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【CFOと投資家対談】レゾナックのポートフォリオ経営のこれまでとこれから

2025年8月5日

※本記事は2025年8月発行の統合報告書「Resonac Report 2025」の転載です。

長期目線の投資家の生の声、客観的な意見を頂戴し、当社の経営や情報開示に活かすことを目的として、対談を実施しました。お招きしたのは、日本を代表する機関投資家であり、当社の国内実質株主上位3社の皆さまです。CFOの染宮が直接お話を伺いました。

第二の創業期を振り返って

染宮 辛抱強い株主として当社株式を保有していただき、心から感謝します。皆さんを含む株主の方々に初めてお会いしたのは、私が旧昭和電工に入社した2021年の年末でした。今回改めて当時の対話メモを見返してみると、「経営陣を信頼できない。事業が多すぎる。ボラティリティの大きい黒鉛電極に業績と株価が左右される。ボトムラインが特損で大きく動く。よって昭和電工を評価できません」と、相当厳しいご指摘が並んでいました。ただ、それはその通りで、「真摯に受け止めて、ご信頼を勝ち取れるようにやっていきます」というお話をしたことを鮮明に覚えています。

上迫 私は染宮さんとのミーティングをポジティブに受け止めたことを覚えています。マネジメント体制や事業戦略のお話を聞き、中長期的な成長の期待値が高まったと感じました。弊社ではMBIS®というフレームワークで非財務情報を評価していますが、ミーティング後にポイントを大幅に引き上げました。

野口 初面談、私も覚えていますよ。会社を半導体材料中心にシフトしていく、それも外部からきたマネジメントが進めるとなったとき、しっかりと従業員のエンゲージメントを高められるか、見させてもらいます、と言った記憶があります。

染宮 正直に言って私も、マネジメントとしてやろうとしていることが従業員の皆さんに受け入れられるかどうか、当初は半信半疑だったんです。CEOの髙橋は、まさに従業員のエンゲージメントを高めていくことが要になるという考えで、「金勘定やポートフォリオ経営の執行はCFOの染宮とCSOの真岡に任せて、自分の時間は従業員のために使いたい」と初めから言っていました。

野口 統合報告書を読む限りでは、時間の経過とともに、エンゲージメントは高まっているように見えます。

染宮 髙橋はCEOに就任以来、世界中の事業所を回っているんですが、初年度は新会社の方向性に関するメッセージを、自分の言葉で従業員に伝える、ということをしました。2年目になると、同じように事業所を回って、従業員がこの方向性をどう思っているか聞きたいと、よりインタラクティブな形でやったんですね。これだけ頻繁に事業所を回っているCEOはそういないと思います。トップ自らが変革、新しい文化やパーパス・バリューの浸透に一番時間を使ってきたことが、エンゲージメントが改善している背景だと考えています。

野口 半導体材料事業への集中が進む中で、マネジメントから「モビリティや黒鉛電極は中心ではない」というようなメッセージもあったと思います。それらの事業に関わる従業員からは、どういう反応がありましたか。

染宮 「半導体材料以外はみんなノンコア」と受け取る向きもあるかもしれませんが、実際にやろうとしているのは、ポートフォリオ経営です。つまり、各事業にはそれぞれ異なる役割がある。私としては、目指しているROIC10%実現につながる事業は、半導体材料とシナジーがあろうがなかろうが、ポートフォリオにあってほしい。実際に社内でもそう言っています。

事業と経営を測るKPI

上迫 今KPIとしてROICが出てきましたが、一律のKPI、例えば成長性で各事業を評価した場合に、半導体材料以外はそれに劣後して、社内で評価されない、ということもありうると思います。事業によって、評価の仕組みをどう変えているか、特にKPIをどう設定しているか教えてください。

染宮 現状としては各事業同じKPIで見ていて、求める水準、例えばEBITDAマージンのマージン率は各事業のポートフォリオ上の位置付けによって変えています。事業部単位の業績評価という点では、今は予算比のパフォーマンスで測っているので、予算のストレッチの効かせ方で差をつけています。

上迫 どの事業にいるからということで、評価で割を食ってしまうことは今のところはないと。

染宮 ないようにしています。今後、成長事業は成長指標をより重視するような形で、事業の位置付けをより明確にした評価の仕組みに持っていければと思います。

市原 化学メーカーは、成長性と同時に信頼性も求められるので、中長期的な評価の仕組みづくりは悩みどころだと思います。信頼性をどのように評価すればよいと思いますか。

上迫 信頼性というのは、顧客からの信頼性ですか。

市原 どちらかというと、株主ですね。

染宮 そういう意味では、例えば黒鉛電極のように市況変動が大きい事業は、少し長い目で見た業績のボラティリティの抑制ができていれば、そこも評価できないかとか、社内で議論はしているところです。株主目線でのKPIとしては、海外投資家からはもっとEPSやネットDebt/EBITDAで語ってほしいという要望を多くもらっていて、開示に反映させています。皆さんはどう思われますか。

市原 マストではないですが、あるといいなとは思いますね。

野口 EPSに関して言えば、御社の場合「特損はいつまで出ますか」ということと同じ話といえるかもしれませんね。

半導体材料業界の再編とスコープ

染宮 先日、髙橋の半導体材料再編に関する発言が、メディアにもいろいろと取り上げられました。発言の趣旨としては、「業界再編は相手のある話だから、いつ機が熟すかは分からないけど、そのときは当社は必ず何らか関わりたい」というものでした。要するに、相手が「単独ではなく、他企業と寄り添ってやっていきたい」と思ったときに、真っ先に当社を思い浮かべてもらおうというわけです。

上迫 私としては、インオーガニックを含む半導体材料事業の成長実現のために、御社に業界再編の核になってほしいと思っていますよ。

市原 御社は半導体材料再編といったとき、スコープとしてどこまで考えていますか。例えば日本の総合半導体材料メーカーのトップは信越化学工業さんだと思います。彼らの強みは、先端半導体の設計がどんどん複雑になっていく中で、リソグラフィが決まって、スペックが決まって、そこにウェハーを合わせ込んで、クロスセルができるところ。御社はどこまでを考えていますか。

染宮 そういう意味では、前工程もしっかりと品揃えを持ちたいと考えています。リソグラフィは非常に大事で、やはりデバイスメーカーからすると、まずその工程を想定して、どういう回路、素子構成で、という点が、開発ロードマップ上で一番最初に考慮されるんですね。さらにその検討の過程で顧客の設計の人たちと関係を築けていると、数年後に後工程の材料で何を使うか、という形で波及していくんです。再編に関しては、まずは例えば、今JOINTでやっているような形の連携を、もう一段深化させるような形から始まってもよいと思っています。

市原 共同研究開発だと、特に先端材料の開発になると、どうしても各社の思惑があるので、「やりたい評価ができない」という話はちらほら聞きますよね。

染宮 「もう一段深くやりたいけど、今の共同研究開発の枠組みだとできないよね」というところが再編の糸口になることはあり得ると思っています。

石油化学事業の上場に向けて

市原 石油化学事業の上場に向けて、PBRが1倍を上回る蓋然性を高めるために、どのような配当政策を打ち出すつもりですか。また本社として、どういうサポートをしていきますか。

染宮 われわれが肝だと思うのは、国内の石油化学市場が成熟ないし縮小していく中でも、クラサスケミカルはしっかり配当を続けられるだけの利益を出していけますというところ。それを踏まえた彼らのエクイティストーリーを構築し、国内に株主ベースを立ち上げる支援をしていきます。

市原 大分コンビナート全体では、他地域のコンビナートと比較して、川中、川下が弱いところがあると思います。

染宮 ご指摘の通りの部分もありますが、今持っている誘導品の中でも、強いものはあります。それを理解いただけるようにして、強いところが拡充していく姿を示していければと思います。

上迫 国内のエチレンプラント再編の動きが進む中で、そこから距離を置いているようにも見えます。再編の動きの中で、クラサスケミカルはどう振る舞っていきますか。

染宮 東日本、西日本それぞれ再編の動きが出ていますが、大分の場合、いずれも地理的には離れています。あくまで個人の意見ですが、他社と統合する、しないにかかわらず、エチレンなどの船輸送を通じて他地域コンビナートと連携するということは、今後考えられると思いますね。

上迫 他のコンビナートの再編の中で、原料供給を受けられなくなってしまう誘導品メーカーが出てきてしまうことがあるかと思います。そういった会社が大分に移ってくることはありえますか。

染宮 大分に関心のある企業があれば、ぜひ来ていただければと思います。

黒鉛電極事業と構造改革

野口 中国が世界需要以上の生産キャパシティを持っている製品として、リチウムイオン電池、太陽電池、EVなどがありますが、今は黒鉛電極もそれに当てはまると思います。将来的には御社でやるべきものではないという感じもしますが、どう考えますか。

染宮 黒鉛電極は足元の事業環境が非常に厳しいのは確か。事業売却したら大きな損失を計上するような環境で本当に売却を考えるべきか、それとも、当社で責任を持ってキャッシュフローが回復するところまでの構造改革を進めるべきか、まさに経営としての判断が必要なところと認識しています。市場環境は待ったなしなので、とにかく今は構造改革を推進しています。

上迫 私はモビリティについても、黒鉛電極並みの構造改革が必要と考えます。

染宮 今の大方針は、機能性材料の出口としてモビリティへのアクセスは必要という考えのもと、選択と集中を進めるというものです。具体的には、機能性材料として戦えるものは残し、そうでないものはやめていくということです。

低マルチプル脱却のために

染宮 当社のバリュエーションについて、総合化学のマルチプルから抜け出してPBR 1倍割れを解消するところまで改善しましたが、年明けのDeepSeekショックの影響、トランプ関税以降の市場の変調などもあり、今(2025年4月現在)は私が入社した頃の株価まで逆戻りしてしまっています。

上迫 マルチプルは、ROEと相関があります。「ROEをしっかり上げるので、マルチプルも付いてくるはず」というロジックで話せば、確信度、説得力は高まると思います。

野口 バリュエーションが今一歩上がらないという点で言えば、かつて旧日立化成のマルチプルは十分高くなかったと理解しています。「かつて旧日立化成はバリュエーション高くなかったよね」というのは、よくファンドマネージャーから指摘されるポイントです。

市原 当社でも、同様の指摘を受けることはありますね。

野口 御社の半導体材料のポートフォリオや収益性が、当時と今でこう違うということを明確に示し、説明することができれば、当時の日立化成よりも高いマルチプルが与えられるのではないかと思います。

染宮 そこは、既に当社のストーリーとして伝えてきている部分ながら、もう一段の浸透を図る必要があると思っています。日立化成として上場していた時代と今の大きな違いとして、半導体のMore Than Mooreの世界がかなり明確になってきて、先端パッケージの世界がかなり広がっている点があります。前工程の微細化で付加価値を高めるのではなく、後工程のパッケージングで付加価値を高めましょうという流れですね。これによって、後工程の付加価値取り分が高まっているというのが日立化成時代との大きな違いです。

野口 日立化成時代と比べて他の事業は小さくなっているから、当時のマルチプルと比べて高くあるべきだ、という説明でもいいと思います。ひょっとして前工程材料にもさらに手を出していくなら、より事業機会も広がって総合半導体材料メーカーにもなりえます。

キャピタルアロケーション

染宮 業績が改善する中で、現在のキャピタルアロケーション、特に株主還元の考え方について聞かれることが増えてきました。現在のキャピタルアロケーション方針やその開示について、どう思われますか。

市原 他社と比べても開示してもらっているし、分かりやすいと思うのでそこについて不満はないですね。

上迫 御社は結構踏み込んで開示していると思います。1万円の目標株価を出していたり、当面は希薄化を伴うアクションは行わない、など。キャピタルアロケーションについても、他社と比べても踏み込んだ、意図を持った開示になっていると思います。方針については、御社はまだ財務体質にそこまで余裕がない、一方で成長投資も必要なので、私個人としては、さらなる還元をやってほしいとは思わないです。

野口 キャピタルアロケーションに関しては、私も同じ意見。還元を強化してほしいとは現段階では思わないです。PBR改善のために還元を増やす会社も多いですが、そういう会社はネットキャッシュで、「使い切れないんだから、還元しましょう」という話で、御社は全く該当しないと思います。成長分野を持っているから、当然投資優先でやるべきだと思います。

レゾナックに期待すること

染宮 最後に、これから当社に期待することを教えてください。

野口 当社としては、御社が日本の中でマネジメントが変わった会社の成功例になって、そういった経営が広がってくれることを期待しています。途中経過できちんと結果が出て、従業員が「この方向で正しいんだ」と納得して、みんなのベクトルが揃う、こうなるとベストプラクティスとして他社にも紹介できる事例になります。これからも注目しています。

市原 私は化学メーカー出身ですが、1990年代の欧州化学再編は、石油化学にこだわったBASFが時価総額でナンバー1となり、再編を積極的に進めたIC(I ImperialChemical Industries)は空中分解し、Bayerは分社化した企業を合わせても、企業価値が、総合化学であるBASFを下回る結果となりました。ただし、時代が違えば結果も違ったと思っていて、再編を積極的に進めている御社がこの業界でアウトパフォームすることをぜひ期待しています。

上迫 今目指している方向が実現できれば、株式市場は御社を評価すると思いますし、それを期待しています。あとは、従業員エンゲージメントにも関わる話ですが、ぜひ従業員の株式報酬を増やして、同じ船に乗ってほしいと思います。従業員に自社株を積極的に持ってもらい、働いて企業価値を上げることが、投資家だけでなく、自らのためにもなる姿を実現してほしいと思っています。

染宮 今後とも皆さんのご期待に沿えるよう邁進してまいります。本日はどうもありがとうございました。

 

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