【社外取締役と執行の対談】「監督」と「対話」の力を活かす取締役会でレゾナックが挑む、実効性あるガバナンスのかたち
2025年8月5日

※本記事は2025年8月発行の統合報告書「Resonac Report 2025」の転載です。
2社の統合を経て、新たな企業文化の醸成と経営体制の再編に取り組んできたレゾナック。 取締役会においては、モニタリング機能の明確化を起点に、議題設定や取締役の選任基準の見直し、コミュニケーション体制の強化など、着実な制度整備と実務のすり合わせを重ねてきました。2024年度の重点テーマとして掲げられた「レゾナックらしいモニタリング機能の言語化」は、ガバナンスの実効性を高めるための起点とも言える試みです。 社外取締役の視点も交えながら、監督と執行の役割分担、多様性とスキル構成の最適化、そして将来に向けた課題について、率直な意見を交わしました。
統合からの歩みと現在地
真岡 これまでの取締役会は、"少し厳しくなった経営会議"とでも言うような状態になっており、監督と執行という役割の違いが曖昧になってしまっていました。その理由としては、いわゆる5W1Hにおける「いつ」「どこで」は決まっているものの、それ以外の部分の定義が不明確なまま議論が進んでいたからだと考えています。取締役会における議論の質の向上を目的に、まずはその役割を明確にしていこうというのが、現在に至るまでの取締役会の動きと言えます。具体的には、取締役会付議の金額基準を上げることでの議題の厳選、モニタリング中心への機能転換、重要案件の事前説明やカジュアルな意見交換会の導入などです。中でも取締役会を効果的に機能させるための「モニタリング」の 定義付けについては、かなり力を入れて取り組みました。
常石 私が社外取締役に就任したのは2023年3月ですので、長いスパンで取締役会の変化を見ているわけではありませんが、髙橋CEOを中心とした新たなマネジメント体制は非常に一体感が強く、強力な体制を築けていると感じています。また歴史のある会社でありながら、ここ数年で入社された方が経営トップ(社内取締役)の半数以上を占めているというのも、大きな特徴と言えるでしょう。ただ一方で、レゾナックは国内外に多数の拠点がありますが、それぞれがリレーションシップを構築し、理想的な共創のオペレーションを実現できているかという点については、課題がある印象です。この企業規模ですから、ガバナンスに関してもそのハードルは非常に高いはずですので、今後も注視していく必要があると思います。ただそれでも、意思決定のスピードは非常に早く、合理性に立脚した実行組織であることに間違いはありません。これだけ変化の激しい超VUCAの社会において、アジャイルに決めて動ける体制というのは、レゾナックの強みではないでしょうか。
安川 私も就任してからまだ日が浅いので、変化という部分について詳しく見ることはできていませんが、大型合併後も旧昭和電工、旧日立化成両社の文化を引き継ぐようなことはせず、新しい文化を作るという高い志と、それを形にしていく実行力を持っていることに感心しています。しかし、事業目線で見ればそれぞれの旧会社の事業領域が異なるため、現場レベルでの人材の交わりが希薄になってしまっているのは課題と言えますね。事業所ごとに異なる文化が形成されてしまう可能性もあるので、どのように改善していくか注視が必要です。取締役会のあり方については、ポートフォリオマネジメントという言葉が頻出し、目的を達成するための変革には非常に積極的であると感じています。一方で、個人的には製造業の会社であり複雑な部品や材料を作っているわけですから、もう少し品質管理や品質向上といった言葉も出てくると良いのではないでしょうか。
モニタリング機能の実効性を高めるために必要なこと
真岡 2024年の取締役会では、「レゾナックらしいモニタリングのあり方」について議論を深めました。というのも、モニタリングと口で言うのは簡単なのですが、それを具体的に定義することは意外と難しいものです。しかし、モニタリング機能の実効性を高めるためには、その定義がしっかり定まっていなければいけません。だからこそ、まずはレゾナックらしいモニタリングを一旦は言語化することを目的に、議論を行ったのです。結論から言えば、確定まで持っていけたわけではありません。今後さまざまな議論が行われていく中で、少しずつフィードバックをしていくための、初期設定をしたという段階ですね。常石さん、安川さんは、モニタリング機能の実効性を高める上で、レゾナックの現在の取締役会に必要な視点は何だと思いますか? また社外取締役として、モニタリング機能が発揮されるために意識していらっしゃる点はありますか。
常石 現在、マネジメントボードからモニタリングボードへの移行というのは、日本中で進められています。そして、このモニタリングという言葉を深く掘り下げて考えていくと、株主目線で業務執行をモニターする機能と要約できるかと思います。そうした前提のもとで、機能性を高めるにはどうすれば良いかと考えると、まずは指名・報酬の両諮問委員会、そして監査役会という三つの取締役会内の組織が、独立性と実効性をいかに確保しつつ、委員会としてのパフォーマンスを上げていけるか、ということに注力すべきではないでしょうか。ただ、モニタリングこそが取締役会の究極の目的かと問われると、私はそうは思いません。取締役会も経営会議も真に目的とするところは短・中長期での企業価値の向上であり、モニタリングはそのための有効な手段の一つでしかありません。近年では、モニタリングと併せて「多様性」という言葉も頻出しますが、それもやはり、あくまで企業価値を高めるための「多様性」を取り入れる、という視点をしっかりと理解しておくことが大切だと思いますね。目的と手段が入れ替わっているとまでは言いませんが、目的の部分を曖昧にしたまま手段や形態の話ばかりを重複してしまっているケースは近年よく見かけます。
安川 私からはモニタリング機能を発揮するために意識していることについて話します。まず短期的なビジネスの視点で言えば、特に注目するようにしているのは目標設定の正しさです。目標というのは「努力をして到達可能な最高点」でなければなりません。低すぎても、高すぎても、それはビジネスを減速させる要因になってしまうでしょう。その目標が合理的な説明のもとに設定されたのか、私たちはしっかり見ていかなければならないので、執行側からもそう した情報を念入りに提供してほしいですね。中長期的な視点では、第一にポートフォリオマネジメント。例えば現在の レゾナックは半導体の後工程において確固たる地位を築いていますが、そこが儲かると分かれば、世界中からライバル が参入してくる可能性があります。その時にどうするのか、他の分野に行くのか、経験や実績を強みに発展させるのか。数多くの選択肢の中から、本当に進むべき道を議論しなければなりません。また、戦略リスクや環境リスクへの備えも十分にする必要があります。万が一デカップリングのようなことが起きた時、どうすればよいかと立ち止まることがないよう、諸々の課題やリスクについては、私自身もしっかりと分類し、視点を定めた上で、取締役会での議論に積極的に貢献したいと考えています。
取締役会に求められるスキルや多様性のあり方
真岡 お二人が話されたことが、まさしく2025年度の行動計画で定めたサステナビリティ、ポートフォリオマネジメント、リスクマネジメントという三つの領域につながるわけですね。2024年には、取締役の選任基準についての見直 しも行いました。それまでの選任基準は、かなり一般的な内容で、レゾナックに最適化されていませんでした。歴史あ る日本の化学メーカーが統合し、グローバルに戦いながら企業価値を高めていくという、新たなスタート地点にいる会社がそれではいけません。だからこそ改めて、今後のレゾナックに必要なスキルのセッティングや選任基準を整えていったわけです。常石さん、安川さんは、取締役会に求められるスキルや多様性のあり方については、どのようにお考えですか?
常石 取締役会における多様性というのは、やはり先ほども述べた通り、企業価値を高めるための多様性であるべきだと考えています。単に多様性だけを求めるのであれば、企業や事業とは全く関係のないバックグラウンドを持つ人 に来てもらえば良いわけですが、それでは企業価値を高めることはできません。あくまでも、その企業や産業界、ビジ ネスモデルにおいてパフォーマンスを発揮していただける有能な人材をみて、その選択肢の中でどう多様性を高めていくのか、という順番で考えていく必要があるでしょう。近年は、多様性が先に出過ぎてしまって、「企業価値を上げる ための多様性」という大切な「枕ことば」がなくなってしまっているところも多いですね。また取締役会に求められるものに関しては、これもやはり原点に戻ってしまうのですが、取締役会の本来の役割に即したものであるべきと思います。つまり、株主を代表した目線を持ち、業務の執行を監督し、助言し、そして応援するということです。その考え方をもとにして、選任をしていくことが大切ですね。
安川 取締役会に求められるスキルや多様性については、常石さんのお話しいただいた通りかと思います。その上で、レゾナックの取締役会を今後さらに安定させていくためには、時代や株主構成に合わせてフレキシブルに構成を変えていける体制を築く必要があると考えています。現在のレゾナックは、モニタリングを重視する構成になっていますが、数年先には「もっと取締役会で戦略議論をやってほしい」と言われるようになるかもしれません。その時々のニーズや状況に対し、一番適した取締役会の構成にしていくための手段の一つとして、社外取締役の任期を決めておくのも良いと思います。任期が決まっていれば、次にオンボードしてもらう人を前もって探しておくこともできますし、急な都合で辞任されてしまうといった不測の事態にも対応しやすくなるはずです。
常石 それと、対応可能かどうかも重要ですよね。いくら能力が優れていても、レゾナック以外にも多数の社外取締役を兼任している方であれば、どうしても割ける力や時間が限られてしまいます。「あなたに来てほしい」と指名すれば必ず就任していただけるというわけでもありませんから、2~3年先にでも是非お願いできないかという方の人材も増やしておかないと、なかなかうまく回していくことは難しいでしょう。
安川 時代が急速に変わっていく中で、その時代その時代に合った方を見定めていく場合、任期が長くてもあまり良いことはないと思います。もちろん、大きな貢献をされた方は皆さまの総意で任期延長することもできるわけですか ら、動きやすい形にしておく方がメリットは大きいと思いますね。
2025年現在におけるガバナンスの課題と今後
真岡 繰り返しになりますが、レゾナックのモニタリングは、一旦定義を言語化しつつ、フィードバックを掛けている最中であり、ここのチューニングを進めていくことが第一だと考えています。その上で、現在は、企業文化の醸成や人材の育成、さらに事業ポートフォリオの最適化などに相当なパワーを割いている状態ですが、状況は常に変わっていくものですから、都度アジェンダの設定を見直していくことが大切ですね。またガバナンスのイシューとして捉えるべきかどうかは一旦置いておくのですが、安川さんに冒頭でご指摘いただいた品質管理に関する課題や、統合によって複雑化している業務プロセスや情報システムの本当の意味での統合など、細かい部分にも光を当てていかなければ、企業としての進化はないと考えています。
常石 ボードガバナンスの視点で言えば、諮問委員会の独立性や実効性を、さらに高めていくことが大切だと思います。現時点でもかなり高いレベルにあると思っていますが、ある一定の高さまで達すれば良いという性質のものではありませんから、これからも取り組み続けなければなりません。また全社のグローバルガバナンス、グループガバナンスの視点では、レゾナックは拠点数と事業数が膨大ですから、それらをいかにパイプでつなぎ、そのパイプを太くしていけるかを考えていくことも必要ですね。その中でも特に重要だと思っているのが、心理的安全性が確保され、2万数千人にのぼる全社員が、どこでも誰にでも思ったことが言える環境を整えることだと考えています。そういった企業風土や企業文化のようなものを築き上げていくことが、ひいてはグループガバナンスの構築につながっていくのではないでしょうか。お堅い文章で記されたグループガバナンスも大切ですが、そうではない雰囲気や空気感のようなものであってこそ、本当の意味でガバナンスが活きてくると思います。
安川 現代はマルチステークホルダー主義の時代だと思います。株主はもちろん、従業員や取引先、顧客や地域社会など、我々が属する社会すべてのステークホルダーに対し、企業は貢献していかなければなりません。株主主義であれば、とにかく短期利益を追求すれば良いとなるかもしれませんが、マルチステークホルダー主義であれば、利益だけ ではないサステナビリティなども考える必要があります。取締役会としても、すべてのステークホルダーに利益をも たらせる方向で、議論を進めなければいけません。ポートフォリオマネジメントに関しては、どのビジネスにも存在する"旬"の見極めと展開について、常に議論を重ねていくべきでしょう。例えば何かしらの事業を売却するにしても、どういった要素をモニタリングしていればより良い売却が実現できたか、という見直しや反省は常にしていかなければなりません。レゾナックは統合を経て、大幅な変革の最中にあり、まだ余裕があるというわけではないということは重々理解しています。ですがここ1、2年の間に、次に有望な種は何なのか、そしてその種を花開かせるためにはどのような 投資が必要なのか、といった話をボードの中で聞き、議論を深めていけるようにしていきたいと思います。