ガバナンス座談会 企業価値最大化に向けた取締役会の在り方【統合報告書】
2024年07月31日
※本記事は2024年7月発行の統合報告書「Resonac Report 2024」の転載です。
レゾナックが乗り越えるべき課題に、取締役会はどう向き合っているのか。統合以降のコーポレート・ガバナンス改革と果たすべきモニタリング機能について、取締役会メンバーが意見を交わしました。
ポートフォリオ改革を巡る議論を振り返って
取締役会長 森川 宏平(以下、森川(宏)):私たち取締役は、取締役会の実効性に関する自己評価をふまえた「行動計画」を作成しています。2023年度の行動計画には、①執行と監督の分離の促進の具体化、②取締役会の目指す目的・役割に基づいた今後の取締役会の域を持っているボードメンバーにはさまざまな角度からレゾナックをモニタリングしてもらっています。
社外取締役 森川 典子(以下、森川(典)):私は日立化成買収決定後の2020年3月に昭和電工の社外取締役に就き、議論に加わりました。当初、最も注目していた「PMIの妥当性」については、適切なプランだったと受け止めていますし、統合を「有事」と捉えて新執行体制をスタートさせチーム髙橋をつくってきたことを高く評価しています。
レゾナックとなってからは、「そのPMIが実行されているのアジェンダ設定、③新たなコミュニケーションの機会の確保を盛り込みました。本質的な戦略についての議論の比重を高めることができたと評価しています。付議基準を見直すことで取締役会の議論構成は大きく変化し、個別執行案件が2022年度の39%から2023年度の13%へと減少する一方、戦略・全社課題が41%から63%へと大きく増えました。また、指名・報酬諮問委員会において、後継者人材やKPIに連動した役員報酬に関する議論を始めるなど、コーポレートガバナンスの改革を進めてきました。多様な経験や専門領か」をモニタリングすることに注力しています。現在の所感として、ポートフォリオ改革はしっかり軸足のとれたものだと、高く評価しています。特に、「自分たちがベストオーナーとして適切か」という観点からのポートフォリオ分析は説得力があります。ただ、株主はいつまでも待ってくれません。この2、3年がポートフォリオ改革の結果を出す正念場と考えているので、さらに踏み込んでモニタリングする時期ですね。
社外取締役 常石 哲男(以下、常石):ポートフォリオ経営について、髙橋さんは非常に明快な戦略を持ち、一貫してストレートなメッセージを発信されています。その戦略、方向性は妥当で正しいものだと考えています。一方で、現在でもレゾナックは非常に多くの事業部門を持ち、個別の各事業の利益拡大に向けたプランが正しく策定されているかどうかを取締役会レベルでも検証する、ディテールの議論はまだまだ深掘りすることが期待されます。
社外監査役 宮坂 泰行:確かに、モニタリングボードへの移行という目的のために個別執行案件の議論の時間が減ったことは当然とはいえ、議論が漠としたものになりがちという面も否めません。
取締役 CSO/CRO 真岡 朋光(以下、真岡):監督と執行の分離を意識しすぎると抽象的になりすぎるのは悩ましいところです。当社のように事業ポートフォリオが多岐にわたっていると、抽象度を上げすぎると何が起きているのかが見えなくなってしまいます。ちょうどよいバランスを引き続き探っていきたいです。
社外監査役 遠田 聖子:私は2024年3月に社外監査役に就任したばかりですが、これまでどのようにモニタリングを行ってきたかについて伺うと、統合のプロセスと文化の醸成に注力してきたという印象を持ちました。これからは、どう稼いでいくのかについての議論を深めていく段階でしょう。企業価値の最大化が監査のポイントですが、社会的にはあらゆるステークホルダーの観点において正しい方法で稼ぐことが求められています。その視点から企業価値を毀損する要因が無いか、決めたことを正しく実行しているか、しっかりモニタリングしていこうと思っています。
社外取締役 一色 浩三(以下、一色):社外取締役のメンバー構成を見ると、金融や投融資に関する専門的な知見を持っているのは私だけです。特に、国際金融の経験を持つ若い世代の方が、社外取締役に加わっていただくとさらによいですね。
社外取締役 安川 健司:私は大型合併を経験し、企業統合の難しさについて身を持って知っています。社外取締役として私に求められているのは、合併に起因するさまざまな問題に対処してきた知見を活かすことだと考えています。レゾナックは、戦略、意思決定、報酬体系、組織文化の醸成、あらゆる面で世界レベルを目指して意欲的に取り組んでおられますが、事業所の数も多く、文化も含めた完全な統合はまだ道半ば。これからも適時、適切に助言できればと思っています。
石油化学事業のパーシャルスピンオフを巡って
取締役 CFO 染宮 秀樹(以下、染宮):取締役会の議論を中長期の課題にシフトできたのは、付議基準の変更により議題の数が減ったことと、事前の情報共有の場を設けたことが大きいでしょう。特に石油化学事業を巡っては、事業ポートフォリオの課題として、繰り返し執行の考え方を丁寧に共有してきたことで、最終形態としてのスピンオフを取締役会で迅速に決めることができたのではないかと思います。
常石:確かに、事前の情報共有により取締役会では突っ込んだ質疑ができたと思います。石油化学事業のパーシャルスピンオフというプランに関し、私からは、「新会社」が新規事業を立ち上げ、株価が付くような会社となりうるのかどうかという点と、その「新会社」に対しどのようなサポートをしていくのかを質しました。執行側からは、技術開発で石化業界を先導するような役割を果たしてもらいたいということで「パーシャルスピンオフ」という手法を選択したこと、カーボンニュートラルや人材育成に関して引き続きサポートしていくことなど、そのために株式の20%未満を今後も保有するつもりであることなどが説明され、今の時点では納得できるプランだと考えています。
森川(典):株主や社員への衝撃を抑えるために、慎重に準備を進めている点も良いですね。
一色:石油化学事業は、単に切り離せばそれで良いという話ではなく、今後の業界の在り方も重要です。その意味で、事前に情報を共有したうえで取締役会において、パーシャルスピンオフの後の「新会社」がどういう姿になるのか真剣に考えたことは、大変に良かった。
真岡:「新会社」が地域社会にどのように貢献していくのか、そうした点も含めて引き続き検討していくべきと考えています。
染宮:パーシャルスピンオフは業界に前例のない方法。業界に一石を投じる形で当社のポートフォリオ改革の姿勢が示せたことは、取締役会で応援いただいたからこそでしょう。
付議基準の変更、事前説明を巡って
森川(宏):付議基準の変更、事前の情報共有が取締役会の議論の質を高めたという指摘をいただきましたが、ここからは、取締役会・監査役会の実効性・モニタリング機能という観点からご意見を頂戴したいです。
常勤監査役 加藤 俊晴:事前の情報共有は、取締役会でのサプライズがなくなり、初めから共通の土俵に乗って実質的な議論ができるという意味で、とても良い影響がありました。取締役会への付議基準の変更は、大きなテーマを議論できる良い面もありますが、一方で、付議基準以下でも重要なテーマがあることも事実です。そうした「基準以下で重要な案件」は、監査役会では、経営会議での議論の様子や決裁内容も含めてきちんと報告をしています。我々常勤監査役の情報収集能力と、社外監査役の皆さんの強固な独立性と専門性を活かし、監査役会の実効性を高め、取締役会に反映させることで監督機能を向上させていきたいですね。
社外監査役 矢嶋 雅子:社外取締役と社外監査役では、求められている役割が違います。取締役が経営をダイレクトに話し合うのに対し、監査役は対話できる場を整備していくことが大事な役割です。対話には生きた情報が必要であり、情報収集という面でもしっかりと役割を果たしていきたいです。監査役会の環境整備は現在良好な状態にあると思いますが、取締役会は、やはり時間が限られているという課題が残ります。意見を言うだけでは対話にはなりません。事前の情報共有も良い取り組みですが、もう一段階の工夫が必要だと感じます。
私自身は企業法務を扱う弁護士として、企業価値を毀損するような要因はないかを察知するセンサーの役割に注力しています。その意味で現場の声、現場の状況をしっかりと把握しておく必要があります。現場を把握している方から議題が上がってくる、仕組みが大事ではないかと考えています。
常勤監査役 片寄 光雄:私は2024年3月の監査役就任前は事業本部長やCTOを経験しましたが、執行と取締役会とは微妙な距離感があると感じていました。執行側のスキルや経験値を含め、取締役会だけでは判断しづらいこともあるはずなので、しっかりモニタリングしていく役割があると考えています。
常石:取締役会のモニタリング機能をどう高めていくかの議論は、どうしても取締役会への制度や仕組みの話に偏りがちです。もちろんそれらも重要な論点ですが、モニタリングボード本来の意味・機能に立ち返って申し上げれば、社外取締役の最も重要な役割は株主の声を代弁し、経営に反映させることにあります。執行側から出てくる経営戦略、経営施策が、株主の視点に立ってみたときに期待に応える妥当なものなのかどうか、その戦略の確からしさや実行する能力やパワーがあるのか、また見えないリスクの有無などをきちんと見ていかなければいけない。そして、執行側のプランが正しく、そのプランが達成可能ということであれば、社外取締役は監督役であると同時にプラン達成に向けた一番の応援団にならなければいけないと、考えています。
レゾナックが今取り組むべき課題
森川(宏):今、常石さんから「社外取締役は応援団になる必要がある」というご意見をいただきました。レゾナックは「世界で戦える会社」を目指しているわけで、事業のパフォーマンスのみならず、ガバナンスの面でも世界水準レベルの機能を発揮し、投資家に説明する必要があります。取締役会のさらなる実効性向上に向けて、執行側はどのような考えを持っていますか。
取締役 CHRO 今井 のり(以下、今井):まず、取締役会でのモニタリングに何が求められているのかの総論として、やはり意思決定のプロセスの妥当性をどうみていただくかが最も重要なのではないかと考えています。
その上で、取締役会でのモニタリングのアジェンダとして重要な点は、ポートフォリオマネジメント、サステナビリティ、リスクマネジメントの3つです。このうちポートフォリオに関しては、先ほどからご意見をいただいているように、取締役会としてのモニタリング機能は果たせているのではないかと捉えています。一方で、サステナビリティとリスクマネジメントに関しては、これからの課題として残っていると思います。
染宮:取締役会で、株主の目線に合った議論をどう行っていくかも重要です。IR活動で得た株主の声を共有することで、議論の活発化に繋げていきます。
真岡:リスクについても、個別の案件として議論するだけでなく、全社目線での重大なリスクをしっかり示す。取締役会での議論においてこれまで以上に有用な情報を示すことができると考えています。
今井:議論の対象を明示し、議論するための情報を伝えることが大事ですね。例えば、取締役会ではサクセッションプランについてもご議論いただいていますが、指名諮問委員会との役割分担は何かといった明確なテーマ設定、あるいは、どのように人材を育成し役員のスキルセットなどをどうするのかといった、個人名ではないフレームを提示し議論いただく。こうしたことが必要だと考えています。
森川(典):大変重要なことですね。2年を振り返って正直なところ、取締役会は指名諮問委員会あるいは報酬諮問委員会と距離があったように感じます。それぞれの委員会の役割を明確にした上で、取締役会との関係も整理し、一体となって人材戦略、次世代育成を考えていくことが必要です。まだまだできること、やるべきことがあるのではないでしょうか。
代表取締役社長 CEO 髙橋 秀仁:次世代の育成も、文化の醸成も、CEOである私が取り組んでいることは全て企業価値の最大化を目指したことです。何かに取り組む選択をするとき、私は「覚悟と信念」で決断するとともに「大義と品格」を失っていないかを考えます。そのバランスが間違っていないかを皆さんから株主視点でご意見いただきたい。これは本当に企業価値最大化に資する決断なのかと声をあげていただきたい。これまでの投資案件に対しても有益なお声をいただいていますが、これからも節目の投資・決断に対して、しっかりとご説明をしますので、共に議論していければと思います。
森川(宏):皆さんのご議論を伺って強く感じたのは、「レゾナックが次の段階に進んできたな」ということ。レゾナックの出発点となった経営統合以降、取締役会の機能強化、ガバナンスの強化に注力し、今まさに次の段階へと進もうとしていると感じています。残された課題も多くありますが、これからもレゾナックが正しい道を歩んでいき、企業価値の最大化を実現できるよう、力を合わせて取り組んでいきましょう。
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