“熱意”は相手に伝わる。世界的指揮者・西本氏と語る個性を活かす組織の作り方
2024年06月27日
「化学×〇〇」という形式で、レゾナックの経営陣と異業界の第一人者が語り合う「Resonac Dialogue(レゾナック ダイアログ)」。
第3回目は、「化学×音楽」をテーマに、グローバルで人事の変革を主導するCHRO今井のりと、世界で活躍する指揮者・西本智実氏との対談。
日々、多様な人々と密接に関わる二人は、どのように人と向き合い組織を作り上げるのか?
幼い頃の体験が、未来につながる
今井:西本さんは日本を代表する指揮者として世界で活躍されていますが、いつ頃から志したのでしょうか?
西本:大学時代です。作曲科作曲専攻で「なぜこんな音を生み出すことができるのか」という、音自体の表現に興味が湧いたことがきっかけでした。オーケストラ全体の演奏表現を変化させられるのは、指揮者だからこそできることです。そういったことを考え、志すようになりました。
今井:指揮者を志されてからどういった行動をされたんですか?
西本:当時の日本には、オペラやバレエなど総合芸術の舞台が数多く上演され、海外から一流の指揮者の方も来ていました。幸運なことに、学生時代からオペラの制作現場の経験を積みながら、20歳ぐらいから副指揮者として仕事の依頼が始まりました。海外の名だたる指揮者の副指揮を務める機会にも恵まれました。

指揮者 西本智実氏
今井:日本にいる頃からグローバルな環境に身を置いていたんですね。
西本:ただ、働いているうちに、「幼い頃に自分が心を掴まれた原点に戻ろう」という思いが強くなり、ロシア国立サンクトペテルブルク音楽院の指揮科に留学しました。子供の時からバレエが好きでよく公演を観に行っていたので、ロシアの芸術文化がすごく身近にあったんですよね。それに、偶然にも自分が好きだった演奏者も、ロシア系の方が多くいました。
今井:西本さんが「音楽」を職業として志されたのは、ご家族や、そういった幼い頃の体験がきっかけだったのですね。

株式会社レゾナック・ホールディングス 執行役員 最高人事責任者(CHRO) 今井のり
西本:そうですね、ピアノ教師の母や音楽大学卒の親族に囲まれていたことも影響しています。その中でも、小学生のころの体験が大きいです。ある日、慣れ親しんでいた音楽がとても優しく心に響き、気持ちをふっと解放してくれて。気が付いたら、ボロボロと涙が溢れたことがありました。そのときに、本当の意味で音楽の魅力を感じたのだと思います。小学校の卒業アルバムに、将来は「作曲家と指揮者になって人のこころを慰めるような音楽をつくりたい」と書きました。
この世の「真理」を追求したい
今井:小学生のときに出会った、その優しい曲というのは…。
西本:バッハの「G線上のアリア」です。
今井:ああ!子供のころ、兄妹でバイオリンを習っていたこともあり、よく家の中でバッハの曲がかかっていたんです。私も「G線上のアリア」が大好きでした。
西本:私にとってバッハは心の宇宙です! やっぱり、今井さんは理数系なんだな、と(笑)。
今井:えっ、なぜそう思われたのでしょうか。
西本:バッハは真理を表現し、物事の仕組み、音の組み合わせの原点のような音楽家です。私は芸術活動を通じて「この世の真理を知りたい」という想いでこの道に進んだ一面もあります。
今井:化学も同じかもしれません。私も、大学のときに化学を選んだのは、この世界の真理を追求したいと思ったからなんです。そこにある原理原則を突き止めたい、と。

人の心を動かすものとは?
今井:レゾナックは社内外の共創により価値を創造することを目指しています。西本さんは指揮者としてヨーロッパ、アメリカ、アジアと世界各地のオーケストラと「共創」されているわけですが、どんな難しさややりがいを感じていらっしゃいますか。
西本:国立の劇場やオーケストラが外国人である私を雇用するわけですから、大きな責任を感じます。地政学の影響を受けることもありました。
今井:常に受け入れてもらえる、ということではないのですね。
西本:オーケストラの仲間が私に抱く期待や、文化や価値観の違い、そういったものすべてを開示しながら、それを「超えて」共創を目指していきます。
今井:とにかく前向きにチャレンジし続けるしかない、と。
西本:そうですね。全身全霊で取り組む時、国籍や性別などのバックグラウンドは関係なくなってきます。演奏活動を通じて新たな視点を提示し、社会に貢献したい、という情熱を共有し、音楽的エネルギーを生み出したい、と。
今井:私も現在はCHROという立場なので、従業員を含むあらゆるステークホルダーに対して、「その人の心をどう動かすのか?」という部分はすごく試行錯誤しています。従業員には、ただ上から方針を伝えるだけでは決して響かない。新しく髙橋がCEOになった22年から、変革の必要性や髙橋の人柄を知ってもらうために国内外の各拠点を訪問し続けています。従業員の多くから、「人柄がわかって初めて方針を聞く気になった」と言われました。経営陣が自分をさらけ出し、面と向かって想いを伝えることがとても大切だと改めて実感しました。
西本:心というものはとても複雑ですが、コミュニケーションを続けていくなかでさまざまな面に気づかされ、共感していくことも多いですね。

空気を読む
西本:音楽は時間を超越します。作品の背景には、その地で育まれた、また歴史的にも共有している要素を含んでいます。ホールの大きさや湿度なども音の質感に大きな影響を与えます。ヨーロッパの古い劇場では雷が鳴ったりすると、その音がホール内にも聴こえます。日本のコンサートホールは環境がかなりコントロールされています。
今井:その土地独特の環境があって、そういった外的要因によって音の響きが変わるんですね。たしかに日本のホールだとそういった現象はあまりない印象です。
西本:環境によって音が変わるということを、その土地のオーディエンスは伝統的な知恵として理解しています。伝統的な古い劇場では、防寒防雨の為の外套などが音を吸収してしまうので、劇場にはクロークが充実していて冬場は雪道用のブーツも預けるんですよ。そしてコートの中はできるだけ薄着。肌からじかに音の響きを感じるためです。
今井:オーケストラもオーディエンスも、その日、その時の空気感を大切に、一緒になって音楽を創っているのですね。
西本:演奏中は空気感に敏感です。オペラ、バレエ、オーケストラと共にその瞬間的にも作品を作り上げているので、その大勢が集中する意識が空気感を変化させています。

今井:今のお話はとても共感します。私自身、現場に行くことにこだわるのは、まさにその場の空気を感じるためです。拠点ごとに異なりますし、その違いを体感しながら今何が必要か、次の施策を考えます。
西本:海外で働く現地の方もたくさんいらっしゃるのですか?
今井:会社全体の従業員数が約24,000人※で、そのうち半分ほどが海外拠点です。日本の古くからの企業には、ヒエラルキーに従って忖度し、上には言いにくいといった体質がありますが、私たちはそういう習慣を変えていきたいと思っています。高度成長期の事業モデルであれば、その方が生産性が高かったのでしょうが、VUCAの時代、国内外の現場で起こるさまざまなことに対して、一人ひとりが「じゃあこうしようよ!」と機敏かつ柔軟に多様な意見を出し合い、動けるような雰囲気、企業文化が大切だと思っています。
- ※ 2023年12月31日現在
西本:トップダウンの指示を待つのではなく、その場その場で自発的に動けることは、その組織の風土やカルチャーの影響が大きいですよね。
今井:その通りです。だからこそ、「化学の力で社会を変える」というパーパスと4つのバリューを大切に、前例にとらわれず、自分たちで何ができるかを考えよう、と。そんな話をすると、グローバルのメンバーには「やっとですか」って言われたりもするのですが(笑)。まずは日本の従来型の文化を、西本さんがおっしゃるように「超えて」いこうとしています。
個性が響き合う組織に
西本:短期間のプロジェクトと、中長期でオーケストラを預かるような場合ではチームづくりのアプローチが違ってきますが、共通して個々の能力が遺憾なく発揮できる風通しの良さを作ることを心がけています。
今井:一人ひとりの個性が活かせる環境にすることはとても大事ですよね。
西本:そうですね。個人と向き合い、できるだけ「対話」を重ねることは大切にしています。
今井:レゾナックのような機能性材料メーカーでは、色々な部門の人が、壁を作らずに協力しすり合わせしながら、ものづくりを進めていく必要があります。そのため、個性が組み合わさったときにどうなるか、チームのダイナミズムが非常に重要になると考えています。
西本:チームのダイナミズムという点では、私は作品やその時々の状態によって「席替え」をしています。ベテランが後方に座り、若手を前に座らせてサポートするということもします。その席の組み合わせ次第でも音は変わりますので、オーケストラだけでなく合唱団でも席替えを試みています。

今井:興味深いですね。レゾナックでは、人の思考行動特性を知るFFS(Five Factors&Stress)理論※に基づいた診断ツールを導入しています。これは、5つの因子とストレスでそれぞれの個性を分析し、チームとしての相性の仮説を立てるものです。一人ひとりの個性を共通の枠組みで見える化することで、コミュニケーションロスを防ぎながら、個性を発揮しやすい環境をつくることを意識しています。
- ※ FFS(Five Factors&Stress)理論:「ストレスと性格」の研究において開発され、人の思考行動特性を5因子とス トレス値で定量化し、個人の潜在的な強みがポジティブ、もしくはネガティブに発揮されているか計測するもの
西本:今井さんは、「人の心の状態」を気にかけてくださっているのですね。
今井:振り返ると、20代、30代は、ひたすら遠くの景色が見たくて、自己実現をキーワードに個人で動くが多かったんです。でも40代になって事業や人事の責任者になり、チームを持ってみると、「この人はこういうことが強みだよね」「この人とこの人を組み合わせたら、絶対に面白いよね」と、自然と人について考えることが多くなって。実は人が好きなんだって気がつきましたね。
西本:他者を尊重し、人と人が生み出す化学反応による独創性のある仕事の仕方ですね。
今井:点と点を繋ぐのが好きなので、既存の枠組みに囚われず、この組み合わせでやってみようとか、すぐに考えてしまうんですよ。適材適所にはまったときに人が力を発揮する様子や、いいチームができたときに想像を超える結果が出る素晴らしさに「なんてすごいんだろう」って感動して(笑)。楽しくてしょうがないんです。
西本:レゾナックさんの約24,000人の従業員や、お客様を含めたステークホルダーの力も合わせたら、きっと社会にとっても大きな変化が生まれそうです。
今井:今の社会課題はあまりにも複雑で、1社ではとても解決できないからこそ、みんなで解決していくというマインドが必要になってきています。そのためにも一人ひとりのポテンシャルを解放し、違う個性、多様性をレゾナックという器で育てていきたい。それが、当社が掲げている「共創型化学会社」というあり方につながるのではないかと。
西本:「共創」というのは、まさに私たち二人の仕事の共通点ですね。私が結成した「イルミナート」にはオペラ・バレエ・合唱もあるのですが、姿も声も一人ひとりみんな違う。さまざまな声、厚み、響きがあるからこそアンサンブルは美しい。
今井:お互いに呼吸を合わせて響き合う。私たちレゾナックの社名の由来である「レゾネート(Resonate:共鳴する・響き渡る)」というのと近いかもしれません。西本さんが奏でる音楽のように、従業員一人ひとりのパーパスと会社のパーパスをつなぎ合わせる、多様な個性が共鳴する、そうした場がレゾナックであり、レゾナックという器を最大限活用し、社会をより良くしていくイノベーションを生み出していきたいです。

西本智実
世界各国を代表するオーケストラ・名門国立歌劇場・国際音楽祭より招聘。ハーバード大学ケネディスクール エグゼクティブ・エデュケーション修了。ダボス会議(WEF)ヤンググローバルリーダー、大阪音楽大学客員教授ほか。Fondazione pro Musica e Arte Sacra名誉賞、ニューヨークUS国際映像祭、ワールドメディアフェスティバルなど受賞多数。日本を代表する芸術家として、ドキュメンタリー番組がCNNインターナショナル、ZDF、独仏共同テレビArteなどで放送。「EXPO 2025 大阪・関西万博」では、イタリアパビリオン アンバサダーを務め、テーマは「アートはいのちを再生する」。
今井のり
レゾナック・ホールディングス常務執行役員 CHRO(最高人事責任者)。慶應義塾大学理工学部卒業後、旧日立化成に入社。経営企画、オープンイノベーション、米国駐在(営業)、蓄電池やモビリティーなど複数事業の企画・事業統括を経て、旧日立化成で2019年執行役に就任。昭和電工との統合では、旧日立化成側の責任者としてリード。ビジネスパートナーとしてのHR改革などを推進しながら、パーパス・バリューを基に新しい企業文化の醸成、事業戦略にマッチした人材育成に注力。
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