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対象業種自動車部品メーカー、産業機械メーカー、機械工具メーカー
用途想定ベアリング、ブレード・ベーン、パッキン、シールリング
摺動とは、二つの固体表面が相対的に滑りながら動く現象のことで、摩擦や摩耗がともないます。この現象は多くの機械や装置において重要な役割を果たしており、効率的な運動と耐久性の確保に欠かせません。
例えば、自動車のエンジンやトランスミッション内の部品、ベアリング、ガイドレール、引き出しのスライドレールなど、摺動部品は私たちの生活や産業に広く利用されています。 この記事では、これらの摺動部品の具体的な種類や機能、そして選定方法や用途・応用例について詳しく解説します。
摺動部品は機械や装置の内部で運動を支持し、摩擦を低減するために使われ、その種類は多岐に渡ります。代表的な摺動部品には、ベアリング、ブレード・ベーン、パッキン、シールリング、ガイドやステージなどがあります。表に代表的な摺動部品の種類を挙げて、その特徴と用途をまとめました。これらの部品は、機械の種類や使用環境に応じて選定され、それぞれが特定の役割を果たすための特性を持っています。
摺動部品は摩擦を減少せるために不可欠です。機械の動作をスムーズにすることにより、エネルギー効率が向上します。また、摺動部品は機械の精度を保ち、負荷を適切に分散させることで、部分的な過負荷や早期故障を防ぎます。摺動部品の適切な選定と使用は、機械や装置の性能と信頼性に直結します。そのため、使用環境や条件に応じた最適な摺動部品の選定が欠かせません。
摺動部品の役割と重要性
摺動部品には高強度と耐摩耗性を持つ材料が求められます。金属材料としては、鋼やステンレス鋼、高炭素クロム鋼などが一般的で、高い機械的強度と耐摩耗性を備えています。銅合金やアルミニウム合金が使われる場合もあります。一方、プラスチック材料では、ポリアセタールなどのエンプラや超高分子量ポリエチレンが使用され、軽量で低摩擦特性を持つことが特徴です。特殊材料としてセラミックスや複合材料も候補となり、高温環境や化学腐食に対する耐性が要求される場合に適応します。複合材料としては、エンプラのポリフェニレンサルファイド(PPS)にフィラーとしてカーボンファイバー(CF)を分散させたものが知られています。
摺動部品を選定する際は、使用環境(温度、湿度、腐食など)、負荷条件、動作速度、そしてメンテナンス頻度などを総合的に評価することが必要です。例えば、高温環境では耐熱性のある材料を、湿度や腐食環境では耐食性のある材料を選定することが重要です。また、自動車のホイールベアリングには、高速回転と高荷重に耐え、耐水性と耐塵性が高い材料を選びます。工作機械のリニアガイドには、高精度な直線運動のガイドが必要で、耐摩耗性と剛性が高い材料を選定します。 さらに、摩擦係数や耐摩耗性の評価に基づき、長寿命と高性能を兼ね備えた部品を選びます。適切な潤滑剤の選定・管理と定期的なメンテナンス計画も、部品の信頼性を維持する上で重要な要素です。
カーボン摺動部品とは、文字通りカーボン(炭素)を材料として製造される摺動部品のことです。カーボン材料の特性が、摺動部品として優れた性能を発揮する理由になっています。
カーボン材料の特長
カーボン摺動部品の特性
カーボン摺動部品の材料は、その組成や構造によって炭素質、炭素黒鉛質、黒鉛質の三つに分類されます。これに加えて気密性確保と機械的強度向上のため、上記の材料に熱硬化性樹脂を真空含浸・硬化させた樹脂含浸質も用いられています。 各種カーボン材料は、それぞれの特性と特長を生かして、適切な産業用途に選定されます。
摺動部品に使われるカーボン材料
他材料を用いた摺動部品と比較しても、カーボン摺動部品は、軽量性、高い耐食性、低熱膨張性、熱伝導性そして耐熱性が利点として挙げられます。これらの部品は高い耐摩耗性と耐熱性を持つため、非常に長期間使用することができ、結果としてトータルコストを削減します。また、軽量であるため、機械全体の総重量を減らし、エネルギー効率や運動性能を向上させます。さらに、高い耐食性により、多くの化学薬品や腐食性環境下でも長期間性能を保持するので、カーボン摺動部品は多岐にわたる産業で信頼性の高い選択肢となっています。
カーボン摺動部品と他材料を用いた摺動部品との比較
レゾナックは、多様なカーボン摺動部品を提供しており、それぞれが異なる用途や特性を持っています。主要な製品ラインには、炭素黒鉛質、樹脂含浸質、黒鉛質、および炭素質などがあります。これらの材質ごとに、ケミカルポンプ、船舶ポンプ、エアスピンドル、真空ポンプ、EGRバルブ、ディーゼル車のバキュームポンプなど、さまざまな分野で使用されます。
特に「HCBシリーズ」では、それぞれが固体潤滑性、耐摩耗性、機械的強度、耐熱性など特定の性能向上を狙って設計されています。例えば、〈HCB-1〉は水中や薬液中のベアリングに、〈HCB-30〉は高温ドライ環境での使用に最適です。
カーボン摺動部品の品質は、製造方法と品質管理に大きく依存します。原材料の選定から始まり、成形、焼成、黒鉛化という複雑な工程を経て製造され、各工程の管理がきわめて重要になります。特に焼成や黒鉛化の過程では、温度制御と雰囲気ガスの管理が不可欠であり、これにより材料の特性が決定されます。また、トレーサビリティの確保とフィードバックループの活用により、製品の品質維持、向上が可能になります。
レゾナックでは、カーボン摺動部品の原料選定から最終製品に至る各工程において管理項目を設定し、品質管理を実施しています。提供された部品図面には柔軟に対応し、市場の要求に迅速に応えられるよう努めています。また、評価サンプルの追跡調査やトラブル発生時の現品調査を実施し、製品の品質改善と信頼性向上を追求しています。
レゾナックにおけるカーボン材料の製造工程と品質管理
原料毎に定めた品質規格で管理
粉砕条件を管理し粒度を調整
所定配合量になるように秤量
混錬条件を管理し、各原料を均一に混合しながら造粒
粉砕条件やメッシュを管理し、粒度を調整
偏析をなくすため、混合し均一化
ブロックサイズや品種に合わせて成形条件を調整
適切な条件で焼成し緻密化させ、機械的強度などを向上
自動車産業において、カーボン摺動部品はエンジン内部のピストンリングやベアリングに使用され、エンジンの寿命と効率を向上させています。また、ブレーキシステムに採用されているカーボンセラミックブレーキディスクやカーボンブレーキパッドは、優れた摩擦特性と耐久性を提供します。トランスミッション部品では、カーボンクラッチとシンクロナイザーリングが高負荷条件下での信頼性を確保し、電気モーターのブラシや燃料・ウォーターポンプのシールおよびベアリングも多用されています。これにより、自動車のパフォーマンスと耐久性が大幅に向上しています。
HCB-5 (黒鉛質)
燃料ポンプのコンミテーター用コンミベースの概略図
産業機械や機械工具でもカーボン摺動部品は欠かせない存在です。ポンプやコンプレッサーのシールやベアリングとして使用され、漏れ防止と高耐久性を実現します。ロボティクスや自動化機械では、リニアガイドや関節部のベアリングに使われ、高速かつ精密な操作を可能にします。機械工具のスピンドルやホルダー、グラインダーの摺動部分では、低摩擦と長寿命化を可能にします。繊維および紙加工機のロールやガイドロールでは、長期間にわたり性能を維持し、高効率の加工を可能にします。発電およびエネルギー産業では、風力発電タービンやプラントのロータリー機器にカーボン部品が採用され、信頼性と長寿命化が図られています。
HCB-10 (炭素黒鉛質)またはHCB-10F (樹脂含浸質)
ケミカルキャンドポンプ用ベアリングの概略図
カーボン摺動部品は、自動車や産業機械以外の多様な分野でも活用されています。航空宇宙産業では、ターボファンエンジンのベアリングやアクチュエーター部品として使用され、軽量で高耐久な部品として重要です。医療機器分野では、人工関節における低摩擦・高耐久特性が求められ、精密な外科用ツールにも採用されています。家電製品では、モーターのベアリング部分や電気接点での耐摩耗性と静音性に寄与します。化学工業や食品産業では、反応器のシールやミキサーのベアリングとして使用され、耐薬品性と安全性が強調されます。また、水処理や風力発電などの環境工学分野でも、耐腐食性と長寿命を実現する部品として欠かせません。
レゾナックのカーボン摺動部品は、自動車産業、産業機械、機械工具、化学工業といった分野で長年にわたり活用されてきました。カーボンの特徴を活かした多様な製品群により、機械やシステムの性能向上、効率化、長寿命化に貢献し、コスト削減やメンテナンスの頻度軽減を実現しています。さらに、航空宇宙、医療機器、家電製品、食品および環境工学など、多岐にわたる分野での活用も期待されています。
レゾナックは、お客様がご要望される多種多用な製品群を、受注生産で対応しています。またお客様のご用途やご要求仕様に応じて、最適な材質を提案いたします。カーボンの特性を最大限に活かすことで、これらの産業における諸課題を効果的に解決いたします。
更新日:2024年8月29日
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