次世代の化学計算技術を実材料開発で評価

~化学反応解析の鍵となる遷移状態計算を従来比約28倍に高速化、半導体材料等の開発効率の大幅な向上へ~

2026年08月04日
株式会社レゾナック・ホールディングス

株式会社レゾナック(代表取締役社長CEO:髙橋秀仁、以下、当社)は、材料開発に活用する化学計算技術について、大規模な化学反応系では難しかった遷移状態※1(Transition State、以下、TS)計算を従来比約28倍に高速化できることを確認しました。磁性封止材※2に関連する反応系を対象とした実証※3では、従来法※4で約250分要していた計算を9分弱で完了しました。なお、本実証では、量子コンピュータ関連の米スタートアップQC Ware Corp.(CEO:Matt Johnson)が開発する量子化学計算※5プラットフォーム※6「Promethium」を活用しました。
本成果を踏まえ、当社は半導体材料をはじめとする各種材料候補の探索、反応メカニズムの解析へ本技術を適用し、開発サイクルの短縮など開発効率の向上を目指します。

化学材料、特に、半導体材料の開発においては、より高性能な材料をスピーディに創出することが求められており、材料シミュレーション活用の重要性が増しています。しかし、材料シミュレーションの一手法である量子化学計算は、高い精度で物質の性質や反応機構を予測できる一方、大規模分子を対象とする場合には計算時間が膨大となり、現実的な時間内でのシミュレーションが困難という課題がありました。これまで、スーパーコンピュータの活用や、ハードウェア性能の向上による高速化が試みられてきましたが、現状の量子化学計算アルゴリズム※7の限界により、実用上求められる計算速度を得ることが難しい場合がありました。

当社は、2023年のサービス提供初期より「Promethium」の評価を継続しており、材料開発における実ユースケースを通じて、その適用可能性と実用性を検証してきました。両社連携のもと、当社は、材料開発の観点から、研究開発に必要な機能要件を整理しました。これには、化学反応解析に重要な振動計算などのニーズが含まれます。QC Wareは、これらに基づき、アルゴリズムの実装および計算の最適化を行い、高性能GPU※8技術に適した計算を実現しました。これらの取り組みにより、従来のコンピュータによる大規模分子系の計算と同等の精度を保ちながら、短時間で、反応解析の鍵となる遷移状態を探索する計算(TS計算)を完了できることを確認しました。例えば、磁性封止材における実証では、従来比で約28倍に高速化しました。
化学反応経路の解析には通常このような計算を多数回繰り返す必要があるため、計算時間を短縮し、反応経路を短時間で解析できれば、材料探索の効率は大きく高まります。

また、本プラットフォームは将来の量子コンピュータ実用化を見据えた設計がなされています。そのため、量子コンピュータが実用的な計算資源として利用可能になった際には、従来型のコンピュータ上でのシミュレーションから速やかな移行が可能であり、量子化学計算のさらなる高速化が期待されます。当社は今後も、量子コンピュータを含む次世代計算技術の評価と活用を進め、材料開発の高度化に取り組んでいきます。
レゾナックは、今後も材料開発において外部パートナーとの共創を通じて最先端技術を追求するとともに、材料開発のスピードと効率を向上させることで、業界のリーディングカンパニーとしての地位を確立していきます。

  • ※1 化学反応において、反応物から生成物へ変化する際の一時的な中間状態で、反応進行のエネルギー障壁となる。中間状態であるため直接観測することは難しいが、計算により構造や特性を推定できるため、反応解析において重要である。
※2 半導体パッケージなどにおいて樹脂に微細な磁性粉末を混合した封止材で、インダクタ部材として使用される。
※3 本ユースケースにおいては、磁性封止材中の磁性粉末と樹脂との接合メカニズムを解析するため、磁性粒子のコート層表面への化学吸着を対象とした。
※4 比較対象としてpyscfなどを使用した。
※5 量子力学の原理を用いて原子や分子の性質などを予測する技術
※6 ウェブブラウザから使える、化学シミュレーション向けのクラウド型計算サービス
※7 量子化学計算により問題を解決するための手順や計算方法。量子化学計算の場合、おもに並列化およびその効率に関して限界があり、一定以上の高速化が困難であった。
※8 Graphics Processing Unitの略。3Dグラフィックスなどの画像描写に必要な計算処理を行う半導体チップ

以上

【QC Wareについて】
QC Wareは、最先端の計算技術を用いて企業価値を提供することに注力する、量子および古典コンピュータソフトウェアおよびサービス会社です。機械学習と化学シミュレーションアプリケーションに特化し、近い将来の量子コンピュータと最先端の古典コンピュータハードウェア向けのソリューションを開発しています。QC Wareは、量子および古典コンピューティング分野での業界トップの専門家たちで構成されています。Promethiumは、化学、材料、医薬品の探索・開発に向けた、高性能GPUを活用する量子化学計算プラットフォームであり、QC Wareの主力製品です。また、業界、実務者、学術界の量子コンピューティングコミュニティ向けの国際的な会議「Q2B」を開催しています。詳しくはウェブサイトをご覧ください。
QC Ware Corp. https://www.qcware.com/
Promethium, by QC Ware. https://promethium.qcware.com