ビジネスを変える「魅せる知財」。人とアイデアをつなぐ挑戦。
2025年03月26日
知的財産(以下、知財)とは、発明、デザイン、ブランド、ノウハウなど人間の創造的な活動から生まれる無形の財産を指す。
これを保護するための権利として、特許権、商標権、意匠権、著作権といった知的財産権がある。
知財を適切に保護することで、経済的利益や競争力を維持することができる。
企業が真に競争力を高めるためには、それらを取得して自社技術を「守る」だけでなく、それを活用して新たな事業機会を創出する「攻める知財」が求められる。
さらに、知財がもつ価値を社内外へ発信し、全社的なカルチャー変革へとつなげる「魅せる知財」を実現することは、新たな成長の地平を切り拓くことにつながる。
今回のUNSUNG LEADER(知られざるリーダー)は、知的財産部 IPプランニンググループ の下見明嗣(しもみ・あきつぐ)。
特許取得や権利活用に留まらず、経営資源としての知財を社内外へ積極的に発信し、誰もが知財を活用できる企業文化を築く試みは、下見にとって業務改善以上の意味を持つ。
「魅せる知財」が生まれた背景
下見は2007年に、旧・日立化成(現レゾナック)に入社し、知財一筋のエキスパートとして歩んできた。「『専門的で難しい』と思われがちな知財を、どうすればもっと身近に感じてもらえるのか」という課題意識は、入社当初から持っていたが、海外の知財戦略に触れたり、実際の開発現場に立ち会ったりと多くの経験をする中で、その思いはより強まった。知財は人とアイデアを結びつけ、新たなビジネス価値を生み出す“懸け橋”になり得る――と考え、「楽しく知財を伝えたい」という思いを原動力に、社内外にその魅力を伝えることを志すようになった。

知的財産部 IPプランニンググループ 下見明嗣
従来、知財部門は自社技術を権利化する「守る知財」に注力していた。しかし、それだけでは不十分だと下見は語る。他社や市場動向を踏まえ事前に自社の権利を積極的に取得するなど、知財情報を的確に活用する「攻める知財」が必要となる。そのうえでさらに、「魅せる知財」を通じて知財活動・成果を社内外にわかりやすく示し、その価値や可能性を伝えることが企業価値向上において重要だと考える。
「知財は業界の課題やトレンドを読む情報源でもあります。ほかの企業が何に苦労して、市場が何を欲しているのかを知財から学べば、自社の戦略立案にも有利になります。そうした認識を共有するための取り組みが必要でした」と下見は振り返る。そこには、知財を閉じられた専門領域から解き放ち、組織全体が自由に活用できる「共通言語」にしたいという強い想いが込められている。
“楽しく学ぶ”知財の場づくり
まずは、社員が知財に自然に触れ、面白さや有用性を感じる場がほしかった。その一環として制作したのが社内向けコンテンツ『しもみの館』だった。 「日本で一番最初の特許って何?」「お笑い芸人のネタを特許で保護することはできる?」
読者の興味をひくテーマを切り口に、下見自身をモデルにした「しもみ伯爵」などキャラクターの掛け合いでコミカルに解説する。社員が知財に興味をもつ入口となるコンテンツとして2009年に開始し、15年間で約130回連載してきた。

「しもみの館」ブックレット版
特許情報を読み込み技術ニーズの気づきを得るなど、実際のビジネスに知財活用を取り入れたワークショップ運営にも携わる。ワークショップは「ToBiWo*」と名付けられ、2013年 の開始から累計300回以上開催してきた。「ToBiWo」をきっかけに社内の各部門がつながり、新規テーマ創出につながったケースもある 。

「ToBiWo」ワークショップの様子
※ 「Topic Bird’s eye-view Workshop」の略で、読みは「トビウオ」。特許情報を俯瞰して、有用なアイディアを得るという想いが込められている。
「国内はもちろん海外でもワークショップを行っています。知財を共通言語として活用する文化が広がっていくのを感じています」と語る彼の表情には、活動の手応えが滲む。

困難を乗り越え、文化を変える
もちろん、これまでの道のりは容易ではなかった。本来専門的な内容を楽しく伝えるためには、下見自身がより深く知財について理解している必要があり、人知れずの苦労があったという。
“楽しく学ぶ”場づくりに取り組む下見の軸となっているのは、持ち前の好奇心と行動力。特許出願のサポートのため、開発チームの一員として現場に入り込むことも多い。研究者と議論を重ねながら一つひとつ情報を整理する。「自分の目で見て、技術を知ることが大好きで、一番の刺激になるんです」と下見は語る。
IPプランニンググループのリーダー庄司俊史は「最初は小さな取り組みだったものを、全社的な取り組みに広げ、知財の共通言語化に貢献しています」と高く評価する。加えて下見が何より嬉しいのは、知財に対する人々の行動や思考が前向きに変わりつつあるという実感だ。知財を面白く周囲に伝えようと奮闘してきたことが大きな動きを生む。また、社外への情報発信も新たなステージを迎え始めている。広報部門と連携をとり、社外に知財活動の価値をわかりやすく届けるアプローチを探ることで、「魅せる知財」の領域はますます広がると考えている。

知財が人とアイデアをつなぐ架け橋に
下見はいま、「魅せる知財」をさらに発展させようとしている。特許情報や市場分析データを誰もが自在に利用できる仕組みを整え、知財を自然に使いこなせる企業文化を構築することで、組織のイノベーションを一段と加速させたいと考えている。
「知財は権利であるだけでなく、人と知識を結ぶ架け橋です。相手視点で知財を発信し、有益なリソースとして育てていきたいです」と語る。その背景には、知財を活用することで“面白い”企業文化を根付かせたいという、下見自身の信念がある。
自らの体験と理想を重ねながら、下見は「数多くのアイデアが芽吹き、広がっていく環境」を着実に整えようとしている。地道なコミュニケーションや親しみやすい教育コンテンツ、そして相手目線の情報発信――「魅せる知財」を軸に、下見は自らの手で新たな企業成長の道筋を切り拓こうとしている。

関連記事
-
2024年11月06日
「草の根」で行こう。生産者と描く農業の未来地図
サステナビリティ
共創
アンサングリーダー
地域貢献
-
2024年09月12日
「神話」を疑い現場を改善 電池の長寿命化を実現する開発チームの挑戦
サステナビリティ
イノベーション
アンサングリーダー
技術開発
-
2024年06月13日
偶然が生んだ、常識はずれの”ピカピカ”銀コーティング
イノベーション
アンサングリーダー
技術開発
-
2024年05月30日
水道の安全を守る。消毒液供給の“舵取り役”
社会インフラ
アンサングリーダー
-
2024年04月15日
【トヨタ自動車×レゾナック】
アルミ材料の共創が導くカーボンニュートラル サステナビリティ 共創 対談 アンサングリーダー カーボンニュートラル 自動車 -
2024年01月31日
1トンでも多くのリサイクルへ。エンジニアたちの共創
サステナビリティ
アンサングリーダー
共創
プラスチックリサイクル
KPR
-
2023年12月21日
地元企業との共創でCO2削減を目指す。若きリーダーの挑戦
サステナビリティ
アンサングリーダー
共創
地域貢献
-
2023年11月22日
次世代には引き継げへん。3K工程をなくした発想の原点。
サステナビリティ
アンサングリーダー
技術開発
開発ストーリー
-
2023年10月16日
ワンチームで期待に応える。半導体領域で切り拓いた世界への道
次世代半導体
アンサングリーダー
技術開発
グローバル人材