となるコークスの混ぜ具合から「黒鉛化」する際の温度管理に至るまでのノウハウが書き記されています。さらに、米国、欧州、アジアの海外拠点と日本を一体化したバーチャル組織を構築し、最新情報をデータベースでOne dataとして共有しています。

中国などでつくられている黒鉛電極は「スーパーハイパワー」と呼ばれる製品で、主に、溶かされた鉄の成分調整や不純物を除去するための精錬用として使われています。一方、レゾナックの黒鉛電極は「ウルトラハイパワー」と呼ばれる高品質製品で、高水準の強度と高温特性が求められる電炉で使うことに適しています。

レゾナックの武田真人・業務執行役グラファイト事業部長はこう話します。

「巨大な設備と複雑な工程で高品質の製品を安定的に産み出すため、長年にわたって蓄積された多くのノウハウを駆使しています。自動化が難しい高度な技術を全体的にマスターするのに、有能なエンジニアでも最低10年はかかります。また、我々も日々さらなる改善を実施しており、簡単に真似される状況ではないと考えています」

世界各地で働くグラファイト事業部の経営にあたるメンバー。右から4番目が武田事業部長

新たにAIも活用

2021年、産業向け自動制御システムを手がけるメキシコのAMI社に50%出資し、今後は100%の完全子会社化を予定しています。同社が手掛ける、AIを駆使した電炉向け運転最適化ソフトウエアや電極制御システムは、北米をはじめとして世界中の電炉業界で多くの活用実績があるからです。

これらの技術を自社の高品質電極に適合させ、IoT、DX技術として唯一無二のサービスを買い手に提供していくことで、レゾナックは今後も、世界の持続的成長へ貢献する挑戦を続けていきます。

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