技術を生み出し、未来を切り開く。レゾナックの「共創型人材」
2024年07月31日
※本記事は2024年7月発行の統合報告書「Resonac Report 2024」の転載です。
社会に求められる新しい技術や素材を生み出し続けること。
レゾナックにとって重要なこの課題の中核となるのが垣根を超えてつながりを持った「共創型人材」の育成です。
CHRO、CTO、エレクトロニクス事業本部 副本部長の3名が、人材育成がもたらす“稼ぐ力”の底上げについて、展望を語り合います。
研究・開発・製造のすべての分野が同じ時間軸で共創し、将来の稼ぐ力を生む
今井:2030年に「世界トップクラスの機能性化学メーカー」を目指す当社にとって、"稼ぐ力"は不可欠です。そしてレゾナックの価値の源泉は、幅広い材料技術のプラットフォームと、研究開発力にあります。ただし、どれだけ高度な技術を有していても、お客さまが求める機能を生み出せなければ、稼ぐ力にはつながりません。お客さまと直接会話をする担当者、つまり「フロント」の人間による顧客ニーズの把握と、それに対する現場の呼応が不可欠です。フロントと現場の一人一人が、作り上げたいものに対する志を持ち、解を作り出せるのか、部門を越え、会社の垣根も越えて、共に考える。そういったすり合わせによって多様な知見を融合させながら価値を生み出せる人材。それこそが、レゾナックの考える共創型人材です。
共創における課題の一つは、領域や部門によって異なる"時間軸”です。研究開発のスピードは事業によって大きく異なりますが、半導体材料は圧倒的に早い。このスピードに対応するためには、研究、開発、製造が足並みを揃えなければなりません。
阿部:旧日立化成は、お客さまと共に材料をカスタマイズするプロセスをDNAとして引き継いでおり、スピード感も早いです。一方で素材や設計に立ち返る研究開発プロセスは手薄であり、その点はむしろ旧昭和電工の強みです。経営統合により川上と川下がつながったことで、共創による相乗効果が現れ始めています。さらに、ほかの装置メーカーや材料メーカーなど、社外との共創まで考えると、まだまだやれることの余地がありそうです。
福島:フロントの人材は、目まぐるしく変化する顧客の要望に対し、懸命に応える力が求められ、製品の改良を重ねていく。目先の課題解決が優先されることで、コア技術が発展しないまま最終製品のクオリティが上がるんです。ですが、そのサイクルには限界もあるので、研究人材は先回りしてコア技術にもアプローチしなければなりません。こうして各人材が別々のタスクにあたるわけですが、方向と時間軸が共有されないと、努力が水の泡になります。稼ぐ技術を生むためには、目前の製品改良に加え、フロントによる新たな顧客ニーズの吸い上げと、研究による新たなコア技術の開発を同時に行わなければなりません。もちろんその共創には、「いつまでに新たなコア技術が必要か」という同じ時間軸の認識を持って進めていくことが必要不可欠です。
社内外のプロフェッショナルを集結させた新拠点での共創
今井:共創型人材の育成においては、社外との連携も重視しています。他の装置メーカー、材料メーカー、さらには大学などの知見を取り入れることで、より大きな相乗効果を生み出せるはずです。
福島:そうですね。レゾナックは、さまざまなステークホルダーとの共創の場づくりを進めてきました。まずは、分野を超えた対話や議論の促進を狙いとした「イノベーションセンター」を2017年に開設。さらに、国内外のベンチャー企業や大学などとの協働を通じた長期的なR&Dの中核拠点として、「共創の舞台」を2023年に設立しました。将来の事業創出に向けネットワークを広げていく中で、当社の人材も「誰とタッグを組むと、何が生まれるか」という、オープンイノベーションの手法や戦略を習得できるでしょう。こうした場づくりは、つながりを生む新しい仕組みづくりの一環でもあり、10年、20年先の強固な基盤になると思います。
また、直近の課題に対応する共創力も欠かせません。その実践の場が、2019年に開設した「パッケージングソリューションセンター」、2023年に本格始動した「パワーモジュールインテグレーションセンター(PMiC)」です。お客さまのニーズを深く理解した上で応えるための拠点として、顧客メーカーが保有する半導体製造装置と同等の設備を持つことで、評価・シミュレーションを先回りで実施し、スピーディーに高水準な製品を届けることを可能にします。
阿部:パッケージングソリューションセンターでは、半導体の実装材料、基板、装置のメーカー12社とコンソーシアム「JOINT2」を立ち上げ、一つの研究テーマにさまざまな知見を融合させる環境が整いました。従来、材料メーカーは半導体メーカーにとってサプライヤーという位置付けでしたが、新たな技術開発の目標を共にすることで、パートナーという関係に変化しつつあります。これは大きな前進です。
顧客と現場をつなぐフロント人材に、求められる能力とは
今井:顧客ニーズへの対応の徹底は、当社のビジネスの根幹にあります。市場の競争が激しいからこそ、お客さまと共創する姿勢で開発に取り組まなければ、生き残ることは不可能です。私たちは顧客企業やマーケットに育てていただいているともいえます。
阿部:エレクトロニクス事業本部は、世界的に高いシェアの製品を生み出してきました。その源泉にあるのは、「お客さまのために頑張りたい」「世の中に貢献したい」というモチベーションです。その上では、稼ぐ力というのは、最終的には付加価値。お客さまは付加価値に対価を払っているわけですが、その付加価値は製品の機能性、独自性、開発速度、技術サービスなど、案件によっても変わります。
真の共創とは、お客さまの要望を鵜呑みにすることではなく、案件ごとにお客さまの真意を理解しソリューションを導くということです。そのために、フロントに立つ人間に必要なのは、ヒアリング力や予測力、課題解決力だと考えます。
福島:フロントのコミュニケーションだけにとらわれると、多忙な現場との信頼関係を築けず、自転車操業に陥ってしまいます。顧客からも社内のエンジニアからも、「この人が言っていることは正しいはずだ」と思われることが、フロントに求められるのでしょう。そこでは、熱量を伝えるような人間力も不可欠。お客さまと現場をつなぐコミュニケーションの場数こそ、共創型人材を育てるのだと思います。
開発と製造のハブ機能を果たす、技術管理部の強化
阿部:業界全体のニーズが目まぐるしく進化するのは、顧客メーカー側も同じこと。量産中の製品でも、頻繁に品質向上や仕様変更が求められます。このスピーディーな流れに対応するためには、改善フェーズに特化したチームも必要です。これまでは製造部直下の技術管理係がその役割を担ってきましたが、より機能を強化し、新しい技術の開発リソースを確保するべく、2023年に技術管理係を技術管理部へと昇格させました。開発、製造、品質保証など、さまざまなバックグラウンドを持った人材が集まることで各部門のハブとなり、コーディネーションによる量産品の改善を進めていきます。
今井:特に開発から製造に移行するプロセスでは、さまざまなエラーが生じます。その部分を共創力で埋めるのが、技術管理部の役割ですね。さらに、海外拠点への技術移転においても、開発部門がカバーしていた部分を、ノウハウを溜めた技術管理部が担うことで、開発のリソース負荷を減らすことができます。
福島:昔と比べ、世の中から要求される製品スペックは飛躍的に高まっています。開発部門はお客さまの要求を受け止め、必ずスペックを上げていくわけですが、作るもののレベルが上がれば、製造部門の負担は大きくなります。製造部門の負担を減らすために、少しでも作りやすい製品設計を考えなければなりません。それでも無理が生じると、どうしてもエラーにつながってしまいます。技術管理部の強化で、開発途中で製造部門と相談し、先回りして生産設備や評価条件の準備を促すといったコミュニケーションが可能になります。「作れて当たり前」とされていたところをきちんとサポートすることで、円滑、安全な生産ラインを組めるはずです。それが、最終的な製品価値の向上とレゾナックの稼ぐ力につながっていきます。
高収益製品へのリソース投下と、未来を開く製品開発の両立
福島:半導体の技術が進展するほど、私たちには戦えるチャンスが広がります。開発や製造が厳しくなるほど、参入できる競合が減るからです。これまでレゾナックは、立ちはだかる課題をチームワークの力で乗り越えることで、世界的なシェアを広げてきました。
阿部:そうですね、絶縁接着フィルムの「NCF」は、その好例です。プロジェクト立ち上げ時に現場の人間が努力を重ね、塗工技術、分散技術などで世界最高水準を達成。AI半導体などの材料として売上を高め、現在は100%のシェアに達しています。
今井:一方で、業務に関係なく新しいことに取り組める余白の時間、いわば"遊びの時間"がどんどん減っていることも懸念しています。新しい製品は、そういった遊びの時間に技術を積み重ねていくことから生まれると思っています。放熱シートの「TIM」は15年ほど前の研究発表の際、製品化の可能性に懐疑的な声が非常に多かったです。しかし時を経た今、急拡大するAI半導体などに特性がマッチし、当社の主力製品になっています。長期的に企業価値を高めるためには、新たな発想で研究に臨む人材や環境づくりにも、目を向けるべきです。
福島:新しいコンセプトの製品は、その研究発表をする以前から、技術者は種となる着想を浮かべているはず。そこを周囲がキャッチできなければ、今日ある優れた製品は存在しなかったでしょう。高収益の事業にリソースを注ぎ込まなければならないのも事実であり、そのバランスは常に悩ましいですね。一つの道筋として、人材ポートフォリオがあげられます。例えば、“0から1を生み出すのが得意な人材”と“1から10を作るのが得意な人材”は、それぞれ適性が異なるはず。今後は、そこを見極めながら、人員配置や組織構成を考えるようにしていきたいですね。
経験と多様性、マネジメント力が、組織の共創力を底上げさせる
今井:共創型の人材戦略で現在重視しているポイントは二つです。
一つは、人材一人一人の経験値を増やすこと。専門性を極める、多様な視点を持つ、他者とのコラボレーションを進めるなど、当社で積める経験はさまざまです。戦略的なジョブローテーションによって、個々の成長度は格段に上がるでしょう。
もう一つは、共創型の働き方を実現できるマネジメント能力です。異なるバックグラウンドの人材と議論し、プロジェクトを前進させるには、多様性を内包していなければなりません。多様性において必要な力を、心理的安全性、アンコンシャス・バイアスの排除、発信力、傾聴力、ファシリテーション力の5項目として定義し、これらを身に付ける「共創型コラボレーション力強化研修」を、執行役員以下の管理職全員に課しています。また同時に、リーダーとして育成スキルを学ぶ「共創型リーダーシップトレーニング」も、全部門共通で実施しています。
これらに加え、研究開発の分野では、特に人材ポートフォリオの整備を重視しています。個々の特性を人員配置に落とし込むためには、能力や適性がデータにより可視化され、数値的な判断に基づき戦略を立てられる仕組みが必要です。現在はFFS理論を取り入れながら、データドリブンなチーム構成を試みている段階です。
福島:いずれの施策においても、カギを握るのは現場のマネジメント層です。上司が部下の適性を深く理解し、最も有益なキャリアパスを考えることで、組織全体が成長します。会社のパーパスやサクセッションプランを理解しながら、研修によりマネジメント力を磨き、面談とFFS理論を取り入れる。こうした動きが、管理職には求められるでしょう。CTOの立場からは、技術と事業の両方を見ていく経験をどう積んでいくかが鍵になる。稼げる技術でなければ、本当の意味でのイノベーションとは言えません。
今井:人材一人一人の自己理解も重要です。近年の日本社会では、変化する環境の中で自分のキャリア開発や学習に主体的に取り組む、「キャリア自律」という言葉が普及しつつあります。当社でも「自律を促そう、さらに一歩」というテーマのもと、「パーパス探求カフェ」という施策を進めて、自分自身のパーパスを振り返ってもらっています。
世界を良くしたい、化学の力で貢献したい、とレゾナックのパーパスと重なる思いを述べる人材も多く、彼らはモチベーションが高いです。自律した考えのもとでレゾナックを最適な環境として選んでもらえるような、企業と従業員のパートナーシップも共創の礎になるのかもしれません。
これまでのキャリアアップは管理職へ昇進する一本道でしたが、研究開発を突き詰めるプロフェッショナルも目指せるデュアルラダーも取り入れています。キャリア自律を促し、多様なキャリアプランをキャッチアップする仕組みを作っているので、今後はそれらの浸透を図るフェーズになっていくでしょう。
人材戦略の先にある、レゾナックの未来像
今井:人材戦略の先に、私が理想として描くのは、一人一人がワクワクを感じる組織です。楽しみながら成長を実感できることは、生産性や企業価値にも直結します。そのためには社会やお客さま、チームに対し貢献しつづけることが大切です。皆が本気で世の中を良くしていきたいという思いこそ、世界トップクラスの機能性化学メーカーにおいて原動力になるのではないでしょうか。
阿部:さらに、「半導体材料で困ったときに、最初に声を掛けるべき企業」になりたいですね。半導体業界では、初動からお客さまと共創することが、大きなアドバンテージになります。信頼を生み、積み上げながら、技術とネットワークが広がっていく。こうした理想のサイクルを作り出すのが、“共創型人材”の使命なのでしょう。
福島:最終的には、技術が未来を切り開くことを、私たちは本気で信じています。新技術が常に創出される組織であり続けることは、社会からも求められていることです。世の中の技術者や、これから技術者を目指している人たちに当社の環境を羨ましく思い、「入社したい」「協業したい」と感じてもらう。
今井:社会にも、技術者にも求められるレゾナック。そんな将来を見据えて、稼ぐ力を生み出せる人材の育成にも注力していきたいですね。
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