North America
Europe
Asia Pacific

【対談:パーシャル・スピンオフという選択】石油化学事業のこれからの道

2025年8月5日

※本記事は2025年8月発行の統合報告書「Resonac Report 2025」の転載です。

2024年8月にレゾナックの石油化学事業を継承した100%子会社のクラサスケミカルが新たに誕生。日本を代表する石油化学メーカーを目指し歩み始めたクラサスケミカルのトップと、パーシャル・スピンオフに向け取り組みを推進しているレゾナックCSO/CROが、目指す方向性について語り合います。

分離・独立は、"稼いだ"資金の投資先を自分たちで決められるようになるということ

真岡 今回クラサスケミカルとして新たなスタートを切った石油化学事業部(石化事業部)は、旧昭和電工の中でも"長男"のように位置付けられていたと思います。安定して利益を稼ぎ出すセグメントであり、決算発表も最初に石油化学、次に化学品という流れでした。それに、優秀な人材が揃っているという印象があります。

福田 優秀なメンバーが多いのは確かで、他の事業部にも人材を輩出してきました。売上高で言うと、旧昭和電工全体 の3分の1くらいを石化事業部で上げていました。

 もう一つ、石化事業部の最大の事業拠点、大分コンビナートには独特の文化があります。多くの危険物を取り扱っている関係もあり、全社的に行う教育だけでなく大分独自の新人教育をかなり厚くやっていて、規律をしっかり守る統率の取れた組織になっています。

真岡 石化事業部を分離しなければならない、という考えは最初から持っていたわけではありませんでした。というのも 石化事業は財務的に非常に重要な収益源であり、カーボンニュートラルの観点からも、社会に対する責任を負っている 側面があったからです。CEOの髙橋も経営者として、そうした事業を軽々しく切り離すという考えを当初から持ち合わせ ていたわけではありません。その一方で、「石化事業部にとってレゾナックがベストオーナーなのか」という議論は経営陣 の中では継続して行われていました。

 レゾナック誕生後、石化事業の分離を検討するきっかけになったのは大きく二つの要因です。一つは、当社の戦略について株主と対話を重ねる中で、株主の方々から意見があがってきたことです。半導体材料事業は将来的な成長性や利益率の高さが期待され、中長期的に大きく伸びていくと考えられますが、短期的な業績変動が大きい。一方、石化事業は、安定的にキャッシュフローを生む事業で、安定を志向する投資家の皆さんにとっては魅力的な投資先です。つまり、一つの投資先として捉えたとき、半導体材料と石油化学はお互いに"ノイズ"になりうる関係にあり、投資家としては別々に分けてほしいというわけです。

 さまざまな選択肢を見据えながら検討が進む中、もう一つのきっかけとして2023年6月、パーシャル・スピンオフに関して「産業競争力強化法」に基づく特例措置が創設され、税制で優遇される仕組みが新しくできました。それで、このパーシャル・スピンオフ税制を使って石化事業をよりスムーズかつ効率的に分割できるのではないかということになり、具体的な検討が進みました。

福田 石化事業は引き続きレゾナックの中でやっていくのだろうと思っていましたから、パーシャル・スピンオフの話を聞いたときは、正直、いろいろなことを考えました。簡単に「はい、独立してやっていきます」と言える話ではありません。

 当時のレゾナックでは、既に半導体材料に軸足を置くということでそちらに集中して投資を行っていて、われわれ石化事業部が「投資したい」と経営会議にかけても、前に進めないことが何度かありました。冷静にじっくり考えてみると、パーシャル・スピンオフで石化事業が分離・独立するということは、自分たちが"稼いだ"資金を自分たちの判断で投資できるようになるということです。自分たちのやりたい目的に向けて、投資を決め、機動力を持って進むことができるようになることに、大きな魅力と可能性を感じ、チャレンジしようという気持ちになりました。安定した収益性と培ってきた組織力という、独立してやっていけるだけの基礎体力を石化事業部は持っていましたから、決断できました。

新しい会社のあり方や目指す姿は自分たちが主体となって議論し形づくっていく

福田 パーシャル・スピンオフの話が決まって以降、関係者全員フル回転で動いてきました。まずは、組織、ガバナンス、要員確保、ITシステムなどハードの部分。事業会社としての形づくりです。こちらは、レゾナックや外部の専門家の力を借りて進めています。やらなければならないことのもう一つは、ソフトの部分です。新しい会社の文化であるとか、魂。こちらは、時間をかけて丁寧に築き上げていく必要があると思っています。

山田 石化事業部の従業員にパーシャル・スピンオフの話を伝えたのは、レゾナックが記者発表したのと同じ、2024年2 月14日でした。

 当初、大分コンビナートでは驚きと動揺が現場に広がりました。独立することによる大分コンビナートの成長性、将来に対して不安を感じたのだと思います。しかし発表から間もない3月、4月には、経営層が相次いで大分で従業員と対話する機会を設けてくれました。タウンホールミーティングやラウンドテーブルなどの場で経営層から計画や展望を聞くことで不安もかなり払拭され、気持ちも新たに前に進んでいこうという声がより多く出るようになりました。

福田 パーシャル・スピンオフの検討開始を発表して間もなく、石化事業部本社の中堅・若手が自主的に集まって「石化 ビジョンプロジェクト」を立ち上げ、新会社についての議論を始めていました。新会社の目指す姿、パーパス、価値創造プ ロセスなどなど、とにかく自分たち自身で議論し、構想を練っていくプロジェクトでした。8月にそのプロジェクトに大分の メンバーも加わって「ASU(アス)プロジェクト」となり、私の直轄で機動的に活動するチームが編成されました。プロジェ クト名の「ASU」には、CRASUS CHEMICALの明日(あす)を私たち(US)みんなで創るという思いが込められています。 クラサスケミカルのパーパス「明日のくらしを化学で支える」も、このASUプロジェクトでの議論から生まれたものです。ASUプロジェクトの活動はとても頼もしく、私としても心強く感じているところです。今は、長期ビジョンを経営陣と一緒になってつくり上げているところです。これまでのような、統率がしっかり取れている部分に加えてボトムアップでさまざまな議論ができる環境が出来上がりつつあります。

 私自身も、レゾナックで髙橋さんが実行されているように、昨年から30回以上のタウンホール、ラウンドテーブルを開き、200人以上の従業員と話し、考え方の共有に努めているところです。

真岡 組織としての統率力はそのままに、社員の自律的な動きから企業の価値を高めていく。こうしたカルチャーは、クラサスケミカルが"レゾナックらしさ"を継承しながら、"クラサスケミカルらしさ"を作り上げつつある証左といえるでしょう。

福田 パーシャル・スピンオフの話を聞き、他の部署や海外で働いている石化事業部出身の人たちで、クラサスケミカル に参加したいと手を挙げている人もいます。逆にこれまで石化事業部とは関係のなかった人でも、新規上場に関わる仕事に携わりたいとか、クラサスケミカルに移って活躍の場を広げたいと考えるモチベーションの高い人たちも加わってくれています。

優れた保安技術と運転技術で"止まらないコンビナート"を実現している

真岡 石化事業の分離を検討した際、改めて事業内容を詳細に、他社とも比較しながら調べました。その中で分かってきたのは、「うちの石油化学事業、結構強いぞ」という手応え。分離・独立しても十分に市場で戦っていけるという景色が見えてきました。

山田 大分コンビナートの最大の強みは優れた保全技術と運転技術によって、国内で1、2位の稼働率の高さを誇ってい る点です。定期修理期間以外でのトラブルによるプラント停止は、過去5年以上起きていません。1回プラントが止まると 億単位の損失が出てしまうので、安定的に運転できている点は大きな強みです。

 IoTや、スマート化などの技術を、レゾナックグループの中でも先駆けて活用している点も特徴です。プラントの不調を 予兆するシステムの導入や、点検にドローンを活用するなど、積極的にチャレンジしています。

 1969年の大分コンビナート操業開始以来55年間培ってきた保全技術・運転技術と、最新テクノロジーのハイブリッドによって、"止まらないコンビナート"になっているのだと思います。

福田 もう一つの大きな強みは、ナフサ以外のいろいろな原料を使いこなせる点です。メインとする原料は原油から出てくるナフサですが、大分コンビナートではかねてから原料の多様化を追求しており、LPGや灯油・軽油も原料として使いこなすことができます。市況の情勢に応じてナフサ以外の原料をフレキシブルに調達することでコストダウンできるというわけです。ナフサ以外の原料をここまで使いこなせるコンビナートは、他にはありません。

山田 大分コンビナートでは他にも、競争力のあるユニークな誘導品を数多く製造しています。高純度アリルアルコールは世界外販市場シェアトップ、酢酸エチルは国内シェアトップです。特に高純度アリルアルコールは、昨年8月に増設プラントが稼働し、拡販を図る体制が整いました。

もっと地域や社会との共生に軸足を置いてグリーン化を進めなければ生き残れない

真岡 少し長い時間軸で見ると、石油化学工業という産業にとっての非常に大きな課題は、脱炭素です。大分コンビナートはカーボンニュートラルに向けたロードマップを策定し、さまざまな取り組みを進めてきましたが、この課題への取り組みを加速させなければ、企業として生き残っていけないでしょう。

福田 その通りです。これまで私たちは、化石原燃料から作られる製品を販売し、収益性を高めることを考えてきました。しかし、その考え方のままでいいのかというと決してそうではなくて、もっと地域や社会との共生に重きを置いて、カーボンニュートラルを含めたグリーン化を果たしていかないと、これからの石化事業は成り立っていかないでしょう。

山田 グリーン化については、分社化に関係なくこれまでもさまざまな施策を打ってきました。これからは、よりスピード感を持って、地域社会と連携しながらこれまで以上に機動的にやっていく必要があると考えています。

 中長期構想としては、「革新的分離剤による低濃度CO2分離システムの開発」(NEDOグリーンイノベーション基金事業)を日本製鉄、各大学と進めています。また、「大分コンビナートにおける産業間連携によるカーボンリサイクル事業の実現可能性調査」(NEDO事業)に参画し、CO2を原料とする化学品製造の観点からCO2排出量の削減に貢献すべく検討を開始しています。さらに、九州大学・丸紅・三井住友信託銀行と共に、九州における資源循環型社会モデルの構築を目指す「知の拠点」を設立しました。九州の産・官・学の力を結集し、廃プラスチックを中心とする廃棄物のケミカルリサイクルによる再資源化で地産地消型プロセスの確立を目指しています。

同じ源流を持つ二つの会社として独立しつつもシナジーを生み出す関係性を大事にしたい

真岡 近い将来、クラサスケミカルとレゾナックは、独立した上場企業同士としての新しい関係性を構築していかなければなりません。

福田 クラサスケミカルの上場後、二つの会社がそれぞれの道を行くというのは、当たり前のことです。だからといってレゾナックとクラサスケミカルの関係が切れるわけではありません。気持ちの面でお互いにつながっていたいと思っていますし、それはレゾナックが相応の比率の株式を保有し続けるという点にも表現されています。教育・技術・人的交流などで、レゾナックとクラサスケミカル双方にメリットが生まれると思っています。将来的には、一緒に、いろいろなことにチャレンジするような機会も生まれてくるのではないでしょうか。

山田 保安、生産、保全技術に関しては、私たちも自信があります。事業の方向性としてもお互いに共鳴できる部分があるので、今後もさまざまな面で協力関係を続けていきたいですね。

真岡 人材面でも協力的な関係が築けないか考えていきたいですね。もちろん上場にあたって一定の独立性を担保する必要があるので、具体案は今後しっかりと検討していく必要がありますが、源流が同じ会社として、両社どちらでも活 躍できる人材が揃っていると信じていますし、それぞれの従業員のキャリアパスにメリットがある形での交流ができるように一緒に考えていきましょう。

"明日のくらしを化学で支える"このパーパスを原点に石油化学工業へのイメージを一新する

真岡 このパーシャル・スピンオフは、すべてのステークホルダーの方々に「やってよかったよね」と思ってもらえるものにしなければなりません。そのためにも、株主だけでなく、従業員の 皆さん、お客さま、あるいは地域のコミュニティの方々の期待に応えられるような結果を出していきたいと強く思っています。

 もう一点、このパーシャル・スピンオフで、日本の石油化学 工業の未来を憂いている方々にサプライズをお届けしたいと、真剣に思っています。石油化学工業の明るい展望を切り拓いていく会社をつくるというのが、このパーシャル・スピン オフの大義の一つだと思っていますし、クラサスケミカルならやれる、やってくれると信じています。

山田 大分コンビナートは、長年培ってきた高い現場力を誇っています。例えば、先ほど原料の多様化、ナフサ以外の原料も使えるという話が出ましたが、言い換えると、さまざま な運転に対してフレキシブルに対応できる能力があるということです。現場を支える部署が役割や責任をしっかりと認識している自律性・専門性と、それをしっかりとオペレーションできる組織の実行力・統率力の双方を併せ持つからこそ、私たちは強いのだと思います。

 私たちは、これまでも"豊かさと持続・成長性が調和する「アジア最強コンビナート」"を目指し、さまざまな活動に取り組んできました。地道に日々積み重ねてきた活動の上に現在の大分コンビナートがあるのであって、「アジア最強コンビ ナート」を目指す志と、日常の取り組みの大切さは忘れてはいけないと思っています。ここは今後ともブレることなく、しっかりとやっていきます。

 さらに、クラサスケミカルとなり、持続可能な明日をつくる企業であるために、これまで以上に機動的にレゾナックも含めた社内外との共創による研究開発や技術開発も意欲的に進めていきたいと考えています。

福田 パーシャル・スピンオフで分社化し、さらに上場を目指すというのは、相当にチャレンジングな取り組みであることは確かです。ただ、これをやり遂げた暁には、とてつもない達成感がやってくるでしょう。もちろんやり遂げた後の方が大 切なことは分かっていますが、まずは、その達成感をみんなで味わいたいと思っています。

 もう一つ、今、私が強く思うことは、われわれがつくったパーパス「明日のくらしを化学で支える」を大切にしていきたいということです。これからの企業活動は単にお金儲けのためではなく、自分たちはどうすれば本当の意味で社会の役に立て るのか常に考え続けなければなりません。だから「明日のくらしを化学で支える」という私たちのパーパスをいつも忘れず に事業に取り組むことで初めて、地域社会の皆さん、ステークホルダーの皆さんからの信頼を得ることができる。その先に、社員のやりがいも出てくるし、ひいては収益力の拡大や企業価値の向上につながっていくのだと思っています。従業員の皆さんには、こうした私の思いを一生懸命伝えているところです。そして、数年後、従業員に「クラサスケミカルで働いていてよかった」と思ってもらえるよう、全力を尽くしていきます。

 

サステナビリティ:サイトマップ