レゾナックナウ

“新しい色”を作りたい——色弱と生きる研究者が進める事業開発のいま

2026年03月02日

自分にしかできない何かを見つけたい。誰かの力になりたい。 そんな思いを胸に、迷いながらも一歩ずつ前進する人がいる。大きな転機ではなく、日々の小さな気づきや、ふとした体験が自分なりの答えへとつながっていく——。

連載「未来を創るラボ」では、そんな模索の最中にある前向きな歩みに光を当てていきます。 今回話を聞いたのは、レゾナックの研究施設「共創の舞台」で色弱者向けのソリューション開発に取り組む、坂口 俊さんです。 

「世界にはおよそ3~4億人の色弱者がいると推定されています。私自身もそのひとりだからこそ、新たな価値を創出したいと考えました」と語る坂口さん。 取材を通して、自らの関心と社会の接点を探し続けてきた、その歩みをひも解きます。

※本記事では、NPO法人 カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)が提唱する呼称に沿って、色覚の多数派を「一般色覚者」、少数派を「色弱者」として記載します。

まずは坂口さんのキャリアを聞いてみよう!

共創の舞台 イノベーションラボグループ 坂口 俊さん(趣味:ビオトープ作り)

取材の冒頭、坂口さんにキャリアを振り返ってもらいました。

坂口さんが旧昭和電工(現レゾナック)に入社したのは2014年。当初配属されたのは、計算科学と情報科学を活用して材料開発や製造プロセスの効率化に取り組む部署でした。

 柔らかな笑顔で当時を振り返りつつ、坂口さんは「新規事業開発に取り組みたいという気持ちは心の中にずっとありました」と言葉を添えます。さらに話を聞くと、新規事業開発の部署を兼務していた時期があったようです。 「約1年の挑戦でしたが、正直に言うと、当時はまったく成果を出せませんでした」(坂口さん) デジタルを活用して、新規事業創出をサポートする役割でしたが、求められるイメージと自分の能力がうまく重ならず、なかなかアイデアを形にできなかったのです。

「新規事業開発の領域で自分は貢献できるはず」という感覚を持っていた坂口さんは、結果が伴わなかった現実に強い落胆を覚えたといいます。 

坂口さんの取り組みは1つの挫折から始まったのです。

「新しい色」を作る事業開発とは

レゾナックの中長期R&Dの中核拠点 「共創の舞台」(神奈川県横浜市)

ここからは色弱者向けのソリューション開発の内容に迫っていきましょう。

本取り組みは、色弱者と一般色覚者の双方から同じように見える「新しい色」を開発する研究だといいます。 「私自身、赤と緑の差がわかりにくい色覚の特徴を持っています。例えば、この検査表のような、赤い点の集合体の中にある緑の数字の識別は難しいです」(坂口さん)

石原式色覚異常検査表

坂口さんが作ろうとしている「新しい色」は、異なる色覚を持つ人が見たときに同じに見える色なのです。 坂口さんは、人が見ている色は主に次の2つの要素により決まると説明してくれました。

 ●色の光の波長の成分(人間の可視光の範囲はおよそ380nm〜750nmで、波長が短いほど青、長いほど赤に見える)

 ●色の波長を個人の目がどのように捉え、それを脳がどのように認識するか

 色の波長は数値で測定しやすいのですが、人の認識は非常に複雑です。

そのため、波長の微妙な調整と都度の確認を繰り返しながら、色弱者と一般色覚者の双方から同じに見える色を探し続けないといけないといいます。

 かなり繊細で根気を要するテーマに思えますが、そもそも新しい色を作るというユニークなアイデアは、どこから湧いてきたのでしょうか。

シリコンバレーで迎えた転機、妻の何気ない一言

冒頭でお話ししてくれた挫折の後、新規事業開発への挑戦を諦めきれなかった坂口さんは社内起業家育成のプログラムに参加するために米シリコンバレーに渡りました。

当時、会社としてはEVや半導体領域、量子コンピュータなどの次世代技術分野における新規テーマ探索を掲げており、坂口さんもその方針を念頭にプロジェクトへ参加しました。しかし、活動を進める中で大きな転機を迎えたといいます。

シリコンバレー駐在時代の坂口さん(前列左)

「そこには世界中からプロフェッショナルが集まっていました。すでに知識や業界の枠組みが出来上がりつつある分野で新規事業を創るなら、その領域に精通した人がやるべきだし、自分はその人たちに追いつくのに多くの時間が必要になってしまう――そう悟ったのです」と坂口さんは語ります。

しかし、続く言葉は前向きでした。「だからこそ、自分にしかできない分野を探さなければと気持ちを切り替えることができました。」(坂口さん) 

その後、坂口さんはプログラムで1から学んだ、デザインシンキング(課題を持つユーザーの視点に立ち、「共感」を起点に創造的な解決策を導き出す手法)を参考にしながら、会社側の当初の狙いに縛られずに、この世にある”課題”を探し始めたといいます。 

意外にも、きっかけになったのは休みの日の妻との雑談でした。 

「自宅で過ごしていたときに、生物図鑑で「眼」についての記事を読んでいた妻から『そういえば、あなた色弱だよね』と投げかけがあったんです。言ってしまえば本当にささいな会話なのですが、その瞬間、「これをテーマにしよう」と直感的に思ったんです。」(坂口さん) 

そして、閃きを出発点に構想した色弱者向けのソリューション開発は、レゾナックのパーパスである「化学の力で社会を変える」とも親和性の高いものでした。

このようにして新規事業開発をスタートさせた坂口さん。前進する中ではさまざまな悩みを抱えたといいます。

課題は山積み!しかし、前進あるのみ!

 

「当然ですが、最終的には売上や利益につながらないといけません。一方で、それが社会に価値を広く提供することの足かせになってしまっては元も子もない。そのバランスの舵取りをしないといけないのが悩みで、まだまだ考えたい事柄だらけですね(笑)」(坂口さん) 

また、坂口さんのアイデアや目指す価値を、どのようなタイミングで誰に伝えて、フィードバックを得るべきかも難しい問題だったといいます。 新しい色を検証・評価する過程にはレゾナックがもつ化学の知見が活きますが、レゾナック自体は色材メーカーではありません。実際に新しい色を定義し製造する段階では、色材メーカーや最終製品メーカーとの密な連携が必要になります。

はじめての大きな達成感

無数の色、色、色。新しい色を作る旅は続く

 

新しい色を作る研究は、共創パートナーと社内実装に向けて議論できるフェーズまで進んでおり、色を開発する会社や色を使用する会社、各種協会、大学などの教育機関を訪れて、ソリューションをさらに練り上げているといいます。

 

「社外の共創パートナー候補に構想をプレゼンし、具体的なフィードバックをもらえるようになったときに大きな達成感がありました。社会に価値を届けるためには、今後もさまざまなハードルを乗り越えなければいけませんが、私の取り組みが社会と接点を持てたことが素直に嬉しかったです」(坂口さん) 

1つのアイデアから始まった新規事業開発は、社会に価値を届ける未来を見通せるところまでたどり着きました。 「新しい色が広く使われるようになれば、誰もが同じ色を共有できる社会を実現できます」と、力強い眼差しで語ります。

坂口さんの目には、そんな素敵な未来が色鮮やかに映っているのでしょう。

自分らしさを大切にキャリアを作ってほしい!

 

最後に、これからキャリアを作っていく学生や社会人の方に対するメッセージをもらいました。

 「どのような分野で働くとしても自分らしさや自分なりの哲学を大切にしてほしいと思います。その考えを持ち、それに近い所で活動できると、納得できるキャリアを選択できるはずです」(坂口さん)

 挫折を味わいながら、前向きに発想を展開し、自分ならではの道を見つけた坂口さんならではの実感がこもった、素敵な言葉だったと思います。 連載「未来を創るラボ」では、今後も勇気を持って未来に踏み出す一歩に光を当てていきます。

 

※本記事は、当社公式note(RESONAC(レゾナック)|note)に掲載した内容を再編集したものです。記載内容には公開当時の情報が含まれるため、現状と異なる可能性がある点をご承知おきください。

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