シリコンバレーに日米企業10社の技術が集結 “手の内を明かす”理由とは?
2024年07月08日
半導体の後工程材料で世界をリードするレゾナックは、GAFAMや大手半導体企業が集積するシリコンバレーで、日米混合のコンソーシアム「US-JOINT」の設立を発表しました。
その中心人物は、業務執行役兼エレクトロニクス事業本部副本部長の阿部秀則。エンジニアからキャリアをスタートした阿部が、何を思い、どのようにして競合や海外企業との共創を実現したのか。紆余曲折のストーリーを紹介します。
顧客との共創で培われた材料メーカーの強さ
1980年代、日本の半導体産業は日の丸半導体として世界を席巻していました。それから約30年間、日本の半導体メーカーはかつての強さを失いましたが、半導体材料と装置に関しては、現在も日本が世界で高い競争力を保っています。
レゾナックは世界トップシェアの後工程材料を複数有していますが、それは80年代に顧客である半導体メーカーとすり合わせを繰り返した結果、築き上げられたものです。材料メーカーだけでは、半導体がどのように作られ、材料には何が求められるのか、納めた先で何が起こっているのか、を把握することは容易ではありません。私が入社した当時、自社の材料の使われ方や、どういった不具合が起きるのかを、顧客から現場で教わり、すり合わせながら製品開発を進めていました。それによって、顧客のニーズを正しく理解することができたのです。
こういった経験から、私は今も顧客とのコミュニケーションを重要視しています。彼らの声に対してきめ細かくオーダーメイドで応えていかないと、本当に”良いもの”を作りだすことはできません。ただ材料を作り、カタログ販売して終わりではない。お互いのフィードバックの積み重ねによって世の中に役立つものが生まれると考えています。
異文化から刺激を受けて芽生えた思い
20代後半、上司の反対を後目に「絶対成果を上げる」と宣言して、アメリカのシリコンバレーに駐在しました。それまでは開発部でエンジニアとして働いていましたが、もっと顧客に会ってみたい、海外の顧客の考えを知りたいという気持ちが大きくなったのです。ここでの経験が今の「思い」に影響を与えました。
アメリカでは半導体業界で働く人同士のコネクションがあり、情報交換も活発に行われていました。人材が流動的、という文化的背景もあると思いますが、企業の枠を超えて、人々が強い結びつきを持っているのです。その構造に刺激を受けました。日本では企業を越えたつながりがなく、特に競合企業とは、セミナーや学会で会っても、コンプライアンスの観点から会話をしない風潮だったのです。
また海外企業の「自社の強みにフォーカスし、弱い部分は他社から補えば良い」という発想にも驚きました。当時の日本企業は自社の強み・弱みを明確にせずに、全部自分たちで完結させる傾向があったためです。私はアメリカでの経験を日本に持ち帰り、このような海外企業の考え方を取り入れたコンソーシアムを作りたいと考えました。
手のうちを明かして競合も巻き込む
そういった思いのなか、2020年にオープンイノベーションを推進するパッケージングソリューションセンターのセンター長に就任。その直後に、次世代半導体パッケージ実装技術開発のコンソーシアム「JOINT2」を立ち上げる機会が訪れました。
といっても、最初は綿密なプランやスケジュールは立てないままスタート。まずは動いてみることを大切にしたのです。パートナー候補企業へ訪問する時は、資料はあえて用意せず、コンソーシアムへの思いや夢を語りました。「こんなことをやりたいんだけど、どうだろう」と率直に話し、ある程度の共感を得たら、提案をブラッシュアップする…ということを繰り返しました。コミュニケーションを重ねるうちに相手が「これはいいが、これは困る」と言ってくれるようになります。何度も壁打ちをして、徐々に私たちが取り組む方向性や、お互いがwin-winになる構造が出来上がってきました。
一方で、競合企業への交渉は難航。私はパッケージングソリューションセンターに招待して、当社の取り組み、つまり手の内を明かし、信頼関係の構築を図りました。そして、お互いの強みや弱み、組むことのメリットを話し合って、「この部分なら一緒にできる」というところを探っていったのです。最終的にはプロジェクトに必要な装置メーカー、材料メーカーをパズルのようになんとか組み合わせました。
社内からは競合企業に対して、「自社の情報を開示しすぎているのではないか」という不安の声もありました。確かに今までの業界の文化を考えると、そう思うのも当然かもしれません。ただ、お互いの情報がわからないと、様子見をしたままで前に進まない。そのため、私は「見せて真似できるものであれば、本当の強みではない。私たちの強みは決して失われない」と社内に訴え、オープンにする方針を貫きました。それだけ良いものを創り上げている自信がありましたし、パッケージングソリューションセンターの仲間たちの力を信頼していました。
こういった経緯を経て、2021年に後工程における装置・材料・基板の主要日本メーカー12社で「JOINT2」が立ち上がりました。現在は当社を含め14社になり、次世代半導体パッケージの研究開発を行っています。
分岐点を迎える半導体産業
アメリカには2回駐在しました。1回目は技術営業として現地のユーザーをサポート、2回目はファブレス企業に対して材料のプロモーションを行いました。今でもアメリカに出張に頻繁に行っていますが、駐在当時に比べて、現在の半導体産業の構造が大きく変わったことを肌で感じています。変化点は大きく2つ。1つは前工程の進化が技術とコスト両方の課題により鈍化し、後工程の重要性が増したこと。2つ目は、半導体に対する各国の支援の増大です。風向きは良い方に変わりました。パッケージングソリューションセンターやJOINT2の経験が活かせる時代が来ています。
日米企業10社のコンソーシアムを立ち上げ
2023年11月、アメリカにパッケージングソリューションセンターを設立することを発表しました。2つ目の拠点、そのうえ海外で展開できるとは想像していなかったので楽しみです。日本で設立した当初は、会社に大きな先行投資をしてもらっていることから、本当にビジネスにつながるのか、寄与できるのか不安がありました。今では「ここでやったことがあったからこそ、このビジネスが取れた」という事例がどんどん増えてきてます。半導体メーカーからも「新しいチャレンジをしたいから一緒に検証してもらえないか」とお声がけいただくようになりました。また、社内外のエンジニアからは、多くの装置が一か所に揃っていることから、「夢のような場所」「半導体後工程の遊園地」とも言われているそうで、嬉しいですね。
そして2024年。かつて、「思い」を募らせた地シリコンバレーで日米企業9社とともに「US-JOINT」を設立します。日本で進めてきた「JOINT」、および「JOINT2」といったコンソーシアムの取り組みを、海外で展開する計画です。
横のつながりを持つことすら難しかった日本の半導体材料メーカーが、国境を越えて、日米混合のコンソーシアムを設立するまでに至ったのは、感慨深いものがあります。今後はシリコンバレーの地で、大手半導体企業や近年半導体の設計・研究開発を始めた大手IT企業などの声を聞き、最先端の材料開発を加速させていきます。
入社したときから、自分にしかできないことをしてみたい、という思いを強く持っていました。目の前のことにがむしゃらに取り組みながら、「自分には何ができるのか?」を考えながら、いろいろな経験を積みました。一見関係ないような仕事であっても、今となっては役立つ経験ばかりだったと思います。予想もしていなかった意外な人のつながりにも助けていただいています。私の旅はまだ終わっていません。半導体が進化すれば、世の中はより豊かになる。今後の展開にもご注目いただきたいです。
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