レゾナックナウ

【後編】材料開発のデジタル化には、技術者一人ひとりの意識改革が欠かせない

2023年05月10日

AI技術を材料開発の領域に適用した取り組みとして、近年注目を集めている「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」。社内におけるAI活用を広げていくために必要なことはなんなのか。後編では、AI勉強会から得た知見をどのように事業部内で広げているのか、AI勉強会が今後目指しているものについて、勉強会を行っているレゾナックの橋本崇希と、参加者の川又綾乃、芝田夏実の3名に話を聞いた。

AI勉強会の知見を、それぞれの現場で広げていく

――前編ではAI勉強会を開催した経緯と、その内容について橋本さんに伺いました。参加された川又さんは、学んだ内容をどう業務に活用しているのでしょうか。

川又:私は昨年、千葉事業所から滋賀のモビリティ事業本部開発センターに移り、自動車や電動自転車に使われる高強度の樹脂ギヤの開発グループに配属されました。異動して間もなく、簡単なプログラミングでデータを整理する方法を部署の人たちに見せたところ、「おおっ!便利」と驚かれて。

「これまで自分が何十分もかけて手作業でやっていたのを、秒でやられた!」と、軽くショックを受けている方もいましたね。ただ、実際にやり方を見せると、「自分にもできそうだ」とか、「次にやる作業では使ってみたい」と言ってもらえました。

株式会社レゾナック モビリティ事業本部  開発センター  ユニット部品開発部  熱硬化製品開発グループ  川又 綾乃

 

橋本:AI勉強会で扱った内容は、データ整理をはじめとして、研究開発のさまざまなシーンで使えるので、各自の業務で適用してもらえるとうれしいですね。今まで時間をかけて手作業でやっていた業務が、プログラミングを使うと数秒でできる体験をすると、プログラミングに適した形式やフォーマットでデータを記録しようというモチベーションが生まれます。

しかも、プログラミングに適した形式やフォーマットは、AI解析にも適しているので、このようなデータ管理を続けることで、研究開発の現場で日々生まれている実験データがきちんと記録されていき、今後AI活用を行った際に予測精度が高まり、課題解決につながっていきます。

勉強会の目的も、「全員にAIをどんどん使いこなす専門家になってほしい」ということよりは、AIの基礎を一回学んでもらって、「自分のデータのとり方を変えよう」とか、「こうした形式で記載しておかないと、のちのち苦労する」といったことに気づいて実践してもらうことが狙いです。今は本格的なAI活用のための準備期間といえますね。

 

事業所や職種の枠を越え、広がるAI勉強会

芝田:私は2022年6月に千葉事業所から、川崎事業所の機能分子化学研究部に移り、いまは半導体パッケージの部材の開発に携わっています。異動して3日目に、若手研究者と役員が意見交換をする機会があって、そこで当時のCTO(最高技術責任者)に「川崎事業所でAI勉強会をやりたい」と言ってみたところ、「よし、やろう!」と言っていただいて。

それで橋本さんに講師になってもらって、2022年10月から川崎事業所でもAI勉強会を開催しています。

株式会社レゾナック  高分子研究所  機能分子化学研究部 クロスファンクショナルグループ  川崎チーム  芝田 夏実

――勉強会がどんどん広がっているんですね。

橋本:川崎事業所では、研究開発部門だけでなく、⽣産技術や製造部門など幅広い部署から毎回50名ほどが参加しています。参加者の方からは、「初学者でも理解しやすかった」「実際の仕事でもすぐ使いたい」などと好評をいただいています。

当初は若手の研究開発者に声をかけ、有志の参加者を募って始めた勉強会ですが、現在は開催場所や参加者が増え、勉強会の広がりを感じています。

株式会社レゾナック デジタル教育・育成部 デジタルアカデミーグループ 兼 共創の舞台 技術データプラットフォームグループ 橋本崇希

未来を見据え、カルチャーの変革や人材育成に取り組みたい

――最後に、3人の今後の目標について教えてください。

芝田:私は自分で機械学習を活用したAI解析をやりたいと思っています。そのためには、データをきれいに整えることの重要性をまわりの人にも伝えて、最終的には現場の研究開発者みんなでAI解析をできるようにしたいですね。それが研究開発のスピードアップにつながると思います。

川又:同じ部署のメンバーから自動化、作業効率化の相談を受けるようになりました。そのとき、「ここにスペースが入っていると使えないよ」「半角じゃないとダメだよ」などと、データ形式について細かく指摘をするようにしています。

やはりデータ活用に適したデータをメンバー全員で残していくという意識が重要なので、現在の部署でもAI勉強会を行うための準備を進めているところです。

――講師は橋本さんですか?

橋本:ぜひやりたいんですけど、自分ひとりで全事業所をまわるのはさすがに難しく……。そのため、資料作成に協力してくれる方が現れてくれたら嬉しいですし、勉強会の内容を動画にするといったこともアイデアベースで考えています。

僕としては、川又さんや芝田さんのように、まずはプログラミングでの作業効率化といった小さいことでも少しずつ実践していくことが、データの取り方や管理の仕方をフォーマット化し、全員でデータを蓄積していく文化の醸成に繋がると考えています。この文化を醸成することが、AI活用によるレゾナックの研究開発の加速に繋がっていくと考えています。この動きをより拡大していくために、今年からデジタル教育・育成部のデジタルアカデミーグループの所属となって、AI勉強会の活動も組織として力をいれていくことになりました。

化学業界においても、今後ますますAI活用が求められていくはずですが、レゾナックが全社的にデータ活用に適したデータを蓄積していれば、業界のみならず日本、ひいては世界に通用する製品を届けることができるはずです。これからもAI領域におけるカルチャーの変革や人材育成の取り組みを積極的に進めていきたいですね。

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