レゾナックナウ

競合企業をも巻き込んだ共創は、世界に新たなイノベーションをもたらす

コンソーシアム「JOINT」が取り組む、前例なき“オールジャパン”としての挑戦

2023年01月01日

2019年、半導体材料メーカーであるレゾナックは「パッケージングソリューションセンター」を開設した。そのなかで、次世代半導体技術の開発をするための「JOINT」というコンソーシアムを発足。志を共にする国内の材料・装置メーカー、競合他社も巻き込んだエコシステムを構築し、オールジャパンの心意気で「共創」に取り組んでいるという。本稿では、参画企業と共創するうえでの課題や、日本の半導体技術が世界に挑むために必要なことについて、エレクトロニクス事業本部開発センター長である阿部秀則に話を聞いた。

オープンイノベーションによる「共創」で各企業の強みを活かす

パッケージングソリューションセンターは、企業同士の「共創」によって次世代半導体パッケージの早期実現をめざすために設立されました。なぜ「共創」をキーワードにしているのでしょうか。

阿部:そもそも、半導体材料メーカー単独では技術検証に膨大な時間がかかってしまうという課題があります。半導体は各企業の材料が組み合わさった製品なので、要求仕様や改善要求がきた時にそれぞれの状態を把握することが困難で、手探りで技術検証しなくてはならなかったのです。

この課題を解決するために不可欠なのが「共創」です。パッケージングソリューションセンターでは、最先端の半導体実装装置を導入しており、パッケージに対応した試作・評価の一貫ラインで、製造プロセスをトータルに再現することが可能です。問題が生じたらすぐに対応・修正できるため、開発期間が短くなり、半導体メーカーのお客さまにとっても最適なワンストップソリューションを提案することが実現しました。

エレクトロニクス事業本部開発センター長 阿部 秀則

半導体材料メーカーとして世界トップクラスの製品シェアをもつレゾナックが本センターを設立したことは、半導体産業全体にとっても大きな意義があるのではないでしょうか。

阿部:はい。現在、業界全体としても半導体製造プロセスの「前工程」での微細化が難しくなり、「後工程」のパッケージ・実装技術による高機能化をめざす方向にシフトしています。これにより、従来よりも半導体パッケージの複雑化やそれに伴う関連材料も増加し、後工程に関わる企業同士の共創がますます重要になっていくでしょう。

これから、レゾナックが得意とする材料の領域はもちろん、半導体メーカーのお客さまがやりたいことを実現するための構造やプロセスについても、お客さまのデバイスに近いレベルで考えて提案していきます。そして、最終的にはすべての領域でお客さまのパートナーになれればと考えています。

パッケージングソリューションセンター内での研究風景

共創を体現しているコンソーシアム「JOINT」・「JOINT2」

パッケージングソリューションセンターでは、「共創」に向けてどのような取り組みを進めてきたのでしょうか?

阿部:オープンイノベーションを加速させるため2018年、半導体実装材料・装置の開発において最先端技術を有する企業15社が参画する民間のコンソーシアム「JOINT(ジョイント:Jisso Open Innovation Network of Tops)」を設立しました。従来の実装センタでは、当社と装置メーカー、当社と材料メーカーといった1対1の協業体制が基本でしたが、JOINTでは、開発テーマに合わせてレゾナックと複数の企業との間で技術や情報の相互活用を行うことが可能です。他社との共創によるオープンイノベーションの推進により、半導体実装に関する材料、装置、プロセスの総合的なソリューションの提供を進めています。

JOINTでのテーマは「ファンアウトパネルレベルパッケージ(※1)」です。参画企業の材料や装置を組み合わせ、半導体メーカーのお客さまが行う評価試験に近い条件での材料や装置の評価が可能になりました。これまでサプライヤーごとに個別に行っていた評価の手間が省け、リードタイムの削減に寄与しています。また、最初の取り組みでしたので、参画への障壁をなるべく低くしようと考え、活動費用は基本的に当社がすべて負担しました。

そして、JOINTの研究成果を半導体パッケージ技術の国際学会「ECTC(Electronic Components and Technology Conference)」に連名で発表。そこから興味を持っていただいた半導体メーカーのお客さまからご相談を受け、参画企業と一緒にソリューションをご提案しています。

  • ※1 ファンアウトパネルレベルパッケージ(Fan Out Panel Level Package)……半導体パッケージ技術の1つ。ファンアウトウェハーレベルパッケージがウェハーレベルで実装するのに対し、パネルレベルで実装するパッケージ。ウェハーより大きなパネルを使用することで、一度に多くのチップを実装することができ、生産性が向上するため、パッケージコスト低減につながる。
JOINTのロゴマーク

ほかにも、直近で取り組まれていることはあるのでしょうか。

阿部:2021年からは「JOINT2」として、新たなプロジェクトを参画企業12社でスタートさせました。JOINT2は今後の5G、ポスト5Gへの対応をした情報通信システムに必要となる2.5D実装や3D実装などの次世代半導体実装技術を開発するためのコンソーシアムです。

参画企業と複数のワーキンググループを作り、オープンイノベーションによる技術や情報の相互活用などを通じて、次世代半導体実装に必要となる、微細バンプ接合技術、配線幅のギャップを埋めるための微細配線技術、搭載部品の大型化を実現するための信頼性の高い大型基板技術の開発に取り組んでいます。

JOINT2はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトとしてNEDOからの助成金、参画企業の会費、当社の投資によって、次世代半導体パッケージの評価に必要な設備を導入しました。

エレクトロニクス事業本部開発センター長 阿部 秀則

業界からの反響はいかがでしょうか?

阿部:とりわけ「JOINT2」のインパクトはかなり強かったと思います。世界的に見ても、半導体パッケージに取り組んでいるコンソーシアムはあるものの、最先端技術を有する企業が集まっている例はほかにありません。お客さまである半導体メーカー、材料メーカーや装置メーカーはもちろん、マスコミからの反応もあり、講演依頼をいただくなど注目度の高さを実感しています。

JOINT2の取り組みは、韓国、台湾、アメリカなどのお客さまからも、とても画期的な取り組みだと高い評価をいただいています。というのも、量産ラインを持っている海外の大手企業でも、評価のためだけの装置を十分に確保できていないという悩みを抱えているからです。そのため、いち材料メーカーであるレゾナックが、これだけの施設規模で、評価のためだけの装置を揃えていることに驚かれます。

オープンイノベーションには、「信頼関係の構築」と「先行投資の意識」が必要

パッケージングソリューションセンターではどのように企業への参画を促しているのでしょうか。

阿部:本センターでは、参画していただく際に契約書でそれぞれの活動範囲をしっかりと定めています。当社から一方的に契約内容を提示するのではなく、慎重に協議して互いが納得できるものにしなくてはなりません。

なかでも、知的財産をどう扱うのか心配されるケースは多いです。例えば、競合メーカーに「パッケージングソリューションセンターに来てください。なにか共創しましょう」と言っても、なかなか最初の一歩が踏み出せないと思います。そのためにも、互いの共創領域はどこなのかを吟味し、信頼関係を構築しながら議論を深めていく、この「プロセス」を大切にしています。

半導体

他社にイニシアチブを取られるのを避けたいという思いから、参画を躊躇することもありそうですが、その点はどのようにクリアしていくのでしょうか。

阿部:どうしても当社が主導する枠組みになるのはたしかですし、そのような懸念があることも理解できます。ただ、日本の材料メーカー、装置メーカーの「技術」を全体で底上げしていくことを考えると、自社独自でやるより、コンソーシアムで取り組むほうが開発スピードもあがり、できる規模も大きくなる。1つの企業としての枠組みを超え、業界ひいては日本全体としての長期的なビジョンに共感いただくことを大切にしています。

日本では非競合領域であっても交流が少ないのが現状ですが、海外では競合企業間でも共創を通じた連携が進み、新たなイノベーションが起きています。この差が次第に広がっていくことは避けなくてはなりません。今は自社独自の強みを磨くことで他社に勝てたとしても、それだけでは生き残ることが難しい状況が訪れます。これからは、各企業が持つ強みを活かして、共創し互いに高めあっていくことが重要です。

企業である以上、技術の進歩はもちろん、ビジネスとしての利益も求められると思いますが、その点はいかがでしょうか。

阿部:そこが非常に難しいところです。もちろん、最先端の半導体パッケージの開発に携わることは重要だと思っていますが、設備投資や運営費がかかっているのも事実です。しかし、これまでの課題を解決するための技術開発のなかで、新たな気づき、新たなニーズを得られることは、当社の次のビジネスにつながると考えています。

オープンに進めることで、新たなエコシステムが生まれ、半導体業界に限らずビジネスの可能性が広がる。これから、先行投資として、前例なき挑戦を進めていくしかありません。コンソーシアムに参画していただく企業へのインセンティブも考慮しつつ、一緒に共創の道を歩んでいきたいと考えています。

パッケージングソリューションセンター内のラボ

パッケージングソリューションセンターはエンジニアにとって夢の場所

パッケージングソリューションセンターは、実際に海外から訪れるお客さまも多いとのことでしたが、生の声を聞くことの利点はありますか?

阿部:従来だと、サプライチェーン上でなにかトラブルが起きたとき、原因の所在があまり明確にはわかりませんでした。それは半導体に関わる人たちのあいだで会話できる場所がないため、改良するにしてもそれぞれの判断で部分最適になっていたからです。

そんな背景もあり、本センターでは企業同士がお互いに改良点を模索し、全体最適に向けて取り組める環境をつくりました。とくに、この施設の4Fにある「JOINT2」のシェアオフィスでは、さまざまな企業が1か所に集まり、活発な議論が行われています。各領域のプロフェッショナルたちが、同じモノや現象を見ながら質の高いコミュニケーションができれば、新たなイノベーションが生まれやすくなるのはたしかです。「人」と「技術」と「情報」が集まる空間で、プロセスや材料も一気通貫に揃っていることの強みを存分に発揮していきます。

最後に、パッケージングソリューションセンターやJOINTに興味のある企業へのメッセージをお願いします。

阿部:まずは、パッケージングソリューションセンターに来て、見ていただくのが一番良いと思っています。そのための見学会もどんどんやろうと計画しています。見ていただいた方から「ここはエンジニアにとって夢の場所だ」と言っていただけました。それだけ最先端の装置が揃っています。お越しいただけたら、「こういうことを一緒にしたい」という議論もできるのではないでしょうか。まずは、最初の一歩を踏み出すことが大事だと思います。

これからも我々は、「どういう形なら共創できるのか」の模索を諦めずに続けています。JOINTの活動に参画していない企業からの視察オファーも歓迎しているので、ぜひ一度お越しいただければと思います。

エレクトロニクス事業本部開発センター長 阿部秀則

阿部秀則

株式会社レゾナック 理事 エレクトロニクス事業本部開発センター長

1998年、日立化成に入社。半導体封止材の開発に携わる。アメリカに駐在し、技術サービス対応を7年間経験。エグゼクティブMBAを取得。その後、パッケージングソリューションセンターの立ち上げに関わる。コーポレートのマーケティングやCMPスラリーの事業部長を経て、現在は半導体材料関係全般の開発を推進させるとともに、パッケージングソリューションセンターを起点とした共創活動を推進している。

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