レゾナックナウ

「共創」に大切なのは、互いをリスペクトしたコミュニケーション

2023年03月13日

環境意識の高まりから、脱プラスチックの動きが世界中で加速している。その一方で、ほかの素材で代替の利かないプラスチック製品を、使用後に資源として最大限に有効活用すべく、これまで以上に高効率のリサイクル技術が求められるようになってきている。 そのなかで注目を集めているのが、使用済みプラスチックを化学的に分解し、原料に変えて再利用する「ケミカルリサイクル」である。この手法は、さまざまな種類の使用済みプラスチックを同時に処理可能で、CO削減効果にも優れているという。


株式会社レゾナックはマイクロ波を用いて使用済みプラスチックから基礎化学原料を製造する新しいケミカルリサイクル技術の共同開発をスタートさせた。パートナーに選んだのは、大阪大学発のベンチャーであるマイクロ波化学株式会社だ。社内保有技術と社外技術を融合する「共創」の意義や今後の展望などについて、前編に引き続き、プロジェクト担当の4名に話を聞いた。

業界や規模を問わず、シナジーを発揮できる共創は積極的に進める

「化学の力で社会を変える」をパーパスに掲げるレゾナックは、「共創型化学会社」を標榜し、世界中からのパートナー探索および協業を推進するオープンイノベーション活動を実施することを宣言している。社内保有技術と社外技術を融合させることにより、R&Dアウトプットの最大化を目指すことが狙いだ。

今回取り上げるマイクロ波化学株式会社との共創プロジェクトは、そのオープンイノベーション活動のひとつである。本プロジェクトでは、マイクロ波を用いて使用済みプラスチックから基礎化学原料を直接製造し、再びプラスチックへと戻す、「循環型」のケミカルリサイクル技術の共同開発を進めている。レゾナック側のプロジェクトリーダーである手塚記庸は共創の意義についてこう語る。

「いまは恐ろしいほどに技術の進歩が速く、しかもカーボンニュートラルなどの社会課題が複雑に絡み合った時代です。自社の力だけで世の中に価値ある商品やサービスを、スピーディーに提供していくのには限界があります。だから、業界、規模を問わず、シナジーを発揮できそうな企業様との共創は積極的に進めていきたいですね。もちろん企業だけでなく、官学も大切な共創のパートナーです」(レゾナック 手塚)

 

そして、本プロジェクトの拠点となっているのが、2022年6月に横浜市神奈川区の京浜臨海部に開設された新施設「共創の舞台」だ。

レゾナックの研究・開発の中核となるオープンイノベーション拠点である「共創の舞台」

また、本プロジェクトでは社内部門の垣根を超えた共創も起きているという。レゾナック カーボンリサイクルグループの坂田優子はこう振り返る。

「レゾナックは大分県に石油化学コンビナートを有し、石油化学事業も展開しています。そこで製造しているエチレンやプロピレンといった化学製品原料の製造技術は、使用済みプラスチックの分解技術と共通項が多い。それで大分コンビナートの技術者に、目的物の収率を上げるためのパラメータ設定について具体的なアドバイスをもらいました。その内容をプロジェクトメンバーで共有して実験したところ、すぐに成果が出ました。今後も部門の枠に縛られることなく、どんどん人に頼っていきたいと思います」

 

共創に大切なのは「リスペクト」と「コミュニケーション」

では、歴史、資本、事業規模、組織形態、意思決定のプロセスなど、さまざまな点で異なる両社が肩を並べて、ひとつの目標に向かって歩みを進めていくためには、いったい何が大事なのだろうか? マイクロ波化学の亀田氏は、「やはりリスペクトです」と言う。

「ともすれば、われわれ60~70人規模のベンチャーが大企業と共同開発を行うと、相手に主導権を握られて、いわば主従の関係になってしまう恐れもあるのですが、手塚さんをはじめ、レゾナックさんには本当に我々のことを尊重していただいています。この対等な関係が、両社で知恵を出し合って、自由に意見交換をできる雰囲気づくり、ひいては研究開発の加速につながっていると思います」(マイクロ波化学 亀田氏)

この言葉を受けて、レゾナックの手塚は「むしろ、こちらが主導権を握られている」と笑う。

「マイクロ波化学さんの世界一ともいえるマイクロ波の技術力には、全幅の信頼を寄せています。やはり相手のもつ技術への理解とリスペクトがないと、共創はうまくいきません。そのため、とてもフラットにお付き合いさせてもらっています。ただ、ビジネスとして馴れ合いになってはいけないので、契約交渉や開発費用の話し合いなどについては、お互いの主張を率直にぶつけてシビアにやっています。そういった部分でも手を抜かずに互いにがっちり綱をつかんで引き合う、真の共創ができていると感じますね」(レゾナック 手塚)

これに技術責任者の木谷氏は、頷く。

「やはり事業化までプロジェクトを拡大させるには、現場スタッフの信頼関係が大切です。事業構想としてはすばらしいのに、十分なコミュニケーションが取れずに共同研究が進んでしまったことがあります。そのときには、途中でプロジェクトがストップしてしまいました。我々の技術に対する理解が得られないまま、いざ事業化という段階になり、自社の経営陣の説得が難しくなってしまったというものでした。いかに互いをリスペクトしてオープンマインドでコミュニケーションをとれるか。それが共創を成功させるために、最も大切なことだと思います」(マイクロ波化学 木谷氏)

 

2050年のカーボンニュートラル達成を目指し、化学の力で社会を変えていく

まさに「共創」によって技術革新を起こし、化学の力で社会課題の解決に挑んでいる本プロジェクト。最後に、「2050年カーボンニュートラル達成」に向けての意気込みについて4人に語ってもらった。

「循環型のケミカルリサイクルの実現は、化石由来の資源をほぼ100%輸入に頼っている日本にとって、とても意義のあることだと思います。レゾナックさんとの連携を深めながら、早期に実現します。

また、近年ガソリン車から電気自動車へと急速にシフトしているように、今後もあらゆるシーンで“脱化石燃料化=電気化”が進むと思います。それは、ものづくりのプロセスにおいても例外ではなく、それにともなって、電気を利用したマイクロ波のニーズも増えるはずです。事業拡大のチャンスと捉えて、頑張ります」(マイクロ波化学 亀田氏)

「ひとりの技術者として、大きな時代の転換点に立ち会えていることが幸運だと思っています。カーボンニュートラルの実現は、間違いなく世界の大テーマで、自分の専門性がそれに貢献できるということが幸せであり、やりがいを感じています。これからも全力でプロジェクトに臨みます」(マイクロ波化学 木谷氏)

「地球環境にダメージを与えているプラスチックは、化学によって生まれたものです。ですから、プラスチックを有効に再利用していく方法を考えるのも、化学に携わる人間の仕事だと考えています。循環型のケミカルリサイクルを、必ず成功させたいと思います」(レゾナック 坂田)

「今後ますます社会全体の低炭素化が進む流れにあって、使用済みプラスチックからサステナブルな基礎化学原料を安定確保できることは、レゾナックの競争力の向上にもつながると思っています。

レゾナックグループで連携して、使用済みプラスチック由来の基礎化学原料を使った低炭素プラスチックを製造し、そして流通、回収から再び基礎化学原料化、という循環をつくることができれば、低炭素社会の実現に大きく貢献できるはずです。登山でいえばまだ2合目ぐらいの自己評価ですが一歩一歩着実に登って、2050年のカーボンニュートラル達成を実現し、化学の力で社会を変えていきます」(レゾナック 手塚)

この循環型ケミカルリサイクルを実現できれば、限りある化石資源の使用量とともに、基礎化学品の製造の際に排出されるCO2が減り、カーボンニュートラルの達成に大きく貢献する。レゾナックとマイクロ波化学の技術の融合は、企業や業界にとどまらず、日本、さらには世界をも動かす可能性を秘めている。

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