歴史ある総合化学メーカーを半導体材料の世界トップに
和魂洋才型経営で改革を進める、レゾナック・髙橋秀仁
Forbes JAPAN BrandVoice
2023年12月11日
昭和電工と日立化成の統合により誕生した「レゾナック」。半導体材料・世界トップ級のシェアをもつ同社を率いるのは、代表取締役社長CEO髙橋秀仁だ。髙橋の経営哲学とは?
髙橋秀仁(写真右)は2020年の旧昭和電工・最高戦略責任者就任以降、時価総額が倍近くある旧日立化成の買収、計2,000億円規模の9事業売却、半導体分野への「選択と集中」といったドラスティックな改革を次々と成し遂げ、100年近い歴史をもつ総合化学メーカーに新たな風を吹き込んでいる。
合理的な経営者の側面を見せる一方、全国の事業所を回って従業員にパーパス・バリューを伝えるなど、地道なことに徹底して取り組む。海外投資家からの信頼も厚い、髙橋の経営手腕の本質はどこにあるのか。Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香(写真左)が迫る。
市場低迷期にアクセルを踏む
谷本有香(以下、谷本):「第2創業期」ともいえる、さまざまな変革が注目を浴びています。特に半導体事業への「選択と集中」は思い切りを感じます。
髙橋秀仁(以下、髙橋):半導体市場は好況と不況のサイクルを繰り返す特性をもち、今は下降の時期です。次の山は今の山より大きいとわかっていますが、次の山頂を見据えた投資のキャパシティを決めるのは谷のとき。そこでアクセルを踏めないと負けてしまいます。
分子設計までできる昭和電工と、市場に求められる機能を生み出す日立化成が統合したことで、存在感のある企業になりました。また、EV化の進展でパワー半導体市場が拡大するなか、その材料となる「SiC エピウエハー」においてはトップシェアを獲得。5年以内に、2022年比5倍の売上高を目指しますが、これは無理な話ではないと思っています。
谷本:半導体は、回路を形成する前工程、パッケージングして製品にする後工程に分かれます。レゾナックは後工程材料の世界トップシェアをもっていますね。
髙橋:半導体というと、前工程における微細化が重視されていましたが、コストパフォーマンスを考えると限界に近づいています。今は、後工程で材料を組み合わせ、機能を発揮するというのがトレンド。後工程の主要材料10〜15種類中で、当社は7〜8種類を揃え、そのほとんどが世界シェア1位か2位の位置にいます。
谷本:圧倒的なシェアを誇っていますが、課題や不安はありますか?
髙橋:いちばん怖いのは、投資してキャパシティもあるのに競合に開発負けすること。それを防ぐためには、リソースの配分や開発スピードの向上、つまり“人”です。当社は計算情報科学研究センターという最先端の研究施設をもっています。そこは計算科学領域を専攻する学生のなかで人気が高く、優秀な志望者を全員採用できないのが悩みだと聞いたので、良い人は全員採用するように言いました。彼らは社の成長、イノベーションの源泉です。
谷本:人材の話が出ましたので、髙橋さんが実践する人的資本経営について聞かせてください。
髙橋:社員に求めるのは、共創と自律。問題が起きている現場で、人を巻き込みながら解決できる人=共創型。自ら率先して物事に取り組める人=自律型だと思っています。当社のように統合した2社が共創し、イノベーションを生み出していくには、共通の文化や言語が必要です。そのためにはパーパス・バリューの浸透が必須と考え、昨年は70近くの事業所を回り僕とCHRO(最高人事責任者)が直接社員に伝える。この取り組みは現在も継続して実施しています。
谷本:CHROだけでなく、髙橋さんが実際に足を運ぶ意味はどうお考えですか?
髙橋:社員視点で考えると、CEOが来るというのは大ごと。その肩書を使って、「本当に会社を変えたいし、変わる」というメッセージを直接伝えるのがいちばん効果的なのです。社内調査では「パーパス・バリューを実践した」と回答した人は去年・今年で約5割となりました。残り5割が変わるような文化の変革には10年かかると思っています。ただ、文化変革・人材育成はダイレクトに企業価値の最大化につながる。それはCEOのメインの仕事。だから僕がいちばん時間を割く相手は社員なのです。
谷本:事業所訪問時には、若手社員のモヤモヤを解決する「モヤモヤ会議」を行っていると聞きました。その狙いはなんなのでしょうか。
髙橋:僕としては「モヤモヤを話していい」ということを体感してほしいのです。僕が重視しているのは心理的安全性の確保。その代わり、意見が異なったら徹底的に討論をするとも伝えています。
僕のキャリアの主となる外資系企業ではあうんの呼吸などなく、ロジカルに説明しなければ会話が成り立たないのです。その価値観の浸透が人材育成と文化醸成には必要です。
日本の良さを生かす経営で、世界と戦う
谷本:キャリアの話が出ましたが、髙橋さんはもともと銀行員でしたね。なぜ製造業に転向されたのですか?
髙橋:日本の銀行でしたが、海外赴任が多かったのです。まだ日本がバブル景気のころ、赴任先の東南アジアの人たちは日本の製造業の技術やそれをつくった日本人を尊敬していました。
一方、バブルがはじけ、日本企業がバブル期に買収したアメリカ企業の整理を手伝っていると、なぜこんな買収をしたと首をかしげるような状況が多々ありました。もっている技術は一流なのに、非合理な経営によって企業が傾いている。であれば、高い技術をもつ企業の経営に近いところに身を置き、世界で戦いたい。そんな夢をもつようになったのです。
谷本:よく髙橋さんは「夢とケンカを売る」とおっしゃいますが、そのケンカの怒りとなるのが、日本企業の経営の拙さなのですね。
髙橋:おっしゃる通りです。これだけ日本経済が沈みかけているのに、旧態依然とした経営をする人には怒りを覚えます。かたや、夢を売る相手は投資家です。CEO就任後に海外投資家を回って、ロングショート(短期に売り買いをする投資家)からロングオンリー(長期保有する投資家)の比率を上げました。
もともと僕は単年度の赤字は気にしません。なぜなら僕の仕事は企業価値を最大化することだから。ただ、ロングオンリーの比率が高まることで、短期決算を気にせずに長期的な施策を打てるようになる。これは非常にありがたいです。
谷本:ドラスティックなポートフォリオ変革や株主への目配せなど非常に合理的な経営手腕を発揮されています。一方で、事業所を回ってパーパス・バリューを説き、社員の心理的安全性も気にかけている。相反するようで、どちらも本質を見極めた経営哲学がベースにある判断だと思います。そんな髙橋型経営の核をどう分析されていますか?
髙橋:和魂洋才、つまり日本人の心や価値観をもって、合理的でグローバルスタンダードな経営をするということでしょうか。「洋才」の人は欧米文化に追従する傾向がある。日本の良さを生かす経営は、十分に世界で戦っていけるはずです。
当社はより事業を整理すれば、小さいながらも利益率が高い企業にはなれる。でもそれだと社会に対してのインパクトがありません。ある程度の存在感が必要です。加えて、社会に価値を還元できるような「いい会社」になるには、利益を上げなくてはなりません。規模感と利益率を追求しながら、数字も文化も共感していただける企業になりたいと思っています。
レゾナック
https://www.resonac.com/jp
たかはし・ひでひと◎旧三菱銀行、日本ゼネラルエレクトリックなどを経て、2015年に昭和電工に入社。常務執行役員最高戦略責任者などを歴任後、代表取締役社長に。23年1月より現職。
text by Kaori Saeki | photographs by Shunichi Oda
※Forbes JAPAN BrandVoice 2023年 11月 27日掲載記事より転載
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